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カルマがランドに赴いた影響14
アイラが承諾してくれたのならば、話を実行方法に進められる。
今後を考えて少しでも有利になるように動いて行きたい。
「バルカ様、アイラ様が臣下となってくれました。後は実際にどう解決するかです。オレステとウバルドが攻めて来るかもしれないのなら、少しでも有利な状態にしたいと思います。何か案はありませんか?」
「まずは何時帰って来るか悟らせない事でしょう。奴等は今模様を眺めているはず。カルマ達が帰って来るとは考えておりますまい。察知するのが遅れれば遅れる程攻めて来るのが遅くなり準備もできる。それに加えて、こちらも突然の事で準備が出来ないと思わせられれば尚よい」
「すみません、具体的には……どうしたものでしょうか」
「帰る理由のでっち上げ方です。急病故に役目が果たせなくなったとしてもらいましょう。これならば急に帰ってもおかしくはない。それにカルマが病気となればこちらが混乱していると甘くみてくれるかもしれない」
ははー。悪知恵働くっすね。
「ああ、それは良いですね。とは言え全ては彼女達が受け入れて帰って来てくれるのなら、ですが」
「勿論その通り。私から帰るようにという文を、以前カルマから送られて来た文の返信として送るとします。望まれて出した物ですから、ダンが突然言うよりは受け入れやすく感じられるはず」
「あの返信出して無かったんですか」
「一朝一夕で策が思いつくとは限りますまい。直ぐに思いつく適当な内容の返書をしたためた後、追加の考えが浮かび次第送るとしました。
そして返答を待った後にダンが持つ鍵を渡した方が良い。そうした方が冷静に帰る場合と帰らない場合の差を考えられる」
その適当な内容って、当てにならない内容って意味だよね?
だって貴方何をしても絶望的って言ってたし……。
人の事は言えないが、全く罪悪感を感じてなさそうだ……やっぱり怖いやっちゃで。
いや、出来もしない要求に応えられなくて罪悪感を感じてたら、ちょっと付いていけませんがね。
しかし、こいつやっぱり心理戦得意そうだなぁ。
私が心を探られる対象になるのは勘弁してほしいけど、こういう時は非常に頼もしい。
「これで良いでしょうかアイラ様。トーク様達へ私達の指示に従うよう言うのは彼女達がレスターへ返って来てからにします。その方が受け入れやすいでしょうから。
その時には荒事が予想されます。私とバルカ様の命と自由をアイラ様に守って頂きたい」
「うん。分かってる。それに敵が攻めて来るのなら争ってる時間も無い。全部予想してきたダンに従うべきだと僕も思う……カルマ達が納得するかは分からないけど」
ケイ人なら主に献策して何とかするべきだ、って言うんだけどね。
やはりアイラは思考が違うな。
だが正しい。
カルマ達が拒否するなら私は何としてでも逃げるつもりなのだ。
彼女達は現在弱みだらけ、何とでも出来る。
まぁ、感情的になって即首を落とされればどうしようもないけども。
だが……その公算は低いと思う。
少なくとも命と健康だけはアイラが助けてくれるはずだ。
それが駄目な場合も考えておくけどね。
後はカルマ達の返信を待とう。
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カルマに文を送ってからわずか五日後、早馬で返事が来たと言ってリディアから家に呼ばれた。
こんなに早いとなると、読み次第送り返してきたのかな?
グレースに相談はしたのだろうか?
さて、まずは内容確認ざんすね。
『ワシが求めてるのは逃げ帰る方法では無い。大宰相としての状態を良くする策だ。よってこの考えは受け入れる事は出来ない。
我等トーク家は長年辺境の者であると中央から蔑まれて来た。だが戦い続け遂に類まれな幸運によりケイ帝国の大宰相とまでなれたのだ。此処までのトーク家の苦労、命を賭して仕えて来てくれた者達の献身を無駄になど出来ない。
それに加え、現在のケイ帝国の状況の酷さは想像以上だ。何とかしなければ戦乱は益々酷くなるだろう。ワシの領土に居る民たちの為にも最もケイ全土に影響を及ぼせる地位を放り出す訳には行かない。
リディア・バルカ殿、現状は先日送った通り変わっていない。ランドの民は今の所我々をある程度支持してくれているのだけが救いという程度。そなたが頼りなのだ。どうか我々を支え、知恵を絞って欲しい。この難局を乗り越えた暁には必ずや厚く報いる』
……ぬーん。
一つ一つはそらそーだろねって内容なのだが……。
視野めっちゃ狭く無いっスかね?
大体もうケイ帝国終わってるし、何とかしようがないっしょ。
諸侯の誰かを罰する力が無いじゃないか。
一応王領の人口は未だに多いから、兵を集めようと思えばかなり集まると思われる。しかし……。
それでもビビアナ・ウェリア個人にさえ兵数で勝てるかどうか。
これでは影響を及ぼせるとは言えまい。
その状況を何とか出来ると考えているっぽいのは若さなのか?
私も後十年ちょい若い時は、何でも何とかなると思ってた気はするが。
まぁ、だからと言って私が彼女よりも領主として立派等と言う気は無いけど。
何と言ってもそういう苦労をしていない一般人だからな……彼女の状態が分かってない可能性もある。
して……リディアの反応はどうかな?
「我が君、貴方の考えと大いに違う意見を述べて、不興を買うのが恐ろしいので先にご意見をお伺いしたい」
お、おま……。
私も貴方を怖がってるの分かってて言ってますよねそれ。
何時もの如く淡々と述べておられるそのご様子で、何処に恐怖があるのか。
……このリディア様こそ若さの盛りであるはず。
なのにどんな時でも、私より老成してるように感じるのはどういう事ずら。
二十年は人生経験が違うはずなのに。
「バルカさん……私も貴方の不興を買うのが恐ろしいのですが。あ、いや、すみません。分かりました。では申し上げます。
感じた事実をそのまま言えば視野狭窄。情報不足。現実を見ていない夢想家。理論上最大の困難を配下に背負わせかねない系統の方。そんな所です。ただトーク家の過去を私は知りませんし、仕方のない部分があるかもしれません。ああ、バルカさんに頼っているのは立派だと思います。トーク様の配下で何とか出来る可能性が最もありそうなのはバルカさんですから」
私がそう言うと、リディアは私に対して軽く頭を下げた。
……やっぱりこいつに頭を下げられると不安になるぞ。
「余りに酷く仰るので愕然と致しました。事実だけを見れば全く同意見。しかし、現実としてはやはり酷と言うべきでしょうな。辺境と中央の軋轢は中々の物がある。本人であればこう思っても当然。ただ……追い詰められてカルマも意固地になっている様子。これを帰らせるのは本来ならば骨だったはずですが、あの紙の内容ならば恐らくはカルマの意地を折りましょう。では、これをアイラに見せてそれから箱の鍵を送って帰参を促すという事で?」
「はい。その前に一つ心配があります。私の……まぁ、謀反をカルマが感じている可能性はありますか? アイラ様や他の配下が密かに書状をカルマへ送ったりした。などによってこちらの考えが知られており、私を捕らえようとしている雰囲気はありませんか?」
「いいえ。今の所全く。うむ。アイラを完全に信用していなかったのには安心致しました。しかし無用な心配でしょう。アイラが個人的に早馬を走らせるのは難しい。現在そういった諸々は私が管理しております。まずは安心なされませ。ただしカルマが帰って来た後は止めようがありませぬぞ」
そらそーだな。
何をどうしようが、アイラがカルマに会って話がしたいと思えば止めようがない。
そして説得されて状況がひっくり返るのは何時だってあり得る。
ま、最終的には命乞いか。
五体満足ならば追放されても問題は無いのだ。
私の話が広まらないように努力しなければならないが……追放した下級官吏の話なんて広がり難いだろう。
それにこの状態でカルマがオウランさんの機嫌を損ねれば確実に詰むのは間違いない。
ならば何とかなるはずだ。
しかし……アイラの天下無双っぷりに頭痛が痛いし腹痛がすとまっくえいく。
こういう個人で何とでもなりそうな細かい状況だと、一人で全てを覆せてしまう上に行動を決定させるのが不可能と来た。
Mr武将道かあの人は。
私を追い詰めた時に『ならば斬る価値も無し!』と言ってくれたりは……しないだろうな。
……いかん。妄想と現実を一緒にしてどーすんだ。
将軍二人相手に勝ててしまうのだから、一対一で毎日決まった人数しか襲い掛かって来ないとすれば、一人で人類を皆殺しに出来てしまいそう……言ってて頭がおかしくなりそうだぜ。
筋肉の隆起で背中に何か浮かぶんじゃなかろうな。
戦場の働きなんて何かが間違ってるし。
ジョルグさんから聞いたけど、なんで三万vs三万の戦いで敵の大将を一時間で殺せるんですかねぇ……。
「アイラ様には良く注意するとします。では、私はこれからこっそり帰ります。バルカさんも夕食を取った後、アイラ様の家へ来て下さい」
「承知致しました」
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