『メタルギア』シリーズを生み出した“監督”が語る
小島秀夫「VRは物語に不向き。でも僕は工夫次第で…」
2016.10.07 FRI
小島秀夫
1963年東京都生まれ。86年コナミ入社。87年初監督作品『メタルギア』をリリース。その後シリーズ化し、2016年『メタルギアソリッドV』を発売。ほかにも、『スナッチャー』『ポリスノーツ』など、数々のタイトルをリリース。米ニューズウィーク紙 「未来を切り開く10人」(01年)、「Game Developers Choice Awards」生涯功労賞(09年)などを受賞。2016年独立し、コジマプロダクションを設立。同年2月にD.I.C.E. AwardsでHall of Fame(栄誉殿堂入り)受賞。5月にファミ通アワードでMVP受賞。7月にThe Develop AwardsでDevelopment Legend(レジェンダリー賞)受賞。最新作となる「Death Stranding」は鋭意開発中!
撮影:澤田聖司 最近なにかと話題のVRだが、とくに盛り上がっているのがゲーム業界。硝煙の匂い漂う戦場にいるかのようなFPS(ファーストパーソンズシューティングゲーム)や、まるで本物の車の運転をしているようなドライバー視点のレースゲームなどなど…。素人考えでも、VRゲームのワクワクするような世界が脳裏に広がる。ならば、ゲーム業界のトップクリエイターの目に、VRはどのように映っているのだろうか。『メタルギア』シリーズなどを生み出したことで知られ、現在はコジマプロダクションの代表を務める小島秀夫監督に、話を聞いた。
小島秀夫監督、25年以上前から「VRは必ず来る!」と信じていた
「80年代かな。自分が見たものを記録して、ヘッドマウントディスプレイを通して人と共有できる未来を描いた『ブレインストーム』(83年)という映画があるんですよ。そんな未来に可能性を感じて、90年代に『バーチャルリアリティ』を商標登録しようとしたんです。調べたら誰も取っていなかったんですけど、ほっといたら誰かに取られちゃいましたが…。ファミコンの次はVRが来る!…くらいに思っていたので、今の状況はすごく嬉しいですよ」
小島監督がゲームとVRの融合について、具体的な“出会い”を果たしたのはそれから約10年後。2000年前後の当時、PlayStation 2で『メタルギアソリッド2』(2001年)を開発していたときのことだそう。
「当時ソニーさんがヘッドマウントディスプレイ(HMD)を作っていて。顔の向きに合わせて視界がパンする、PlayStation VRの原型みたいなものだったんですね。ただ、技術とコスト面がクリアできず、『メタルギア』での採用には至らなかった。その後、今から3年くらい前かな。またソニーさんに呼ばれて、ヘッドマウントディスプレイでVRのクルマのゲームをやったんです。だからね、パッと出じゃなくて、今の状況はずいぶん長い研究開発の延長線上にあるわけです」
そこでの体験は、ゲーム制作者の感性を刺激するものだったという。
「ディスプレイの先にハンドルがあって、ボンネットがあって、上を向くと屋根があって…ポリゴンでできたCG空間なんですけど、HMDを付けたままだと、屋根を意識してイスから立てないんです。本当は会議室にいるってわかっているのにですよ。あのときに『これはすごい!』と思いました。ゲームでもテレビでも映画でも得られない感覚ですよね」
VRは物語を追体験するのに向いていない!? ゲーム制作者がぶち当たるジレンマ
これまでの映像体験は、スクリーンやテレビ画面といった“フレーム”にとらわれて、自分と作品の間に距離があるのが常識だった。VRによる体験は、そのフレームを取り払い、体験者を作品内に取り込む画期的なことだと感じた。ユーザーの視覚的自由度が格段に跳ね上がる一方、作り手としては大きなジレンマを抱えざるを得なかったという。
「某スタジオで、制作中のVRコンテンツを見せてもらったんです。HMDを通して、自分はホテルのお客さんになっている。ボタンがあって、それを押すとカウンターにホテルマンが出てくるんです。英語をしゃべりながら来るんですけど、それだけで“そこにいる感”が怖いんです。どんなによくできたホラー映画でも表現できなかった、生々しい見知らぬ人の怖さがそこにある。コミュニケーションの怖さというか。VRでの体験は、HMDを通して作品のなかに自分を置くことができるわけです。
しかし自分=主人公になったとき、そこにドラマを入れようとすると途端に難しくなる。小説も映画も、主人公の背中を追うことで追体験するわけじゃないですか。過去があったうえでの行動原理がキャラクターだとしたら、自分が主人公となるVR体験は、自分と主人公の乖離が必ず発生するんです。ストーリーテリングに向いていないんですよ。VRと近い体験ができるFPSの多くがコンバットものばかりなのは、敵と味方が存在する単純明快な行動原理と、向こうから向かってくる敵を倒すという目的、仲間を助けて平和をもたらすような簡単なストーリーだからです。それくらいしか向いていないんです」
かくしてVR黎明期である現在、発売予定のものも含めてタイトルを見回すと、FPSやホラーゲーム、レースゲームといった、“わかりやすい”ものが並んでいるのはそういうことなのかもしれない。しかしVRゲームの可能性を見切るのには、いささか時期尚早だ。
「そのあたりは、ゲームの根本的なデザインの部分でどうにかなると思っています。工夫次第で解決できるんですが、それを言ってしまうわけにはいきません(笑)」
■最新作「Death Stranding」はVRに対応するのか!?(後編はこちら)
(吉州正行)