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カルマがランドに赴いた影響16
カルマに鍵を送って四日後、返事が届いた。恐らくはこれ以上無い速さだ。
リディアがアイラの家に来てくれて、三人で読む。
その内容は……。
『レスターに帰る決意をした。既にランドを去る準備を進めており、終わり次第病気療養として帰るつもりである。グレースに考えられる限りの手を打たせているが、他にも献策があれば直ぐに送って来るように』
なるほど。
……まーじかー。
リディアは真っ当な判断力があれば帰って来るみたいに言ってたが、私は低確率だとおもったのだけど……。
もしかしてリディアみたいに、ケントを保護すると予測したように思われたか?
……ま、大丈夫だろう。確実にそうだという文面では無い。
して、リディア先生の反応は……。
なんか大きく息を吐いておられます。
珍しい雰囲気になってる……気がしないでもない?
「さもありなん。幾ら硬い意思を持っていようと、あのような物を読まされては……恐ろしい方だ」
ちょっとちょっと。私の独創みたいに言うのはやめてーな。
「お待ちくださいバルカさん。箱の紙に書いた内容の九割は貴方が教えて下さった内容です。恐ろしいとすれば私ではなく貴方ですよ」
「その残り一割の追加が問題なのです。それに私ならばあのように不透明な将来を、下級官吏の立場で主君に書いて渡そうとは考えられません。思いつくのと実行するのには天地の違いが御座いましょう」
そらそーだし、私の予測が知識によって補強されてたからこそってのはあるさ。
しかし私だからこそみたいな結論は困るぞね。
「それは貴方が立場も名もある貴族だからそう感じるのです。庶人である私ならば、例え外れても心配のし過ぎでした申し訳ありません。と謝って終わりですよ。実現しなければ今みたいに行動しなかったのですから。
付け加えると弱い私は乱れた世の中で生きて行くために、どうしてもアイラ様に守って頂きたかった。しかし私に出来るのはトーク様達の万が一に備えて誠意を尽くす事だけ。こうして無ければアイラ様はトーク様と一緒に戦う為ランドへ行ってしまったかもしれませんし。私の立場になって考えて頂ければ大した話ではありませんよ」
勿論本当は違う。
最低限はアイラがオウランさんを助けてくれる事だ。
それ以外はおまけと言っても良い。
カルマを助けた上に、彼女達へ指示する立場になろうなんて分が悪すぎるギャンブルだからな。
とは言え、護衛としてアイラが欲しいのも嘘じゃない。
比喩抜きに一人で百人を相手に出来そうな人による護衛は非常に欲しい。
彼女と同居し危険な場所へ行く際に守って貰えれば、ヤクザに絡まれた。なんて不慮の危険を含むあらゆる危険が遠ざかる。
しかし、カルマ達ももしかしてリディアみたいに私が大した物だと思ってるのか。
それだと困るな。
言い訳を今の内に考えておくとしよう。
「……ダン」
む。アイラも読み終わったか。
おお……凄く久しぶりに心から嬉しそうだ。
尻尾も直立しておられる。
有り難たや。
「これでアイラ達は助かるよね?」
あ、すみません。
そんなに単純じゃないと思われます。
「バルカさん、如何思われます? 私とアイラ様に今後の予想を教えて頂けませんか?」
「さて……此れほどの事を成した方へ教える事があるかどうか……」
……えっ。
「あ、あの、バルカさん。何かご機嫌を損ねたのなら謝ります」
「純粋に疑問なのです。私の考えは一助にもなるのかと」
おいおいおい。
「バルカさん、何度も言っているじゃないですか。貴方の予測があったからこそです。私一人ではトーク様を帰らせられなかった。……単に私を助けるのが嫌になってしまったのなら、当然だとも思いますがそうでないのなら助けて頂けませんか?」
「……そう仰られてはまるで私が駄々を捏ねたようですな。いや、実際捏ねたのか。ふむ……意外な自分の発見をしてしまった。これは失礼。驚きのあまり我を見失ってしまったようです。お許しを我が君、アイラ殿」
「い、いえ……駄々を……捏ねてたんですか。それは気付かずすみませんでした。と、とにかく今後についてお考えを教えて下さい」
謝るのも違う気がするけど、他にどう答えたら良いのだ?
私としてはダダを捏ねるってどう言う物だったかを、誰かに教えて欲しい気持ちです。
突然見捨てられたかと思ったぞね……。
「承知致しました。今後ですが、ダンの協力がカルマ達の態度次第であるのを忘れておられますぞアイラ殿。私が聞いた策は確かに素晴らしい。しかし可能な人材が居るとすれば我が君だけと言って間違いない代物。後はカルマが誇りを捨てられる人間かどうかでしょう」
「私だって確実だと思ってません。ただあれ以外に方法が思いつかないだけです。まぁ、トーク様達は死んでいた筈だとも言えますし、拒否されたらさっさと逃げましょう」
「ダン……酷いよ。もう少し頑張ってくれないかな?」
「そう言われましても。トーク様達がご自分で今の状況を選び、詰んでいたのはアイラ様も同意されますでしょう? 私が出来るのは可能性を作りそちらへ行くようにお勧めするのが限界。元がどうしようも無かったのに、責任を持てと言われてもお断り致します」
「それは、そうだけど……」
「以前も申し上げましたが、トーク様達が決定権を持っていたら滅ぶと私は確信しています。私、というかバルカさんの感情を廃した現実的な判断で行動しなければ、生き残れないような時代が来ていますから。だから私は決定権を得られない限り彼女に協力しないのです」
これだけ言って尚カルマ達の元へ行くのなら、最初から親しくするべき人間では無かったというこったな。
その場合は私の生殺与奪がカルマの物になってしまうけど、草原族の協力を得るのに必要であると主張する私を、カルマ達も殺しはしないと思う。
オウランさん達に助けてもらい、その後は見捨てておけば勝手に滅んでくれるだろうて。
「さてバルカさん、トーク様達がこちらの声を聞かなければどうします? 私はさっさと逃げます。アイラ様が一緒に来て下さるのなら、アイラ様の好きな所に行こうかなーと。私一人ならまぁ、適当に」
「私も付いて行くと申し上げたはずですが……。どうもダンは結果が出ない限り絶対に信用なさらない性質のようで。それは主君としては褒められませぬぞ」
「立派な主君となって死ぬよりも、臆病な庶人として生きて行くのが目標でして。今後私が勇敢に行動しようとして大事な人が死んだら申し訳ないですし。そうならない為には慎重さこそが大事だと思っています。ただ、この性格が理由でバルカさんやアイラ様に嫌われると困りますね……我慢出来ませんか?」
「む。その大事な人とやらに私と我が家が入っているのなら、我慢してもよろしい」
「僕は気にならない。……それより、リディアは本当にダンの臣下なの? 良く分からなくなってきた」
「おや。ダンは間違いなく我が主君です。色々とアレな方ではありますが」
アレで真に申し訳ありません。
どのアレか心当たりが多すぎて分からない程です。
最善の方法を常に取ってるつもりなんですけどね。
「そう。リディアが仲間で本当に良かった。ダンは偶に頼りないし……」
「あの、やっぱり私の臣下となったのはご不満でしょうか」
「そうでもないけど……。所でどうしてずっと敬語なんだい? ダンは主君なんだろ? 変だよ」
「敬語じゃない方がアイラ様の好みに合いますか?」
こっくりと頷いていらっしゃる。
しかし、ワンパンで私を殺せる人にタメ口とはこれいかに。
鬼サイボーグだってハゲに敬語を使ってるじゃないか。
彼は賢い。格上にタメ口を使うのは不幸の元だ。
「出来るだけ……親しくさせてもらうようにします。しかし、敬語を抜くのは難しいかなーと。えーと……アイラさんと呼んでも宜しいでしょうか?」
「アイラだけが普通じゃないかな……」
「いやぁ、それ身の程知らずって感じしません?」
「ダンは……変だね。仕方ないから諦めるよ。でも、何時でも変えてくれて良いから」
「すみません。アイラさんと自分を対等に扱っていると、自分が偉いと勘違いしそうで怖いんです」
「……ダンの臆病さは凄いね。頼りないような、安心できるような……」
二人が私の配下なんて奇妙極まりないのは事実だしなぁ。
それを忘れた呼び方は、その内良くない結果を産む気がするんだよね。
私の性格からいって杞憂という気もするが、それでもなぁ。
それにタメ口を使ってると二人に油断しそうだ。
ま、その内二人とも慣れるやろ。
「ダン、私の時と対応が違うように感じますが」
「アイラさんはバルカさんよりだいぶ気安い人なので、ある程度は失礼をしても許して下さるかなーと」
「つまり、私は近寄りがたい人間であると。不思議極まりない事によく言われますな。考え続けて未だに分からない謎です」
不思議も何も……世界中の誰よりも近寄りがたいまであるよ貴方。
多分、良い人だし、面白い人でもあるし、人間としては好きなのだけど……。
怖いんだもん。
「何と言いますか……バルカさんが私の臣下という事に、まだ大変な違和感がありまして。すみません」
「なるほど。慣れない馬のようです」
馬はすっごく臆病らしいね。
そこは共通してると思う。
でも、馬は本当に応用が効かない頭の悪さがあると聞く。
そこは違うと主張したい。
勿論口に出したりはしない。
目の前の鬼才に言わせれば、四捨五入すれば一緒そうだ。
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