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カルマがランドに赴いた影響3
「私が、バルカ様の主君になると? それに先日言ったのは協力者であって、配下では……本気ですか?」
よりはっきりといえば、正気かと言いたい。
いや、こいつが正気を失う時は無いだろうけども……。
何を勘違いしてこんな事を考えてる?
「協力者と表現しても宜しいが、私は貴方の決定に従いましょう。本気かとのお尋ねは不本意で御座います。流石に冗談で臣下の礼を取ろうとは考えませぬ」
「何故そのような判断をされたかさっぱり分かりません。私はあの時と変わらず下級官吏です」
「理由ならば、貴方はこのケイ帝国で滅多に居ない、私よりもはっきりと上の力を持つ人だからです。それに貴方なら私を大切にしてくださるでしょう?
確かに今後も下級官吏のままならば、今までと変わらず求められた時にお助けするだけでも良い。しかし、何かお考えを持っておられるのでは?」
上の力だと? どんな勘違いだ。
……勘違いに決まっている。私がどれだけ危険な知識を持っているかは知りようがない。
つーか、動いてるの薄々気付かれてたのね……。
アイラ様と一緒に住んでる事から推察されのか?
詳しくは把握されてないはずだけど……草原族の人から監視されてるような雰囲気は無いと聞いてるし。
しかし困った。どうするべきだ……。
自分が勘違いしていると気付いて、失望される時が来るのを考えなければならない。
それに相談し続ければ、不味い情報のオンパレードになりかねん……。
しかし真田の奴は二人も軍師を持っている訳で。
私も考えに現実味があるか考え、実行してくれる人は欲しい。
……強い誘惑を感じる。
まずは分からない部分をはっきり言ってもらって、考えるのはそれからにしよう。
「バルカ様は全てにおいて私より優れている。と、先程言ったばかりですよ? 何か勘違いをなさっておられませんか?」
「これは私の認識。ダン様には関係がありません。お気にせずとも結構」
「あの、様って……えーと、私の配下になって何の得がバルカ様にあるのでしょうか」
「ダン様が私に危害を加えず、私の命とバルカ家を気遣うと約束して頂ければ十分です」
「それは私がお願いするべき内容だと思うのですが……確かに、幾らか考えはあります。しかし私には、ケイを助ける余裕は欠片もありません。貴方様がケイに対する忠誠心をお持ちでも、配慮出来かねます」
「私が其処まで愚かと思われているのなら心外ですな。ケイはもう終わっております。今回の事件で完全に終わり、後は多くの人々を巻き込みながら崩れ落ちるだけ。そのような物を助けようと考える人間は、こちらからお断り申し上げる」
「……私の配下になると、多くの方が望むように名を遺すのは難しいとご理解頂けています? バルカ様のお望みは何なのですか?」
「まずは……生き残る事。これから戦乱の時代が来る。私も確実に生き残る自信はない。それで、生き残れそうな人の下に就こうと考えたのです。その人が私に嫉妬せず、必要として下されば尚良い」
「貴方様程の方ならば独立して良いように動いた方が確実に思えますが」
「必要となればしますが、気は乗りませんな。それに申し上げたはずです。ダン様は私よりも上だと。ならば独立は良手とは言えない」
確かに上と言えなくも無い。
だがそれは私が有能だからでは絶対にないし、真田ならあるいは……もっと高い所にいるかもしれない。
向こうには孔明と鳳統だと真田が見込む軍師が居るのだから。
……クソが、地盤築き過ぎだろうが。
文化の違いなどによるズレを修正してくれる軍師が居て、私と同程度の知識があるとすればどれ程飛躍出来るのか。
正直リディアの協力は欲しい。
全ての分野において有能で、こちらの常識を知っていて、とてつもなく用心深い性格の人だ。
どれだけ私という凡人の穴を埋めてくれる事か。
だが配下という程親しくなれば、私について多くを知るようになる。
そして私が誰とも違う基準を使って、将来を考えているのを知られれば……周りの人間性に期待するしか無くなりかねない。
血で血を洗う内乱中に人間性を期待するなんて、馬鹿を通り越してる。
絶対にお断りなのだが……。
……なんやかんや言いながら、受け入れる気になっているな。
出来るのは……気休め程度に保険を掛ける位か。
いや、その前にこれからの結果次第では、リディアの付いてくる気が失せるかもしれない。
「……もう少ししたら、私がしようとしてる内容をお話ししましょう。それを聞いてから配下になるかどうかを考えて下さい」
「この場で臣下の礼を取ります故、今その内容を教えて頂く訳には参りませぬか?」
それは困る。
せめてアイラ様が手助けしてくれるまでは、リディアに内容を話す気は無い。
「まだ不透明ですから……お許しくださいバルカ様」
「……本当に信用がない。私をお嫌いではないようなのに奇妙な。……分かりました。その時をお待ちしておりますダン様」
……まさか外でも様付けは……しないよね。
さて、考えがあるとは話してしまったわけだ。
となれば聞いてみたい事もある。
「ご理解頂き有難うございます。所で出来ましたら、何時頃トーク様が出世されるか予想を教えて頂けませんか?」
「ほぉ。配下になるのを断っておいて、即お尋ねとは。中々意地が悪い。これで答えなければ私に誠意無し、となりましょう」
「あっ。いや、そういうつもりはありません。教えて頂けなくても当然だと思っています。バルカ様にも立場がありますし……」
「単なる予想で立場も何も御座いますまい。冗談です。未来の我が君」
……。
我が、君。
この彫刻像に言わせたのが私だと考えるだけで背筋が寒くなる。
「面白い顔をなさります。ま、これ以上焦らして不興を買っても仕方がない。私の予測だと二週間後には宰相となった報告が届きましょう。カルマも断りはしないはず」
二週間! 其処まで早いのか。
これはオウランさんに伝えないとまずい。
「教えて下さり有難うございます。では今夜はこれで失礼致します。お忙しい中でしょうけども、どうか体を大切にしてくださいバルカ様」
「ええ。ダンが考えを教えてくれる日をお待ちしております」
ダンと呼んでくれて凄まじくホッとしている。
良かった……。
「こういった時には素直な方だ。呼び捨てにされて安堵したと顔にかかれております。其処まで嫌がる理由は無いでしょうに」
「……分かってるのなら、止めて頂けません?」
「主君でも無い方の要望は聞きかねます」
「……そうっすか。時間を取って下さり有難うございましたバルカ様」
「いいえ。夜道には気を付けて」
「はい」
私はゆっくりとバルカの家を後にした。
そして出た後も普通の歩調を保ち、人通りの少ないところへ行ってから笛を吹き草原族を呼ぶ。
来てくれた男性にオウランさんへの文を託して、やっと人心地が付いた。
後はカルマが大きく出世した報告が届くまで待つのみ。
その時、アイラ様が私の考えに価値ありと判断してくれるかどうかだ。
リディアの予想が当たれば二週間程、か。
落ち着かない毎日になるな、これは。
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