29/146
十官第二位に売り込む2
アルタ様はしばらく悩んでる様子だったが、突然リディアの手を掴み、語調も強く訴えだした。
「あのっ、リディア様、私が身代わりになってお救いしますね! ダンさん、こちらに来て下さいです!」
う、うおお、だらしなくも有り難い物が、凄く、当たって……いやぁ、このお方活用法を良くご存じで。
部屋の隅に連れて行かれる間堪能させて頂きました。
有難うございます。
間違いなく、質量=エネルギー量という物理法則はこっちでも働いている。
強い。
「あ、あのダンさん、私はホフ様に忠誠を誓っています。だから前は駄目です。でも、他でならダンさんの欲望を満たせます。そ、それで満足したら私にバルカ家の……いえ、まずは満足しないと嫌ですよね。ど、どんな要望でも受け入れましょう! さぁ言ってみてください! もしも、残念ですが……私が駄目な場合は我が家には色々な娘が居ますから安心してどうぞ!」
……ど、どんな要望でもっす?
い、いや確認を取ろう。確認大事。
別にお願いすると決まった訳では無い。
情報収集、そう、情報収集なんだ。
「カ、カチニ様、私は十官の方に目通りが適うような者ではありましぇん。後ほど無礼を罰せられてはこまるんですが……」
噛んでしまった。
こんなの今まで一度も経験してないし、平静を保ちきれないっす。
「い、いえとんでもありません。これからも色々お願いするかもしれないのに、罰するだなんて! そ、それに庶人の方から虐げられるなんて新鮮ですし……」
これは……本当にいけちゃんでしょうか。
十官はこれから危険そうだが、でも、今は力があるし色々出来るかもしれない。
完全に想定外だけど……それに、そうしたらこの体の一部が豊かでだらしない希少趣味な人と……。
どうして性欲は存在するんや……。
ちょっとだけ、ほんのちょっぴり反応を確かめてみるか。
「アルタ様、前が駄目となるとどうやって私を満足させるんですか? そのだらしない無駄の塊だけでどうにか出来るとお思いで?」
我ながら……踏み込みが深すぎた。
ほんの少しだけ猛っちゃってるのかもしれない。
「は、はうっ、はううううっ! いえ、でも、私も貴族のはしくれ。中々の容姿だと思うのです。それにしても、だらしないだなんて……無駄の塊だなんて……は、初めて言われましたですぅ。はふぅ……あ、あの、とにかく頑張りますから!」
頑 張 る と 仰 る
そうか…… そうかぁ……。
「そうですか……では、前が駄目なら後ろは良いのですね? 勿論私は汚れた所は嫌ですので、大量の水、いえ、熱いと感じる程度のお茶を入れて洗って貰います。あのお茶はそちらから吸収しても体に良いのでご心配なく。まぁ、お腹は大きく膨れるでしょうが……」
足の大胆なスリットに指を置いて、太ももの方に指をゆっくり滑らせるとはっきりとアルタの体温が上がったのが分かった。
これは、本物だ。
幾ら十官でもこれで演技だったりはしまい。
「はぁ、はぁ……。熱いお茶で、お腹が膨れてしまうなんて……想像した事もありませんでしたぁ……素晴らしいです……ああ、これが庶人の欲望なのですね……熱くて、イイですぅ……。はい、はいっ。それでお願いしますですっ!」
決まった。
十官ルート決まってしまった。
仕方が無い……人は本能には逆らえない。
計画の修正が大変だが、頑張ろう。
これは天命だ。
おいおい、アルタよ。今考え事をしてるのに、私の腕を取って押し付けては集中出来ないじゃないか。
そんなに急がなくてもバルカ家は逃げないぜ?
ほら、今も山の不動だ。
線より後ろには下がらないぜ? む? 逆か?
うん……バルカ家……? あれ、そもそもこの話は……。
「リ、リディア様決まりました。今後は私がダンさんの望みをかなえますのでご安心ください。弱みとやらについても調べたりはしませんです。ですから、どうか今後ともバルカ家からの支援をお願いします!」
えーと、アルタ、そんな直接的に言って良いの?
政治苦手なの?
って、そうだ、弱みって……。
「すみませんアルタ様。冗談でございます」
「は……、リディア様? 冗談とは何がですか?」
「弱みとやらが。ダン殿が私の弱みを握るのは不可能です」
「あ……、そう、なんですか」
「はい。失礼いたしました」
アルタ様の冗談に乗ってみたつもりだったのですが。
と続けておられます……。
……えーと。
私の覚悟……ちゅーかイングリッシュで言うりびどーは?
駄目?
無し?
そうですよね、お偉いさんが理由も無く庶民の相手なんて出来ませんよね。
わ、分かってたもん。
最初から在り得ない話だって思ってたもん……。
この後、私もアルタ様も気がそぞろになってる中交渉が進められた。
バルカ家の二人が主導して。
売値も諸経費と食料代から考えて出していた最低限の値段より、ずっと高く買ってもらえるようになったから万々歳なんだ、けど……。
な、なんで欲望は存在するんや……。
ぬ、ぬぅううう悶々する……。
アルタ様の家をお暇して馬車に乗って帰ってる最中だというのに、まだ先程の余韻が……。
「ダン殿」
あーう? リディア様? 何かようっす?
今は少し放って置いて頂きたいのですが。
「先ほど仰っていた茶の効能についてお聞きしたい。あの恐ろしい死病に効能があるなど初めて聞きました。事実ですか? どこでお知りに?」
「はぁ……、リディア様、あれはかなり高い確度で事実です。聞いたのはM……」
はっ。
やっべぇ何言ってんだ私。
一番気を付けないといけない人の前でボケっとするな。
「オウラン様から聞きました。常飲してる人はあの病気になり難いと感じているそうです。気休めよりはマシという程度だと聞いております。私もこれから常飲しようと思っていますし、是非バルカ家の方も常飲して頂ければ、と思います」
っぶねぇ。
あらかじめ言い訳を考えてあって助かった。
日本に居た頃は考えすぎの妄想野郎なんじゃと悩む時もあったが、今は思慮深さとなっている気がする。
お陰で今現在助かってるし。
所でリディア様、そんなに見つめないでください。
ティトゥス様も……。
「……嘘では無い、か。相変わらず不思議な方だ。あの死病は我ら貴族が最も恐れる病だとはご存じか?」
そら生活習慣病だからな。
良い物ばっかり食ってればそうなるわ。
ザマァっす。
「いえ、初耳です。貴族の知り合いはお二人だけですし」
よし、最高にCOOLだぞ私。
ついさっきまでKOOLだったが立ち直りが早い。素晴らしい。
私は今K1を超えたな。
「……でしょうな。何にしろ良い物なのは間違いない。常飲させて頂きましょう」
「おお、有難うございますリディア様、ティトゥス様」
本当に有り難い。
なんせ、私の知識だけでなく世情として国家体制が不安定なんだ。
トップの十官も国と一緒に蒸発しかねん。
そうなった時の売る所を今から確保しておきたい。
それにしても上手く行った。
九割バルカ家とお茶自体の力とは言え、私も良くこなしたと思う。
……冷静に考えて十官ルートは無かったわ。
崩壊寸前のこの国と一蓮托生である官僚と親しくなるなんて、どう考えても計画に不利益しかもたらさない。
欲望って恐ろしい……本当に危なかった。
ま、結果オーライである。
後はリディアからカルマの今後について予想を聞けば、ランドでの目的は全て達成だ。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。