【電通過労死事件】被害者のツイートから浮かび上がる電通の体質

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2016年10月7日、三田労働基準監督署は元電通社員 高橋まつりさん(享年24歳)の自殺について、これを過労死と認定した。

24歳東大卒女性社員が過労死 電通勤務「1日2時間しか寝れない」 クリスマスに投身自殺 労基署が認定

電通は過去にも社員の過労死事件を起こしており、2000年まで遺族との係争を続けていた。今回の事件はその反省が活かされることなく、同じ悲劇が繰り返されてしまったという形になる。ちなみに、前回の被害者も今回と同じ24歳。新卒一年目での自殺…というのも同じパターンだ。

【事例紹介】1991年 電通の過労自殺事件を紹介します。

 

今回の過労自殺事件が過去の事例と異なり興味深い点は、SNSによる被害の可視化が可能になっていることだ。上の朝日新聞の報道にもあるように、高橋まつりさんはtwitterアカウントを持っており、友人や家族に向けてひんぱんに「つぶやき」を投稿していた。

その「つぶやき」の内容や投稿時間から、まつりさんが異常な勤務状況に追い込まれていたことが客観的にも明らかになり、自殺から10ヶ月という異例のスピード認定が出たものと思われる。

ちなみに1991年の電通過労死事件は最高裁にまでもつれ込み、最終的な判決がでたのが2000年3月、10年近くの時間を費やした上での勝利だった。この点を鑑みても、インターネットにより労働被害の可視化が容易になっていることは注目に値する点だろう。

 

本稿では、亡くなった高橋まつりさんのtwitterでのつぶやきを引用し、本事件の背景と、電通の企業体質について考察する。

 

異常な長時間労働

(※:午前4時6分のツイート)

(※午前5時39分のツイート)

これらのツイートから判断するに、電通では深夜どころか早朝にまで渡る異常な長時間労働が繰り返されていたことがわかる。常識では考えられない時間に「今から帰宅」とつぶやいているのは上のツイートだけではなく、多くの過去のツイートでも繰り返されている。

これらから、電通では早朝までに渡る異常な長時間労働が繰り返されているいることがわかる。

 

常態化する休日出勤

異常な労働時間だけでなく、休日出勤が常態化していたことも、過去のツイートから伺える。

このように、土曜・日曜の休日出勤が電通では常態化していたことがわかる。

まつりさんのツイートには「徹夜」という単語も散見されており、平日も休日も、昼も夜もない連続勤務の状態にまつりさんが置かれていたことが推測できる。

 

残業代の不払い?

上記のように、高橋まつりさんは極めて過酷で異常な連続勤務の状態に追い込まれていた。

しかし、以下のツイートを見ると、どうも残業代は通常の給与の1.5倍しか支払われていないようだ。

週40時間、月160時間労働が通常の労働時間と考えると、給与が1.5倍になるのに必要な残業時間はわずか32時間だ(残業代は時間給の1.25倍であるため)。

上記のような異常な長時間労働をこなしながら、残業代が給与の50%しかでないというのは明らかに不自然だ。研修期間の残業代をゼロと見積もった上での推論ではあるが、このことから電通では残業代の不払いがあったのではないかと推測できる。

 

残業時間の過小評価?

朝日新聞の報道では、「最長月130時間の残業」と報道されていたが、これも違和感がある。

月の出勤日を23日と仮定すると、1日の平均残業時間は5.6時間。だいたい22時30分ごろが平均帰宅時間になる計算だ。しかし、まつりさんは

「22時前に帰れるなんて奇跡だ」とツイートしている。

このことから、22時以降に渡る長時間勤務が常態化していたと考えるのが自然だが、それでは最大月130時間の残業という報道と明らかに数字が食い違う。

さらに、既に述べたように休日出勤や早朝4時・5時までに渡る長時間勤務、徹夜での勤務なども常態化していた。こうした事情を考えると、「残業時間130時間」という数字には明らかな矛盾がある

ここから、電通では残業時間の過小評価、残業代の不払いといったことが常態化していた可能性がある。

 

横行するパワハラ

パワハラについてのツイートも多い。

年長の上司から礼節を欠いた叱責を繰り返されていること、また「年次」に強くこだわる、いわゆる体育会系の体質が根強く残っていることががこのツイートから伺える。

具体的な叱責の内容もつぶやかれている。

このツイートからは

・上司(部長)がまつりさんの異常な長時間勤務について把握していたこと

・それを把握した上で、目の充血や髪質の乱れなど、業務と無関係かつ改善不可能な点について叱責を行っていたこと

などがわかる。

「君の残業時間の20時間は会社にとって無駄」
「会議中に眠そうな顔をするのは管理ができていない」

などの発言は、まさにパワーハラスメントとしか言いようがない。

20時間残業している人間を捕まえて「眠そうな顔をするな」「目を充血させるな」とは、どういう脳の構造をしていたら出てくる台詞なのか、理解に苦しむ。

しかもそれは自分の部下なのだ。
管理職が管理職としての責任を放擲し、パワハラに勤しんでいたことがここから読み取れる。

 

深刻なセクハラも

性的な嫌がらせ(セクシャルハラスメント)と読み取れるツイートも多々あった。

女子力をネタにした「いじり」。

前後の文脈から高齢の上司からであると読み取れる。

上のツイートも不愉快だが、さらに闇の深さを感じさせるのが以下のツイート

「見返り」とは一体なんなのか。

このツイートを読むと、男性上司から「仕事を手伝ってもらう」ことに対して、「性的な見返り」を要求され、しかもそれを断れなかった…と読み取ることができる。

新卒一年目の部下の仕事を手伝うこと、悩みを聞く事、ミスを許容することは、上司・先輩としては当然の業務だ。それに「見返り」しかも文脈からすれば明らかに「女の子だから」要求されるような性的な見返りを要求することは、職業倫理として言語道断であるのは言うに及ばず、もはや刑事事件の範疇だ。

このツイートの9日後、まつりさんは命を絶った。

 

いったい、どこまで異常な職場環境だったのか。

長時間勤務・休日出勤・残業代の未払い・セクハラ・パワハラ…

電通という企業の中で何が起こっているのか。明らかにする必要が確実にあると言える。

 

被害者は他にもいる

あまりに異常な勤務状況であるため

「これは例外的な事例だったのではないか」

と思いたくなる。しかし、まつりさんのツイートはそれも否定する。

多くの従業員がまつりさんと同じく異常な環境で働かされていたことが、まつりさんのツイートからは読み取れる。

もちろん、電通は社員数7000人、連結従業員数は47000人を超える超大企業だ。

部署によっても大きな差異はあっただろう。

しかし、上のツイートから、「若干名」では済まない大数の従業員がまつりさんと同じような休日出勤・長時間勤務の状態にあったことが伺える。

パワハラやセクハラに関しても同様の被害があった可能性が高い。まつりさんが「(20時間残業の末の)眠そうな顔」を叱責されたのは会議の席だった。このことから、「隠された事実」ではなく、むしろ「公然の秘密」として、異常な労働環境やセクハラ・パワハラが横行していると考えるのが自然だろう。

 

電通という企業の体質はいつ変わるのか

1991年の新卒過労死事件、通称「電通事件」は、2000年の最高裁判決を以って終結した。

企業には

従業員の労働時間を管理し、過労死を防止する義務がある

ことを司法が明確化したとし、当時おおいに話題になった。

しかし、また同じ電通から、また同じような事件が繰り返されている。

 

今回の事件は、電通の企業体質が「電通事件」を経てもなお全く改まっていないこと、管理職が従業員の異常な勤務状況を把握した上でなおそれを改善しようとしていなかったこと、電通内で深刻なパワハラやセクハラが繰り返されていたことを示唆してる。

電通という企業はいつ変わるのか、

日本の行政・司法は、いつまでこの異常な労働環境を放置するのか、

「第二次電通事件」とも言える本件を皮切りに、活発な議論が沸き起こることを願わずにはいられない。




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わかり手

メンヘラ.jpのライター兼編集者。 メンヘラなりに前向きに生きていきたい。好きなメンヘラ作家は永田カビ先生。

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