挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
戦乱の帝国と、我が謀略~史上最強の国が出来るまで~ 作者:温泉文庫
95/146

カルマがランドに赴いた影響22

「先ほども言った通り、アイラさんから貴方方が死なないようにして欲しいと言われたからです。それで、私の考えでは今回もそして今後も、カルマさんのように誇りや感情で決めかねない人が決定していては生き残るのは厳しい。なので私が決定させて頂こうと思いました」

「……何? それは貴様が上に立てば、この状況で絶対にあたしたちの命を守れるって言うの? そのうえ姉さんより正しい決定が出来ると言うのかしら? 下級官吏風情の貴様が?」

「おや、絶対とは厚かましい言い方ですねグレースさん。あなた方は全員死んでいるも同然でしょう? 私はもしかしたら負けずに済むかも、という程度です。今後については私の考えというよりも、配下であるバルカさんの考えによる決定となるでしょう。
 カルマさん、私は貴方にランドでは難しい問題があると話しましたね? なのに貴方は解決策も考えず、ランドへ行ってこのザマです。そんな貴方よりはバルカさんの判断の方が信頼出来る確率が高いと私は判断しました」

 いや、厚かましいというよりは、過激な言い方でこちらを揺さぶってるのか?
 ……わっかんねーな。
 数十万人の上に立つ人間相手に、言葉の読みあいなんて無理だ。
 この場面ではこっちの意見を押し付けるのみだ。
 しかし次があるとすれば方針を最初から固めて、分からなければ持ち帰って考えますが一番か?


「好きなように言ってくれるわね……。大体、そんな言い方でやる気あるの? 兵だけで一万人以上の命を背負うと理解してるのかしら?」

「その一万人は既に死んだも同然です。死んでも私の責任だとは思いません。ああ、カルマさん。貴方が拒否するなら私、アイラさん、バルカさんはここを去ります。アイラさんにお願いして皆さんを力で従わせようとはしませんので、ご安心ください」

 アイラさんが何か言いたそうにしている。
 もっときちんと説得しろと言いたいのだろうか?
 だがこれ以上何を言っても仕方があるまい。
 アイラさんも分かってるとはおもうが、割り切れないか。
 ……相手から恨まれても守りたい程ならば……割り切れるわけないよな。

「それでは、ワシ達に死ねと言ってるも同然であろうが。……だが、下級官吏の言葉に従うなど……いや、その前に策を聞かせよ。話はそれからだ」

 ふむ……話を聞いて自分達だけで出来るか考えるつもりか?
 深読みし過ぎかもしれない。
 ……彼女達では不可能だが、出来ると勘違いする可能性はある。
 どうしたものか。
 ……いや、それよりも先に彼女達に認識させたい事がある。

「まず勘違いを正させてもらいましょう。下級官吏の言葉に従うのではありませんよ。私がカルマさんの将来を予想出来たのは以前バルカさんに予想を聞いていたから。策も何もかも、私がしたい事をバルカさんに相談して、その方法を教えてもらった通りの内容です。今後もそうなりますので、下級官吏の言葉に従うというよりは、リディア・バルカの言葉に従うと考えた方が近い。
 大体、私に兵と領民を動かせる訳が無いでしょう? 皆さんと相談し、納得して貰うつもりです。ただ、皆さんがこちらの意見を聞かず自殺行為をしようとすれば、さっさと見捨てて逃げます」

 つまりだ。今までの出来事によってトーク姉妹が私にあると思った有能さは全てリディアの物ってこった。
 出来れば意思もリディアの物だとしたかったが、今やってるような行動はケイ人の思考には無いだろうからな……仕方あるまい。

 そしてこれはリディアへの踏み絵でもある。
 彼女が何を考えて、私の配下なんて理解できない立場につこうと考えたかは分からない。
 しかし、配下だと言うのなら私が隠れる役に立ってもらおう。
 ここで余計な事を言えば、やはりお前は信用出来ん。

「やっぱりね……下級官吏がそんなに有能な訳無いもの。それでも分からないわリディア。何故わざわざ自分より無能で何も持たない者を主君等と言うのかしら。貴方があたし達の上に立つと言った方が、まだ分かり易いのに」

「……(わたくし)にも事情があり、余り人の口に乗りたくないので。故にダンが望むとおりに献策は致しますが、上に立つつもりはございません」

 現状カルマの配下として名が売れれば、悪評も付いて回りかねないしな。
 ……まぁ、合格点か。
 だとすると、こいつは本気で私の配下となるつもりなのか?
 全く理解できん……。
 有り難いが……どう考えた物か。

 で、どうするんだいカルマ。
 大よそ分かっただろ? 何時だってお前は私を拒否できる。
 実際に兵を動かすのはお前達なのだから。
 後はお前が割り切れるかどうかさ。

「……良かろう。お前の話す策が確かに有効ならば、お前を我等の主君とすると約束しようではないか。グレース、皆、これは決定だ。このままでは死ぬしかない。ならばリディアが認めたという策に頼る方がまだマシであろう。それで、そのあかつきには如何すればよい? 全兵の前でお前とリディアが全体の指揮を取ると大々的に告げるか?」

 あ……これは……多分だが……。
 リディアは……こっちを見てもいない。
 厚い信頼を感じるね。
 後でリディアに聞くのを忘れないようにしなければな。
 カルマ、思ったより割り切れる奴かもしれない。
 いや……ランドで成長したのかも。

「いえ、それは結構。私が欲しいのは大きな決定をする場合の決定権だけ。領民にとっても、他の領主にとってもこの領地の主は変わらずカルマさんです。私は……ああ、グレースさんの秘書官にでもして貰いましょうか。私の行動は全てグレースさんの了承を得ているという事でお願いします。基本的には真面目に秘書官として働きますので」

「貴様……何処までも勝手を言う奴。……姉さん、これでもこいつに従うの? 臆病なだけじゃなく卑怯な奴よ」

 卑怯、卑怯ね……。
 本当にそう思っているのか?
 騙し合いを散々してきたであろうグレースが、そんな言葉を本気でいうとは思えない。
 私はお前をそれ程愚かな人物だとは思っていないぞ?

 いかんな、人物鑑定なんて後にするべきだ。
 今は目の前に集中しなければ。
 私が油断して迂闊な行動を取れば、アイラさんだって守るのは難しくなる。

「ああ、こいつが良策を出してくれるのなら従おう。ワシは自分と配下の命を守るため屈辱に耐えランドから戻った。これでこいつを感情で退けて、死ぬと分かっている行動を取っては全てが無駄。皆も従え。否定するのなら現状の打開策を示せ」

「賢明であらせられますカルマさん。それで、他の皆さまもよろしいでしょうか?」

「お前のような卑怯者に従うなどはらわたが煮えくり返る。しかし、我が主の命なれば、従うよりあるまい」

 レイブンはよし。

「俺もお前のような策を弄する臆病者は大嫌いだ。だが、俺には打開策など全く思い浮かばん。だというのに文句を言っては筋が通らん。お前の手が良いのなら、従うしかあるまい……気に食わんがな」

 ガーレもよし。

「小職は今一度尋ねたいっス。リディア殿、本当にこいつの策は有効なんスか? それにこいつが必要かどうかも尋ねたいっス」

 確認は重要だけど、今はちょい未練がましいぜフィオ。
 失言を期待してるのかもしれないが、それの返答なんて……。

「はい。そうです」

 で、終わりだよな。こいつに遺漏がある訳ないじゃん。

「うぐっ。……ぐぐぅ……策が良い物ならば……致し方ないっス。うう……アイラ殿ぉ……必ずそいつから救って見せるっス」

 むぅ、ヒロインがアイラ。主人公がフィオ。
 俺は勢肉団子の両手に指輪をしたクソ貴族って所か。
 失敬な。走って逃げられるように走り込みは欠かしてないっつーのに。

 うぬぅ……真面目に考えるとフィオはかなり邪魔か?
 アイラを心配してか、私を監視してる雰囲気が前からあった。
 知られたくない事が山ほどある身としては、大変困る。
 お陰で草原族と連絡を取るのにもかなり神経を使った。
 とはいえ、今の所どうしようもないな。
 もしもの時は、アイラさんに頼めば黙らせられるだろう……多分。
 それよりも問題は妹の方だ。

「グレースさんは納得頂けましたか?」

「……もしも誰も攻めて来なかったときはどうするつもりなのかしら」

「その時は出て行けと言われれば出て行きます。居ても良いのならば、今まで通りに。私がしたい決定とは、誰と戦い、誰を殺し許すのか。そういった大きな方針についてだけ。日常ではカルマ様は素晴らしい主君。私も身の程を弁え出しゃばらないようにします」

「……分かったわ。貴方の話を真剣に聞き、良案ならば従うと約束しましょう。願わくば広げた風呂敷の半分でも納得できる案を出して貰いたい所ね」

「最善を尽くします。では、私とアイラさん、バルカさんはこれで失礼を。皆の無事を祝って宴会をしようかと思いますので。皆さんも気を安らかにする為に軽く祝杯をあげては如何ですか? 少なくともランドに居るよりはずっと命を長らえた可能性が高い。十分祝い事に値するでしょう」

「ちょっと! 待ちなさい! 敵が来るかもしれないのよ! 早く貴方の策を聞かせなさい」

「グレース殿、現在の状態は先ほど言った通り。不安でしたら今日は状態の確認をするがよろしい。それに皆少々気が高ぶっている。一日空けて考えを纏めた方が最終的には早くなる。よくお考えあれ。何時ものグレース殿ならば、ダンの配下である(わたくし)の報告を鵜呑みになどせず、確認をするはず」

「む、それは…………はぁ……。確かに、ね。分かったわ。しかし、明日は必ず貴方の策を聞かせてもらうから」

「分かりました。では、明日はよろしくお願いします」

 この言葉を最後に私は議場から出た。
 まだ何か言いたそうではあったが、知らん。
 私は少しでも早くラスティルさんに結果を伝えたい。

 第一冷静に振る舞うのが限界に近い。
 全てが最良の結果になった興奮で、変な行動を取ってしまいそうだ。
 あるいは……今日の内に私を捕まえようと兵を集める可能性も在るが……それ程カルマも愚かではあるまい。
 ラスティルさんもこれでこちらに付いてくれるだろうしな。

 ヘダリア州の殆どを、カルマ一党ごと手に入れた……。
 安定感は欠片も無いが、真田を追い抜いたのだ。
 これから起こる戦もまず大丈夫のはず。
 こうなれば、考えていた、いや、妄想していた殆どが可能になる!

 この気持ちを、どう言ったかな……。
 クク……ククククク、ハハハハッ!
 思い出したぞぉ。

 魚が龍となって、海から天に昇る気分、だ。

 正にそのままじゃないか!
 単なる倉庫番であり、何も実行手段を持たなかった魚が、カルマ達という力を手に入れ龍となった。
 実態は魚のままだが一向に構わん。
 諸侯達へ影響を及ぼす事も可能だろう。
 当然情報も幹部だけが手に入る深度、確度、速度で手に入る。

 今は早く落ち着ける所へ行って、この気持ちに浸りたくて仕方がない。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ