時代の正体〈404〉24条の危機(4)守るべき理由
- 神奈川新聞|
- 公開:2016/10/07 15:39 更新:2016/10/08 22:04
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ベクトルが逆
【24条キャンペーン実行委員会委員 弁護士 打越さく良さん】改憲したい人たちの中には家族の解体が24条のせいだという見解があるが、逆だ。一人一人が平等であるとか、個人に尊厳があるということが根付いていない、24条が全く徹底されいないのだと、声を大にして言いたい。
自民党改憲草案の24条をすらっと読むと、「家族の尊重」はいいのではないか、と思ってしまう。でも、よく読み込むと、家族の多様性を認めたり、その中で個人が生き生きと生活できるようしたり、といったことを国が支えるのではなく、個人が家族という単位を尊重しろと言っている。ベクトルが逆だ。
婚姻が成立するための現憲法の「両性の合意のみ」について、自民草案は「のみ」が除外されている。当事者が結婚したいね、と合意しても、家族の他の人がだめだと言うことができるようになりかねない。「のみ」を削る背景には選択的夫婦別姓を阻止したいという意図も感じられる。
根付かぬ「平等」
夫婦別姓違憲訴訟の弁護団を担当しました。別姓について話題は「もしかして、あなたフェミニストなの」「俺のこと好きじゃないの」とか言われてしまうのではないかと、遠慮してしまう(風潮がある)。
だけど、婚姻で氏を変えたら、自分が自分ではなくなってしまうかもしれないと悩んだり、鬱(うつ)になったりする人もいる。そういう人のことを考えて、どうしたら違憲だと訴えられるだろうかと取り組んだ。
最近、通称使用ができるようになったと、キラキラ報じられているのを忸怩(じくじ)たる思いで見ている。選択的夫婦別姓が実現できないがために通称使用がもてはやされているのが現実。その通称使用も女性がほぼ100%がやっています。
根本的な不平等から目が背けられているのではないか。24条を守る運動を展開していきたい。
「平成版産めよ増やせよ」か
【フリーライター 大橋由香子さん】産むか産まないかは個々人が決める。特に産むということは女性が決める。そうした活動を展開してきました。24条と「産む」「産まない」がどう結びつくのか。
結婚しなくても妊娠・出産はできる。ただ一応、結婚して子どもは生まれるということを前提に法律が作られている。
そうした中で、日本のいまの少子化対策について、「平成版産めよ増やせよ」ということについて、ためらいがある。10年前くらいは、いくら政府でもそんな露骨なことはしないだろう。戦後70年もたって、まさかそんなことはしないだろう。もう少し洗練された形でやっていくのではないか、と思ってきた。ところが安倍政権になってからかなりひどく、時代錯誤が起きていると感じる。
24条について言いたいことは二つ。
一つは「両性の合意のみ」で婚姻できるということ。だが産む産まないは、刑法の堕胎罪がそのままある。にもかかわらず、合法的に中絶が受けられるのは1948年にできた優生保護法(現・母体保護法)によるもの。つまり原則的には中絶は禁止されていて、私たち女性は中絶したら罰せられる。
妊娠するには男性が必要であるにもかかわらず、男性は全く罪を問われない。女性だけが罰せられるという法律がいまでもある。
ところが、優生保護法で例外的に許可されているという法律構造です。そしてこの優生保護法の目的の一つには「不良な子孫の出生を防止する」が入っていた。
つまりせんだっての相模原市の事件の容疑者が考えていたようなことが、1996年まで存在していた。それが優生保護法なのです。優生保護法というのは戦後、民主主義と男女平等が憲法でうたわれた後、1948年にできている。
なんと知的障害と診断されたがために16歳の人が何も知らされないままに、強制的な不妊手術がされている。その方はいま70歳になって国に誤ってほしい、補償してほしいということを訴えています。
ハンセン病の問題でも同じ。戦後の民主主義の中で、特に女性の人権、産むこと、産まないこと、セックスにまつわることについては全く民主主義が実現していない。
もう一つ言いたいのは、少子化。少子化対策なら何をやってもいいようなことになっているが、「もちろん個人の決めることです」と政府も自治体も言っている。ところが一方で、「なるべく早く妊娠して出産してほしい」と誘導する政策が行われています。
例えば、文科省が高校1年生の保健体育の副教材に「22歳が妊娠しやすいピークです」というグラフを載せました。ところがこのグラフの出典を探すと、全然根拠のないもので、もっと緩やかなグラフでした。
そもそも妊娠について科学的にそうしたデータはない。同じ副教材には、「子どもとは何か」という記述に「希望」「生きがい」という人が多いというグラフがありました。だがよく調べると、あくまでも子どもがいる人による回答だった。そのように「子どもは良いものだ」という印象を根付かせようとしている。
高校1年生の教材に「みなさんのライフコースを書いてみよう」という欄がある。女性は、結婚して出産して仕事もする。つまり一億総活躍に基づく副教材になっている。
産むか、産まないかは、当事者が決めるということは、24条があっても実現してない。さらに改正されてしまえば、より怖いことが起きかねないと危惧している。
24条と女性に対する暴力
【お茶のみ女子大名誉教授 戒能民江さん】24条と女性に対する暴力についてお話します。
(配偶者の暴力などから被害者を守る)DV防止法ができて15年が立ちましたが、(相談件数は)年間10万件を超えています。実は憲法改正論者は、このDV法を以前から目の敵にしてきました。
「DV法被害者の会」という団体があります。「DV被害者の会」ではありません。彼らは、諦めない。展開し、発展している。そしてとうとう法律案まで作った。そこでの認識というのは、DVはとんでもない男がいて怒りを爆発させるなどといった例外的現象であるというもの。現在の社会のありようであるとか、差別の問題として捉えるのは大きな間違いだと、言っています。
いま議論されている「親子断絶法案」をご存じでしょうか。親子ネットという父親、母親で構成する民間の団体があります。
父母は子どもと一緒にいたいんだ、お父さんの願いが聞き入れられないのはおかしいということで議員が法案を作っています。
多くの人がいいことではないかと思っている。議員の間でもきちんと理解されていない。メディアの取り上げ方もちょっと違う。
条文は理念を掲げた法律のように見えるが、付則があり、そこにやりたいことが書かれている。一方的な子連れ別居をなんとか食い止めたいという狙いです。
多くの当事者の方々が、力を注いで作り上げたDV防止法の無化につながりかねないと懸念しています。反暴力である24条と直接結びつく話であり、私なりにがんばっていきたい思っています。
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