スポンサーリンク
ドラマ「トランジットガールズ」の、ゆい×小百合です。拙作「Head over heels.」の続きの小話。オリジナルキャラクターが出ます。エロは無し。
「小百合、上がったよ。晩御飯買いに行こっか。」
片付けや掃除が一通り終わり、早めのお風呂に入ったあと、ベッドに寝転んでスマホを眺めていたら、待ち人がお風呂から出てきた。肩にタオルをかけ、ブラトップとショーツという完全くつろぎ下着で歩いてくる。
「…ゆい、こっち来て。」
スマホをベッドに投げ出して、私は身を起こした。
嬉しそうにパタパタとやって来るゆいからタオルを取ると、背伸びして頭をごしごしする。
「ゆいは、いっつもちゃんと拭かない…」
しっかりしてるのか、してないのかよく分からない。…お姉ちゃんなのに、ちっちゃい子どもみたいな時もある。
「ちゃんと拭いてるよー。」
唇を尖らせて抗議したそばから、髪の束を水滴がしたたる。
「あっ…。」
「…ほら、拭けてなーい。」
バツが悪そうに視線をそらすゆいの頬っぺたを両手に挟んで、猫の挨拶みたいに鼻をくっつけた。そのまま、尖った唇にチューすると、ぱっと表情が綻ぶ。
「風邪ひくから、ちゃんと拭いて?」
笑いながらタオルを渡した。
「はーい。」
ゆいも笑いながら、素直に拭き始めた。
わしわしと豪快に拭いたせいか、癖のない黒髪があっちこっち向いている。
「あ、そうだ。お願いしてたの、どこにある?」
「そこの紙袋にまとめといたよ。」
「ありがとう。」
ゆいが使ってたキッチン用品。
1人用だから、4人家族の家に持って帰ってもほとんど使い道がない。まだまだ綺麗なのに処分するのは勿体ないなあ…と思っていたら、「綺麗なの、なにかにまとめといてくれる?」と言われて、全部綺麗だったから、選別せずに紙袋にまとめておいたんだ。
「小百合。ご飯買いに行く前に、つきあってくれる?」
「ん?いいよー。」
すっかり着替えが終わったゆいが、壁に掛けていたMA-1と、紙袋を手に取った。私もコートを羽織って、マフラーを巻く。
「…もしかして、それ、売りに行くの?」
「えっ?まさか!」
けらけらと笑いながら靴を履いて、家の鍵を閉める。
出かけるのかと思ったら、ゆいは隣の部屋の前で立ち止まり、インターホンを鳴らした。
ピンポーン…と高い音が尾を引いて、しばらくすると、がたり、と物音が聞こえた。
「…Who is it?(どなた?)」
「It's me, Yui.(私。ゆいだよ。)」
インターホン越しに英語のやりとり。
ゆいって、英語が話せるんだ!?
「Hi.Yui.」
「Hi.Jessy.」
ドアが開いて、綺麗な女の人が出てきた。
暗めの金髪に、青い瞳、白い頬。
背はゆいよりも低いけど、体つきのがっしりした、大柄な女性だ。
その人がゆいとハグを交わしている。
それが外国の挨拶だとわかっていても、なんだか胸がちくちくした。
「Just use it if you want!(良かったら使って!)」
英語で何かを言って、ゆいがキッチン用品の入った紙袋を手渡した。
…売るんじゃなく、あげるためだったんだ。
「Thanks, I really appreciate it.
Are you moving tomorrow?(ありがと。助かる。明日引っ越すんだっけ?)」
「Yeah.(うん。)」
ゆいの受け答えは、目の前の女性に比べるとたどたどしいけど、ちゃんと会話をしている。
(…私も、英語の成績は悪くないんだけどな…。)
残念なことに、学校で習う英語では会話がほとんど拾えない。自分の恋人が、自分の知らない顔で、知らない言葉で、知らない人と楽しそうに話してる…。そこに入っていけないことに軽く嫉妬と疎外感を覚えて、私はゆいの後ろで小さくなっていた。
「…Is she your girlfriend?(…この子が、彼女?)」
ジェシーと呼ばれてた女性が(かろうじてそれだけは拾えた)、ゆいの後ろでもじもじしてる私に気付く。
「Yes.my precious one.(そう。大切な人。)」
ゆいが私の肩を抱いて、言った。
いままでの気楽な会話と違って、一言一言、丁寧な口調。大切なことを言ってるんだろうけど、よく分からない。
「I got it.
…By the way,she is so cute!(そうなんだ。…それはそうと、彼女、可愛いね!)」
「Isn’t that right?(でしょー?)」
「Oh!Lucky you!(まあ!ごちそうさま!)」
えへへと、ゆいが笑った。
その顔はくしゃくしゃを通り越して、とろとろに溶けたみたいな笑顔。
ホント、一体何を話してるんだろう…。
なんかよくわからないし、ついてけなくて正直面白くない。…面白くないけど、ゆいの知り合いだから、挨拶だけはしておこうと思った。
「…Nice to meet you. My name is Sayuri.」
ゆいほど流暢じゃないかもだけど、このくらいは私でも言える。
…問題は、通じるかどうか、だ。
「Nice to meet you, too.
コンバンハ。サユリちゃんカワイくて、エイゴじょうずネ。ワタシ、ユイのトモダチの、ジェシカ、デス。Please call me Jessy…ええと、ジェシー、でいいデス。」
「え!?」
意外にも日本語で返ってきた。
驚いた私の様子を見て、ゆいが説明してくれた。
「ジェシーはね、この近くの中学で英語を教えてるんだ。同じ時期に引っ越してきて、歳も近いから仲良くなったの。私の友だちで、英語の先生。」
「…そうなんだ…ってか、ゆい、英語話せたんだ?」
うん、と軽くゆいが頷く。
「もともと、大学の教養課程では英会話を取ってたの。カメラマンになるために英語は出来た方がいいから。でも、a littleだよ。ちょっとしか話せない。だから、普段はジェシーに英語で話してもらって練習してるんだ。」
「そっか…。」
プロのカメラマンを目指すゆい。確かに将来の事を考えると、最低限英語くらいは出来た方がいいのかも知れない。
それは理解出来るんだけど…。
モヤモヤと膨れ上がる自分の気持ちを持て余しながら、何を話していいか分からなくて黙っていたら、ジェシーが話しかけてきた。
「サユリちゃん、ユイから、きいてマス。ユイの、ヨメさん、なんヤロ?」
「よ、嫁さん!?」
「No. No. ジェシー、小百合はお嫁さんじゃないよ。恋人だよ。Not a wife. My lover.」
「Oh. ちょっとマチガえた?カンニン、カンニン。ユイの、ミライのヨメね!」
「んー、うん、それはYesかな。」
笑いながら話していたゆいが、固まったり黙ったりする私に気付いて、言った。
「…あ、ごめん。小百合をおいてけぼりにしちゃってたね。えっと、ジェシーはずっと関西に居たんだって。こっちに配属になる前は、京都で教えてたらしくて…。」
金髪碧眼のジェシーから関西弁が飛び出したことに驚いたと思ったんだろう。だけど、私のびっくりはそんなことじゃなくて…。
「ゆい、私のこと話したの?!」
「ん?うん。…あれ?いけなかった…?」
だんだん、ゆいの語尾が気弱になっていく。
「いや、いけなくはないけど…なんて話したの!?」
「え?ええと、妹だけど実は義理の関係で、ホントは恋人って。」
「え!?妹ってことまで言ったの?」
「うん…。でもジェシーは大丈夫だよ!ちゃんと分かってくれてるから!」
「…。」
「…小百合?」
心配そうに私を覗き込む。
きりっとした眉が、今は困っている。
「ユイ、さっそくミライのヨメのシリにシカレてるね!」
ジェシーはゲラゲラ笑いながらゆいを茶化す。
そして、私の方を向くと、少しかがんで目線を合わせ、真面目な表情で言った。
「サユリちゃん。アメリカでは、ふたりみたいなcoupleたくさんいマスね。トクベツなことちゃうネン。ワタシ、すごくイイとおもいマス。アイシあってればNo problem. それに、ユイとサユリちゃん、おニアい。coolとcute、いいbalanceね。」
シンパイしなくてイイ、そう言ってジェシーは笑った。
屈託のない笑顔。
海外にだいぶ遅れをとって、日本でも私たちのようなカップルが認められつつある。だけど、まだまだ偏見しかないのが現実だ。パパにまどかさん、直や未来、そして葵までもが理解してくれたのはホントに珍しいことだって分かってる。
両思いの二人が、付き合う。
それは男女でなくたって一緒だ。
間違ったことは何一つしていない。
なのに傷付く。傷付ける。
…そんなのはもう嫌だった。
だから、ゆいがあまりにも簡単に、しかも私の知らないところで何でもジェシーに話していたのかって思ったら、最初に感じた疎外感やヤキモチとともに、腹が立ってしまったんだ。
…だけど。
ジェシーだから話せたのかな。
まだ会って数分しか経っていないけど。
短時間で人を見抜けるほど、人生経験豊富じゃないけど。
ジェシーなら、ありのままをまっすぐ受け止めてくれそうな気がする。
ニコニコとこちらに向けられる、裏表がない笑顔を見ていたら、私もなんだか好ましく思えてきた。
私の肩にポンと手を置くと、屈んでたジェシーが立ち上がった。
そのジェシーを見上げて、私も笑顔を浮かべて言った。
「…Thank you.」
ずっと寂しかったゆいと仲良くしてくれてありがとう。そして、私を気楽にしてくれてありがとう。
いろんな、ありがとうを込めて。
「Anytime!」
「?」
「どういたしまして、いつでもどうぞ。…だって。」
隣のゆいが教えてくれた。
分かってもらえたのかな…?
ジェシーを見ると、笑顔で頷いていた。
…なんだか、嬉しかった。
「そいえば、ユイ。どこかにでかけるんカイナ?」
ニコニコと笑顔を浮かべたまま、ジェシーが聞いた。
「晩御飯まだ食べてないから、買いに行くんだ。」
ジェシーが「Oh!」と言って胸の前で手を打ち鳴らした。
「ワタシもマダやねン。それナラば、イッショにたべまショウ!ヒトリよりフタリ、フタリよりサンニンやと、ゴハンめっちゃおいしくなるんヤデ。」
「私はいいけど、小百合…いいかな?」
「もちろん。それならピザとか取れば良くない?」
宅配ピザなら、ドリンクも注文できるし、買い物に行かなくてよくなる。色んなものを買ってきてパーティってのも楽しいけど、ジェシーにゆいの話を色々聞いてみたい。買い物に出かける時間さえ勿体無いと思った。
「それイイね。To see eye to eye! ユイのヘヤ、きれいにソウジしたんヤロ?では、ワタシのヘヤにキテください。」
私たちの肩を抱いて部屋に招き入れるジェシーを挟んで、ゆいと私は顔を見合わせ、笑った。
✳︎✳︎✳︎
「…ゆい、おーい、ゆいー。」
「ユイ、いそがしそうダッタ。タブンつかれてる。サユリちゃん、しばらくネカせてあげマショウ。」
疲れもたまっていて、お腹もいっぱいになって、少しお酒も入って気持ちよくなったのか、ゆいが私の膝を枕にすやすや寝始めた。揺さぶっても起きないゆいに、ジェシーが膝掛けをかけてくれた。
「サユリちゃん、アシ、いたくナッタら、ユイのアタマ、これにオクといい。」
そう言ってクッションを渡してくれた。
日本好きのジェシーの部屋は全体的に和テイストだけど、ベッドはアメリカのホームドラマで見たのと同じで、可愛いクッションがいっぱい並べてある。
「ありがとう。小百合で、いいです。」
「サユリちゃん、ジツはいいにくい。nicknameつけても、いいデスカ?」
「ニックネーム?いいですけど…。」
「じゃあ、リリー、ってよびマス。」
「…リリー?」
「ユイに、サユリちゃんのナマエは、ちいさなユリってかくとききマシタ。ユイは、ワタシにニホンのことおしえてくれる。だからワタシは、ユイにエイゴおしえてる。」
なるほど。
小百合、だからか。
「じゃあ、リリーで。」
自分で名乗るのはだいぶ恥ずかしいけど、いままであんまりあだ名で呼ばれたことがなかったから、なんだか新鮮だ。
「リリーも、テイネイなハナシカタ、せんでエエで。」
「…うん!」
なんか、よく似たやり取りをしたことがあったなと懐かしくなって、眠るゆいを見た。私の方を向いてるから、あどけない寝顔は私だけのものだ。それがちょっと嬉しい。その姿を見て、ジェシーが言った。
「ユイ、アンシンしきってるネ。リリーがそばにいる、ホンマ、よかったワ。ユイ、リリーのそばにイレないこと、めっちゃサミシがってた。リリーのハナシ、めっちゃシテた。」
「え?そうなの?…ゆい、何て言ってた?」
「そやナー…ドコがスキかキイたら、ゼンブダイスキ!っていってタから、それじゃワカラン!いいマシタ。そしタラ、カオがカワイくて、コエがステキで、ヤサしくて、アタマがよくて、リョウリがジョウズって、めっちゃホメてた。」
「…!」
うう、恥ずかしい。
すごい嬉しいけど、それ以上に恥ずかしい。
更にジェシーが「カオがカワイイ、コエがステキ、ホンマのコトや!」と追い打ちをかけるから、恥ずかしくてたまらず、俯いてしまった。
「…あト、セカイいちダイジ。ずっとイッショにいて、マモリたい。っていってタ。」
ぼそりとジェシーが呟く。
ハッと顔を上げると、ジェシーが何かを思い出すように遠くを見ていた。
声をかけようかどうしようか悩んでいたら、ふっと我にかえったように私の方を向いて、話し始めた。
「…リリーに、ムカシバナシ、します。ワタシ、はじめてKyotoにキタのは、Boyfriendとヨリをもどしたかったからヤネン。」
「京都に?なんで京都??」
「キフネジンジャ、って、しってハル?」
知らない。
関西には修学旅行で行ったことあるけど、京都なら清水寺、奈良なら法隆寺とか、メジャーなところだった。だから、聞いたこともない名前だ。
「キフネジンジャ、わかれたヒトとりもどすチカラがあるネン。」
「復縁の神様ってこと?」
「フクエン…ああ、ヨリもどすコトね?」
「そうそれ。ジェシーは上手くいったの?」
「It went well!Boyfriend、もどってきた!ワタシたち、ヒドいケンカしたのに、スンナリもとにもどれてン。キフネジンジャ、ホンマごリヤクある!」
「えっ、すごい!」
…だけど、と、ジェシーが続けた。
「ヨリをもどしたケド、そのコロには、ワタシ、すこしズツBoyfriendスキじゃなくなってた。ニホンがスキになってた。だから、ヤッパリ、わかれてン。」
「そうだったんだ…。」
「カナしいカオ、しないデ。ワタシ、イチバンのネガイはカナえた。カナえたアトで、イチバンがカワッてしまった。…ソレは、サミしいけど、カナしいことじゃナイ。」
物事は変わる。
世の中も、人も、心も。
ただ、変化の中で、掴むものだけは選べる。
『変わる』ことが選べるように、『変えない』を選ぶことも出来る。
ゆいは、ずっと私を選び続けて、それを変えない。
それがゆいの言う「変わらない」という事。
…そして、私がずっと、心から望んでいた、愛し方。
「瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の われても末に あわむとぞ思ふ」
「え?」
いままでのユニークな日本語と違って、流れるような、美しい発音。
日本人でも、なかなかこんな綺麗には詠めない。
…驚いていたら、ジェシーがふふっと笑った。
「ヒャクニンイッシュ、ね。
いまはワカレてても、ミライはいっしょにいられるとシンジてます、いうイミ。…ワタシ、ユイにこのウタ、おくった。さっきの、ムカシバナシしたあと。」
「ゆいに…?」
「Yeah.そいえば、ユイもオナジところデ、カナしいカオしてタ。」
よくニテる、と笑いながら、ジェシーは続けた。
「ワタシ、ユイにいった。Pray from the bottom of my heart. ココロのソコからイノれば、かならずカナいマス。サキのことは、カナえてからカンガエたらいいって。」
「祈り…。」
ゆいを探して駆け上がった石段の先。
拝殿の前で手を合わせるゆいの姿。
すれ違いもせず巡り会えたのは、偶然なんかじゃない。働いてるゆいと、高校生の私とでは、そもそも自由になる時間が違う。示し合わせでもしない限り、あのタイミングで会うことは不可能だ。確実に、何かが力を貸してくれたと思う。ゆいの祈りが、私の願いが、はじまりの場所でもう一度始められるよう、導いてくれたんだ。
「ジェシーのおかげかも知れないね…。」
「ナニが?」
「ゆいと私が、今、こうしていられてること。」
私は、ゆいと二人きりの世界が欲しいと思ってた。
二人だけなら、誰も傷付かないし、傷付けないでいい。そしたらどれだけいいだろうって。
…だけど、二人きりでないこの世界だったから、たくさん支えられ、助けられてもいたんだ。
みんなが居なければ、私たちは願うことも、祈ることもなく、きっとすれ違っていた。
「そうだ。ジェシー。LINEやってる?」
「LINE?やってンで。ユイともよくハナシてる。」
「私ともLINEやってくれる?」
「モチロンエエけど。どしタん?」
ジェシーがスマホを取り出しながら、聞いた。
「…結婚するとき、知らせたいから。」
「Oh! そうダッタ!ミライのヨメ!」
「そうだよ。まだまだ先の話だけど。」
「ゼンはイソげ、いいマス。もうケッコンしたらエエんちゃウ?」
「私、これから大学受験なのに?(笑)」
「ガクセイケッコン(笑)」
スマホを片手に二人で笑っていたら、膝の上でゆいがもぞもぞし始めた。
「…ん…、なんか、ずいぶんたのしそうだね…。」
ゆいは、のそりと起き上がると、目をこすり、自分に掛けられてたひざ掛けを畳んでベッドに置いた。
「よく寝た…。ごめんね、膝痛くなかった?」
「全然大丈夫!」
むしろ可愛かったです、ありがとうございます…とは言えない。
「ジェシーも、ごめんね。寝ちゃって。」
「え?ゼンゼンダイジョウブ!」
「…ん?あれ?なんか仲良し?」
いつの間に?って言いたげな表情で、ゆいがつぶやいた。
「色んな話したもんね。ねー、ジェシー?」
「そヤネー。リリー。」
「…リリー?」
「あ、私のあだ名。」
「えー、もうそんなに仲良しなの?なんかずるい。なんで私寝ちゃったんだろ…。」
心底残念そうに言うゆいを見て、ジェシーが吹き出した。
「アハハ!わかっタ、わかっタ。まだ9ジやし、もうイッカイのみナオそ?」
「あ、じゃあ私、そこのコンビニまで飲み物買いに行ってくるよ。」
「私も一緒に行く!」
ゆいが立ち上がりジャケットを羽織った。私もコートを羽織る。
「じゃア、ビールかってキテ。モルツ。」
「はーい。」
「すぐ戻るね。」
ジェシーが、空いたピザの箱やお皿を片付けながら、「モルツ、2ホンね!」という言葉とともに、見送ってくれた。
✳︎✳︎✳︎
「…小百合が、ジェシーと打ち解けてくれて良かった。」
コンビニからの帰り道。
袋を下げたゆいと、手を繋ぎながら歩いた。夜の空気に白い息が浮かんでは消えるけど、ゆいの手があったかいから、寒さはあんまり気にならない。
「ゆいの友達ってあんまり知らないから、なんか嬉しいよ。」
「ありがとう。友達、いないわけじゃないけど、小百合みたいに、いつも一緒にいる友達はいないかも。」
まあ、大人だもんね。
学生と違って、友達に割く時間は減るのかも知れない。
「いろいろ、いい話したんだよ。」
「そっか。」
「あれ?気にならないの?」
ずるい、とか言ってたから、二人きりになったら、根掘り葉掘り聞かれると思ってたのに。
「小百合のことはどんなことでも気になるよ。でも、小百合とジェシーの話でしょ?二人でした話を聞き出すのはどうかなって。それにね…」
ゆるく繋いだ手が、ぎゅっと握られる。
「小百合は、必要なことはちゃんと話してくれる。だから、小百合が話さないことは、今は必要ないことなのかなって思ってるんだ。」
そう言って、ゆいはにっこり笑った。
「…やっぱり、ゆいはオトナだね。」
「え?何が?」
「私がゆいだったら、ヤキモチやくよ?…初めてジェシーに会った時だって、私ヤキモチやいてたもん。」
「そうなの?」
「うん。私、ゆいが英語しゃべれるの知らなかった。ジェシーは知ってるのに。しかもなんか親密だったし。」
「…小百合。」
急に、ゆいが立ち止まる。
手を繋いだままだったから、私の身体がゆいの方に傾いて、そのまま抱きとめられる。
「…!」
「…私だってヤキモチはやくよ。」
抱き寄せながら、ゆいが呟く。
いつも通りの優しい声に、少し拗ねたみたいなトーン。でも、見上げた顔は柔らかく微笑んでた。
「でもね、小百合のこと信じてる…。ううん、小百合のことを信頼してる自分を信じてる、なのかな。」
「えっと…?」
ゆいの話は時々むずかしい。
思わず、聞き返してしまった。
「…私、小百合のことが好きって気持ちに胸を張れてて、それがそのまま自信に繋がってる。一喜一憂しても、最終的には二人で笑える気がして。ああ、大丈夫なんだって思えるの。」
「ゆい…。」
「小百合のそばにさえいられたら、私はヤキモチやくことだって楽しい。」
そう囁いて、ゆいの顔が近づいてきた。顎を上げて目を閉じる。唇に暖かい吐息がかかり、柔らかい感触がぴったりとくっついた。大好きなゆいの唇。何度かくっつけあって、そして離れた。
「…でも、リリーは気になるなー。…というより、ちょっと面白くない。」
「面白くない?」
「そうだよ。私なんか友達じゃなくて恋人なのに、みんなと同じ小百合って呼んでる。」
小百合って呼ぶのは好きなんだけどね、って、ゆいが笑った。
「…実は、呼んでほしいの、いっこあるんだけど。」
「え、なあに?」
「 」
寄せられた耳に背伸びして、そっと囁いた。
ゆいの頬っぺたが、月明かりの下でも分かるくらい、真っ赤に染まった。
「さ、小百合!」
「呼べるようになったらで許してあげるよ。…早く戻ろ?ジェシーが待ってる。」
そう言って駆け出した。
少し遅れてゆいが追いかけてくる。
12月末の冷たい夜風が、なんだか心地よく感じた。
ねえ、ゆい。
目まぐるしい変化の中、たくさんの選択肢から選んでいくことが人生なんだとしたらね。
毎年、毎日、毎分、毎秒。
…私は、ずっと、ゆいを選び続ける。
------
アパートが外国風の外観だったので、外国人が仮住いにするアパートだったら面白いなと思って思いついた話ですが、内装がまさかの畳だったので(沙莉ちゃんのツイートより)お蔵入りになっていた小話です。英語がおかしくても笑って許してください。外国の方は引っ越すときに隣人に使ってたものをあげる人が多いみたいで、私はエチオピア人に七輪貰いました(笑)
スポンサーリンク
スポンサーリンク