最近になって、「マインドフルネス」という言葉を、ネットや雑誌でよく見かけるようになった。ストレス緩和や創造性開発の効果があるとして、米グーグルやインテルなどの企業研修に採用されたことで一躍注目を浴びるようになったが、その内容について詳しく知っている人はまだ少ないだろう。はたしてマインドフルネスとはどういうものなのか。リラクゼーションの一種のように思っている人も多いだろうが、本当はどうなのか。早稲田大学文学部長で、日本マインドフルネス学会の理事長でもある越川房子さんに教えてもらった。手軽な実践法も紹介する。
ビジネス界もスポーツ界もこぞって導入するワケ
最近耳にすることが多くなった「マインドフルネス」。一体何のことかと思っている方も少なくないだろうが、簡単に言うと、マインドフルネスとは、瞑想の手法をベースにして「集中力」を高めたり、自分の気持ちをコントロールできるようにする、いわば“心の筋トレ” のことだ。
これを実践することで、集中力が高まり、ここぞというときにベストパフォーマンスを発揮できるようになったり、仕事を効率良く進められるようになる。さらには、ストレス緩和や新しいアイデアの創造、ダイエット効果もあるといわれる。
あのスティーブ・ジョブズが瞑想を実践していたことは有名な話で、最近では、その様々な効果に着目し、米グーグルやインテル、フェイスブック、ナイキ…といった米国の企業が企業研修などに採用するようになった。
さらにマインドフルネスは、ビジネス界だけでなくスポーツ界も導入。欧米のオリンピックチームで取り入れているところもある。2016年1月の大相撲初場所で日本出身力士として10年ぶりに優勝した琴奨菊関も、それまでの精神的なもろさをマインドフルネスをはじめとするメンタルトレーニングによって克服したといわれる。今では有名になった、取り組み直前に上半身を反らす「琴バウアー」も、メンタルトレーニング指導の第一人者である東海大学・高妻容一教授のアドバイスで生まれたもので、高妻氏によるとマインドフルネスの一種だという。あの動作をすることで、自分の身体に注意を向けて集中し、それによってベストパフォーマンスを発揮しようとしているのだ。
不安やストレスの軽減効果が科学的に実証された
このマインドフルネス、1979年にジョン・カバット・ジン米マサチューセッツ大学名誉教授が、仏教の修行法としての瞑想から宗教的要素を除きストレス緩和に適用したのが始まりといわれる。しかし、広く注目を浴びるようになったのは、今世紀に入ってからのことだと早稲田大学文学部長で、日本マインドフルネス学会の理事長でもある越川房子さんは言う。
「広く注目されるようになった理由の一つは、J・D・ティーズデールやJ・M・Gウィリアムズといった信頼できる高名な学者によって理論的な枠組みと実証データが示されたこと。もう一つは、脳科学の進歩によってマインドフルネスが脳の機能と構造に変化を与えることが明らかになったこと。こうした研究によって、それまで単に主観的な気持ちの変化だと思われていた瞑想の効用に、科学的な根拠があることが明らかになったのです」
2013年には、209の研究、延べ被験者数1万2000人以上のデータを対象にメタ分析がなされ、マインドフルネスは心理的な問題、特に不安、うつ、ストレスの減少に効果があるといってよいという研究報告がされている(※1)。
また、MRI(磁気共鳴画像診断装置)を使った研究では、マインドフルネスを続けた人は、左海馬や側頭頭頂接合部において灰白質(かいはくしつ)の密度が増加したという研究報告もある(※2)。前者は、感情コントロールに関係し、うつやPTSD(心的外傷後ストレス障害)の人では小さくなっていることが知られている部位であり、後者は思いやりや共感に関わっている部位である。
こういったことを聞くと、がぜん興味が湧いてくるが、具体的にはどのようなことをすることをマインドフルネスと呼ぶのだろうか。