昨年、スーパーコンピューター(以下:スパコン)を開発する技術者界隈で大きな衝撃が走った。先進国が国をあげて開発するスパコンの性能の高さを競う世界大会。国内では富士通やNEC、海外ではインテルやIBMなど大手企業が多額の予算と時間をかけて開発している。そんな世界大会で昨年、たった20名前後のベンチャー企業が開発したスパコンが世界ランキングの1~3位を総なめにし、話題となった。
なんでも次世代の「エクサ」という単位のスパコンがやばいらしい。
そんなスパコンの開発者であり、近い将来「エクサ」が私たちの生活に大きな変化を与えると示唆するPEZY Computing 社長 齊藤元章氏をご存知だろうか。あまりの面白さに『Catalyst』史上初の全10回連載を予定することにした。初回は「エクサ」の規模と可能性について『Catalyst』監修役の渡辺が核心に迫る。
これから繰り広げられる話はSF小説でもなんでもない、すぐそこに待っている未来の話だ。『Catalyst』読者の価値観が大きく変わる衝撃的な出来事がそこに待っているはず。
テラ、ペタ、エクサ、「エクサ」とは何者なのか
渡辺 健太郎(以下:渡辺):『エクサスケールの衝撃』という著書を読ませていただいて、テラは日常的につかわれていて、ペタもなんなく知っているかなと。「エクサ」というのは商品がないので「エクサ」がどれだけすごいのか改めて教えていただけると。
齊藤 元章(以下:齊藤):ペタという単位自体も、触れることはなかなかないですね。コンピューター関係者でもペタの性能に触れることができるひとは、現時点では世界中でも非常に限られます。
PEZY Computing 代表取締役社長 齊藤元章氏
渡辺:エクサというとテラの100万倍、ペタの1000倍。これが理解できるのかということですね。
齊藤:エクサという単位自体が100京(京は1兆の10,000倍)にあたるんですが、単位自体にもちろん意味があるんですけれど、ちょっとそこから離れて考えてみましょうか
ムーアの法則が終わるとか終わらないとかと、言われてます。ちょうど今年でムーアの法則の50周年になるわけですけれど、この50年間、たゆまず1年半、18カ月で1つの半導体に集積できるトランジスタ数が2倍になってきました。これは1年、12カ月では160%なんですね。毎年1.6倍ずつ、1つの半導体に集積できるトランジスタ数が増えていくということなんですね。
ところが、コンピューターそのものの進化でいうと、そのまま1.6倍ということではないんですね。
なぜなら現在のスパコンは、1個の半導体が使われているのではなくて、へたをすると100万個単位のプロセッサを使っていたりもするからです。
コンピューターをシステムとして捉えたとき、実は60%ではなくて、毎年100%ずつ性能が伸びているんです。1年に2倍ですね。これを10年続けると1024倍なります。ですから、この1000倍という単位は、ITの世界では実はたった10年でクリアできてしまうんですね。その更に1000倍の100万倍でも、僅か20年でクリアできてしまうことになります。
渡辺:なるほど。
齊藤:コンピューターの性能に限らず、マイクロSDカードの容量って2005年当時は128MBでした。いまでは普通に128GBが売られていて、去年の年末には512GBになっていました。容量は11年で4000倍にもなっているんです。
渡辺:たしかに。それは分かりやすいですね。
齊藤:だから性能とか容量っていうのはコンピューターの業界でいうと、ざっくりですが毎年2倍、10年で1000倍、20年で100万倍になることが当たり前だと思わないといけないんです。
コンピューターって1942年、43年頃に最初のものが動き出して、当時は戦争の暗号解読とかにENIACとかが使われ始めたのが最初ですが、たった73年前の話なんですね。
ムーアの法則以後のこの50年間だけとってみて、どうなっているかというと、毎年2倍で50年。性能は何倍になっていると思いますか。
渡辺:1000の5乗ですね。
齊藤:そうですね。これを計算すると、実に1126兆倍にもなっているわけですよ。
渡辺:(笑)
齊藤:10年で1000倍、20年で100万倍、30年で10億倍、40年で1兆倍、50年で約1000兆倍。これだけの進化を過去50年で遂げているんですね。
テラは現在、誰もが当たり前に使えるようになりました。でも10年前、20年前を思い出していただくと、誰もテラなんて触ったことがないわけですよ。
渡辺:そうですね。言葉もほとんど使われなかった。
齊藤:20年前の当時は、まだメガバイトが主流だったわけですよね。フロッピーディスクは1.4メガバイトとかでした。
スーパーコンピューターをスマホ感覚で使える時代
齊藤:エクサって誰も想像つかないと言われてますけど、数年するとペタは普通に使われるようになっていて、10年経つとペタの1000倍のエクサも、スパコンではなくて個人レベルで使えるような時代に必ずなります。
渡辺:そうですよね。20、30年前にスーパーコンピューターと呼ばれていたものがいまのiPhoneと同じくらいと言われているので。
齊藤:そうですね。だいたい20年くらいでスマホくらいの大きさになるので、現在世界一と言われているスパコンは、15年から20年で手のひらサイズになります。
渡辺:全員がいまでいうスパコンを持っているという世界ですね。
齊藤:そうです。だからエクサというのは、はるか遠い未来の話ではなくて、数年で身近なものになってきますね。
テクノロジーや人工知能の進化などの加速する要素が増えてきていて、これが相互作用で加速度を加速させているので、これまでの50年間は1年で2倍の性能向上速度でよかったんですれけど、たぶんこれからの50年間は1年で2倍などではすまなくなります。進化が更に加速化されていくことは、疑いの余地がありません。
渡辺:もうすでに加速していると認識ですよね?
齊藤:そうですね。
加速度を加速させる要素であるテクノロジーや人工知能、その中でも今年に入って人工知能のトピックスが世の中を賑わせている。いまもなお進化を遂げている人工知能が人類の頭脳を超えるとき、いままでの前提自体が変わり、人類に大きな変化が訪れる。
次回は、人工知能の進化と迎えるであろうシンギュラリティについて語る。