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カルマの配下となる
レスターに帰って来た私は、グレースに報告するため待合室で待っている。
もう三十分は経ったかな?
長い。が、当然だろう。グレースは政務の殆どを取り仕切っていて、凄まじく忙しいと聞く。
フィオという軍師候補も居るらしいが、十六歳程度と聞いてるし出来ない仕事もあるだろう。
大体二人だけで致命的な人員不足を覆すのは無理っしょ。
「次の者、入れ」
呼ばれてグレースの部屋に入る。
まずは挨拶だ。
「グレース様、草原族から帰ってまいりました。トーク様の御威光を持ちまして、このように無事帰還が適いました。心よりお礼申し上げます」
「そう、殊勝で結構。オウランからの使者から聞いた通り、今年はオウランの氏族は襲って来なかったわ。他の氏族からの襲撃はあったけど、カルマ様も貴方の働きに満足しておいでよ。なんでもお茶をランドで売ったと聞く。貴方の考えかしら?」
グレースの様子を見るに、かなり不思議に思ってそうだ。
そんなに獣人がお茶を売ったら変かね?
一応元からお茶の葉みたいなのはあったのだが……ただ、水ではなく羊の乳に入れて飲んでたけど。
とはいえ、想定内の質問だ。
「まず、私の働きと仰ってくださいましたが私は殆ど何もしておりません。元からオウラン様は食料を買う手段をお悩みだったのですが、飲ませて頂いたお茶が非常に美味しく、ランドでも売れるに違いないとお話した所、雑談の間に出ていたバルカ家へ持って行くように言われたのです。後はバルカ家が良いように取り計らって下さいました」
へへーとね。
ううむ、もうちょっときちんとした礼儀を学ぶべきだな……多分手の場所とか色々おかしい。
バルカ家でちゃんと教えて貰うべきだった。
「そう……オウランの所にそんなのがあったなんてね。羨ましい話だわ。貴方、あたしたちの所でも売れる物が無いか探して見ない? 見つければ良い待遇を用意しましょう」
あ、知ってる。
これ無茶振りしまくって、何時か当たったら美味しい。
ってやつだ。
あんたが過労死しても、幾らでも代わりは居るもの。と思ってそう。
で、過労死した私の墓前で、ごめんなさい……こんな時どんな顔をしたら良いか分からないの。
ってやるんだよね。
……うん? 間違ったかな?
「と、とんでもない話です。オウラン様とバルカ家が全てを取り計らった故の成功ですのに、それを基準に期待して頂いても困ります。以前申し上げましたとおり、能力に見合った仕事を頂けないでしょうか。将来的に考えても、私が欲しいのは嫁と家族を養っていける程度の物ですので」
又へへーとする。
今回の柿の葉茶だって、こっちの文化レベルと地理に最大限気を使って目立たない物を必死になって考えた結果なんだ。
そうそうあるもんじゃない。
「何? オウランの為には働けて、カルマ様の為には働けないって言うの?」
ええ、ええ。
その追い込み方は読めていましたとも。
はいそーです。
こちらに敬意を抱いてくれてる(多分)十五歳獣耳に尻尾付き遊牧民美少女と、幾ら美人でも、何処までも絞り上げて来そうな人とは対応が違うっすよ。
なんて思ってるのは、頭を下げたままにしておけば見えまい。
フハハハハ。頭を下げるのにも利点はあるのだ。
「そのように仰られましても……今回草原族が幾らかの富を得たのは、全てオウラン様の才覚です。私では同じような結果を出す所か、無駄に時と金を費やすのみ。どうかご容赦ください」
「ふん……分かったわ。明日から倉庫に行きなさい。話は通しておく。
オウラン氏族から今後貴方を交渉担当にして欲しいと言ってきているの。その仕事を加味して少し上の俸給を与えましょう。真面目に働けば家族を養える程度にはその内なるはずよ」
「はい。ご厚恩に感謝いたします。新しき仕事にてより一層トーク様の為に働かせていただきます」
へへ、へへへへー。とした後にグレースの所を出る。
扉を閉める時、ボソッと「チッ。使えないやつ」と聞こえた。
うむ。すまんな。
領主なら、売れる物を見つけてほしいと望むのは当然。
が、お断り申し上げる。
身を削る気は無い。
お金も必要になる予定は無いし。
帰る前に、ラスティルさんからの文を郵便局的な所に行って尋ねた所、ライル宛に届いていたので受け取り宿舎に帰った。
この宿舎、ちょっと臭い。
……不便でも、もうちょい清潔な所が良いな今度探そう。
さて、色良い返事だと良いのだが。
『ライル殿、以前言われた通り素晴らしい武人を探して頂き、驚きつつも喜んでおる。
今すぐにそちらへ向かい、アイラ殿と槍を合わせたい所だが、拙者はまだジョイ殿の下で十分な働きをしておらぬのだ。
その為、残念ではあるが暫くはそちらに向かえない。
だが、必ずやそちらにおもむき、アイラ殿を知りたいと思う。
それまでは、そなたが誰かの配下となっていては難しいというので誰の配下にもならない覚悟だ。
会える日までライル殿もご壮健であれ。
追伸 もしも、の話だがアイラ殿が期待外れであれば……ライル殿が拙者の悲しみを癒してくれると信じている。ちなみに、拙者は良酒が大好きである』
これはこれは……律儀と言うべきか、情に厚いと言うべきか。
かなり興味を引かれてるみたいなのに。
既に誰かの配下になっている可能性もあったが、大丈夫だったか。
そうなっていては実際紹介し難いし、私としても敵となりそうな人に便宜をはかる訳には行かなかったが……良かった。
最後の追伸は……アイラという人物が嘘だとしても、酒で許してやるという意味かな?
良い人だねぇ……。
しかし、こう書いてあるのならば……アイラについては噂話程度も聞けなかったのか? あれだけ人間を超えてるのに、無名とは。
ジョイ・サポナの領地は結構遠いにしても……信じられん話だ。
領内で襲ってくる獣人だけを相手にしていたらこんなもんなのか?
……もしも、ラスティルさんがあのアイラでも満足できない程強かったら……。
足でも舐めるか。
流石にないだろうけども。ラスティルさんがビッグマウスだという方が、まだ在り得るな。
地元で無敵でも、外に出てみれば、ってのはよくある話だし。
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三か月程が経った。
倉庫の仕事、つまりは兵站に関しての仕事も順調にこなしている。
確かこれ、韓信もやってなかったっけ?
横山様がそう書いてたような。
韓信は自分の能力を認めてほしくて書状を出したり色々するんだよな。
英雄になるだけの能力を持ってたから、地味な仕事で不満だったのだろう。
平和で良い仕事だと思うのだが。
日本に居たころ成りたかった九時五時の公務員になれて、私は大満足だわ。
就職活動をする頃には、九時五時なんて言葉は存在しなかった。
不可能と思っていた夢を果たしたと言える。
英雄になる人は、やっぱり出世欲が違うんだろうなぁ。
適当な所で満足してればいいのに。
などと幸せにひたるだけでなく、酒屋や外食をする機会を使ってした調べ物も順調だ。
具体的にはトーク領の有力者についてである。
自分の上司については良く知っておかないとね。
この国では貴族がやろうと思えば、私のようなパンピーの首は斬り飛ばせる。
敵を知らなければ百戦せずとも危ういのだ。
リディアから貴族もそんな簡単に首を切ると、配下が怖がって逃げちゃうからしないと聞いてるし、そんな真面目に怖がってる訳じゃないが。
そういや、リディアが紹介状に一筆書いてくれたみたいだが……結局内容を確認できてないな。
なんと書いてあろうが元からバルカ家に迷惑かけるような恐ろしい真似をする気はないけども……気になっちゃうね。
さて最も集めたかったのは、アイラの情報だ。
男なら誰でも憧れる最強だし、ここで働いてる唯一の獣人。
ある意味この世界にたった一人の種族、日本人である私としてはシンパシーを感じないでもない。
以前見た鍛錬の様子を考えるに、結構良い子じゃないかなーと思ったのもあるのだが。
で、集まった目ぼしい情報は。
・将軍にしては小さめの屋敷で一人暮らし。隣近所の老夫婦が面倒を見ている。
・常に金を欲しがっている。但し用途は不明。
・食事が好きで、非常によく食べる。
・趣味は不明。
・街中でボケっとしてるのをよく見かける。
・カルマ配下上層部唯一の獣人な上に、毛の色が獣人としても在り得ない白な為、孤立している。
・軍師見習いであるフィオ・ウダイ以外に親しい人間は居ない。
という感じだ。
ふむ……使えるな。
親しくなれそうだ。
何故か。
それは、この私が日本人であるから。つまり和食をある程度作れるからだ。
和食は人類史上最も美味しいのだ。文句を言う奴は舌が壊れている。
化学調味料を十年断ち、多種多様な物を食べて味覚を治療した方が良い。
あ、別に中華やフレンチにイタリーがマズイって訳じゃないです。
美味しいです。
が、和食がナンバーワンだ。
まぁ、当然私に作れるのは家庭料理が精一杯ですけどね。
権力者に近づくのはちと危険だが、何かあった時の為に力を持ってる人と親しくなっておきたいと思っていた。
てめー、何処のもんよ、ワイのバックにはアイラさん(十七歳)が控えてるんやからな! とやるのだ。
そして、実の所選択肢が無かったりする。
だって、他に獣人居ないし。
昔私の心を射抜いた"わっち"に捕らわれ続けてる訳じゃないよ? 多分。
ふさふさの狼耳も、尻尾も大好きだけど。
尻尾を褒めたらコロっと喜んでくれたりしないかなぁ?
ちと暴走した。
それに親しい人が居らず、話す相手が少ないというのは素晴らしい。
私が日本食の真髄……すみません、コキ過ぎました。真似事をして、全く違う食文化で感動させたとする。
その後に、私の話をあっちこっちでされては困るのだ。
誰もが求める美味しく珍しい食事を作れる奴が居るとなれば、無限に期待した権力者の方々が私の意思を無視して拉致りかねないと思う。
ほら、信長様の料理人もそんな感じになってたろ?
私とあの博学鬼才の料理人を比べるとランクが違うのは先刻承知だが、権力者は珍しい物に目が無いもんだしねぇ。
この国、娯楽少ないし。
バルカ家でも母より与えられた力の封印を解こうかとも思ったのだが、それが怖くてやめた。
今その力を使おうと思えるのは、オウランさんが逃げ場所となってくれるからだな。
精神的な支え大事。
ただ、フィオという貴族が引っかかる……貴族の癖に獣人と親しくなるとは珍しい奴。少々面倒の種に思える。
とは言え、フィオとやらの事だけでアイラと親しくなるのを諦める気は無い。
さて、まずは何を食べさせるかを考える所から始めないと。
材料は何にすっぺ。
種族 エルフ 名前 ダン 職業 下級官吏(倉庫勤務)
能力値(雑兵は全て20)
統率 41
武力 45
知力 基準値が違う為測定不能
政治 62
魅力 34
精神 58 (精神的ストレスに対する耐性、緊急時に正常な判断を下せるかの数値)
スキル(lv10で最大値)
ケイ帝国共通語 異界の知識 計算lv8 隠蔽lv6 強運
↓隠蔽により変化した周囲の人間から見える数値。
種族 エルフ 名前 ダン 職業 下級官吏(倉庫勤務)
能力値(雑兵は全て20)
統率 30
武力 45
知力 40
政治 40
魅力 34
精神 30
スキル(lv10で最大値)
ケイ帝国共通語 計算lv4
現時点での能力値。相当に適当。
義務と思ってステータスを書いた。……反省すべきだろうか?
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