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戦乱の帝国と、我が謀略~史上最強の国が出来るまで~ 作者:温泉文庫
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カルマがランドに赴いた影響8

 アイラは出発してから十五日後の夜中、こっそりと帰って来た。
 報告によれば戦勝の将軍だというのに、隠れるようにして帰って来てもらうのを申し訳なく思ったが、本人は何とも思って無さそうだ。
 むしろ機嫌が良いように見える……何故?

「ダン、ただいま」

「お帰りなさいませアイラ様。怪我などはされませんでしたか?」

「してないよ。後ろのはオウランから貰ったお土産。僕は服を作ろうかと思ってるしダンもそうしたら?」

 と言って、連れている馬三頭に山と積まれた布を指している。
 ……いやこれって……。

「これは全てオウラン様からアイラ様の働きに対するお礼の品では?」

「そうだね。でも、僕一人で使い切れる訳無いだろ?」

 ……今までカルマにも布で褒美を貰ってるはずだけど、どうしてたのだろうか。
 もしや私が知ったらブチ切れるような使い方をしていたのでは……。

「アイラ様、使いきれないなら食料にでも何にでも交換できますよ? オウラン様も交換しやすいように布を渡されたと思いますが」

 そして、私の言葉を聞いたアイラは驚いた様子を見せた。
 ……この人、本当に教えてくれる人が居なかったんだなぁ。
 ホロリと来る。
 フィオの奴、現代人みたいに無難な付き合いしやがって……。

「そんな方法があるんだ……。ダンは色々と賢いね」

 ……誰でも知ってる知識ですよ、と言うべきか言わざるべきか。
 普通は親からのお使いとかを頼まれて知る物だが、この人の場合は……。
 日本でも居た。他人の家で風呂の入り方を知らなくて恥をかいた奴が。
 あの時も教えるべきか悩んだな……。

「殆どの人が知ってる範囲の知識ですよ。あの、今までトーク様から布で褒美を渡されたりはしませんでした?」

「大体お金で貰ってたし。じゃあこれ、明日交換してくるよ」

 うん。それがいいね。
 ……いや待て。
 初心者に交換させたら凄まじいレートで交換しかねない。
 しかも、この微妙にボケた天下無双の方だ。
 天下無双の酷い交換をしかねん。

「交換の流儀をご存じないでしょうし、今回は私がしてきましょうか? 私のお願いでお掛けした迷惑でお疲れでしょう。その内余裕が出来ましたら同行して頂く形でアイラ様にも知って頂いた方が良いとは思いますけども。欲しい物を言ってくださったら、出来るだけ得になるように致します。あ、ちゃんと交換の記録も提出しますよ」

「え、してくれるの? だったら嬉しい。記録は渡されても面倒だし要らない。……それに、迷惑じゃ無かった、かな。あんなに獣人から褒められた事は無かったから。嬉しかったし、美味しかった。又行きたいくらい」

「あ、そう……ですか。それなら良かった。さて、お疲れでしょう。もうお休みください。アイラ様、今回はお願いを聞いて下さり有難うございました」

 最後に軽く笑顔でうなずいてくれた後、彼女は部屋に入っていった。
 ……えーと、あ、ジョルグ師範。何があったんですか? え、相手の長を一時間で射抜いて一人で勝ちを決めた? その後の宴では人の十倍お食べになって、皆驚き喜んだ、と。
 帰りも美味しい物を食べられるように、羊を引き連れてそれを食べながら来た、ですか。
 なるほど……オウランさんとジョルグさんは本当に気を使えるお方。
 感謝いたします。

 ……ぬぅ、戦いで糧を得る武将としては、美味しいバイトみたいな物に感じたのだろうか。
 まさか喜んでもらえるとは……。
 私へ悪感情を持ってもおかしくないと思っていたのだけどなぁ……。



---


 カルマが大宰相となってから二か月が経った日の夜、リディアが私を呼んだ。

「ダン、カルマの行動方針が大よそ分かりました。直ぐにでもお話しして良いのですが……そろそろ、どのようなおつもりか教えて頂きたい。状況も余裕が少なくなってきております」

 確かに私もそろそろ話すべきかとは思っていた。
 私の方から言うべきだったな。
 アイラを草原族の援軍として向かわせれば、それで私が大よそ満足であるのを知られたくない。と、いう気持ちに釣られて引き伸ばし過ぎた。

「分かりましたバルカ様。長らくお待たせしてしまい誠に申し訳ございません。何時話したものか私も悩んでしまい、機を逃しておりました。何が望みか、今どう動いているかをお話しします。時間が掛かっても宜しいでしょうか?」

「はい。お待ちしておりました。例え一晩掛かっても良い。お聞かせください」

 いや、そんなには掛からないよ。
 淡々とした口調でも熱意が伝わって来て怖いわ……。
 本当に想定外の高評価をされてしまっている。
 何処で間違ったのかね……。

「現在の目的はカルマを領主として生かし、その上で彼女が私の意思にある程度拘束される状況を作る事です。
 しかしそのような身の程知らず、暴力で強制されるでしょう。なので、私はその時にはアイラ様に守って頂こうと考えております。彼女への報酬はカルマが絶体絶命の時に私が渡す勝機。これはアイラ様の勝機にも繋がります。彼女はカルマの為に戦うつもりですから。
 一介の下級官吏である私に無い信頼を作る為、バルカ様より頂いた予想をコルノの乱が発生する前に小出しにしてトーク姉妹とアイラ様に教えました。
 又カルマにはランドに行く事で発生する未来予想を紙に書いた物を、鍵の付いた箱に入れて渡してあります。現在の所おおよそ書いてある通りになっていますね。最初の目的はもっと控えめだったのですが、カルマの状態が悪くなったので彼女から絞る事にしました」

 リディアは私の言葉を聞いて溜息を吐いた。
 そして頭を一振りする。
 ……これだけの動作を見せられただけで緊張している私が居る。こいつ、何なんだ。

「まず……その勝機とやらをお聞かせ願えますでしょうか?」

「カルマにその紙を読ませて私の策への信頼を持たせて、トーク領へ帰らせる事です。それと、私はカルマよりも僅かですが、草原族からの信頼を得ています。恐らく、ですがある程度の援軍を頼める程には。当然カルマが出す報酬次第ですし、それを裏切れば敵になってしまうでしょうが……。このままバルカ様の予想通りになれば、孤立無援となるであろうカルマにとって万金を積んでも得られない援軍となるのではないかと。
 ……何時になるかは分かりませんが、乱世となれば戦いが発生するでしょう? その時にこの話を出せば草原族と交渉できる私の意見を彼女達は見過ごせないと思うのです」

「……呆れた方だ」

 む、呆れてくれたか? リディアの予測に頼り過ぎているように感じたのかな?
 そう感じるように話したつもりではある。
 実際はリディアの予想に加えて私が集めた情報で補完し、私の予測でも同じ回答が出たからこそなのだが。
 まぁ、それでも大いに頼りにしたのは間違いない。
 これだけ他人のフンドシで動けば呆れて当然と思う。
 となれば、平謝りしてご要望を聞きますかね。
 重要なのは誰が利益を得るかじゃ無くて、結果なので幾らでも修正は効くのだ。
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