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“車のない理想の街”曲がり角 高齢化の波…通行緩和に賛否の声

産経新聞 10月6日(木)14時53分配信

 約2万人が暮らす大阪市住之江区の南港ポートタウンで、車に依存しない生活を実現しようと40年近く続く全国でも珍しい交通政策「ノーカーゾーン」が岐路に立たされている。公害や交通事故から住民を守り、緑豊かという“理想の街”だったが、高齢化に伴い、車を利用せざるをえない住民が増加。今年9月から一部の車両通行を認め、規制を緩和した。理想の街は今、現実との間で揺れている。(吉国在)

 人工島「咲洲(さきしま)」内にある南港ポートタウン。約1キロ四方(約100ヘクタール)の街は、大阪市が公害問題に対応する環境モデルとして整備を進め、昭和52年から入居が始まった。騒音や排ガス、交通事故から住民を守り、静かで緑豊かな街づくりを目指そうと、行政や警察が話し合い、道交法の車両通行禁止区域に指定。進入ゲート1カ所を設け、近くの南港中央交番か、約5キロ離れた大阪府警住之江署で許可を得ない限り、自転車を除く車両の通行を禁止してきた。

 駐車場も原則、区画外に借りなければならない。市港湾局によると、これほどの大規模コミュニティーでの車両通行の規制は全国でも他に例がないという。そうやって実現した理想の街を、タウン内に住む大学3年の女性(20)は「子供のころから車を気にせずに遊べたし、安全で静かだった」と説明する。

 ただ、平成に入り、高齢化社会という現実が理想の街を覆い始めた。国勢調査の統計によると、昭和56年に南港ポートタウン線・ニュートラムの中ふ頭-住之江公園駅間が開通し、人口は急増。ピークの平成2年には約3万2千人に達した。しかし、その後は減少に転じ、市の推計では昨年は約2万1千人に落ち込んだ。とくに住民の高齢化は著しく、65歳以上の比率は31・7%。市全体に比べ約5ポイントも上回る。

 介護士の山元典子さん(61)は「駐車場から重い買い物袋を提げ、かなり歩かなければならない。お年寄りも増え、不便で引っ越す人も多い」と話す。地元住民らは今年に入って規制の見直し議論を本格化。6月から実験的に緩和し、これまで許可が必要だった、高齢者や幼児を含む歩行困難者が乗った車やタクシー、荷物運搬車を規制対象から除外。ゲートの警備員に通行届を提出するだけで進入できるようにし、実験結果を踏まえ、9月から正式に緩和した。

 しかし住民の間で賛否の声が渦巻く。ある主婦は「足の悪いお年寄りを送迎するのに車が必要なのも分かる」と理解を示す一方で「車の騒音がうるさくなった」と、複雑な表情。パート従業員の宮下訓枝(くにえ)さん(51)は「車が何台も連なって平気で駐車している。ルールが緩くなり過ぎた」と話す。

 交通計画に詳しい大阪市立大工学部の日野泰雄教授は「欧州では、歩行者と車を分離する考え方が一般的だが、日本では非常に珍しい」としたうえで、「ノーカーの理念に共感して入居した世代が高齢化し、世代交代の時期を迎えている。住民のニーズの変化に合わせ、試行錯誤しながら元の理念は残す方策を見いだしてほしい」と話している。

最終更新:10月6日(木)16時33分

産経新聞

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