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戦乱の帝国と、我が謀略~史上最強の国が出来るまで~ 作者:温泉文庫
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カルマがランドに赴いた影響26

 今日はオレステとウバルトの対処方を話し合う日だ。
 私が議場へ行くと、トーク姉妹以外は皆揃っていた。
 これは、彼らの現在私に抱いている感情を試す良い機会かも。
 アイラさんに尋ねると、この部屋を外から見られてる気配は無いとの答えを貰った。

 ならば……私は真っすぐにアイラさんを連れて、カルマが何時も座る主の席に行き、座った。
 そして頬杖をつきながら、視線だけで全員の様子を見定める。

 フィオは『!?』という感じで怒りの表情を見せつつも、耐えている。
 うーむ……コイツの場合この席に座ってるから怒ってるのか、横にアイラさんを配下な感じで立たせてるから怒ってるのか分からん。
 ガーレ、レイブンは不快そうに顔を歪めている。が、それだけだ。
 忍耐力あるんだな。ガーレとか飛んでくるかもと思ったのに。

 ラスティルさんは……爆笑を堪えてないかこの人。
 ……失敬極まりませんかね。そら似合わない真似をしてるという自覚はありますが。
 リディア、は……平常状態のコイツから何かを読み取りたければ、悟りを開けるくらいの何かが必要そうだ。

 今居る全員を確認した所で右手の扉が開き、トーク姉妹が入って来た。
 私の姿を確認したグレースは一瞬眉を吊り上げて声を上げようとしたが、口を閉ざしてカルマを見てる。
 カルマは……怒ってないな。
 少し楽しんでるようにさえ見える。中々だ。
 しかし……他の人間はもうちょい内心を隠した方がよくなかろうか?
 私としては安心できて有り難いけど。

「ダン。流石に気が早くはないか? その席に座るのは、お主の案が良案だと我等が受け入れれば、という話であったはずだ」

「はい。すみませんカルマさん。一度この席に座って見たかったもので、つい。そうですね……カルマさんの為に席を温めておいたと思って頂ければ。以後すわりはしませんのでどうかお許しください」

「いや? お主のお陰で命が救われたとなれば、座っても良い。昨日はそういう話だったとワシは理解している」

「いえいえ。一度で十分です。失礼しました。どうぞこちらにお越しください」

 そう言って私は末席に座る。
 うんむ……さっきの言葉、ある程度本気に聞こえた。
 思ったよりも感情で行動が左右されない人物だったか?
 権力欲が薄い……事はあるまい。
 だとすると、私の試しが見破られていた?
 ……あからさま過ぎたかね。
 ま、気を取り直して行こう。

「では、話し合いを始めましょう。オルステとウバルトは攻めて来るのですねバルカさん?」

「十中八九間違い無く。兵を国境沿いの街に集めております。またビビアナの船が何隻も兵糧を載せて両領主の所へ来たという情報も。うむ。噂を広めたのもビビアナ。初志貫徹していて大変結構」

「大変結構じゃないわよ……。こっちはビビアナに(こうべ)を垂れて、大宰相を継いでくれるように頼んだってのに……軍が来るのは昨日リディアが言ってた一か月後だとあたしも見たわ。それで、ダンはこれをどうやって対処すると言うのかしら? 領境を超えてから二週間、レスターのある平原に入れば八日で此処まで来るわよ」

「ふむ……二つの軍が合流すると思いますか?」

「しないでしょ。お互いもう勝ったつもりに決まってる。ならば、後はどちらが先にレスターを占拠し、カルマ様の首を取って戦後の交渉を有利にするかを考えてるでしょうから」

 成る程、盛り上がって来たなぁ。
 籠城すれば落とされはしないけど、攻めて来ずに兵糧攻めされちゃうと負けるって話だったんだよな。
 中々絶望的だ。

「とりあえず、皆様に何か策があれば教えて下さい。カルマさんは籠城と仰ってました。グレースさんは……一緒ですか。フィオさんは?」

「庶人であるお前に名を呼ばれる筋合いは無いっス」

「それは失礼しました。ウダイさん、何かありますか?」

「……ちっ、ス。小職の考えはお前の策とやらが下策ならお前を叩きだして、軍の団結を図る事っス。リディア殿まで居なくなるとすれば痛いっスけど、纏まっていないと勝てる物も勝てないっスから」

 うーん。本人の前で言うとは……若いね。
 おじさん好きになっちゃいそう。皮肉じゃ無くて本当に。

「はぁ……フィオ。もう少し冷静になれ。おい貴様、いや、ダン殿、某もガーレも決して手を出さぬと誓うゆえ、アイラを貸してくれぬか。ラスティルだけでも護衛には十二分であろう?」

「……軍師であるウダイさんが感情的では困りますね。そうしましょうか。アイラさん、彼女の横に居てあげてください」

 ……あ、こいつあからさまに喜んでやがる。
 アイラさんもフィオを見てニッコリだ。
 ちょろっと頭に来るわー。
 ……嫉妬ではない。チョロいフィオがうざったらしいだけである。
 だが今はフィオなんぞに構ってられない。
 ……何時か、お前よりもアイラさんと親しく……うーむ……厳しいかも。性別の差はでっかいし……。ってだから構ってられんのだ。

「やっぱり皆さん籠城ですか。三倍の軍相手では将軍が幾ら強くても勝てませんしねぇ」

「さもなければ貴方にそんな大きな態度は取らせないわ。態々確認なんかして……性格悪すぎよ貴方」

「そー言われましても……最初から私が命令なんてしたら将軍の皆様は更に不満を感じると思いません?」

「……それはそうだけどね。悪かったわ。それで? ダン様はどんな深謀をお持ちなのかしら?」

「まぁ、そんなに焦らないでください。しかし、ビビアナは凄い。素晴らしい人材である皆様が揃いも揃ってお手上げとは……」

「ビビアナというよりホウデかと。彼女は軍略謀略共に秀でております。ただ、その策が採用されるかはビビアナ次第。しかし今回のようにビビアナの感情と献策が一致すると正にケイ帝国最強。ビビアナがランドで忙しく、直接攻める余裕がないのを天に感謝すべきでしょう」

「ああ、ビビアナはそんなに気分やでしたか。私苦手なんですよね、機嫌で物事を決める人というのが……」

「ダン! いい加減にしなさい! あたし達はずっと待ってるのよ!」

 おっと、流石に焦らし過ぎたか。

「あ、すみません。バルカさん、教えて下さった話をお願いします」

「承知。野戦を提案致します。ただし、その前にオウランから援軍として六千の軍を二つ出してもらい、両軍へ毎日昼夜を問わず挑発して眠りを奪うのです。それを可能であれば六日は続け、眠気に耐えられなくなった所を全軍で片方ずつ戦えば何とか勝てましょう」

「……は? オウランからの援軍? 無理に決まってるでしょうが。あたし達は以前もっと余裕がある時にオウランにもっと深く協力しないか話を持ち掛けた事があるの。でもあっさり断られたのよ。言いたくないけど落ち目のあたし達へ援軍なんて出してくれる訳が無い」

「二日後ジョルグ様が来て下さるそうです。援軍として一万二千、親しくしている氏族にも声を掛けて、何とか集めて下さるそうですよ。ただ見返りは当然要求されるでしょうけど」

「本当……なの? だとしたら、闇夜の月よ! い、いえ。見返りに何を要求されるか分からないし、途中で領民を襲われたらどうするの? 大体どうして今更そんな手を尽くして助けてくれるのか分からない……」

「当然の疑問ですな。しかし、今見返りを気にして命綱を手放しては愚の骨頂。村は襲わない様に管理されるはず。その分要求が増えたとしても、致し方ありません」

「な、なんで管理してくれるなんて分かるのよ」

「文にて確認ずみだからです。軍自体は直ぐに発てる状態とも書いてありました。後はこちらにジョルグという方が来た時に、こちらの都合を話せばよいだけだそうで。他に何か御座いますか」

 おお……まるで自分が文を受け取ったみたいに言うね。
 私が口頭で伝えただけなのに。
 流石リディア頼りになる。

「……無いわ。でも、村を襲わないなんて口約束を信じられるかしら? あいつら北方異民族はケイの人間に比べて理性がかなり薄い。……一万二千も居るのなら一緒に戦うよう要請した方が良案じゃない? あたしたちが籠城してる時に背後から攻めさせるとか。そうすれば草原族が領地に居る時間を減らせる」

「草原族に血を流させれば、その分見返りの要求が大きくなる。そして見返りを与えなければ、この乱世で我等は後背に敵を作る事になりますぞ? それよりは彼らの機動力を上手く使い、血を流させずに敵を疲労させた方が後々よろしく思われますな。第一今仰ったように信頼出来ない軍を当てにした戦法は如何な物か。下手をすれば裏切る気が無かった相手を誘惑しかねませぬ。
 グレース殿の仰る内容や諸々考えはしましたが、提案した策の方がよろしいというのが(わたくし)の結論でございます。五日程完全に睡眠を絶てれば、三万の軍勢も羊の群れ同然。更に草原族の動きを見て信頼出来るか確かめられましょう」

「はぁ……そうね、確かに信頼出来ない軍と一緒に戦うのは愚策。その程度も分からないなんて焦ってるのかしら。……でも睡眠を絶つのは難しいわよ。その為には草原族が計画通りに動かないと駄目だし……大体、籠城戦相手ならともかく、野戦でそんなのが相手にどれだけ効果があるかなんてどの兵法書にも書いて無いわ」

「ふむ。他に妙案がおありで?」

「無いけど……決断し辛い話ね……獣人に頼り切った策なんて、カルマ様の評判が更に落ちかねない」

 愚痴るねぇグレースさん。
 ここであっさり納得したら、私の立場が強くなってしまうとでも計算してるのかい?
 だが援軍が来るだけでも単なる籠城よりはマシだろ?
 選択肢は無いと分かってるだろうに面倒なこったで。

「それも致し方無い話。ダンではありませんが、可能性が出ただけ良いと思うべき状態ですぞ。これで負ければ降伏、逃亡、自決のどれかになりますが、それは元からで御座いましょう」

 うわーお……私も大分直接的に言うが、リディアさんもホンマ……抉りますね。
 それに対する相手の反応が私だと『喧嘩売ってんかキサーン!』なのに、
 リディアさんだと『ぐっ! やはり、そうか……何か良い手は無いかリディアさん』である。
 この差は……積み重ねて来た能力に対する信頼の差でっしゃろか?
 感心するしか無いっス。いや、まじで。

「ダン……この内のどれだけが貴方の考えなのかしら?」

「私はオウラン様にどの程度のお願いを叶えてもらえそうかバルカさんに言っただけですね。後出来るのは、オウラン様の足を犬のように舐めて逆らう気が無いと示す事くらいです」

「……貴方そういう趣味? だとしたら余り近づいて欲しく無いのだけど」

「比喩表現ですよ。とはいえ、以前オウラン様とお会いしたとき誠実に下の者として行動したお陰で、今みたいにグレースさんでは無理な話を通せたのだと思います。ある程度は大目に見てくださいな。さて、バルカさん細かい所をお願いします」

「我々が考えなければならないのは、草原族がどの地点から襲い始めるべきか。逃がさず疲弊させられる地点を考えるべきでしょう。敵対領主に挟まれていてはいかにも不味い。この機会に出来れば両方を始末したい所です故。
 後はその目標に沿って、草原族に待機させる場所と兵糧の準備。我等が何処で戦うか。万が一合流しようとした場合の対処方。そんな所ですかな。(わたくし)の方で草案は出来ておりますが、後程グレース殿に確認をお願いしたい。
 さて、(わたくし)からお伝えできるのは以上になります。カルマ殿、グレース殿。如何なされる?」
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