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戦乱の帝国と、我が謀略~史上最強の国が出来るまで~ 作者:温泉文庫
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アイラが感じていた事

「……ん。ちょっと……待って。……ふぅ。僕は分かるよ。リディアの匂いを覚えてるし。けど、ケイ人はこれを着たら分からないと思う。……ただ、リディアが喋ったら皆忘れないんじゃないかな? 珍しい喋り方だもん」

 そりゃそーだ。
 地球の何処を探してもこんな喋り方をするエイティーンガールはイグジストしてないに決まってる。

「そうですか。昔このように喋る方々と付き合っていた為自然とこうなったのですが。奇妙だとすれば少々困りましたな」

 ……それって、貴方が十歳の頃行っていた勉強会に来る学者先生とかですか?
 平均年齢五十歳ですよね其処。

「奇妙というか、凄く頭良さそうな喋り方だしリディアに似合ってるから良いと思うけど……。聞いたら忘れないってだけで……それに、二人だけがその格好をしてたら目立つんじゃない?」

「それは考えてあります。後方の仕事担当として何百名か文官を連れて行きますよね? その全員に適当な理由を付けてこの服を着させるのです。後はバルカさんが人前で喋らないようにすれば、目立たなくなってバルカさんを見つけるのは不可能になるんじゃないかなーって」

「正に良策。まず問題ありますまい。直ぐに思いつく問題点としては、間諜が同じ服を用意して入り込んでくると不味いですが、大事な所では顔を見せればよい。我が君、我が身を案じてお考えくださった事に感謝致します。それにしてもますます童の悪戯じみて来ましたな」

 本当に機嫌が良さそう。
 そう言えば、ティトウス様はすっごく厳しそうだったもんなー。
 誰かを騙すような悪戯なんて、許される環境じゃなかったのかもしれない。
 うむうむ。楽しい戦見学にしような。

「ま、それくらい気軽に行きたいですね。次に軍の指揮を誰にとってもらうか、それと私達二人の護衛を誰にお願いするか決めないといけません。私はレイブンとアイラさんを考えていますが、バルカさんはどう思います?」

「ガーレとレイブンならばレイブン。しかし獣人であるアイラ殿を南方の人間と一緒に行動させるのは下策でしょう。第一アイラ殿を隠しておきたいのでは? 加えてサナダとやらも大志を持っているのなら来るに相違なく、ラスティル殿は同行を強く望むはず。それを拒否なさいますか?」

「やっぱりそうなりますか。でもラスティルさんが真田へ持つ好意を考えると、旧交を温めれば離れがたくなり、あちらに行ってしまうんじゃないかと不安なのです」

 ラスティルさんは真田を高く評価していた。
 加えて今までの情報から考えて彼女の性格であれば、私よりも真田に魅力を感じるだろう。
 更に言えば、酒の席で私の話を真田にされないかという不安もある。

「ふむ……その心配に加えて……」

 途中で黙ったが、続きは分かり切っている。
 そういう事なんだよリディア。

「僕が、信用できない?」

 少し考える様子を見せた後、アイラさんが悲しげに言った。
 やっぱり分かるよね。

「はい。アイラさん、カルマ達は存亡の危機を乗り越えたと考えているでしょう。となれば、余裕が産まれダンという邪魔な男は必要ない。と考え出す。そこまで行かなくても、アイラさんを元通りカルマさんの配下とするために行動を始めて当然ですので」

「……でも、僕は約束したよ?」

 約束……約束に価値はあるのだろうか?
 約束はパイの皮のようなもの、破るために作られる。
 という言葉は戦乱の世の中では間違いなく正しい。

 アイラさんの場合は有り難い事に腹芸が下手なので、会話と態度でこちらをどう思っているか大体分かるから、近くに居る間は信頼出来る。
 だからこそ護衛として一緒に住んでいるのだ。
 しかし……。

「約束は覚えています。しかし私はその約束を守らせる力を持っていません。なのでアイラさんが、仲の良いウダイさんやカルマさんの配下に戻っても不思議ではないと考えます。向こうもそう言って誘うでしょう。加えて約束を守り切れない状況というのは幾らでも存在しますからねぇ」

 私の言葉を聞くと、アイラさんは考え込む様子を見せた。
 やれやれ、実際どうしたもんかね。

「リディア、ごめん。……僕の部屋に行ってて。ダンと二人で話がしたいんだ」

 え……秘密の話でもあるのか? 内容が全く想像できない。

「我が君?」

「バルカさん、そうして下さい」

「承知いたしました」

 アイラさんはリディアが部屋を出て、遠くで扉が閉じる音がするまで話出さなかった。
 しかも、非常に緊張している? なぜ?

「……嘘。……ダン、嘘をついてるよね?」

「えっと、どんな嘘でしょうか」

「……ダンは、何か隠してる。オウランが、ダンを怖がるような何かを。なのに皆の前ではオウランがダンを馬鹿にしてるように見せた。そうだよね?」

 ッッッ!!!
 手を……ゆっくりと口元まで運べ。
 自然な感じで表情を隠せ。
 考え事をしてるかのように。
 ……大丈夫。私は大丈夫だ。表に動揺をだしてはいない。
 そう信じろ。

 ……何がバレた?
 何故?
 いや、理由なんてどうでもいい。
 ……この問題、事に寄れば……。
 どう処理する?

「ダ、ダン、もしかして怒ってる? 凄く……嫌な感じが……」

「いえ、怒っては……いませんよ。ただとても驚きました。オウラン様が私を怖がるなんて想像も出来ませんし……どうしてそう思ったのですか?」

「……オウランの所へ戦いに行ったとき、ダンの文を渡したでしょ? その時オウランはダンの事を馬鹿にしてたけど文自体は、大事な宝物みたいに扱ってた。なのにオレステとの戦いの後は獣人達に卑屈な態度を取ったんだよね? それでもしかしたら二人で隠してるのかなって思いはじめたんだ。
 オウランが来た時はあんな態度だったから、違うのかもと思ったけど良く見たら……。オウランと、護衛の尻尾と耳が怯えてるように見えたの。ダンはあんなに情けない格好をしてたのに……。
 ダンが『何か考えてあんな恰好をしてるのかも、その為にはこんなに馬鹿にされても大丈夫なんだ』と思ったら僕も震えそうなくらい怖くなった。だってそうだとしたら騙そうとされてるのは僕たちだ。あんな獣人でもケイ人でも絶対に決闘を挑むくらいの格好をしても、何ともないくらい信用されてないって意味だから。
 オウラン達が怯えてたのは多分間違いないと思う。僕がその時必死になって抑えたのと同じように、オウランと護衛の尻尾と耳が動いてたもの。残り他の氏族から来てたらしい四人は心から馬鹿にしてたみたいだけど」

 なんてこった……脇が甘いよオウランさん……。
 あの演技バレてたのか。
 素晴らしい出来だと思っていたのに。
 あれの為にオウランさんを始め、全員が数えられないくらい練習したと聞いている。
 同じ種族だからって、尻尾と耳で分かるんかい……私にはさっぱり分からなかったんだぞ。

 必要な、より安全を増やせる妙案だと思っていたのにこのザマとは。
 策士策におぼれるとの言葉を地で行ってしまった。
 柱を蹴り飛ばして暴れたいくらいだが、そんな贅沢は許されん。

 ……さて……幾つか確かめなければいけない。
 何を決めるにしても、それからだ。

「そう、アイラさんが思ったと誰かに話しましたか?」

「っ!!」

 私がそう尋ねると、アイラは凄い勢いで首を振った。
 顔色が少し悪いように見える。
 本気で恐れている? ならばこれは脅しではないのか?

「言わない。絶対に。……僕は今まで誰かを怖いと思った事は無かったんだ。リディアは少し怖いけど……。でも、ダンは偶に凄く怖い。だから僕はダンに逆らったり、ダンが嫌がる事はしないし、してない。……信じてほしい」

「アイラさん以外に、オウランさんが私を怖がってそうだと感じた人は居ると思いますか?」

「居ないと思う。……リディアも多分、演技だと思ってない。同じ獣人の僕でさえ確信が持てなかったんだもん無理だよ。それにフィオが笑ってた時、本当に泣いてたから……」

 ああ、あっちが効いたか。
 そりゃあの涙は本物だったしね……。
 元から感謝してはいたが、キリさんには何時かきちんと感謝を伝えた方がいいかもしれない。

「それにしてもアイラさんがなぜ私を怖がるのか分かりませんね。剣の腕前はアイラ師匠が知ってる通り。知恵もバルカさんの十分の一以下なのに」

「それは嘘。カルマ達を助けるためにどうするか考えたのも、リディアじゃなくてダン。……さっきの話を聞いて分かったんだ。ビビアナでもそんな目にあうのならカルマ達も、僕も死ぬはずだった。……死ぬはずだった僕達を助けられるダンは、殺すのも出来ると思う。……そう考えると、凄く怖いんだ」

 理論があちこち欠損してるだろこれ……。
 だが私を恐怖、つまり強く注目してるのは間違いない。
 オウランさんが私を軽く見てないと気付かれただけで、相当に不味い。
 認めるのは当然無しだとして、本当にどうしたものか。

「誤解だとはいえ其処まで怖いのでしたら、私を殺せばよくありませんか? アイラさんがカルマ達に付けば、バルカさんとラスティルさんが反感を抱こうとも出て行く以外方法が無いと思います」

「僕はそんな恩知らずじゃない。……それに、ダンを殺したりしたらリディアとラスティルの恨みを買うかもしれないし、居なくなるのは間違いないと思う。そうしたらカルマ達は生き残れない。違う?」

 恨みを買う『かもしれない』か。
 アイラもリディアは把握し切れてないのだな。
 ラスティルさんは間違いなく怒ってくれるだろうし。
 流石だ。何というかあれだな。リディア・バルカという事象が起こっているという感じだな。
 そして、そのリディアのお陰で私の首は安全が増している。
 感謝しなければなるまい。
 お陰でまだ此処に居られそうだ。
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