【ニューヨーク=高橋里奈】国連安全保障理事会は8日午後、シリア北部アレッポ上空の軍用機の飛行と空爆停止を求める決議案を採決したが、ロシアが拒否権を投じて否決された。アレッポではアサド政権軍とロシア軍が反体制派への空爆を強め、人道危機が深まっている。危機に歯止めをかけることができなかったのは「ロシアの責任」(英国のライクロフト国連大使)など拒否権の行使に非難が相次いだ。
深刻化するアレッポの人道危機を踏まえ、フランスが主導して決議案を作成、スペインと共同提案した。安保理15カ国のうち日本を含む11カ国が賛成したが、ロシアとベネズエラが反対、中国とアンゴラが棄権した。
会合に参加したフランスのエロー外相は冒頭、「安保理はアレッポを救うために迅速な行動をとらなければならない。政権とその同盟国によるすべての空爆を終わらせ、支障なく人道支援ができるようにしなければならない」と訴えた。
採決後には「シリアの人道危機はロシアとアサド政権が原因だ」(米国)、「ロシアのせいで難民がもっと欧州や隣国へ流れ、死者も増えるだろう」(ウクライナ)とロシアに非難が集中した。
シリア内戦ではロシアがアサド政権を支援し、欧米が反体制派を後押ししている。米ロが合意し9月12日に政権側と反体制派の停戦が発効したがわずか一週間で戦闘が再開。ロシアとアサド政権はアレッポへの空爆を強め、病院や水道、インフラ施設も攻撃にさらされた。安保理はアレッポの惨状を食い止めるために空爆や軍用機の飛行停止を求めたが、ロシアが譲らなかった。
シリアでは現在1350万人以上が人道支援を必要としており、約610万人が国内で避難を余儀なくされているという。国連のデミストゥラ特使はアレッポ東部の惨状は「新たな恐怖の段階に悪化した」と報告、安保理はシリア内戦を巡る会合を頻繁に開き議論してきたが、常任理事国として拒否権を持つロシアの反発で解決の糸口はつかめないままだ。