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戦乱の帝国と、我が謀略~史上最強の国が出来るまで~ 作者:温泉文庫
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カルマがランドに赴いた影響12

 リディアと話した次の日の夜。
 私の目の前には、夕食を食べたばかりで御満悦なアイラが居る。
 今日は今からの話を少しでも機嫌よく聞いて貰おうと、好物を取り揃えてみた。
 では話すとしよう。
 これまでアイラにも現状が分かり易いようにしてきたつもりだが、どうなるか。

「アイラ様真面目な話があります。よろしいでしょうか?」

「うん……僕も話がある。前ダンはカルマがザンザを超えるかもしれないと言ってたよね? 本当にそうなった。そして、カルマが諸侯全てに憎まれたらどうするか、って。あの話の続きを聞かせて欲しいんだ」

 そうか、アイラも気になっていたか。
 話が早くて結構。

「話を始める前に覚えていて欲しい事があります。私はトーク様達に何一つ悪影響を及ぼしていません。これからする話も、彼女達に利益の方が多い話です。大体嫌でしたらアイラ様は何時でも断れるのです。この点、よろしいでしょうか?」

「うん。分かってるし分かった。だから早く話の続きを聞かせて欲しい」

 ならば良い。頼むから忘れないでくれよ。

「まずは情報の追加を。トーク様の悪評がビビアナ・ウェリアの領地で既に広まりつつあるそうです。他の諸侯も同じような話を広めようとしてるらしく、ケイ全土にトーク様の悪評が広がると私は予想しております」

「……。本当に?」

「はい。自分が正義として、諸侯全てと共にトーク様を攻めたいのでしょう。このままならば全ては彼女の考え通りになる可能性が高い。アイラ様もう一度訊ねます。貴方はトーク様を助けたいと思いますか? 
 此処に居て、本当にそうなった時はどのような命令を受けようが無視するか逃げる。それが最も安定してご自身の命を守る方法だと思います」

「……ダン、分かってるのかもしれないけど、僕を受け入れてくれる所が何処にある? 一人で生きて行くのならそれで良いかもしれない。でも、僕が誰かと暮らしたかったら此処以外に見つけるのはとても難しい。ケイ帝国は獣人が嫌いだし、獣人達は僕の白い毛が嫌いだ。オウラン達だって戦士としての僕は褒めてくれたけど、一緒に住みたいとは思わないんじゃないかな……だから、僕は僕自身の為にもカルマを助けたい。少なくとも本当にどうしようもなくなるまでは」

 確かに。彼女は何処に行こうが孤立しやすいと私も思う。
 彼女程に違う人間はまず居ない。
 哀れだが、仕方のない話か。
 ……私が仕方ないなんて言うのはふざけた事だな。
 それが分かっている上で彼女を利用しようとしてるのだから。

「そうですか……。分かりました。では、私が考えるにトーク様が帰って来るのなら状況は幾らか良くなるでしょう。アイラ様のお陰で背後の草原族に恩を売れましたから。しかし、帰って来ても尚難しい状況だと思われます。だが、私なら幾らか勝ち目を作れる」

「ダン……それで、僕に何をしろと言うの?」

「トーク様の配下を辞め、私の配下となって下さい。私はトーク様が私の話を聞く限りは助けましょう。露骨に言えば、彼女にはある程度私に従ってもらいます。そうしなければ彼女が生き残るのは難しい。まぁ、私は大した人間ではありませんが……リディア・バルカ様も助けて下さるそうです。
 しかし私に従えと言えば、トーク様は謀反だと思い私の命を狙って当然。アイラ様が私の臣下となり、守って下さらなければここで暮らしていけませんので」

「僕に……カルマを裏切れと言うのか……」

 怒るかと思ったが、呆然としている。
 しかし、裏切りはちょっと違うな。
 私がしようとしてるのは手助けだ。
 何故なら、カルマはもう死んでいる。
 まず間違いなくこの世に助けられる人間は私しかいない。

「一応言っておきますと、トーク様が私の言う通り帰って来た後、私の提案を拒否した場合にアイラ様の力で強制しようとは考えていません。トーク様が拒否すれば私は逃げるだけです。
 その場合はアイラ様も一緒に来られるのをお勧めしますよ? 万に一つ彼女がその時の危機を乗り越えられても、その後必ず滅ぶでしょうから。この予想、今までの予想と同じ程度には自信があります」

 なんせビビアナ・ウェリアが恨んでいる。
 彼女には勝てん。
 だが、何とか思いついた手が一つある。
 使えるかはリディアに確認しなければならないが……。
 少しはマシになるだろう。

 私が居なくても、そのリディアが本当に助けようと思えば目があるのかもしれないけど……。
 リディアはどう見てもカルマに興味が無い。
 私が居るからこそ彼女はカルマを助けるのだ。
 自分で何言ってるのか分からないくらい、未だに訳が分からない話だなこれ。

 等と私が考える間もアイラは黙って悩んでいる。
 どう答えるかな?
 やはり謀反には協力できないと言って、剣に訴えられたら非常に困る。
 そうならないよう、最初に私がカルマへ益しか与えないという話をした。
 忘れないで欲しい所だ。
 一応外に草原族の人も居るが、意味は薄かろう。
 ……すぐ立って逃げられるようにしておくか。

「……そんな、噂が流れているのは嘘かもしれない。カルマは酷い噂が立つような事をしないと思う。僕は信じない」

 ……斬りかかっては来なかったか。助かった。
 しかし苦しいなアイラ。自分で自分の言葉を信じ切れてない表情じゃないか。
 そう思いたいのだろうけども……。

「お疑いはごもっとも。ただ一つ言っておきますとトーク様のランドでの苦労はアイラ様の想像を超えていると思われます。悪評が立つような手段を取らざるを得ないと、トーク様が考え始めてもおかしくない。
 疑いを晴らす為にはアイラ様ご自身の耳で評判を聞いて頂ければ良いのですが……このレスターの街まで噂が広がる頃には手遅れとなりかねない状態でして……。
 ここはビビアナ領地の近くまで行って来ては如何ですか。其処で話されているトーク様の話を聞いてくると良いでしょう。但し馬を何頭も連れて出来るだけ急いでください。詳しい事は、バルカ様に相談して頂きます」

「……本当にあのリディアがダンに協力するの?」

「正直不思議なのですが。信じられないでしょうしバルカ様に直接聞いて下さい」

「ううん。分かる気がする。……ダンは……怖い人だったんだね。僕を本当によく知っている。そして、絶対に他に行動が取れないようになってから話をするなんて……」

 うん? なんか誤解されてる気がする。

「そんな事はありませんよ。確かに私はアイラ様をよく知ろうとしました。そして、お互いが最大の利益を得ると考えたから行動してもいます。ですが、絶対に他の行動が取れないなんて欠片も思ってません。増してや怖い人だなんて。私は何処にでもいる庶人。ただ、アイラ様やトーク様の状況にはとても有効な人間だったというだけです」

「何処にでも居る庶人……僕にはとてもそう思えない。いや、今は良い。分かった。リディアに聞いて噂を聞いてくる。返答はその後で良いんだろ?」

「はい。ご納得頂いてからでないと私も困りますから」

 話はこれで終了だ。
 後はアイラの返答を待つしかない。
 私にリディアやアイラに対して強制力を働かせるのは不可能だからな。
 個人の力だけで全てを覆されてしまう。

 だから、私は彼女達に利益を与える。
 私の提案に沿って動いた方が、彼女達の望みが叶えられるように。
 しかし……アイラはともかく、リディアは本当にどうしたものか……。
 彼女の望みも、考えも、何も分からない。
 ……とりあえずは慎重に、そして敬意を持って当たるのみ、か。

 一方カルマにとって私が重要人物なのは自信がある。
 只でさえ厳しい状況なのに、草原族だってカルマが弱ってくれば通常であれば村々を襲い始めるだろう。
 そうなれば少しずつ出血して死ぬしかない。

 それを止められるだけでも私には万金の価値がある。
 勿論オウランさん達が聞く耳を持たない可能性もあるが……恐らくは大丈夫だろう。
 彼女達とカルマが共存する方法もある。
 そして、カルマの後背を安定させ、始まった戦乱の世を可能な限り生き延びさせてやろう。

 私が望むのは安全なケイでの住処と、情報の入手手段のみ。
 その程度は何とでもなるはずだ。

 ま、駄目なら逃げるだけなのだ。
 私が気を付けなければならないのは、カルマ達が激昂して首を狙ってくることだけ。
 故に全てはアイラ次第。
 アイラが突然裏切れば……一応手は考えてある。
 ……裏切るという表現はおかしいか。彼女は元からカルマ達の配下、いや友人だ。
 他に考えられるのは私に黙って話された内容をカルマへ報せるとかか?
 カルマの動きに違和感があれば逃げた方がいいかもしれんな。
 とにかくやれる事をやるだけ。
 どう頑張っても人の行いである以上、穴があるに決まってるっしょ。
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