53/146
カルマとザンザの出会い3
ザンザと合同での戦いが終わり、簡単な宴があった次の朝、私はグレースに呼び出しを受けた。
直ぐに向かうと、その場に居たのはトーク姉妹だけ。
そして昨日どんな会話がザンザとの間であったか、どういう思惑だと感じたかを教えてくれた。
こいつはグレートにヘビーですよぉ……。
下手したらトーク家終わったじゃん。
完璧にリディアのお墨付き地獄行きコースを、命は要らねぇとばかりに限界アクセル踏み込んでるじゃん。
バッドラックとトゥゲザーしたらダンスっちまうぜこれ。
「で、貴方はザンザのこの動き、予想していたのよね? 今後についても何か献策はあるのかしら?」
さてさて、どうするかね。
何をどう考えても、ポッと出の田舎領主が都会の権謀術数を上手くこなせるとは思えない。
……一応義理は果たすか。
こいつらが死ななくても、大勢は多分変わらんからな。
ただ、その前に様子見のジャブを一発。
「まず何を申し上げようとも、私を許すとお約束頂けますでしょうか?」
膝をつき、頭を下げたまま言ってみる。
して、どう反応しますかね?
「お前、自らの主君を前にして何のつもり? あたしとカルマ様が信用出来ないって言うの?」
あ、やっぱだめっすか。
幸運を祈るよグレース。お前は良い奴だった。
「いえ、そうではないのですが、自分の考えに自信を持てませんでしたので……失礼致しました」
「……貴方」「待てグレース」
おう、姉ちゃんが何か?
「確か、そなたの名はダンだったな? ダン、その約束はワシがしよう。そなたが何を言っても罰を与えたりはせぬ。ほら、グレースも約束しなさい」
「……分かりましたカルマ様。約束いたします。ダン、これで良いかしら?」
おやまぁ、流石は領主といった所だね。
私の態度に何か出ていただろうか?
十万人を支配する人間相手に何も気取られない訳は無いか。
ま、悪くは無いが……ちょい控えめにしておこう。
「ははー! お気遣い誠に有難く。では、一つ懸念を申し上げます。王都における政治闘争と利益関係は複雑怪奇と聞いているのですが、お二人はそういった王都の情勢には明るいのでしょうか?」
「……痛い所を突くわね。確かにあたし達は王都について不案内よ。そうね、十官は敵対するから駄目だとして、お前がバルカ家を紹介しなさい。あの家が味方をしてくれれば大分違うわ」
は!?
ありえねーよ。
無理だよ。
お断りですよ。
大体どうお願いしても協力してくれるとは思えんね。
「グレース様は何か誤解しておられます。バルカ家の方とは二年以上会っていません。それに一人の下僕がどうお願いしたところで、聞いて頂けると何故お思いなのでしょうか? お茶の件で私を過大評価されたのかもしれませんが、あれは以前申し上げた通り全てオウラン様のお力によるものです」
「貴方、本当に使えないわね……」
いやいやいやいやいや。
使えないも何も、Youが無茶なJobをキラーなパスしてるだけですからー。
むしろその発言ガチなら、チミの評価は彼氏が出来たアイドルも目じゃないダウンバーストよ?
「ご期待に応えられないのは残念ですが……倉庫の務めが私の限界でございます」
「残念だわ。これじゃザンザ頼りになってしまいかねない……」
やれやれ、驚いたぜ。
で、結局ランドに行くのかグレース。
そうだな、それが当然の判断なのだろう。
私も何度欲望に釣られて追いかけた挙句、待ち伏せ食らって死んだことか。
ゲームでだけど。
同じ出来事がお前の場合人生に起こるかもしれんな。
確かに大将軍であるザンザに逆らえないのは分かる。
ただあのザンザって奴は、何時死んでもおかしくないのではなかろうか。
成り上がりなのに現在最高位付近に居て、そして更なる権力を望んでいる。
毒殺が常識までありそうな大帝国のトップを争うには、庶民の出では多くの物が足りてないだろう。
しかもこの帝国崩壊寸前だし。
そのザンザの生存を前提に考えている二人は、余りに危ういと思うんだよなぁ。
私が死ぬと思い込み過ぎだという話もあるが……。
「仕方がない。これ以上は下級官吏の聞く話では無い。下がりなさい」
「はっ。失礼致します」
さてさてさてさて。
どうなるだろうね。
ザンザは死なずに済むのか?
そして、トーク姉妹に待ち受ける運命は?
他人事だから純粋に面白い。
リディアの予想通り行き、私の考える通りなってしまったら……。
助けるべきか、助けざるべきか、それが問題だ。
……む、リテイク。
生かすべきか、死なすべきか。それが問題だ。
うむ。まっちべたー。
***
うやうやしく頭を下げたまま下がっていくダンを見ていると、少しだが不安を感じる。
これで良かったのか……。
二人っきりになって、グレースは益々不満そうだ。
最大の不安を下級官吏から指摘された上に、解決策が見つからないのでは当然よの……。
「なぁグレース。もう少し問い詰めるべきだったのではないか?」
「……何か隠してるとは思う。でも、所詮下級官吏の考え。しかもあたしよりも若い若造の。それ程気にしなくてもいいでしょう。バルカ家の人間から何か聞いていたとしても、無理やり聞きだしたらバルカ家が怒るだろうし……」
「そうだな。ただ、その若い下級官吏の予測は恐ろしいまでに当たっているではないか。これからどうするべきか助言を求めるべきだったかもしれぬ」
それに、どうもあの男からは若さを感じられない。
とても落ち着いているからだろうか?
単に臆病と言えなくもないのだが……。
「話すつもりは無いように見えたけどね……第一あたしには大した人材とは思えないの。オウランだってあいつを特別大事にしてる感じはしないもの。それよりも姉さん、ランドでは暗殺に気を付ける必要があるわ。嫌だろうけどずっと鎧を着ててね。あたしもそうする」
「確かにな……。すまぬグレース。今更どうしようもない話をしてしまった。ランドではお互いに気を付けるとしよう」
だが、ワシを見た時の目が忘れられぬ。
やつはあの時哀れんでいるように見えた。
現状の我等の未来は明るい、そう言って良い筈なのにだ。
下級官吏を気にするなんて愚かだと分かってはいる。
それでも、気になる……。
グレースは頭が良いし有能だが、人を見る目に欠けるところがある……。
その分は補わなければならぬ。
確かに、大した人物ではない。
一応調べた仕事ぶりでも際立った物は無かった。
されど、何か気になる……。
……これからいよいよ人生の一大事だというのに、下らない事を気にし過ぎだろうか。
とにかくランドでは油断しないようにしなければ。
ザンザもこちらを利用しようとしてるだけ、場合によっては突然見捨てられかねん。
しかしそれを加味しても、ザンザに付くのが最善手なのは間違いない。
彼の側近となれば、大きな力が手に入るはず。
ザンザの前ではああ言ったが、兵も民も力が無ければ守れぬのだ。
こんな不穏な世の中では、何よりも力。
それをランドに行き手に入れねばな。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。