医師人選で患者ら反発
がんの領域で国内最大の学会「日本癌治療学会」(理事長=北川雄光慶応大教授)の学術集会に合わせ、同じ会場で22日に開かれる市民向けイベントで、根拠が不十分な治療を実施している医師が相談に応じることが明らかになった。医師や患者団体が反発し、抗議の退会者が出るなど混乱が広がっている。イベントを共催する同学会は対応を協議し始めた。
「根拠不十分な治療実施」
イベントは「がん撲滅サミット2016」。22日に学術集会と同じ横浜市内の会場で開かれる。イベントの中で、会場の参加者の相談を受ける5人の医師のうち2人が、「少用量抗がん剤治療」「血管カテーテルがん治療」など、有効性や安全性などについて科学的根拠が確立していない治療を自由診療で提供するクリニックの医師と発表された。
これに対し、患者会「卵巣がん体験者の会スマイリー」が4日、「有効性や安全性が確かではない治療法を学会共催のイベントで紹介すると、医療知識のない患者や家族は惑わされる」と共催を見直すよう求める意見書を同学会に提出。同学会員の医師が抗議の退会をしたり、署名活動の準備を始めたりするなどの動きも出ている。
イベント実行委会長の鈴木義行・福島県立医大教授によると、登壇者は作家や弁護士ら同実行委の顧問らが選んだ。鈴木教授は「5人のうち3人は科学的根拠に基づく医療を提供しているが、根拠の少ない治療について知りたい患者もいると考えた」と説明する。学術集会の責任者の中野隆史・群馬大教授によると、イベント事務局から共催を提案され、了承したという。
北川理事長は毎日新聞の取材に、「7日を期限として理事会で対応を協議している。学会は、患者に正しい情報を科学的根拠に基づいて伝えることは重要と考えているので、何らかの変更をしたい」とコメントした。
日本臨床腫瘍学会の理事長を務める大江裕一郎・国立がん研究センター中央病院副院長は「(登壇した医師が)科学的根拠に乏しいときちんと明示して話すか分からないうえ、学会のイベントとして開催すれば、そうした治療にお墨付きを与えることになる。そのような事態は避けるべきだ」と話す。【高野聡】