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戦乱の帝国と、我が謀略~史上最強の国が出来るまで~ 作者:温泉文庫
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カルマがランドに赴いた影響20

「トーク様は突然心変わりなさいませんでしたか? 十中八九は私の文を受け取ったのが理由です。内容は秘密ですが」

「確かに突然であった。つい先日まで皆を励まし、大宰相の務めを果たす強い意思を見せておられたのに、突然病気になったと知らされそして帰参となった」

「でしょうね。それで明日ですが、私はトーク様へ今後私に互角以上の決定権を渡して頂ければ、これから起こるであろう戦において勝ち目を作れると言うつもりです。拒否されたのなら私は去ります。ほぼ確実に負けますから」

「……は? 待て。……まず、その勝ち目を作れるというのは……事実なのか?」

「はい。ああ、私だけの考えではありませんよ。賢い方にも保証を頂いています」

「賢い……? リディア・バルカ殿か! それに……もしや、アイラ殿もお主に同調しておるのか?!」

 あ、バレた。
 出来ればこの情報はバレて欲しくなかった……。
 余計な事を言ってしまったか。
 真田の所へ持って行かれては困る情報を知られたな。
 この程度で私が同郷だとバレたりはしないが、名前を覚えられるのも嫌なのだ。
 ……少し下手を打ったかもしれん。

「誰が協力してくれているかはお答えしません。先方にも迷惑が掛かりますから。ま、嘘だという可能性も在りますね」

「……ぬぅ。お主意地が悪くはないか? ……いや当然の配慮か。それでは謀反だ。拙者の立場であればダンと協力者を拘束し、カルマ殿の下へ連れて行かなければならん……さて、どうしたものか」

「でしょうね。でもお考えください。まずトーク様の状態は詰んでいます。そして下級官吏である私が希望を作れるとしたら、彼女にとって望外の幸運と言うべきでしょう? 私が決定権を欲しいのは、今後トーク様が決定権を持っていると生き残れないからです。
 今回の出来事で分かったと思いますが、彼女は誇りだの何だので決定を考える人。乱世の主君としては最低です。意地を張ったあの人をこちらに帰らせるのは非常に大変でした。今後もこの調子で決められていては、必ず滅ぶでしょう。とても面倒を見切れません」

「それは……お主のような人間から見ればそうであろう。しかしだな? ワシはカルマ殿の判断がそれ程悪い物だったとは思えぬ。誇りに左右されるとお前は言ったが、人として当然の範囲だと今も思っている」

「あー……そうですね。そうなのでしょう。言いすぎました。ですが、結論は変わりません。私は彼女よりも乱世において信頼出来る人間を知っています」

「……リディア殿の事か? ……経験を積めば確かにそうなるかもしれん……しかし忠誠心は無いのかダン」

「はぁ……ついでですから言っておきます。そういう見た目だけの正しさを守る気はありません。それよりも守るべき物があると考えています。
 私としては、トーク様にランドで死んでもらっても特に問題はありませんでした。別の諸侯の下で下級官吏として働くだけですから。しかしとある方が皆の命を守りたいと言ったから私は山ほどの面倒を背負っている。それをラスティルさんは非難なさるのですか? 今まで私は与えられた俸給以上にトーク様達へ益を与えて来ました。だというのにもっと与えろと?」

 と、いかん。
 少し興奮してしまった。
 落ち着け……。

「そうは言わん。下級官吏ならば、主が滅びそうな時に逃げだすのも当然。謀反などしなければ、な。それで結局拙者にどうしろと言っているのだ? お主に協力しろとでも?」

「正直に言えば私の配下になって欲しいと思っています。誇りや義は保証しませんが、ラスティルさんの命を守る事だけならばお任せください。それが無理ならば今夜中に客将を辞めて出て行って頂きたい。これからは全てを振り絞っての戦いになります。その戦いで全てを見た貴方が他の所へ行ってしまうと、非常に不味いのです」

「嫌だと言ったら?」

「トーク様達には話し合いの前提にラスティルさんを参加させない事と伝えてあります。そして彼女達が私を受け入れたのならば無理にでも出て頂くでしょう。トーク様が私の提案を拒否なさったのなら、お好きなように。まぁ、私はお願いをしているだけです。強制は不可能ですし」

 そしてこれが私に出来る最後の親切だ。
 此処を去るのならば、今後は他の人間と変わらない対応をする。

「大きく出おったな。とりあえず明日になれば分かる事の真偽は置いておこう。しかし、命だけを守るのなら自信があると言ったな? それは拙者に武を、史に名を遺すという志を捨てろと言っているのか? それはもうラスティル・ドレイクとは言えぬ」

「違います。ラスティルさんはこれから起こる戦乱を甘く見ています。ビビアナ、マリオ、イルヘルミ、他にも居ますし、更に真田みたいな立身出世を夢見る者までいる。酷い戦乱が起こりますよ。殆どの者が死ぬでしょう。その中で生き残るだけでも大量の武勲が必要となり自然と史に名が遺るのは間違いありません。
 私の配下になるという意味は、私の所為で命を失うと感じた時以外は指示に従って欲しいという意味です。ま、殆どは私ではなくもっと賢い方の指示ですから安心して下さい。ただ、ラスティルさんのような方にとっては我慢するのが難しい方策も取ります。それでも、私の考えでは真田陣営よりも人々の幸せに寄与しますし、命の危険も少ないでしょう」

「大した自信だ。しかし事の真偽が明らかになる前に臣下になるなどと言える訳があるまい? 下級官吏の臣下など聞いた事が無い」

 あ、それ私も同意見。
 リディアは本当にどうなってんだ?
 ……今関係無い事を考えてどうするんだ。
 此処までは想定内なんだ。気合を入れなおせ。

「ごもっともです。そう、ですね。ラスティルさん、少なくともこれから起こるであろう戦いまでは此処を離れる気がないんですよね?」

「うむ」

「では、賭けをして頂けませんか? 明日の話し合いが終わるまでは中立としてどちらにも組まないでください。そして話し合いが終わった後、私がトーク様と同等以上の影響力を持っていれば私の配下に、そうなっていなければ、今私が持っている有り金全てをお渡しします」

 そして私は今持っている貯金全ての額を言った。

「今まで拙者を配下にしたいと言われた時に出された中では、最も小さい対価だぞそれは」

 不満そうな言葉とは裏腹にラスティルさんは楽しそうに見える。
 ……良い手ごたえだ。賭け事が好きなのかな?

「勿論足りないのは承知しています。ただ説得力に欠けるのを承知で私の観点から言いますと、私が明日影響力を得るのも、貴方を配下にするのも、ラスティルさんの命を守る事に繋がるのです。それに付け加えられる物はもう……美味しい料理位しかありません」

「……お主、変わったな。初めて会った時は何かに怯え、非常に弱弱しかったというのに今ははっきりとした自信を感じる」

「今のトーク様とラスティルさんがおこなおうとしている戦いが、余りにはっきりと絶望的なものですから……。マシに出来るのが私だけであろうという自信はあります。根拠は話せませんが」

 私が言い終ると、ラスティルさんは黙って考え始めた。
 緊張からだろう。非常に喉が渇く。
 この返答次第では、ラスティルさんが敵となってしまうと考えると緊張を和らげるのが難しい……。

「……分かった。明日ダンがカルマ殿へ命令するようになったなら、拙者の槍を捧げよう。一介の下級官吏が伯爵へ命令するようになる等在り得ない話だ。お主が其処までの人物なら先が見たい。この状況で一官吏が勝ち目を作るというのなら、その方策も非常に気になる」

「……そう、ですか。有難うございます。私が人物というよりは、状況が偶々そうなったというのが正しいのですけども、少しはマシに出来る自信はあります」

 実のところ獣人と隣接する辺境を選んだのは、こういった状況を推測してだ。
 だから偶然とは言えない。教える意味が無いから話さないけども。

「何より下級官吏の俸禄でそれ程溜め込むような吝嗇(けち)なのに、全てを拙者につぎ込むというその心意気が気に入った。考えようによっては富んでいる領主の十倍の額よりも価値があろう」

「そう考えられるのは、ラスティルさんが優しいからですよ……。それと私はケチなのではありません。貧乏性なだけです」

「ふはっははっ。その違い拙者には分からぬぞ。さて、賭けはなった。是非面白い結果にして貰いたいなダン。それで、結局リディア殿とアイラ殿はお主の配下なのか? 非常に気になるぞ」

「冷静に考えて下さい。二人が私の配下になったら奇妙極まりないと思いませんか?」

「おお、焦らしおる。秘密主義なのは相変わらずか。せめてその二人の協力が無ければお前はドの外れた身の程知らずとなろうに」

「勿論その可能性も在ります。全ては明日明らかになるでしょう。ラスティルさん、今日は最後まで耳を傾けて下さり感謝します。夜道どうかお気をつけてお帰り下さい」

 これで準備は全て終わった。
 上手く行けばラスティルさんも配下になる、か。
 しかし上手く行くかは……微妙だな。
 カルマが客観的に物事を見る人物なら高確率で行ける。しかし、以前送られて来た文は感情的だった。
 私に命令される立場になるなんて、常識に無い屈辱を感じるの間違いあるまい。
 だが、人智は尽くした。

 ……。
 さっきは明らかに喋り過ぎだったな。
 自分を完全に抑えるのは不可能だった、か。

 あの時、こちらへ来て目を覚ました時、ラスティルさんに助けて貰えなかったらどうなっていた?
 これ程までに上手く行っていないだろうし、高い確率で死んでいたはずだ。

 だが……明日駄目だった場合には……。
 殺さなければならない。
 彼女は私が最も奇妙だった時を知っている。
 此処で生き残れば、高確率で真田の所へ行くだろう。
 それは許容できない。

 これから起こる負け戦、その混乱に乗じて殺す。
 ラスティルさんが敗戦を生き延びた場合、一人で逃げ延びた場合は草原族から追手を、近隣領主に捕まっているのなら、オウランさんから引き渡しを要求して貰って……。
 オウランさんがそんな協力をしてくれるか、ラスティルさんの生死に関与可能な状態になるかは不透明だが……。
 駄目ならば私の消息を消すか。
 そうすれば最悪の状態にはなるまい。

 勝手に恩に思い助けようとし、駄目なら喋り過ぎたから殺す、ね。
 我ながらクソ野郎だ。

 しかし真田、あいつに繋がっているのでは選択肢が無い。
 どんな思想かはまだ分からない。
 しかしリバーシを売るような奴だヤバ過ぎる。

 イルヘルミもビビアナもどれ程の英雄だろうが人間だ。限界がある。
 しかし真田の限界が何処かはとても計れん。何だって出来てしまうかもしれない。
 少なくとも、私と同程度は可能だろう。

 明日カルマが拒否して、ラスティルさんを臣下に出来なかった場合は……敗戦となり殆どの人が死ぬはずだ。
 万が一の在りそうな人間は……リディアとアイラか。
 付いて来てくれるのならば良いが、そうでない場合……。
 しかし、リディアはともかくとしてアイラは……どうしようもないぞ。
 オウランさん達だって彼女の強さは知っている。刃を向けたくないだろう。
 恨みを買う位なら、放置するべきか。
 ……獣人として生きようと決意してくれれば……やはり難しい。

 ……はぁ、やはり穴が幾つもある。
 私の限界だな。

 どうしようもなくなれば……東アジアから逃げてしまえばいい。
 そう考えていれば何が起こっても冷静でいられってもんだ。
ロト太郎様より再び支援絵を頂戴しました。
イルヘルミ・ローエンの絵です。
挿絵(By みてみん)
私が肉食系女子として作中で書いていたのに応え、このように書いて下さりました。
お高い攻め系という感じでしょう。
マジ高そうなんですけどこの人……。
目が赤いのも合わさり夜の王という感じがして、私は嬉しくございます。
右側のラフ画も毎度宜しく思います。
流し目で余裕に満ちた表情が似合うように描いて下さっていますね。
所でこのイルヘルミ、アームカバーを付けていますが……やはり手の保護は義務なんですかね?

ロト太郎様のピクシブurlはこちらになります。 http://www.pixiv.net/member.php?id=12051806
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