55/146
フォウティとマリオの同盟1
フォウティ・ニイテは悩んでいた。
コルノの乱における成果は自身の想像以上となり、満足の行く物だったと言える。
アキア州の子爵として任命され、戦乱の気配がする中地盤を作れたのだから当然だ。
しかし自分の名声が想定を超えた力を発揮し、集まって来た兵の数が多くなりすぎてしまった。
その為、兵達に与える食料と俸給が厳しい状態となっている。
と言っても、せっかく集まってくれた兵を減らしたくはない。
その為にはより大きな領地を手に入れたい。
だが、自分が隣り合ってる領地はアキア州の残り殆どを治めているマリオ・ウェリア侯爵の所と、オラリオ・ケイ伯爵が治めるカメノ州である。
共に地力が違い過ぎて、独力で手に入れるのは不可能。
しかし早くより大きな領地を手に入れなければ、やがて兵を飢えさせてしまう。
コルノの乱が終わってからこの悩みは堂々巡りし、フォウティを苦しませていた。
そんなある日、マリオからの使者がやって来てこう言った。
「フォウティ・ニイテ様、我が主君マリオ・ウェリアが宴を開きたいと仰せです。お忙しい中でしょうが、是非ご参加ください」
少し考えた後、フォウティは快諾する。
まずはマリオの考えを知りたい。
現状俺はマリオにとって、自分の領地で力を付けつつある邪魔者だ。
暗殺される恐れも無くはない……。
しかし、やつの領地を欲しがっているのはまだ誰にも話していない。
其処までの動きはしてこないであろう。
それに暗殺を目論んでいたとしても、自分と白虹の剣でマリオを斬り殺せばよい。
それも出来そうもない雰囲気ならば、引き返すだけよ。
相打ちでも、俺としては問題無い。
そうなれば、娘と配下の者達はマリオ配下の者達が混乱してる隙を突いて、侯爵領をかなり切り取れるだろう。
大体、俺のような者は危険を冒さねば正史に名を遺せないのだ。
しかしマリオの所へ赴いてみれば、盛大な歓待を受けた上にマリオのすぐ近くまで案内された。
拍子抜けだ。
しかし、それなら有り難く名家秘蔵の美味い酒を飲ませてもらおう。
あっさり切り替えたフォウティは宴を楽しむ事にする。
そんなフォウティにマリオの軍師であるシウンが話しかけた。
「フォウティ様、本日は提案があってお呼びしましたの。それもお互いにとって益となる話ですわ」
「俺は思わせぶりなのは好かん。話があるのならさっさと話せ」
「おい、フォウティ。シウンの話は余の話だ。言葉遣いには気を付けろ」
……おのれマリオめ……。
相変わらず癪に障る奴。
こいつの豊富な富を連想させる豊かな銀髪、戦場で槍を振るう気は無いと主張しているように思えてならない無造作に伸ばされた髪型、其処らの女より整った顔、全てが気に食わんのだ。
……待て、違うこいつの言葉は当然だ。
俺とマリオにはそれだけの差がある。大体、建前として俺は配下だからな。
……チッ。俺としたことが、少々入れ込んでいたか。
「これは失礼をマリオ様、シウン殿も許してほしい。酒を飲み過ぎたようだ」
「いえいえ。お気になさらず。それじゃあ、話の続きをしてもよろしいですか?」
ふん、マリオもこれ以上事を荒立てる気は無さそうだ。
酒は誠に有り難い。
楽しませてくれるだけでなく、罪まで被ってくれる。
しかし、このシウンという女は相変わらず何を考えているか分からぬ。
常に微笑をたたえた顔、目まで隠された黒い髪。
わざとか? わざとなのだろうな。
これだから軍師と言う人種は好かんのだ。
「是非伺いたい」
不快感とは別に、この言葉はフォウティとしても心からであった。
元々マリオの考えを知る為に来たのだ。
情報は多い程良かった。
「話は、カメノ州を一緒に取らないかって話なんです」
! これは渡りに船としか言えんな。
だが、まだだ。表情に出してはならん。
こいつらが単純に俺を手助けするものかよ。
「それは良いとして、一緒にとはどういう意味でだ? 我々だけに血を流せ等とは言うまいな?」
戦自体はフォウティにとって名声を得られる場所であり、むしろ邪魔をされたくない位だった。
しかし、兵と兵糧が足らない。
それをマリオに解決させる必要があった。
「そうですわね。こっちは広い領内を落ち着かせるのに忙しくて、将軍を出せませんの。それで兵と兵糧の提供によって協力させて貰おうかな~と。取り分としてはこちらが六割でしょうか」
この言葉を聞いたフォウティは、立ち上がるのを抑える為に全身の力を使った。
最高の提案だ!
確かにまだコルノ党の影響が領内に残っているとは聞いていた。
領土が広い故の苦労と言えよう。
だからと言って、これ程俺にとって都合の良い話になるとは!
フォウティは酒が注がれた杯を必死になってゆっくりと傾け飲みながら、考えを巡らす。
最も、シウンから見れば動揺しているのが明らかだったのだが。
「……成る程、そういった事情ならば軍としては出しにくかろうな。しかし、将軍が誰も危険を犯さずに六割とは欲深が過ぎよう。命を掛ける俺達が七割で、そちらが三割だ」
「あらあら、欲が深いのはどちらかしら。それですと、カメノ州七郡全部を取れたならば今フォウティ様が持ってる郡はこちらに頂けませんと。飛び地になりそうですしよろしいでしょう?
四郡を取るまでは分け方を半分ずつにして、その後三郡を取れればそちらの物。但し、近い方の領地をこちらに貰いますわ」
通った!
グゥっ、まだだ。
まだ顔に出してはならぬ。
これはあくまで俺がこいつらに恩を施してやった取引。
俺が喜ぶ謂れは無いのだぞ。
だが……流石に俺にとって都合が良すぎる。
……奴らも俺に恩を着せようとしているのか?
今後を考えて、同盟関係を持ちたいといった所か。
良かろう。
俺としては、最終的に一族の者が故郷である江東を支配出来ればよい。
その為にはマリオの領地を超えなければならぬ……。
こいつらが余計な欲をかかなければ、同盟を結んでやっても良いか。
大体、兵と兵糧さえあればこの天下で俺に戦で勝てる者は居ない。
どんな策であろうが、斬り裂いてみせよう。
このフォウティの自信はほぼ事実ではあった。
確かに、この時点で彼と正面から戦って勝てる人間はケイ帝国に存在しなかったのだ。
「良かろう。金と食料のみで三郡を渡すとは。俺もつくづく人の好い男だ」
「どちらがだ。余自身でカメノ州を取っても良いのだがな。しかし、世は大いに乱れてきておる。となれば、やがては信頼出来る同盟関係こそが身の守りとなるだろう。そうシウンから言われてはな。
お前を試すにしても、これ程良い条件で試すなど余には考え付きもせなんだ。余とシウンの期待に応えて貰いたい物だなフォウティ」
「……御意。兵と兵糧を頂ければ、必ずや三郡を献上して見せましょう」
マリオ、今はお前に良い思いをさせてやろう。
だが、カメノ州四郡を手に入れれば次は西のムティナ州だ。
あそこに居る領主どもは皆愚鈍、俺の相手にはならん。
何よりあそこはアーク・ケイ様がケイ国を建国する力を養った要害の地。
あそこを手に入れ、玄関口であるカメノ州を持っていれば世の動き次第では俺が天下を取る可能性だって……。
……ふん。流石に先走り過ぎか。
しかし、間違ってはいない。
ムティナ州を手に入れれば、マリオ・ウェリアだろうが対等以上。
何にせよ俺は天の時を得た。
それをカメノを手に入れて天下に証明して見せよう。
こうしてマリオ・ウェリアとフォウティ・ニイテの間に盟約が成される。
そして二日後にはマリオからの兵糧と兵がフォウティの元に届き始め、一週間と経たずにフォウティはカメノ州へ侵攻を開始した。
○マリオ・ウェリア 以下私見に塗れた紹介。正しさは保証せず。
袁術が元。
小説家になろうの作品で頻繁によくでてくる無能貴族。
傲慢で、情報を集めておらず、自分の尺度だけで主人公を測り、最後にはザマァ見ろ展開で読者をスカッとさせる為に存在するアレ。
みたいに千年程えがかれ続けてる人。
袁紹と同じ袁家の産まれで、袁紹よりも良い血筋。多分、三国志関連作品で出て来るネームドキャラでは一番高貴なお坊ちゃん。この人以上も居るが、帝以外はモブ扱いばかりなような。
単なる駄目貴族ではなく、実際はかなり謀略の出来る男だった模様。
国中の英雄を上手く操り、一時期は最強勢力にまでなった。
が、お坊ちゃん過ぎて贅沢が当然だった上に、お金と食料は自然に沸いて出ると考えてたという疑惑がある。
そういった世間知らずな感じの失態を繰り返し、殆ど自爆の形で滅亡して死亡した模様。
ここでは孫堅的キャラと袁術的キャラの仲は不穏だが、史実では良かったように思われる。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。