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戦乱の帝国と、我が謀略~史上最強の国が出来るまで~ 作者:温泉文庫
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カルマがランドに赴いた影響23

 私は何とか表情を引き締めようと努力しつつ、ラスティルさんを探して歩く。
 上手く行った喜びでニヤニヤしてる気がする。まだまだ修行が足りん。
 しかし、探す必要は無かった。
 城門……という程立派な物ではないが、門の所にラスティルさんが待っていたのだ。
 いかんいかん。早く表情を普通にしないと。

「ラスティルさん、明日私が良案を出せれば私が今後の決定権を持つことになりました。これでお約束通り配下になって頂けますか? それとも明日まで待ちますか?」

「なんとまぁ……度肝を抜かれたぞ。いや、明日まで待たずとも良い。リディア殿とアイラ殿が付き従ってるのならば十分信用できる。お主……傑物だったのだな。一介の下級官吏が一日で伯爵になるとは。このラスティル、貴方様に槍を捧げましょう」

 あ……この誤解は……まずい。
 やっべぇ。マジで気が付いて無かった。

「あの、ラスティルさん、誤解があるようです……。ここの主君はカルマさんのままです。私は裏でバルカさんとカルマさん達の意見調整をして、最終的な決定をするだけ。ラスティルさんの考えを把握し切れていませんでした……ごめんなさい。……これでは駄目でしょうか?」

 私の言葉を聞いたラスティルさんは、顔を手で押さえて考え込んでしまった。
 かなり意気消沈させてしまったように見える。

 私は名が知れ渡るような行為絶対せんがなと言いたいが、ラスティルさんに分かる訳が無かった。
 反省しよう。
 ……反省で済んでくれないかな。

「……いや、一度約束した事だ。それにその状態でもとてつもない話、不満を言うべきでは無かろう。しかし……ダン、そなた変わったと思ったが、臆病なまでに慎重なのはそのままだったか」

「はぁ、特に才も無い身としましては慎重でなければ大失敗をしかねませんので。考えが浅く誤解しておりましたのに、許して下さり有難うございます。さて、これから皆様が怪我無く終わり、私の配下にまでなって下さった事に感謝してアイラさんの家で歓迎の宴を開きたいと思います。ラスティルさんも夕食の時間になりましたらお越し頂けませんか?」

「それはよい。酒はあるのだろうな?」

「はい。バルカさんも参加して頂けますか?」

「勿論でございます。して料理ですが宜しければ家の者に準備させましょう」

「いえ、結構です。せめてものの感謝を込めて私が作ります。アイラ様が三人前として、大目に作って八人前程度なら大丈夫でしょう。あーいえ。すみませんが汁物を人数分お願いしても良いでしょうか?」

「御意のままに。しかし料理までお出来になったのか。楽しみでございます」

 ここで二人と分かれた私は、アイラさんを連れたまま天ぷらの食材を買いあさり、必死になって用意をした。
 かの伊達政宗も人心掌握の為か配下に料理を振る舞ったのだ。
 私ならばもっと気合を入れて当然だろう。
 しかし八人前は流石に多くて疲れた……下準備をした後は宴会に備えて昼寝である。

 そして宴会が始まった。
 三人の美人に囲まれて宴会……はしゃいで失言をしない様に気を付けなければな。

 して我が天の料理、評判は如何だろうか。
 正直自信はある。
 アイラさんに食べてもらった最初期と比べると、折を見て試行錯誤した結果かなり天に近づいたと自負している。
 今日なんてころもに使う水分としてお酒を採用した。
 こうするとカラッとあがるのだ。
 今や一発勝負なら伊達政宗よりも私が上だ。
 だってあいつ得意料理はずんだ餅じゃん。天ぷら相手じゃつらいべや?
 しかも趣味のダンスで毎年一億五千万も使いやがったし。ってこれは関係無いな。

 まずラスティルさんだが、かなりのお酒を持参して来た。
 今は天ぷらをさかなにめっちゃ飲んでます。
 本当にお酒好きなんだな……って飲み過ぎちゃうんかこれ。

「うーむ。素晴らしく美味いだけでなく、何とも酒がすすむ料理だなダン。感服したぞ」

「はい、有難うございます。……あの、その……いえ、何でもありません。お酒……何時もこれ位お飲みになるんですか?」

「うむ? いいや。何時もはこの六割程度か。今日は宴だ。少しは羽目を外しても仕方あるまい?」

「はい、そうですね……」

 いえ、その六割でもかなりヤバイっす。
 ……この人確実に酒で体壊すわ。
 ぬ、ぐぅ……口は……出す。だが、どうやって出すべきかは考えよう。

 所でリディアは……うっ。天ぷらを一つ一つ確かめるように食べている……。
 ……少し、脈拍が早くなった。
 何故だ? どうしてこれだけでこれ程不安になる?

「……これは……今まで見た事も聞いたことも無い調理法か? ……これ程の味ならば貴族の誰かが食べていれば噂に聞いていそうなものだ。……むぅ……奇怪な」

 ……。
 そら不安になるわ。
 こいつの前である意味私の秘密にクリティカルな物を出してしまったのだから。
 最初からこの国に無い物をリディアに出したら、好奇心を刺激するのは分かっていた。
 だが、アイラさんのために作り続けていれば何時かは知られそうだし、早いうちに教えて媚びを売っておこうかなって。

 そのアイラさんは……うむ。当然いつも通りだね。
 完全に安定してる。
 安定した喜びの気配を全身から出して、食べてくれている。
 ……リディアが何かして来たら、守ってくれよアイラさんや。でないとその天ぷら無くなっちゃうぜや?

「はむっはむっはむっ……モグ、モググ、モグッモグ……」

「アイラさん一応申し上げますが、アイラさんの分は他の人の三倍で終わりですからね? それ以上食べられてしまうと私達の分が無くなってしまいます」

「………………分かってるよ。でも、ダンが食べきれなかったら何時でも言って」

 あ、これ私も言った事がある。
 三歳の時、親に『母さん、そのケーキ全部食べられる?』って。
 ちょっと恥ずかしい記憶だね。
 ……そして、三歳児並みに食い意地が張ってるアイラさん……。
 ……いや、天ぷらがそれだけ素晴らしいって事にしておいてやろう。

「いえ、十分食べられますので」

「……残念」

「ダン一つお尋ねしたい。何故この料理を我が家に居た時は作ってくださらなかったのか。いま(わたくし)は損をさせられていたのではないかと、疑念を抱いております」

「……えーと。これはアイラ様と親しくなるために苦心惨憺した結果作り上げた料理であの頃は……いや、すみません。本当は特殊な料理を作って有名になったら嫌だったからです。美味しいでしょ? 何かで知れ渡るような危険はおかしたくなかったんですよ」

「つまり、我々もこの料理について誰にも言ってはならぬと?」

「はい。おねがいします。ちょっと、ラスティルさん聞いてますか? 秘密ですよ? 何かで知れ渡ったと思ったらもう作りませんからね? 美食は人を狂わせるんですよ? 私が酷い目にあったらどーしてくれるんですか?」

「うむうむ。聞いているぞ? だが月に一回はこの料理が食べられないと、約束をど忘れするかもしれんなぁ」

「ほぉ。それは良案。ダン、まさか(わたくし)をのけ者にしたりはしないでしょうな?」

 相変わらずの彫刻像だけど、リディアも虜にしてしまったか。
 和食のちょっとした応用である、天の料理ならば当然の結果ではある。
 ……もしかして、私が必死になって考えている全ての対処法よりも、この天ぷらが最も頼れる命綱だったり……。
 ま、それを抜いても定期的にコミュニケーションの機会を作るのは良い事だ。
 皆覚えておいてくれ、結婚した後に問題が起こる数は毎日話し合いをきちんとしてれば減っていく。
 勿論例外はある。なんせ結婚(はかば)だからな。

 なんて物思いに耽っていては場が冷めてしまう。
 暫く練習してなかったので不安だが、一発芸でもするか。
 このために態々ズボンを選んではいてる訳だし。

「はい。お望み下さいますなら私には在り得ない程勿体ない配下である皆様への感謝を込めて作らせて頂きます。さて、皆様の眼に適いますか不安ですが軽く芸をさせて頂いてもよろしいでしょうか? どうぞ皆さまそちらにお寄りください。横から見て頂かないと分かり難い芸ですので」

 さて、芸のやり方ですが。
 まず右足つま先立ちします。次に左足をスライドさせて後ろに引きます。
 そのとき踵が浮かないようにしましょう。
 左足をスライドさせたら、今度は左足でつま先立ちして、同じようにしましょう。
 後は繰り返すだけ。自然な感じを出すのには練習が必要ですが。
 練習すれば結構できますよ。この超カッチョイイ後ろ歩き。
 勿論、劣化だけどな。

「「「は?」」」

 だが、全く知らない人相手ならばこの程度の反応は引き出せるべ?
 一発芸としては十分っしょ。

「ま、待てダン。もう一度やってはくれぬか?」

「あいあい。では、もう一度行きます」

 最後にスピンした後、両足でつま先立ちしそうになるがそれは我慢。
 万が一この芸が知れ渡ったら、歩法の一つザンス。で誤魔化すつもりだ。
 しかし最後のベストエンターテイナーポーズを取ってしまうと、誤魔化しようがない。

「「「……」」」

 あー、今間違いなく人生で一番美人に注視されてますわー。
 有難うマイコー。せめて……最後のライブをしてから死にたかっただろうに……。
 死ぬほど準備したのに、出来ずに死ぬなんて……本当に可哀想だった。
 何よりもその事実に私は涙した……あっ思い出すと涙が……。
 違う世界に来たのに未だに悲しいぜ。

「……ダン。何を泣いておられるのですか?」

「あ、いや、失礼。この歩き方を学ばせてもらった芸人の方を思い出してました。気にしないでください」

「それは……芸なの? 魔術でも使ってるのかと思った」

「芸ですよ。ちょっと変な歩き方をしてるだけです」

「お主……本当に色々奇妙な物を隠しておるのだな……これが我が主君……うーむ。思ったよりずっと面白くなるかもしれん」

「あー……もしかして、ラスティルさんも人生の選択を楽しいかどうかで選ぶ人でしたか?」

「そうだぞ? そうでなければ主君を探して何年も旅してまわる訳が無かろう?」

 普通に良い条件で雇ってくれる主君を探し続けて、旅を続ける人も居ると思うのですが。
 宮本村のタケゾウ君だってそうだったはずっすよ?

「はぁ……そうなんですか。……面白く出来るように頑張ります……」

 この後も皆で和やかに楽しい時間を過ごせた。
 私がそれに寄与出来たとすれば、全て偉大な先人たちのお陰だな。
 有り難いこっちゃ。

 ……私の目的が果たされたとき、誰が傍に居るだろうか。
 難しいのは分かっている。それでも三人ともが最後まで付いて来てくれるのを望まずにはいられない。

 宴も終わり、私がお皿を洗いながらそんな物思いに耽っていると、リディアがやって来た。
 まだ帰っていなかったのか。何の用だろう。
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