BMWが「ブランド体験施設」を東京・お台場につくったワケ
BMWが東京・お台場に巨大なブランド体験施設をオープンすると聞いて、自分の耳を疑った。BMWのドル箱であるアメリカや成長著しい中国ならまだしも、なぜ今、日本に約27,000平方メートルもの敷地に43億円もの投資をして、巨大施設を開設するのだろうか?その疑問に答えてくれる最適な人物が、今回、「BMW GROUP Tokyo Bay」のオープニングにあわせて来日したセールス&マーケティング担当上級副社長のイアン・ロバートソン氏だ。
「コンセプトは”Future retail”です。単なるショールームではなく、お客様の視点や期待に沿った体験ができます。BMW、MINI、ロールスロイス、モーターサイクルと、グループに属するすべてのブランドを見て、触れて、交流できる仕組みです。ドライビング体験のコーナーもあり、東京の町中ではなかなか体験できないパフォーマンスの高さも試すことができます」
そのように世界的にも新しい取り組みとなるブランド体験の場に、NY、パリ、ロンドン、上海といった都市をおさえて、東京が選ばれた理由はどこにあるのだろうか。
「2020年にオリンピックを控えて、歓喜に溢れており、新しい取り組みをスタートするなら、東京がベストだと判断しました。日本におけるBMWの販売開始から30年が経ち、2015年は67,312万台の販売を記録し、BMWが9.4%、MINIが14.2%の成長率を誇る成熟した市場です。今後、東京に来る外国人に、ここでBMWグループのブランドを体験してもらうこともできますし、ここからさらに他の地域へ展開するなどの効果を鑑みると、良い投資と考えています」
BMW傘下に収まるブランドは、本家BMWに加えて、MINIもロールスロイスもブランド力が高いが、それでもあえて、これほどのブランド構築を進めるのには理由があるはずだ。
「これらのブランドを手に入れたときから、各ブランドの理想的なポジションを設定し、そこに近づける努力をしています。ブランドが放つメッセージへの反響、オーセンティックであることに常に配慮し、決してブランドを薄めてはいけないと考えています」
BMWほどエスタブリッシュされたブランドであっても、こうした努力なしに100年の歴史は紡げないということだろう。
「次の5〜10年間では、過去100年以上の変化が起こるでしょう。ワクワクする一方で、変化の方向性を見据え、人々が継続してモビリティを楽しめるようなことを提供していきたいと考えています。EV、PHV、FCVといった次世代車、コネクテッド・カー、公共交通など、すべての変化が同時にやってきます。そして、次の次元では、自動運転が必要とされるでしょう。ただ、ひとつだけ確実に言えることは、どの時代においても、BMWは一貫して駆け抜ける歓びを提供する企業であり続けるということです」
実はドイツでは、メルセデス・ベンツがBMWの100周年を祝って、「100年間、良い競争ができたことにありがとう」といった広告を打ち、ポルシェはBMWのタグラインである”Freude am fahren(=駆け抜ける歓び)”を引用して、100年の歴史に敬意を表した。ブランド構築においても、そんなお互いを認め合うよい競争相手たちがいる国だからこそ、たゆまぬ努力が必要とされるのかもしれない。
イアン・ロバートソン◎BMW AG セールス&マーケティング担当上級副社長。1979年にローバー・グループに入社し、BMW傘下にあった際のランドローバー部門を率いた。2005年からはロールスロイス・ブランドのCEOを務めて、2008年から現職となる。