原発再稼働に向けた原子力規制委員会の審査に対応するための電力会社の業務について、厚生労働省が「公益上の必要により集中的な作業が必要」として、労働基準法で定めた残業時間制限の大部分を適用しないとする通達を出していたことが8日、分かった。従来、公益性を理由にした適用除外はごく一部でしか認められていなかった。専門家は「再稼働対応は営利目的で公益性や緊急性があるとは言えない」と指摘。「政府が『働き方改革』を進める中で、厚労省の見識が問われる」と疑問視している。
労基法は、労働時間の上限を1日8時間、週40時間と規定。労使協定を結べば1カ月で45時間、3カ月で120時間、1年で360時間などを上限に残業が認められる。公益上の必要があるとされる原発の定期検査などは上限の適用を除外される。年末年始の郵便業務など一時的な要因で短期間、業務量が増える場合も適用除外となる。
通達は、原発の新規制基準施行後の2013年11月、厚労省労働基準局長名で各都道府県の労働局長宛てに出され、審査対応業務には、年360時間の上限以外は適用しないとした。
同省監督課によると、審査対応も定期検査の業務と同じとみなしたという。同課は「電力事業自体に公益性がある。年360時間の制限は残っており、著しい問題があるとは言えない」としている。
しかし、関係者によると、審査担当の電力社員には過労死ラインとされる月100時間を超す残業が続き、3カ月で400時間を上回るなど、年間の上限を大幅に超えていたケースもある。また、定期検査の期間が2カ月程度と限られているのに対し、審査は1年以上と長期化。担当する電力社員の長時間労働は常態化しているとみられる。
ある電力関係者は「審査対応は長時間の残業で非常に過酷。体調を崩す人もおり、厚労省の通達が背景にあるとすれば残念だ」と話す。
名古屋大の和田肇教授(労働法)は「審査対応は、安全確保が目的の定期検査とは違う」と指摘。「原発再稼働のように社会的に議論されている問題について、局長通達という形で対応していいのか大いに疑問だ。審議会などで議論すべきだった」と批判している。
規制委の原発審査 原発再稼働の前提となる審査。東京電力福島第1原発事故の教訓を踏まえ策定された原発の新規制基準は、炉心溶融や放射性物質の大量放出といった過酷事故への対策や、地震、津波などの自然災害対策を強化。原子力規制委員会は、審査申請のあった電力会社の原発が新基準を満たしているかどうか、審査を通じて確認する。電力会社は審査に合格後、地元の同意などを得て再稼働させる。