テレビ局は、なぜ豊洲問題で騙されたのか

記者会見を行う東京エレキテル連合似の小池百合子女史(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

山本一郎です。血管年齢を測定したら炎の80代判定が出て再検査を食らう派です。

皆さん、睡眠はたっぷりとりましょう。

ところで、先日は建築エコノミストを自称する森山高至さんの豊洲市場に関する発言が信頼性に極めて乏しい件について説明するポストを掲載しました。また、どう見ても専門的な知識の怪しい自称専門家がテレビ局で妄言を垂れ流す事態となり、私が個人的に知る産業廃棄物処理界隈でも耳を疑うようなネタが未検証のままテレビ局や大手全国紙、さらには共産党などからも捻り出され、そのまま開業するはずの豊洲新市場が百鬼夜行のような状態になっております。

盛大にガセネタを乱舞させていた森山高至さんが東京都専門委員に就任のお知らせ(追記あり)(ヤフーニュース個人 山本一郎 16/9/17)

http://bylines.news.yahoo.co.jp/yamamotoichiro/20160917-00062281/

フジテレビが1枚の写真で豊洲市場の柱の傾きを疑う→東京都は全面否定。フジテレビと専門家は…。(BuzzFeed 瀬谷健介 16/10/4)

https://www.buzzfeed.com/kensukeseya/fujitv-toyosu-problem?utm_term=.sfVZaqq5M#.gtLNa00D4

その後もテレビ局は順調に訳の分からない自称専門家をしばらく出し続けた結果、本来なら適法に処理され、地上で活動する人々の肌に触れることなどない汚染問題が、なぜか環境基準を下回り汚染物質が人肌から完全に隔離されているのに問題視される、という結構な事態に陥っています。

また、環境基準に関する考え方や、汚染の問題に対する理解が浅いまま、本来ならば複数の調査地点で複数回サンプルを採り計測する必要があるはずの本件であるのに、いきなり突出値を見ていきなり「汚染だ!」と騒ぐという誤報も散見されました。訂正された報道もありますが、未検証のまま記事化されてしまう事態は改善されていません。

豊洲市場 「地下空間の水から微量ベンゼン」は誤り 東京新聞訂正(日本報道検証機構 16/10/1)

http://gohoo.org/16100102/

豊洲市場盛り土変更 「設計会社にヒアリングできず」は誤り(日本報道検証機構 16/10/1)

http://gohoo.org/16100101/

豊洲市場、連絡通路下に高濃度汚染物質 都「問題ない」(朝日新聞 上沢博之 16/10/5)

http://www.asahi.com/articles/ASJB23HNXJB2UTIL005.html

「存在しない問題を、自称有識者・専門家が指摘して国民の不安をかき立て、不要不急の調査や検証を強いる」ことについては、残念なことに前回の新国立競技場建設においても、今回の豊洲新市場についても発生しており、実に嘆かわしいことです。都庁内や、委託先の設計会社、建設会社のプロフェッショナルの話をまともに聞かず、風説に右往左往した挙句に「立ち止まる」決定をしてしまった都知事の小池百合子女史には、ポピュリズムではなく科学的な正しさに依拠した意志決定をしていただきたいと願うところです。

さて、豊洲新市場の構造が耐震基準を満たしていないとマスメディアにてお話しされている一級建築士の高野一樹さん(Twitter上での通称は「ペコちゃん」)ですが、来週の市場問題プロジェクトチーム会議で参考人として呼ばれるそうです。おめでとうございます。

その高野一樹さんが、9月6日に都議会議員の音喜多駿さんに渡した「『水産仲卸売場棟』の構造設計における不明瞭な点について」という資料が手元にあるのですが、資料を専門家に検証していただきましたので、今回はその回答の一端をお伝えできればと思います。

まず本題に入る前に、へんてこな主張を専門家が表立って否定する発言ができない、という社会構造の問題を説明します。本件の構造計算に関わる問題は、建物の建築上の安全性に依拠する重要な論点ですが、設計に直接かかわった建築士は施主(主に東京都)との守秘義務もあり、顕名で「批判が不当であること」を自由に話すことができません。また、一般的には大規模構造物の設計経験のある建築家が問題点を指摘しようにも、大規模建築に関わるほとんどの方は特定の企業に所属されており、その企業や建築関連団体の許可なくして、自由に見解を述べることが困難になっています。

まともな人が、森山高至さんや高野一樹さんの珍説のようなへんてこな批判を否定できる環境にないため、結果として設計の仕事はないが時間には余裕がある有資格者たちの変な主張ばかりが面白おかしくテレビや新聞に取り上げられ、ガセネタを流し放題になる状況をご理解いただければと存じます。

さてここからが本題ですが、今回、高野一樹さんの変な指摘について見解を寄せてくださった構造計算の専門家の方々は、「そもそも高野さんは設計図面を読めていないのではないか」「高野さんの間違った理解で構造計算の不備を糾弾されても困る」というコメントを頂いております。

資料が作成された9月初旬から1ヶ月も経ったので流石に本人も誤りに気づいていると思うんですが、非常に残念なことにこの高野さん、9月4日に報道されたテレビ番組「新報道2001」にインタビュー出演されているんですよね。図面を読めない状態のまま、とっくにマスメディアで持論を展開してしまっていました。大丈夫でしょうか。

■図面が読めないまま構造計算をしたのか

そもそも、高野さんは何を勘違いしていたのでしょうか。

代表的な高野さんの指摘のひとつに「地下空間があるから地下の下面から構造計算をするべき」というものがあるのですが、その根拠を高野さんの資料から拝借すると次のようなものです。

一般的には…外周囲の面積の75%が地盤に接していれば、地下として扱うことが多い。試算では外周の地盤への接触面比率は71% 程度になるので、地下として扱えない可能性が大きい。

(高野一樹さんの指摘文書より)

業界失笑の指摘文書。どうしてこんな主張を堂々とテレビでしてしまったのか、いまだ謎
業界失笑の指摘文書。どうしてこんな主張を堂々とテレビでしてしまったのか、いまだ謎

わざわざ自分で図を書いてまで説明されていて、この問題への熱の入れようが分かります。主張を要約すると「この図1の緑色の部分には地面がなく計算すると周囲全体の71%しか地面と接していないから危険だ!」という主張ですね。

なぜか図面を初歩的なレベルで読み間違えて、地下にターレ通路とし計算する痛恨のミス
なぜか図面を初歩的なレベルで読み間違えて、地下にターレ通路とし計算する痛恨のミス

この主張には、当然ながら専門家から「平地なのに斜面地の例を持ち出して接地面積の計算している意味が分からない」というご指摘も頂いていますが、高野氏の勘違いはそのような法解釈のレベルではありません。最も問題視しなければならないのは図面が読めていないことです。そもそも本来の設計図面では「この緑色の部分=連絡通路は地下ピットではなく1階に繋がっています」。

もう1回言いますよ、本来の設計図面では「この緑色の部分=連絡通路は地下ピットではなく1階に繋がっています」。

文字では分かりにくいので同じく高野氏が送ってきた別の資料を見てみましょう。分かりやすいようにこちらで色を付けてみました。

この赤線が、一階床ですね。
この赤線が、一階床ですね。

連絡通路の写真も見てみましょう。

写真1

東都水産ブログよりお借りしました。ありがとうございます。

どう見ても一階にターレ通路があります。本当にありがとうございました。
どう見ても一階にターレ通路があります。本当にありがとうございました。

どうみても1階と連絡通路が平らに繋がっていますね。なぜ高野さんは地下ピットと連絡通路を繋げて検討してしまったのでしょうか。豊洲は危険だとみなさまに伝えたい気持ちが強かったのか分かりませんが、残念ながら高野さんの指摘はそもそも検証図からして正しくありません。こんな杜撰な検討を元に、マスメディアのインタビューを受けたり都議に資料を送りつけてます。こんな不誠実行為は場合によっては資格はく奪ものじゃないですか。

横のポリスチレンフォーム云々についても、専門家からは「地面よりもポリスチレンフォームの方が固いから問題ない(意訳)」と回答を頂いてますので、それを踏まえた上で改めて図2を直してみましょう(図4)。高野さんがわざわざ「本当に絵の通りならば問題ない」と図2で主張した絵と同じになりましたので、高野さんにもこれなら安全だと納得して頂けるのではないかと思います。

最初から設計上の豊洲市場建屋は安全なのに、間違った図で「危険だ」と煽られたぞ絵巻
最初から設計上の豊洲市場建屋は安全なのに、間違った図で「危険だ」と煽られたぞ絵巻

■『週刊プレイボーイ』誌での勘違い

テレビだけに留まらず、高野さんについては9月12日に発売された『週刊プレイボーイ』(10月3日号)でもやらかしています。

例えば高野さんは「設計者が民間の冷蔵倉庫と勘違いして、都の安全基準を満たせなくなったため建物の重量を軽くするしかなかった」と記事中に述べ、設計会社が設計を誤ったかのようなストーリーを妄想されています。

しかし専門家によれば、「プロポーザル選考にて設計会社が選出されているのだから、構造設計者が建物用途を勘違いするはずはない。高野氏はプロポーザル選考を経験したことがないのではないか」と高野氏の妄想をはっきりと否定しています。

加えて、「万が一”設計会社が冷蔵倉庫と勘違いしていた”と仮定するならば、冷蔵倉庫の方が市場よりも求められる積載荷重が大きくなるため頑丈な建物になります。高野氏の勝手な想像は『豊洲新市場は無駄に頑丈だ』という指摘にならないと辻褄が合いません。冷蔵倉庫の設計も行ったことがないのではないでしょうか」ともコメントを頂いてます。

高野さんの意見はとにかく終始こんな感じで、彼のいう問題1箇所に付き、2重、3重に間違いが専門家から指摘される状態です。彼は本当に大規模構造物の構造計算が分かる一級建築士なのでしょうか。しかも、彼の指摘は彼から送られてきた資料をきちんと読めば、彼の指摘自体が間違っていることが分かってしまう、という体たらくです。恐らくは、高野さんは戸建ての設計経験はあっても大規模な建物の設計経験がないのかもしれません。

なぜこのような微妙な人の意見を市場問題プロジェクトチーム会議で議論しなければならないのでしょう。疑問で仕方ありませんが、すでに東京都は高野さんの指摘は問題とならないことを確認しているようですので、「反対派の意見も聞いた」という儀式なのであって、一蹴されて終わるのかもしれません。

■市場問題プロジェクトチームの東京都専門委員の選出への疑問

一方、呼び出した市場問題プロジェクトチームの面々も、なぜ選ばれたのか分からない方々が勢揃いしてます。

・森山高至さん

代表的なのは呼び出される高野氏と同じ事務所の元同僚でいらっしゃった自称・建築エコノミストの森山高至さんです。豊洲新市場の問題では、これまで数々のガセネタをばらまいていらっしゃいます。

近い将来、大々的に問題になると思いますが、森山さんの代表的なガセネタを取り上げてみましょうか。

・重機を地下に入れるには擁壁を壊すしかない。

→重機搬入口があります。

・マグロが切れない。

'''→共同作業場があります。また小さい仲卸は2店舗(2コマ)で契約すれば広い部屋を借りられます。

そもそも1店舗しか契約できない仲卸業者はマグロを定常的におろすことはむつかしい程度の資金力しかありません。'''

・地下空間に照明がないのはおかしい。

→地下ピットは年に数回しか利用しない。メンテナンススペースのため照明がないのが普通。

・ターレーは1000kg、積載荷重は1000kg、面積が2平方メートル、つまり1000kg/m^2だから700kg/m^2の設計では床が抜ける。

→積載荷重は長期静置物についての検討なので、移動しているターレーの重量は関係ありません。また仮に単位重量を計算してみてもターレーは750kg、面積は約3m^2ですから約600kg/m^2です。

また建築エコノミストという謎の肩書を自称されていますが、先の記事でも指摘しましたとおり、実態は不動産業、建築士業、建設業など幅広くやられている株式会社CRAの取締役です。なぜ肩書を隠してメディアにご出演なさっていらっしゃるのでしょうか。競合他社へ上記のような風評被害をばらまいていると指摘されると困るからでしょうか。それとも株式会社CRAの管理建築士である森山さんが管理建築士に義務付けられる専任性に違反しているのがバレると困るからでしょうか。

これは後日きちんと総括したいと思います。

・菊森淳文さん

次に、その取締役森山さんがブログにて「兄事している」という間柄の菊森淳文先生です。一方の菊森氏のブログによれば「私が推薦して、大村市競艇場建替え基本計画策定委員会の委員に建築専門家として就任して頂いた」そうです。森山さんと関係が深い御仁であることはよく理解できます。

「建築エコノミスト森山のブログ」(2012.2.13)に私のことが書かれており、笑ってしまいました。今でもブログが残っているので、見てください(笑)。当たっているかどうかは別にして、言い過ぎだとは思いますが。「私が兄事する菊森淳文先生が~良い人過ぎて、悪だくみの竹中平蔵とか似非エリートたちに疎んじられたほどの人物。私が、この人のためなら死んでもいいと思う人の一人です。私の会社の株主でもある。(中略)地域やごく普通の方々へのやさしいまなざしと、グローバル金融勢力への完膚なきまでの攻撃力。」森山先生の益々のご活躍に期待したいと思います。

出典:菊森淳文ブログ

菊森さんは、「長崎における国際観光客の観光行動とホスピタリテイを高める地域政策」 で日本ホスピタリテイマネジメント学会から特別賞を受賞されたとのことですが、豊洲新市場ではどのような専門性で選出されているのでしょうか。この菊森さんの選任過程は謎です。移転が中止になった際に、豊洲新市場の建物を観光地にでも変更することをご提言なされるのでしょうか。

市場の専門家が市場問題プロジェクトチームにいらっしゃらないのに、すでに観光地に転用するための専門家が選ばれていらっしゃる、ということですかね。

・小島敏郎さん

環境を専門とする小島氏が座長になっている理由もよく分かりません。

おそらくは、小池百合子女史が環境大臣時代に培った信頼関係をベースにされているものと見受けられますが、能力面、思想面で様々な風評のある御仁でもあり、気になります。

土壌を調査する専門家会議は別に設けられており、こちらは基本的には建築物の安全性を調査するチームなのですから建築の専門家が座長を務められる方がふさわしいと思われます。小池氏の顧問だから、という理由で座長に選出されているのだと思われますが、建築のことについて冷静に判断が下せるのでしょうか。

第1回の審議委員会で建築家の佐藤尚己さんが地下ピットを作った都の職員の判斷の正しさを指摘した際に、小島座長は「それは今回の議題とは関係ない。」と言っていますが、正しさを指摘されるとまずいことでもあるのでしょうか。

参考:http://bakahabakanarini.blog.fc2.com/blog-entry-1214.html

なお、この環境省OBの小島さんは、反原発運動に参加された経験のある御仁です。

「ここでも出たのか放射脳」とでも言いたくなるような、見事なゼロリスク病反原発界隈
「ここでも出たのか放射脳」とでも言いたくなるような、見事なゼロリスク病反原発界隈

・竹内昌義さん

その小島さんと一緒に2012年頃に反原発活動を行っていたのが、建築家の竹内さんです。近年、竹内氏は住宅の省エネルギーを専門的に取り組まれていらっしゃいますが、市場のような大規模建築について理解はあるのでしょうか。第1回の審議委員会でも「平屋じゃないから使いにくい」といった主旨の荒唐無稽な発言をされていましたようですが、東京都に新市場を平屋で行うだけの土地を用意しろ、と受け取ってよろしいでしょうか。

このように呼び出される参考人も怪しければ、審議する側も半数は怪しい人選となっているのが「市場問題プロジェクトチーム」を構成する東京都専門委員の面々です。東京都の専門委員ということは、都民の税金から彼らに報酬が支払われます。

建築物の安全性を検証する市場問題プロジェクトチームと言いつつ、この不可解な人選は何でしょう。もしも小池百合子女史が「都民ファースト」として情報公開を前提とするならば、この市場問題プロジェクトチームの人選がどのような経緯で行われたのか都民に事情を公開するべきです。

■まとめ

現時点で出てきた情報を精査した上で考えるのならば、実のところ豊洲新市場の移転問題というのは、検証が不十分なタレコミ情報を元に小池知事が拳を振り上げた結果、社会全体のコストが無駄に増大しているだけとなっています。都民に負担を強いる一方で、よく分からない自称専門家が小遣い稼ぎをし、マスコミが視聴率のエサにし、政治家が政治闘争の材料にしているという状況です。

都議の音喜多駿さんは「傾いていなかった豊洲新市場の「疑惑の柱」。悪質なデマには、デマと丁寧に反証することが必要」というタイトルのブログを更新されています。そりゃこのようなデマ資料を提出されてしまったら何事も自身の目で確認しないと安心できませんよね…。

今回、フジテレビ『新報道2001』では「歪んだ柱」の訂正報道を1分半にわたって行いましたが、ほかにも明らかな誤報である高野一樹さんの主張を垂れ流す形で行ってしまっています。この番組に限った話ではありませんが、一連の過熱報道からのテレビ局の体たらくは、やはりオウム真理教サリン事件での誤報で犯人扱いされた方が大変な苦労を味わった話とダブります。

法的に問題のない安全性を確保している豊洲の汚染や安全性をことさらに問題視した結果、他の豊洲周辺の湾岸地域に対する風評被害が出てもおかしくありません。もうちょっと裏取りができる方法を考えなければ同じ問題を繰り返すことになると思うので、報じる側の在り方はいま一度検証したほうが良いように感じます。

皆さん、おいしい魚を食べて血管年齢を若返らせましょう。