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ドラマ【トランジットガールズ】ゆい×小百合の近未来です。小話練習のために即興で書いたもの。
優しいピンク色だった桜が、青々とした葉桜になるころ。
私は、大学生として、新しい毎日を送っていた。
そしてもうひとつ嬉しいニュースがある。
パパとまどかさんが入籍した。
普通なら、お互いの連れ子(しかも、ビミョーな年頃の連れ子)に配慮して、籍は入れないというそんな選択肢もあるみたいだけど。
連れ子である私とゆいは、それを聞いたとたん二人で大喜びした。
もちろん、パパ自身の幸せのためもあるんだろう。
だけど、この入籍は私たちのためなんじゃないかと私とゆいは考えている。
私たちがずっと一緒にいられるように。
不器用なパパと、頭のいいまどかさんが考えて考えて決めた二人の優しさなんだと、そう思っている。
パパとまどかさん・・・いや、今はまどかおかーさん。
そして、私とゆい。
4人は、そして2人と2人は、家族になった。
*****
夕暮れの街を急ぎ足で帰る。
春物のショートトレンチを羽織って、肩に教科書を入れたデイパックを背負い、両手にはスーパーの買い物袋を提げて。
バスを降り、住宅街のなだらかな坂道を上がると、もうすぐ家だ。
少し弾む息を整えて、ポケットから鍵を取り出す。
「葉山 圭吾 まどか ゆい 小百合」
真新しい表札に顔が緩んでしまう。
表札を見てから家に入るのが、気づいたら日課になってしまった。
誰もいないリビングに明かりをつけ、ソファに脱いだトレンチとデイパックを置くと、エプロンをつけながらそのままキッチンに入った。
パパとまどかおかーさんは、1週間ほどのささやかな新婚旅行に出かけている。
私たちを二人きりにしてあげようという、両親の思いやりだ。
その証拠に、ゆいがお祝いとして旅行代金を渡していたんだけど(社会人カッコイイ!)「気持ちだけもらうよ。ありがとうゆいちゃん。でも、将来のためにこれは置いておきなさい。俺たちしばらく家をあけるけど、小百合をよろしく頼むね。」とパパが返していたところを私は目撃した。
・・・将来って、そうゆうこと・・・だよね?
いかんいかん。
このままでは蒸しまんじゅうになってしまう。
気をとりなおして、晩御飯の支度にとりかかった。
「ただいまー」
可愛い声とともに、玄関でカチャカチャと音がする。
しばらくするとぱたぱたと音がして、ガチャリとリビングのドアが開くと、綺麗な顔がにゅっと覗きこんだ。
「ゆい。おかえり。」
「すごいいい匂い。今日はご飯なあに?」
「ゆいの好きな肉じゃが。あとはお味噌汁に、おひたしとか小鉢っぽいやつ。」
「えー、すごく嬉しい。小百合のごはんおいしいもんね。」
「そうかな?」
「そうだよ。私もたまには作んなきゃって思うけど、小百合ほど上手じゃないし。」
「ゆいは何が得意なの?」
「簡単なものだよ。パスタとか。」
「むしろそれ食べたいんですけどー!」
「ふふ、分かった。じゃあ明日は私が作ろっかな。」
「やった!」
もう一度ふふっと笑って、背の高いゆいがシステムキッチンに身を乗り出した。
何をしたいのかすぐに理解して、私は目を閉じる。
そっと、唇に「ただいま」をくれたから、私も「おかえり」を返した。
*****
「小百合。けーごお父さんと、お母さんの写真出来たよ。」
リビングのソファで、食後のコーヒーを並んで飲んでいたら、ゆいが思い出したようにカバンをごそごそし始めた。
「ちゃんとレタッチしてから引き伸ばして、額に入れたら完成だけど、ひとまず小百合にだけ。」
差し出された普通サイズの写真には、緊張したパパと、綺麗なまどかおかーさんが写っていた。
「式をするのにはもういい歳だし」と遠慮していたまどかおかーさんに、写真だけでも残したいと3人で説得して、ゆいが撮ったものだ。
私はシロウトだけど、ゆいは素晴らしいカメラマンだと思った。
そこに写っていた二人は、ぎこちなさはあっても、幸せそのものの夫婦だったから。
その人の人生や生活のいいところを切り取る作業は多分カンタンじゃない。カメラ一つでそういうことが出来るゆいを、本当に凄いと思った。
「あとこれ覚えてる?佐伯さんが撮ってくれたやつ。」
覚えてる。
スタジオを提供してくれた佐伯さんが「ファミリーの写真を撮ってあげるから、エレガントな格好をしておいで」と言ってくれたんだ。
パパはタキシード、まどかおかーさんはドレス。
私はクリーム色に近いシャンパンカラーのワンピース。ゆいはネイビーのワンピースを着ていった。結婚式参列でよくある格好だけど、ゆいは手足が長いモデル体型だから、シンプルなワンピースがやけに格好良くてドキドキした。だからよく覚えている。
そこには確かに4人家族の写真があった。
でもそれだけではなくて・・・
いつ撮られたんだろう。
2人で微笑みあう写真があった。
その自然さは、姉妹のようで、家族のようで、恋人のようで。
全てを含んだような、あるいはそのどれかに限定したようにも見える、それはそれは素敵な写真だった。
「佐伯さんって、すごいでしょ?」
「うん・・・。」
あらゆる可能性を含みながらも、手にしたいカタチを選べる。そんな未来を示してもらったみたい。
ゆいが尊敬してやまないのも、わかる気がした。
「…ねえ。小百合。」
そっと、ゆいの手が私の肩を抱き寄せた。
空いている方の手が、私の手を握る。
大好きな、暖かい大きな手。
「葉山小百合に、葉山ゆい、なんだね。」
「…そうだね。なんかドキドキするよね。」
「いつかさ。4人家族から、2人家族になりたいな。」
いきなりチューしてきたり、驚きの行動を見せてきたゆいらしくない、もじもじとした言葉。
大丈夫だよ。そのためにパパとまどかおかーさんが未来を繋いでくれたんだ。だから、私の答えはもう決まっている。
「不束者ですけど、よろしくお願いします。」
一瞬驚いたゆいが、ゆるゆる首を振る。
そのたびに舞う髪が綺麗だと思った。
「小百合は不束なんかじゃないよ。可愛いし料理も上手だし…ううん、そんなのがなくたって、私は小百合が一番なんだ。」
「ゆい…。」
「小百合と一緒にいたい。ずっと一緒にいたい。」
「じゃあチューしてくれる?」
「うん。」
お互いに見つめあって、どちらともなく瞳を閉じて、そして吐息が重なる。
ねえ、ゆい。
いまお願いしたチューはね、約束のチューなんだよ。
きっと分かってるね。
いつもより優しくて、真剣だから。
テーブルに置かれた微笑みあう写真。
いつか2人して正装して、はにかみながら写るんだろう。
それはきっと、そう遠くない未来。
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