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戦乱の帝国と、我が謀略~史上最強の国が出来るまで~ 作者:温泉文庫
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アイラに保険を買ってもらう

 突然訪れた私をアイラ様は直ぐに迎えてくれた。
 頬にご飯粒を付けて。

「どうしたのダン?」

 私が飯粒の位置を指で指した瞬間、手が電光石火の速度で動き、次の瞬間には飯粒が消えていた。
 頬が赤くなってる。
 ……なんか悪い事したかもしんない。

「……ごはん食べてる時に来る方が悪いと思うんだ」

 あ、うん。
 ごめんなさい。

「仰る通りで……急いでたものですみません。お食事が終わるまで中で待たせて頂いても宜しいでしょうか?」

「うん。……急いで食べるから。待ってて」

 結局三十分は待った。
 特に不満は無い。何を話すかもう一度考える時間が欲しかったし。
 しかし私が待ってる部屋に来たアイラ様は、凄く申し訳なさそうな雰囲気を出していた。

「ごめん……お腹が減ってて……つい」

 うむうむ。客が待っている。でもご飯美味しくて食べるのやめられないんだけどwwww。
 というやつだな。アイラ様だし何も問題ありませんよ。

「あ、いや、気にして頂く事はありません。座って待っていてください。お茶をいれます」

 ……緊張して来たな。
 ここ三年程の努力が実を結ぶか、これから分かるのだ。
 こういう理由で緊張しちゃう所が私の足りない所だ。
 なるようにしかならんというのに。
 軽く深呼吸して……。

「アイラ様、今日届いたザンザからの指示はご存じですか?」

「うん。知ってる」

「良かった。話が早くなります。さて、以前お話ししたザンザがトーク様を呼ぶかもしれないという話は……覚えて下さっています?」

 ……意気揚々と来たけど、よく考えたら一年近く前の話をこの人が覚えてるかとても微妙じゃね?
 あの時かなり眠そうだったし……。
 なるほど、これが机上演習だけ上手な人間の失敗か。
 自分で自分を煽りたくなってきたぜちくせぅ。

「覚えてるよ。ダン凄いね。カルマとグレースも分かって無かったと思う」

 お、おおお……。

 あれね、昔好きな小説に書いてあったのさ。
 偉い人の考える軍団は神の軍団だって。
 誰も怖がって逃げ出したりしない、補給は必ず届き、誰も病気に掛からず、命令を忘れたりしないって。
 今の私そんな感じだった。
 だが、アイラ様は神、いや天使だった。
 かわいいからね。
 お陰で考えていた話を進められる。

「奇妙に思えるだろう質問をさせて下さいアイラ様。もしも、トーク様がランドに行き、諸侯全てに憎まれ、攻められたらどうなされますか?」

「戦う。カルマとグレースを守る為に」

 ぬ、判断が早い。

「大変不利な戦いでも、ですか? 勝ち目が殆ど無いとしても?」

「……? うん。だって僕はその為に居る。それに戦ってみないと分からないでしょ」

 全く迷いが無い。
 これは、どうしたもんかな。
 戦いでアイラ様に意見を言っても説得力が無いのは分かっていたけど……。

「其処までの覚悟とは思っていませんでした。実は、今言った通りになる可能性を感じていまして。しかし対処する為にはアイラ様の協力が必要な上に、これからの話を聞いて私の助けが必要だとお考えになった場合代金として、私個人の為に一度働いて頂きたいのです」

「……協力は良いけど、僕がダンの為に働くのは変だ。ダンはカルマの配下。代金はカルマから貰うべきだよ」

 あ、この人混じりっ気無しにそう思ってる。
 ……これから言う事で、相当評価が下がるかもしれないな。

「トーク様は私の欲しい物を持ってません。ですから面倒な上に命の危険を掛けてまで助ける気は無い。危険になれば私は逃げれば良いのですから。
 けど、アイラ様は欲しい物を持っています。貴方様がもしもの場合逃げるのならば不必要ですが、戦うとなれば勝ち目を増やせるかもしれない。今日はこの話を、アイラ様にもしもの場合の保険を私から買って頂きたいと思って来ました」

「……ダンの予想が外れたら働かないよ。それでもいい?」

 ……ん?
 なんか、いきなり話が飛んでね?

「えっと、買って貰えるんですか? まだ、どんな心配か話してませんが……。他にもトーク様への忠義は無いのか、とか、逃げるのか卑怯者、と言わないんですか?」

「買う。ダンの予測は凄く当たるから。忠義というのは僕には分からない。……群れの長が弱いと思えば逃げるのは普通だと思うし。僕はカルマが好きだから戦うけど」

 これが獣人の思考なのか? いや、アイラ様の思考という感じもする。
 ケイ帝国では異質だろうな……少なくとも建前上は忠義を大事にするのが一般的だろう。
 私としては爽快だけど。
 だってこれは、純粋な好意で命を掛けると言ってるのだ。
 カルマが羨ましい。

「そう、ですか。では、買って下さい。ああ、何時でもやっぱり買わないと言って下さっても大丈夫ですよ。大体アイラ様に無理やり支払わせたり私には出来ませんし」

「……ダンは失礼だね。僕は約束を守る」

「え、あ、すみません。そういうつもりじゃなかったのですが……。お許しください」

 本気かこの子。
 個人契約なんぞ、力でどうとでもなるってのに……。
 なんか、あの時フィオがこちらに敵意を向けたのを褒めたくなってきた。
 そら張り付いて変な虫が付かないようにしたくなるわ。

「本題に入る前にお願いがあります。私がこれからする話を別の人にしないでください。アイラ様だけにした話を他の人も知っていた場合、私は助力しません」

 口止めに実質的な力は無いが、意思を伝えて置くだけでも違う。
 『ごめん。話しても良いと思ってた』ってのもあり得るしな。

「今までも、話してないよ?」

 うっ。

 これは、クル。
 私の今後を想えば、この程度で良心の呵責だなんて臍が茶を沸かすけど、クル。
 ……落ち着け、そんな情けない感傷を持てるような余裕は無いはずだぞ。

 ……何とか、冷静さが戻って来たか?
 よし、続きだ。続きを話せ。
 突然黙ったものだから、アイラ様もいぶかしんでるじゃないか。

「そうでしたか、有難うございます。では、私が持つ今後の予想の一つをお話しします。
 トーク様は自身も予想外の大出世をするかもしれません。今のザンザさえ超えて、ケイ帝国第一の立場となるまでに。ただ、其処からが問題でして。どう問題となるかは、実際にトーク様が出世なさってからお話ししましょう。その時に、代価を払って保険を継続するか、取りやめるかをアイラ様がお決めください」

「其処で止められると気になるなあ。続きは話してくれないの?」

「それは駄目です。続きを話して、全てをトーク様に話されては困ります。不吉な事を言う奴だと罰せられかねませんから」

「意地悪。僕話したりしないのに……。うん? ……ダン、カルマに危ないかもって言って無いの?」

「ランドが難しい所だとは話しました。それ以上はしてません」

「カルマを助けようと思ったら、カルマがダンの話を聞かないと難しいと思う。せめて、ダンが何か予測しているのは話した方がいいんじゃない?」

 あ、向こうから言ってくれた。
 そうなんだよね。出来ればカルマも助けたいのだが、その為にはカルマがこっちの言う通りに動いてくれないと厳しい。
 しかし、それは難しい。だからアイラ様に一働きして貰えればそれで満足するべきかと、最初のカルマを助ける計画から考え直していたのだが……。

「そうですね。ただ、私がトーク様の不吉な未来を言えば、事によるとトーク様の怒りを買いかねません。或いは、何か情報を持っていれば吐かせようとなさってもおかしくない。世の動きから考えた予測なので、トーク様が知らない情報など持たないのですが……。アイラ様、私の安全と自由をトーク様達から守って下さいますか?」

「守る。だから話して」

 はえーなおい。

「トーク様の意思に反するような行動を取れば、お怒りになると思いますよ? 加えてトーク様へ身の程知らずにも忠告するとなれば、安心して暮らせるようこの家に住まわせて頂きたいのです。それでも話せと仰いますか?」

「……カルマは無理やり聞きだそうとしたりしないと思うけど。でも、グレースはするかもしれないね……そうなったら守る。ただ予想が外れたら謝らないと駄目だからね。
 一緒に住むのは構わないよ。ごはん、作ってくれるならだけど」

「勿論謝りますし、家事もしますけど……あっさりですね……。いえ、分かりました。ではザンザから来た使者の告げた内容が公にされた日の夜に、カルマ様の所へ連れて行って貰えますか?」

 こっくり頷くアイラ様。
 この可愛い人が、今言った言葉をあっさり翻すとは思えないけど、もしもそうなれば限りなく詰みに近い五分。
 こんな言葉が浮かぶとは、やるじゃないか私。この場面で余裕がある。

 一応もしもの時の事は考えてある。しかし、どれだけ効果があるか分からないのだ。
 だが、この計画が成功すれば真田の情報を格段に得やすくなる。
 踏ん張り時だな。

 欠点としては、成功した場合私が出来る奴だと認識されてしまいかねないってのがある。
 私は出来る人間とは言えないし、計画にも良い影響はない以上遠慮したいが……。
 仕方あるまい……何とかトーク姉妹と数人だけしか知らない程度には出来る筈だ。我慢しよう。
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