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元文春記者が明かすスクープの裏側
2016年10月07日 06時00分

ジャーナリストとしての思いを語る中村竜太郎氏

 世の中を震撼させる数々のスクープをものにしてきた元「週刊文春」エース記者・中村竜太郎氏(52)が、自身初の単行本「スクープ!」(文藝春秋)を上梓した。そこには生々しいニュースの裏側と、足でネタを稼ぐ同氏のモットーがつづられている。ネットニュースが台頭し、メディア環境が様変わりする中、現場記者は何を心がけ、読者とどう向き合うべきなのか。本紙の連載「もっとも陽気な南米地獄放浪記」(毎週火曜掲載)でもおなじみの中村氏が、このほど、その思いと、こぼれ話を明かしてくれた。

 ――なぜ、今回取材メモを単行本にしたのか

 中村氏:正直、ノンフィクションはなかなか売れないし、アンソロジーになると、こそばゆいところもあります。ただ、活字で頑張っている人は割食っているものなんですよ。スクープ一つ取るのは並大抵のことではない。この本を通してこんな取材手法があるんだと思っていただければな、と。

 ――割食っているとは

 中村氏:まず、四面楚歌になります(笑い)。例えばASKAさんの覚醒剤疑惑を追っているとき、誰とも連絡が取れなくなった時期がありました。それどころか、親交のあるジャーナリストからは「中村と会うと疑われるから注意しろ」とか「反社会的勢力から金もらっている」とか噂を流されましたからね。

 ――訴訟も

 中村氏:僕も何回か訴えられたことはあります。負けたことはありませんけど。でも、昔に比べたら表現の自由は確実に狭まっていると思います。コンプライアンスが厳しくなった。だからこそ、裏取り取材を徹底しなければなりません。非常に労多くして益が少ない。

 ――身の危険を感じることも

 中村氏:ありましたね。真相を追っていくうちに危険な人物に会うことも少なくありません。あるとき、指定された待ち合わせ場所が、新宿の雑居ビルだったことがあります。入ると、完全にヤクザの事務所。日本刀を出されて監禁されました(笑い)。

 ――少年たちの殺人事件でツバを吐かれた

 中村氏:加害者の家族から「このウジ虫やろうが!」と言われて顔面にペッて。隣にいた新人の女性記者から『よく怒りませんねえ』と言われましたが、そんなことで怒っていたら身が持ちません。それより粛々と取材を進めたほうがいい。

 ――だからこそ活字メディアにリスペクトがある

 中村氏:みんな大変な思いをしてネタを取ってきていますからね。東スポさんもそう。ASKAさんの覚醒剤中毒は週刊文春が真っ先に実名で報じましたが、東スポさんも匿名とはいえ(それ以前に)報じていた。同時期に取材していた僕は「ヤバイ、抜かれる」と本当に不安で…。それだけ頑張っているのに「一部スポーツ紙」にはしたくない。僕の手がけた記事中で媒体名を明記するのはそれが理由です。

 ――挫折したことは

 中村氏:落ち込むことはもちろんあります。でも、挫折慣れしているところがあるかも。

 ――最近のネットニュースの台頭について

 中村氏:時代のすう勢だと思いますけど、やはり人に会って話を聞くというのが真実を知る方法だと思います。「現場100回」という言葉がありますが、丹念に聞きまわってこそ浮かび上がることがある。世の中には都合の良い情報、耳に心地いい言葉があまりにもあふれているじゃないですか。まやかしの空気感をまとっているというか。「本当はこうなんだよ」と報じるところに活字メディアの意義がある。

 ――そのために必要なこととは

 中村氏:身の回りの人を大事にすることですね。奥さんでも、奥さんの友達でもいい。そこを大事にすると、例えば待機児童の問題につながるかもしれない。スクープ、スクープと血眼になることも必要ですが、結局仲の良い人が最終的に頼りになると思いますよ。

 ――この本の推薦文は俳優の坂上忍氏が書いたとか

 中村氏:直談判しました。特別親しいわけではないのですが、番組で共演させていただいたときに、楽屋に行ってお願いしたんです。そしたら快諾していただいて。ありがたい。やはり人に会うことが大事です。

 ――今後の予定

 中村氏:ノンフィクションを書いていきたい。世の中にはこんな面白い事実があるぞ、という思いで、引き続きジャーナリスト活動を続けていくつもりです。

☆なかむら・りゅうたろう=1964年生まれ。大学卒業後、会社員を経て95年から週刊文春編集部に勤務。政治から芸能まで幅広く手がけ、数々のスクープをものにする。「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」では歴代最多となる3度受賞。2014年末で独立し、現在はフジテレビ系報道番組「みんなのニュース」のレギュラーほか、テレビ・ラジオに多数出演中。本紙で「もっとも陽気な南米地獄放浪記」を連載中。

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