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戦乱の帝国と、我が謀略~史上最強の国が出来るまで~ 作者:温泉文庫
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羊毛布団

 オウランさんが帰った次の日の夜、配下となっている三人に私の部屋へ集まってもらった。
 褒美……いや、貢物として羊毛掛け布団を渡す為に。

「今夜は集まってくださり有難うございます。皆さんに日頃の感謝を込めて贈り物をしたいと思いまして時間を割いて頂きました」

「うむ? では後ろにある大きな布の塊がそれなのか?」

「はい。これは私がオウラン様にお願いをして頂戴した物で、草原族の権力者が使う寝具になります。寒い夜寝る時に自分の上に掛けてお使いください。今までよりはずっと暖かくなりますよ」

「あれ程侮辱してきた相手だというのに我々のため願って下さるとは、このリディア感動の余り言葉がございません。ダンへの恩がただただ溜まっていく為、子々孫々の忠勤をもってしてもお返しできるのか。と、不安を感じる日々を送っております」

 ……お言葉ですが、めっちゃスラスラ喋ってますよね。
 ほんっとに何を考えてるのか分からん。
 恩が溜まるちゅーても、何か差し上げるのこれが初めてじゃないっすかねー。

 しかーし。その適当な言葉はこれから事実に変わるであろう。
 夜ごと羊毛布団がリディアに『あのダンっていう今一男実はイイヤツじゃね? だってこんなに暖かいし。馬鹿でもアホでも見飽きた普通面でも少し優しくしてやった方がヨクネ?』と囁くのだからな。
 贈り物は消え物が基本。しかし理想は毎日使う日常品なのだ。
 積み重なる感謝の量が違う。

 ワイ、まじ策士。有難う布団を産み出した人。誰だか知らないけど。
 知ってる布団に比べれば色々と不都合はあったが問題は無い。
 人は現状よりよくなれば幸せを感じるんでね。

「もしも気に入らなければ邪魔になるだけでしょうし、一度寝てみてお確かめください。まずはラスティルさんからどうぞ」

「ほほぅ? 拙者の香りが付いた寝台で寝たいというのだな? ダンらしいジメっとした望みだ。しかし、もっとはっきりと願った方が大よその女は喜ぶぞ。忠臣であろうとするならばお主の相手をしてやるべきかもしれんが……流石に初めてだというのに練習相手にはなりたくない。すまんな」

 ……ちゃうよ? そんな、練習相手になってほしいだなんてスッゴイ野望抱いてないよ? そっちはホントだよ? い、いや、別に皆さんが寝た後の布団で睡眠したいとも想ってないですケドネ。

「そ、そんなつもりはありません。じゃ、じゃあこれから三人に使われた布団は、アイラさんに使ってもらいましょう。あ、この布は私が一度使ったので交換しますね。敷き布も。あと、ラスティルさんに練習相手になってもらいたいなんて、そんな事言いませんから。他にも人がいる状態でそーいうのやめて下さいよ」

 全く。『無実の罪』を着せるなんてラスティルさんも酷いなぁ。
 相手をしてもらいたいなんて、思ってても言ったりしないずらよぉ。

「はっはっはっ。当然冗談に決まっていようが。そのように焦るとかえって怪しく見えるから気を付けたほうがいい。しかしこれ程に反応するとはなぁ。どうやら我々の美しさはよほどに罪深いようだ」

 そーです。だから気を付けてください。

「はい……とにかくすみません。……おほん。交換も終わりました。ラスティルさん、どうぞ。あ、靴は脱いでくださいね」

「では、失礼する」

 三分ほどラスティルさんは寝台でじっとした後、黙って出て来た。
 この人に黙られると、なんかからかわれるよりモニョモニョするな……。

「ダン……何時このような物を知った? 拙者はケイの半分以上を巡り、火の部族ともある程度は交わった。しかしこのような寝具は初めて見る」

「草原族の所で一年程暮らした際に、オウラン様だけの物として置いてあったのを見たんです。それで、今回の交渉が上手く行けばその褒美にとお願いしてみました」

「ほぅ……北方の遊牧民がかように先進的な物を持っていたとは……ううむ。……これは認識を改めるべきか……」

 すまんオウランさん、全部押し付けてもた。
 評価は上がってるみたいだし、許したって。

「オウラン様からこれを他の人に見られないよう気を付けろと言われてまして、よろしくお願いしますね? 誰かがこれの類似品をケイで売り出したりすれば……私、殺されてしまうかもしれません。で、この寝具ですがときどきは風通しの良い日陰に干して下さい。月に一二回、一時間程度日に干してもいいでしょう」

「おや、ダンも初めて使う物でしょうに、やけに詳しくご存じで」

 はぅっ!
 何も考えずにお手入れの仕方を説明してしまった……。
 これも にほんじんの サガ か……

「ああ、それは……草原族の方から渡された際に、決して軽々しく扱うな。と、入念にご教授頂きまして。では、バルカさんどうぞ」

「いいえ。我が君よりの賜りものを試すような不敬、(わたくし)には出来ませぬ。有り難く頂戴し、家宝と致します」

「……心の底から疑問に思うのですけど……その忠臣みたいなお言葉を言うの……面白いんですか?」

「これはこれは。我が君は真にこのリディアを誤解しておられる。心底からの忠心を持っておりますのに。しかしここはあえて忠言を申し上げましょう。このような言動をやめさせたいのであれば、稀にではあっても(わたくし)の言葉一つで、顔の色を文字通り変えるのを何とかなさった方がよろしい。臣下は主君が自分の言葉に応えて頂けるのを喜ぶもの。そのようにおもしろ……失敬。興味深いのではやめるにやめられずとも致し方ありますまい」

「確かに。拙者もダンを弄るのには自信を持っていたが、リディアはまこと芸達者。良い競争相手を持てたと日々喜んでいる」

 ……さいですか。
 ええ、もう構って頂けるだけでも光栄っすわ。

「喜んで頂けてるのなら……よかったです。それはそれとしてバルカさん、これは五年程で交換する物ですし、役に立たなければ邪魔なだけですので、お試しください」

「つまり五年は配下で居るように。と仰りたいのでしょう? 物で釣らずとも生涯の忠誠を尽くしますのに」
 つれない方だ。とか言いつつ、無表情のままヤレヤレって首を振るのやめてくれません?
 流石にチョビっとイラッとするっす。
 言えませんけど。

「……ちゃいますから。何処の領主だろうとも万金を積んで配下にと望むであろうに、私の配下となって下さった皆様に出来るだけ心地よい睡眠を。と、思ったんです」

「存じておりますご安心を。単なる冗談です」

「さいですか……敏く無くてすみません。とにかくお試しくださいお願いします」

 そう言うとやっとリディアが、布団を試してくれたのだが……。
 入って三分ほどで出て来ると、やっぱり黙った。
 羊毛布団には人を黙らせる何かがあるのだろうか……。

「ダン……これの価値は……万金で足りますか?」

 ……なんでこいつこんなに賢いの?
 いえ、多分売れば経済効果としては億行くんじゃないっすか? もっとか?
 だって、ペラッペラの布からだもん。
 パクって作るにしてもケイではあまり羊を飼ってないから他の材料に頼らないといけないし、性能的にはともかく価格的には劣化品しか作れないっしょ。

「さぁ? 私が知る中で最も良い物を皆さんに渡したかっただけなので、価値は分かりません」

 あれ? これ恩着せがましくね?
 言葉選択を失敗したか?

「……なるほど。詮無い事を尋ねました。このご厚恩、身を粉としてでも報いると誓います」

 と言いながら、貴族らしく胸に手を当てて頭を下げてきた……ぬぅ、やっぱり言葉選択を誤った気がして来たぞ。

「あ、あの正直に言えば、バルカさんが心の中でお持ちである私への評価を少し上げてくれたら嬉しいなー程度は思っていましたけど……決して今仰った程大仰に恩を着せようと思ったわけでは……。とにかくごめんなさい……。えーと、アイラさんに行きましょうか。お待たせしてすみません。どうぞ寝てください」

 あれ? さっきから黙ってると思ったら、もしかしてアイラさん眠い?
 あ、この人、もう寝る時間じゃん。
 時間短縮の為にさっきリディアと一緒に試してもらえば良かったかな?
 光景的にディモールト・ベネだし。
 いかんいかん。こういう邪念は考えているだけでもバレかねん。
 慎むのだ私。

 ……所でそろそろアイラさんが羊毛布団を試して五分が経過してるのですが。
 ……まったく動かない。

「あの、アイラさん?」

 ……動かない。

「アイラさん? この寝具は如何でしょうか」

「最高……。だから黙って。……僕は寝る」

「で、でも、寝るのならアイラさんの部屋で……その寝台も私のですから……ね?」

「……こにょ……ぬの、僕のってダン言ったょね。……もう邪魔しにゃいで。次邪魔したら、僕、ぎゃまんできな……」

 が、我慢できないって。
 ……もしかして、殴られるの? 私死んじゃうよ?
 か、勘弁してくんろ。寝入りばなは誰だって理性が薄くなるけど……アイラさんの腕力だと洒落にならんがなー。
 ああ……完全に寝てしまった……どーすんべこれ。

「ダン、拙者らはこの寝具を頂戴して帰る。アイラにはもう触らない方がいい。言われた通りアイラの寝台で寝ろ。ご主君もその方が嬉しいだろ?」

「我が君、建前の為に無謀な行動をするのは愚の骨頂ですぞ」

 二人ともすっげぇ小声で好き勝手言いやがった。
 しかも反論の暇さえ与えずに、君子危うきに近寄らずとそれぞれが連れて来た馬車に布団を乗っけて帰っていった。

 私は結局アイラさんの部屋で寝た。
 ……別に嬉しくはない。ラスティルさんは誤解をしている。まったく失礼しちゃうよ……。
 というか、アイラさんは無臭だし。
 この家に来て直ぐは、汗臭い時があったので習慣となるまでシツコク体を洗わせたのだ。

 思い起こせば私は昔アイラさんの髪型を、無造作ヘアだと思っていた。
 あれは間違いであった。
 単なる寝癖だったのである。

 全然髪に櫛を入れないんだもんな。
 せっかくの美人なのに寝癖フルスロットルは我慢できず、私が櫛をいれるようになってしまった。
 その為今ではアイラさんの髪型が、サラサラのストレートボブとなっている。
 ……ぬぅ、アイラさんの寝台で寝てると思うと緊張して思考が彷徨ってしまった。
 ワイもまだ若いのぅ。


 一夜が明けて、起きて来た私を目にしたアイラさんは胸に手を当て、頭を下げながら

「この……えっと、この寝具の恩は……体を砕いて? 報いると、約束……します」

 とか言い出した。
 リディアの真似……かね? でもアイラさん、押さえる胸は逆側だと思うよ。

「えーと、よく眠れました? 気持ちよかったですか?」

「うん。……すごーく良かった。……ダンの配下になってよかったぁ……。有難う」

「そ、其処まで喜んでくれたのでしたら私も嬉しいです」

 相変わらず百万ボルトの笑顔でした。
 ゆーあーすたにーんぐ。
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