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戦乱の帝国と、我が謀略~史上最強の国が出来るまで~ 作者:温泉文庫
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ラスティルへの挨拶

 異世界で過ごす初めての夜が明けた。
 昨日、ラスティルさんと別れた後に商団を軽く調べ、真っ当な商人の集団であり、安心して参加出来ると分かった。
 行商人の集まりであり、国中を旅するというのも世情を把握する為には都合が良い。
 勿論危険はあるだろうがね。
 やはり夜は不安のあまり色々と考えてしまった。
 大半は愚にも付かない思考だったけど、一つ思った事がある。

 ラスティルさんと、縁を繋いでおきたい。
 俺が思った通りこれから三国志が来るのなら、もしかしたら俺の知識が何か役立つかもしれない。
 そうなれば恩返しも出来る。
 例えば、変な主君の元で働こうとしてたら、最終的に勝つであろう曹操っぽい人を勧めたりとか。

 ……言い訳だな。
 ただ単にこの世界へ来て初めて会った親切な人と、これっきりにしたくなかっただけだ。
 とは言え実際的な理由もある。
 遠くの出来事を教えてくれる知人が欲しいのだ。
 本当に三国志が来るとすれば、地方の情報はとてつもなく有用。
 どう考えてもこの世界にはTVやインターネットは無い。
 となれば、信頼出来る情報は知人の手紙だけになる。

 そういう意味だと、彼女が遠くに行くのは都合が良い。
 気を付けるべきなのは、変なストーカーが付こうとしてると思われないような配慮だ。
 時間を考えて話し方を考えもしたけど、どう受け止められるかはやはりわからん。
 変な下心は、無い。と、自分では感じてるけど……。

 さて、出発の手伝いもあらかた終わった。
 ラスティルさんの所へ挨拶と相談に行こう。


「ラスティルさん、少しお話を宜しいでしょうか」

「うむ? なんだ改まって」

「まずは、感謝を。お陰で命拾いしました。本当に有難うございます」

「其処まででは無かろう。この近辺は比較的治安が良い。この町に辿り着く程度は出来たはずだ」

 そんな事は無いと思う。
 俺はあの時どっちの方向に町があるかも分からなかった。
 一応街道らしきものがあったから、そっちに進んだとは思うけど水も食料も無しに長時間は歩けない。

 更に、この世界の歴史が、もしかしたら俺が知ってる通りに辿ってるかもしれないと分かったのはデカい。
 それもラスティルさんが俺のしつこい質問に対して答えてくれたからだ。
 しかも、飢え死にしないよう職まで用意してくれた。
 命の恩人そのものと言える。

「どうでしょうか……私には難しいように思えます。何にしても大変助かったのは間違いありません。その上厚かましいのですが、書状を書いて連絡を取っても良いでしょうか?
 遠くの地に居るラスティルさんが見聞きした事を知りたいですし、強い人と良い主君、でしたっけ。探しているのでしょう? もしかしたら、有益な情報をお伝え出来るかもしれません」

「ほぅ……。そしてあわよくば、拙者を連れて来た功により出世しようという目論見か? ライルも中々悪知恵が働く」

「えっ? そんな事出来るんですか?」

「当然。事実としてこの若さで拙者程の武芸者は中々おらぬ。既に幾つもの仕官を断ってるのだぞ。……いや、良く考えるとエルフを知らなかったライルに他人の強さなど分かる訳が無かったか。いかんな、邪推をしてしまったようだ。許してほしい」

 そう言って頭を下げるラスティルさんだが……。
 この人が強いって……何?
 まぁ、女性にしては筋肉がある、かもしれない。
 とはいえ、良く運動してる女性程度にしか見えない細身である。
 身長は俺より少し高いから……女性としてはかなりの高身長だけど。
 外国でも平均身長で私より高い国はギリギリで無いはずだし。
 ちゅーか、それ以前の問題として……女戦士なんて普通存在しないべ。
 本人に確認を取りたいが……流石に武者修行してるなんて言ってる女性に、女性が戦えるんですか? とは聞けないな。

「いや、謝って頂くような話では。見知らぬ男である私に文を出して良いか等と聞かれれば、怪しく思って当然だと思います。
 えーと、お許しいただけても、有用な情報でない限り連絡を取らないと約束します。どういう人の元で働きたいか、それと、私でもラスティルさんから見て強いと思える人を見つけられるように何か基準を教えて頂けませんか? そうして頂ければ基準にあった人を探せますし。あ、でも何処に送ったら良いか分からない……」

「ふっ。其処まで気を使う必要は無い。書状ならば昨日も言ったがジョイ・サポナ辺境伯の所で数年は働く事になるはずだ。断られない自信はある。だからサポナ領へ届けてくれればよい。
 さて、主君の基準だったな? やはり国を思い、民を愛せる方だ。そして大志を抱いていて欲しい。その者の行った事と、民の反応を教えてくれれば嬉しいな。しかし、強い武人に関しては基準と言われても難しいが……うむ。この槍にするか。持ってみろ」

 そう言われて槍を渡された、が……。
 重い。
 これは……7キログラム近く無いか?
 確か、日本刀で2キロ程度だった筈だ。

「この槍を使って拙者は朝から昼まで戦い続けられる。故に、それよりも重い武器を使って長く戦えるのならば拙者より力と持久力は上と言えよう。まぁ、武とはそんな簡単な物ではないが、今思いつく指針はこの程度だ」

「私みたいな素人相手に教えるのは少し無理な話でしたか……。でも、分かりました。出来るだけちゃんとした情報を仕入れてお知らせします」

「暫くは主君を定める気はないし、ゆっくり待たせて貰おう。それと、別に良い情報が無くてもよいから落ち着いたら文を出せ。そうしてくれれば拙者も安心できる。それに遠方の情報は拙者だって欲しいのだ。安心して送ってこい。拙者も出来る限り返信しよう。
 偶になら恋文でも構わんぞ? 宜しくない所は添削してやろう」

 そう言って冗談っぽく微笑んでいらっしゃいますが……。
 なんとまぁ。
 この人、山ほどの男性を勘違いさせてきたんじゃないのかね?
 俺も後十年若かったら確実に告白の仕方を考えてたぞこれ。
 って二回目だなこの思考は。

「はい。必ず」

「よし。達者でな」

「ラスティルさんも」

 こうして俺達は分かれた。
 まずは商団の中で真面目に働くとしよう。
 全てはそれからだ。
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