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【きょうからノーベル賞】
「村上春樹はノーベル賞をとれるのか?」 歴史ひもとき傾向と対策探る
軍事独裁者と親しく、その右翼的な政治的立場が不利に働いた、と川村さんは推測する。カフカやジョイス、プルーストといった“巨人”もなぜかこの賞には縁がなかった。
「賞を逃した作家の名だけで華麗な世界文学史が編める。とれなかった人の文学が駄目というわけでは決してない。存命作家に贈られるだけに、タイミングなど運不運が占める要素もかなり大きいのです」
村上さんに吉報は届くのか? 地域ローテーションが「東アジア」に回ってきても、まだ受賞者を出していない韓国のようなライバルもいる。ミステリーなど娯楽色の強い作品に冷淡なことも物語性豊かな村上作品には逆風かもしれない。
「選考するアカデミーには『純文学の守り神』という意識があるはず。『エンターテインメント性があって世界で売れている』というのは必ずしもプラス評価にはつながらない」。本書の後半、村上さんの受賞のカギとして少し意外な著作が挙げられている。賞の傾向を押さえた上で、村上文学の豊かな可能性に思いをはせるのもまた楽しい。(海老沢類)