地震におびえる韓国 余震446回、安全神話崩れ 活断層450ヵ所、調査は後手
韓国国内で地震への不安が広がっている。9月12日に南東部の慶州付近で相次いで発生したマグニチュード5・1と5・8の地震の余震は、同29日までに446回を記録。「朝鮮半島は環太平洋地震帯から離れた地震安全地帯」との認識が一変した。地震を引き起こす恐れがある活断層が半島に450カ所以上あるとの指摘もあり、政府は対策に追われている。
「不安で夜も眠れない。頭痛やめまいもします」
慶州で初めて地震を経験した観光ボランティアの李圭子(イキュジャ)さん(73)は、やまない余震におびえている。防災教育を受けたり、防災訓練に参加したりした経験がなく、避難方法もインターネットで調べたという。
李さんのアパートに被害はなかったが、慶州が誇る新羅時代の国宝、天文台「慶州瞻星台(チョムソンデ)」や仏国寺の「多宝塔」が一部破損するなど釜山を含む一帯で100件以上の文化財被害が確認された。余震の影響もあり、小学校の修学旅行のキャンセルが続出。李さんは「観光客がめっきり減ってしまった」と元気がない。
◇研究者少なく
韓国の国民安全庁は慶州の地震から10日後の22日、朝鮮半島に活断層が450カ所以上あり、確認済みが25カ所にとどまっているとの衝撃的な事実を明らかにした。政府は2017年から活断層の全面調査に乗り出す方針だが、後手に回っている印象はぬぐえない。
チャンスはあった。慶州に近い浦項周辺で1960年代初めと81年に中規模の地震が発生。80年代半ばに、研究者の間で活断層の調査を求める声が上がったが、「その後大きな地震が起きず、議論が長続きしなかった」(韓国メディア)。
95年の日本の阪神大震災、2011年の東日本大震災直後も地震対策の機運が高まった。しかし、聯合ニュースの取材に対し、地質資源研究院地震研究センターの池憲哲(チホンチョル)・前センター長は「地震の研究者が少なく、計画は立てるが、実行段階でうやむやになってきた」と指摘する。
◇耐震比率26%
政府は活断層の調査に加え、地震警報、原子力発電所の耐震性、教育・訓練まで総合的に検証する方針。気象庁も11月、地震情報を2分以内に市民の携帯電話に直接送るシステムを導入する。地震の規模を示すマグニチュードとは別に、揺れの度合いを示す「震度」についても来年以降、導入を検討する。
ソウル市も9月23日、地震対策の見直しを公表。88年に義務化された建物の耐震設計に沿って公共施設や学校などの対応を急ぐ。市によると、学校施設や民間施設は、いずれも耐震策を終えた比率が26%にとどまっている。災害情報や避難場所を案内するスマートフォン向けのアプリも来年上半期までに開発する。
「地震安全神話」があった韓国は、そもそも明確な活断層の判断基準さえないという。池氏は「活断層の調査には数十年かかる。それを支える人材育成が急務だ」と訴える。韓国では、地震研究の先進国である日本の助言を仰ぐべきだ、との声も高まっている。 (ソウル曽山茂志、釜山・鶴加寿子)
=2016/10/01付 西日本新聞朝刊=