いずれにせよ潮匡人氏(軍事評論家)も指摘するように、第二次朝鮮戦争のリスクが高まってきた。これは日本とも無縁ではない。SLBMは秋田沖250キロに着弾しており、これまでに比べて大きく飛翔距離が伸びた。
自衛隊はまだ北朝鮮の弾道ミサイルが「実戦レベルには達していない」とみているが、政府は自衛隊に北朝鮮ミサイルの破壊措置命令を出した。これは迎撃ではなく、憲法上の制約で「常に迎撃命令が発令された状態」に置くことだが、こんな分かりにくい態勢で国民の安全は守れるのだろうか。
最大の問題は「金正恩後」の政権
しかし今の段階では、まだ韓国もアメリカも先制攻撃はしないだろう。北朝鮮を殲滅することはイラク戦争より容易だが、そのときと同じ失敗を繰り返すおそれが強いからだ。このときはイラクが「大量破壊兵器」をもっていると示唆しただけで攻撃し、結果的には嘘だと判明した。
今回は北朝鮮が何度も実験しているので、彼らが大量破壊兵器を持っていることは明白であり、政権を倒すことも難しくない。イラク戦争のとき米英軍は約40日でイラク全土を制圧し、死者はわずか500人だった(イラク軍は2万人以上)。
問題は、その後の占領統治だ。アメリカ政府は、かつてマッカーサーが日本を占領したときのように、独裁者から解放されたイラク国民は米国旗を振って占領軍を迎えてくれると考えたが、実際にはシーア派イスラム教徒が各地で反乱を起こし、内戦が始まった。
それ以来、イラクの内戦状態は終わらず、軍民あわせた死者は10万人を超え、「イスラム国」などの武装ゲリラによって戦争は中東全域に拡大した。北朝鮮についても金正恩の後の政権を用意しないと、同じような大混乱が起こるおそれが強い。
北朝鮮は実質的な軍事政権なので、金正恩が暗殺されたら後任は軍の指導者になるだろうが、それが金よりましな指導者になるかどうかは分からない。最悪の場合には、軍内部の主導権争いで内戦状態になるおそれもある。
「ボートピープル」が日本海で難破する
逆にいうと、国家として破綻した北朝鮮の秩序をそれなりに保っているのは金正恩の恐怖政治なので、彼がいなくなると無政府状態になり、大量の脱北者が出るだろう。韓国は38度線で警備しているので、中国やロシアに逃げる難民が多いだろうが、それも国境警備を強めると、シリア難民のように船に乗って逃げるしかない。
だが38度線の北朝鮮側から日本の山陰地方までは、上の地図のように最短でも400キロ以上ある。大量の難民が船で逃げ出すと、シリア難民のように途中で船が沈没し、日本海で多くの死者が出るおそれが強い。公海上で追い返すのが最善だが、世界中のメディアが「ボートピープル」の悲劇を報じると、日本政府は救済せざるをえないだろう。