25/146
三将軍の鍛錬見学会
レスターに来て二日目、今日は将軍達の鍛錬を見学する日である。
私も三国志演義などを読む程度には歴史物が好きだったわけだが、そういう物に出て来る強い人というのがどの位強いのか知りたいとしょっちゅう思っていた。
呂布、項羽、本田忠勝、そんな人たちだな。
世界が違う以上一緒な訳は無いが、弓と槍で戦うという意味では一緒なのだ。
そんな時代の中で特に強い人たちを見られると思うと、ドキドキするね。
昨日は期待を持て余しつつ今日見られる三人について調べた。
まずはガーレって人。
長い斧を使う人で……話を聞く分には随分……えーと……脳筋な兄さんだとか。
単じゅ……良い人ではあるらしいんだけど。
レイブンという人は、矛を使う……戦闘民族?
『某より強い奴を探している』が口癖なんだって。
……某? 私の聞き間違いかも知れん。
やっぱり良い人らしい……ってホンマかいな。
まぁ、なんで強い奴探してる人が此処に留まっているかというと……。
三人目、アイラ・ガンちゃん。十六歳の女の子。が此処に居るからなんだと。
恋だの愛だのという話では無い。
アイラちゃんはケイ国では滅多に居ない獣人の将軍で……頭おかしくなるくらい強いのだってさ。
この子に勝った上で、忠誠を誓っているカルマが死ぬまでは此処に居るだろうと聞いた。
あれ? 死ぬまでとか言ってたら基本探しに行けないんじゃ……。
……まぁ、街の噂だしね。
アイラちゃんがそんなに強いならば、ランドで話を聞いても良いのに私は覚えが無かった。
しかし、よく考えたらまだ十六歳。
働き出して間も無い訳で、特別な逸話でも作らないと地元以外では知られないか。
いや、それでも厳しいかな?
獣人が大活躍した話は好まれないだろうし……。
ついでにいうと、あんまり社交的な子では無いのか友達が少な……孤高の人だとも聞いた。
家族も居ない。
そりゃ大変だ。エルフと人間の国で獣人が一人で生きててしかも飛び抜けて強い。
鹿の群れに狼が居るようなもの。孤立して当然だろう。
強く生きて頂きたい。
むしろなんでこっちで将軍なんてやってんだろ? 給料良いから? でも孤独はヴァンパイアだって殺すって漫画のキャラも言ってた。
辛くは無いのだろうか。
かく言う私も大分孤独なんですがね。
中身が薄い人間関係に慣れ切ったオッサンじゃなかったら辛かったかもしれん。
鍛錬が行われると聞いている広場に行くと、既に多くの兵士らしき人達が居た。
皆体格が良く、傷跡のある人も多い。
歴戦の兵士達なのかもしれない。
広場の中央には三人の人間が居る。
あれが将軍か?
確か坊主頭のマッチョがガーレ、髪型と体格的に美形の浪人みたいなのはレイブン。
そして、真っ白な髪の無造作ヘアで獣人の少女がアイラちゃんか。
獣人は毛の色で山、草原、水、雲、火に分かれてると聞くが、白い毛の獣人が居るとは聞いた記憶が無い……何処の出身なんだろう。
アルビノという訳でも無さそうだ。
肌はよく日に焼けていて健康そう。
遠目に見ても分かる程に三人とも顔面骨格の戦闘能力が高いなぁ。
この世界では人目を引く美形じゃないと出世出来ないという法則でもあるんかね?
不細工には辛い世界やで……。
地球の三国志では、見た目が今一な所為で中々認められなかった人がいっぱい居たみたいだけど。
具体例を言えば……鳴り者入りで配下になったのに、即死んじゃった鳳雛さんとかか。
哀れホウ統三国志でも特にクローズアップされる不細工よ……。
私には彼が死んだ遠因が、不細工だった所為に思える。
こっちにもホウ統のような人が居るのだろうか?
やはり見た目で苦労しているのだろうか……。
等とどうでもいい思考をしてる内に、時間となったのかレイブンが兵達の前に立った。
「それでは鍛錬を始める! 自分の所属する将軍の元へ集まるように! 某の隊はあちらだ!」
あ、本当に某なんだ。
私の言語理解がおかしくなってる訳じゃ……ないな。
武器として木製の偃月刀を持っているが、これで日本刀を持っていたら武士文化が何処かにあるのかと疑う所だったぜ。
いよいよ鍛錬が始まるようだ。
其々の武将の前に兵士が……三人?
おいおい、流石に危険ではなかろうか?
危険では無かった。
一時間経った今も、三人は危なげなく三人組み手を続けている。
兵の側にも大きな怪我をしている者は出ていない。
兵士の皆さんも、私よりは強そうなのに……。
もしも戦場で将軍らしき相手と出会いそうになったら、とっとと逃げよう。
走り込みを増やすのも必須だな。
男二人は一戦終わった後に何かを教えてるが、アイラは只管組手を続けている。
組手しながら何か話しかけている。
そして、男たちが休憩をする間も水を飲む程度で延々と組手をし、他の二人より五割増しの組手回数をこなしてしまった。
あの、強すぎるし持久力があり過ぎまへんかね。
『力は山を抜き、気は世を蓋う』などとぶっこいた敗軍の将みたいだ。
昼食休憩が終わってから始まった午後の将軍同士の鍛錬を見初めて一時間。
私はこの見学会が、実は戦意高揚の為のヤラセじゃないかと疑い始めている。
この鍛錬、タイマンじゃなかったのだ。
アイラに、二人がかりで延々と挑み続ける形式だった。
なのに、アイラには焦った様子も無く勝ち続けている。
どうなってんだ?
獣人の平均値は人間より強いとは聞くが、エルフと比べて特別強いとは聞いていない。
更に驚いた事に、アイラは一戦終わる度に武器を剣、槍、矛、その他、と交換している。
他の兵士達にお手本を見せているのだろうか?
結局このアイラという娘は、三時間は行われた将軍相手の組手に全て勝ってしまった。
最後には二人同様疲労困憊だったの以外はとても人間に思えない……。
何にしろ、私は内心でも二度と『ちゃん』付けで呼んだりはしないと誓った。
あれ? なんか既視感が……。
それは良いとして、本当に人間かこの子。
動けなくするにはプレス機か溶鉱炉が必要に思えるぞ。
ヤラセでは多分ない。
よく考えたら、人間とエルフの国で獣人を目立たせる為にヤラセなんてする訳が無かった。
ケイ人にとって獣人は、基本的には敵に近い隣人なのだから。
ま、これなら自信を持ってラスティルさんに伝えられるな。
残念ながら将軍達が使った武器の重さは良く分からなかったけど、仕方あるまい。
木製の武器だとだけ書いておくとしよう。
いやぁ、本当に実りのある一日でした。
まさかこの世界の強いって人達が、人間を辞めてるとは思わなかった。
アイラという少女に至っては、数百人斬りが当然であるゲーム並みでしたわ。
所で、アイラの強さを見て又思い出したのだが、三国志で強いと言えば筆頭の男、呂布的な人もこっちに居るのだろうか。
確か、董卓が大出世する前は義父の配下として適当に戦ってたはずだけど。
何処にいるかなんて全く覚えてないし、探しようがないけども、気になる。
何と言っても、中国史では董卓の命を奪った人だ。
カルマが董卓かはすっごく微妙に思えてきたが、何か関係が産まれるかもしれないし。
……見つけようがないんだからどうしようもないな。
頭の片隅に置いておく程度で良いか。
ま、如何に呂布といえど、今日最高の収穫である人越獣人アイラに勝てるとは思えないが。
そんな事を考えながら、今日得られた情報がもたらす満足感に浸りつつ宿舎に帰り、ラスティルさんへの連絡とバルカ家へのお礼の文を書いていると、昨日のグレースから使者が来た。
「グレース様からの言伝を伝えに参りました。『明日草原族への案内役を向かせるから共に向かうように。
又、彼らのトーク領に対する考えを聞いてくる事。可能ならば、今年村を襲ってくるのがどの氏族か、又話し合いで解決は可能かも調べて来るように』以上です。こちらが紹介状となります」
「承りました。グレース様への感謝をお伝えください」
明日とは仕事が早いこった。
準備は今夜中に終わらせないといけないな。
文を出し、話し合いが上手く行けば必要となる道具も買っておく必要がある。
昨日の内にある程度は済ませてあるけど……もう一度チェックするか。
さぁ、ついに計画の鍵である遊牧民族の人々に会える。
どんな人達だろうか。
話を聞いてくれるだろうか。
私の思いが、願いが、伝わるだろうか……。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。