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カルマがランドに赴いた影響9
私の行動に対して呆れてしまったのなら、謝らなければ。
リディアが利益を得られるようにしても良いし。
無いとは思うが、この話を聞いてカルマの方へ行かれては大変だからな。
「バルカ様に頂いた予測を自分の利益の為に使ってしまった事、お怒りならば謝罪するしか御座いません。何でしたら今から全てをバルカ様が指示して、ご自分の利益を確保されませんか?
まだアイラ様にもカルマにも途中までしか話しておりませんし、何とでも修正が効くでしょう。ただ、その際は出来ましたら私をバルカ様の配下として頂き、此処での暮らしにおけるの保障を頂けれないでしょうか」
別に言った通りになってもかまわない。
私が得られる情報は今よりは増えるだろう。
最低ラインとしては、倉庫係である現状のままで良いのだからな。
その際にはリディアが主犯となり、私の名は消え去る。
ある意味更に都合が良い。
いや……待てよ? ……後でゆっくり考えよう。して、リディア。お前はどうしたい?
「勘違いしておられます。呆れたというのは罵ってるのではなく、驚倒したという意味。よくもまぁ、そのように動かれていて『逃げるべきか』などと言えたもの」
「怒らないのですか?」
「何故? あの予想は貴方がどれ程面白く使うのかと期待したからこそ、当時の私が持つ全ての力を使って考えたのです。そして結果は予想以上。第一貴方様は鵜呑みになどされて無いはずだ。ご自分で調べ、知恵を絞って予測し、その上で判断されたのは分かり切っている。
先程のような仰り方をなさったのは……私の信頼が足らないのでしょうな。それは今後作って参りましょう。
今日は良き日だ。主君を探し続けていたこの身が、想像以上の主君を得られた」
「……本当に以前仰った通り私を主君にすると? しかし、この計画は結局の所カルマが私を認めなければ通りません。アイラ様がどれ程私の期待通り動いてくれたとしても、強制するのは不可能ですよ?」
「その場合はあっさりと逃げるのでしょう? そして貴方の手を取らなかったカルマとその配下達は悪評に塗れて死ぬ。逃げる際には同行させて頂きましょう。どうか臣下をお忘れなく」
そうだ。私の予想が外れても、身の程知らずの下級官吏が一人出来上がるだけ。
そして、当たった場合は私の手を取らなければカルマを始め皆死ぬ可能性が高い。
アイラもな。そうなれば私の行いは全て消える。
だからこそ、私は自分が有能だと思われる危険を冒した。
逃げる時には名前を変える。
カルマに奇妙な助言をした人間が私だと、誰かに気付かれる可能性は極小だろう。
しかし……殆どリディアに理解されてしまっていたようだ。
白の切り方が今一だったかもしれない。
あの程度で勘違いしてくれたかも、なんて甘えてたか。
今後、彼女が配下となるのなら毎日が鍛錬だな。
……それは有り難い。
「分かりました。其処まで仰るのならどうか私を助けて下さいバルカ様。ただし逃げる場合には貴方様が主君です。それと元より貴方の指示を強く考慮する予定ですが、何時でも主君に値しないと思えば言ってください。食べていくのに必要な最低限の物以外は全てお譲りしますので」
「……私が持つ信頼の低さに眩暈を感じそうですぞ。もしや何か危害を加えるとお思いか?」
幾ら生涯初めての経験とは言え、これは余り嬉しくない。と続けておられます。
せやかてリディア、こんな時代に自分の上司がドの付くアホだと思ったら殺したくなりそうじゃない? 自殺に巻き込まれたら堪らんっしょ?
決断力のある貴方なら、何かで決心をすれば黙ってあっさりと私の寝首を掻きそうなんですもの。
「信頼云々ではなく、無能な主君を持った配下のありふれた感情に配慮しただけです。どう考えてもバルカ様は私を過大評価しておいでだ。その期待に応え続けるのは不可能ですから、何時か付いていけないと思うはずですよ?」
「……忘れないようには致しましょう」
「それともう一つ。バルカ様が私に危害を加えようとしない限り、私が貴方へ害意を持ったりはしません。ですから勘違いで殺す前に釈明の機会を与えて下さい。まぁ、その前に貴方から害意を持たれれば私は逃げるのを最優先に考えますけど」
「……有り難いと言えば有り難いお言葉ですな」
欲を言えば、もう一つ念を押したい……。
私を殺したらどうなるかを。
……いや、余計な情報を与えるのは愚か者だな。
「改めて聞きますが……今でも私の配下になりたいと仰るのですか?」
「はい。臆病な程に慎重なのもこれからは美点。是が非にでも。以前言った通り私とバルカ家の存続を気にかけるとお約束くださいますれば」
「分かりました。……約束しましょう」
「但し、私が不都合な行動を取らなければ、ですな?」
「……バルカ様がそうなのでしょう?」
「さて、申し上げかねます」
「ですよね……。グダグダと言ってしまいましたが、承知致しました。今後バルカ様を私の臣下……協力して下さる方と考え、何に付けても相談させて頂こうと思います。貴方程の方が助けてくださるとは望外の幸運。有難うございますバルカ様」
「そのお言葉、祝着至極。今、大きな安堵を感じております。このリディア・バルカ、如何なる難題も果たして見せましょう。どうかご信頼頂きたく」
そう言ってリディアは膝を付き、臣下の礼を取ろうと……って冗談じゃない!
「お待ちください! バルカ様、そのような恰好はお止め下さい。以前も申し上げました。貴方様が私に膝を付き不快な思いをして誰が益を得るでしょうか。出来ましたら頭を下げるのもやめて頂きたい程ですのに」
「私は貴方に膝を付いて屈辱など感じませぬ」
「もう一つ言えば、私の為にやめてください。自分が貴方を跪かせるに値する人物だ。なんて勘違いをしては私の破滅が近くなります」
「其処まで仰るのならば……本当に徹底した方だ。とはいえ、その敬語はお止め頂きたい。貴方は私の主君なのだから」
「あ、それは嫌です。自分より有能な人間に平易な言葉遣いは害しかありませんから」
おっと、脊髄で答えてしまった。
だが変更は無い。
大体だな、外で貴方相手に庶民である私がタメ口を使ったら目立つでしょ? 日頃が大事なのよ。
「はぁ……流石と言うべきか、何というべきか。しかしバルカ様はお止めを。少しは誠意を見せて頂きたい」
えー。低く扱わないという誠意をこれ以上無い程見せてると思うのに。
大体様をやめろゆーてもなぁ。
「教えて頂く相手ですから……ここはバルカ先生では如何でしょう」
「先生は貴方だ。変更を」
「……私は先生とはとても言えたものではないでしょうに……では、バルカさんと呼ばせて頂いても?」
あ、これだな。
配下を『さん』付けは思いついてみれば縁起が良い。
とても有能な良い上司に思える。どれだけ部下と実力差があっても敬語を忘れない感じの。
そう、三回変身出来るあのお方のように。
私の場合は上司の方が弱いけども。
「……仕方のない方だ。分かりました。とりあえずはそれで納得致します」
一応許してくれたか。
しかし、これでリディアが配下ねぇ……。
あっ
「あの、バルカさん程の方が協力して下さるのならば、当然身を伏して感謝するべきでした。忘れておりましたが、今から致します」
前置きしてやるのは間抜け。
しかし、やらないのは馬鹿である。
どんな場面でも鹿を鹿だと言っちゃう位頭が悪い。谷底に落とされた挙句埋め立てられて当然だ。
ので、私は知ってる最上の礼儀に沿って跪いて感謝を示した。
「ダン、バルカ様に御協力を頂ける事、心より感謝申し上げます」
「……。ダン、それは帝王と庶民程に立場が違う場合の礼だと把握しておいでか?」
「はぁ、まぁ一応。バルカさん程の方が臣下になって下さるのなら当然ではありませんか?」
「……とりあえず、誰が相手であろうとも二度となさらない方がよろしい。常識を疑われます。しかし……思ったより律儀な方だったのですね」
「はい……守れる礼儀は守りたかったので……すみません」
ぬぅ……ドラマだったら互いに感動の涙を流すような場面なのに。
限りなく微妙な反応だった。
……よし。話を流そう。
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