難しい映画は苦手です。
だって疲れちゃうから。
あんまり難しいと頭から煙がぷしゅうっと出てきそうになります。
クリストファー・ノーラン。
間違いなく今映画界のトップを走る監督の1人。
でも彼の作品はどれもこれも難解で長い。
かなり疲れます。
なのに面白い。
なぜだ?
彼の作品の中でもとりわけ難解なこの作品を振り返りながら考えてみようと思います。
2010/アメリカ
監督:クリストファー・ノーラン
出演:レオナルドディカプリオ、渡辺謙、ジョゼフゴードンレヴィッド、エレンペイジ、トムハーディ、マイケルケイン、ほか
上映時間:148分
78点
ざっくりあらすじ
人の夢に入り込み潜在意識の中から秘密を盗み出すプロフェッショナル コブ(レオナルドディカプリオ)
しかし彼はその才能の為、妻殺害の容疑で国際指名手配されており、子供の待つ母国には足を踏み入れられない存在となっていた。
そんな彼に目を付けたのが日本の大企業。
その力はコブの容疑そのものを消すほど強大なものであった。
企業の依頼とは、世代交代をしたばかりのライバル企業の二代目の夢に忍び込み、企業解体の意識を植え付けるというもの。
他人の夢に忍び込み意識を植え付ける、それはインセプションと呼ばれ不可能かつ危険と言われている。
しかし、コブはかつてインセプションに成功していた。
妻の死と、その容疑者になるという大きな代償を引き換えとして。
そしてコブは子供の待つ家に帰る為、再びインセプションに挑むことを決意する。
夢を描いたテストの裏
紙ヒコーキ作って 明日に明日に投げるよ
難解な映画を撮る監督といえば、デヴィッドリンチ、テリーギリアムあたりを思い浮かべます。
好きな監督です。
彼らの作品の難解さはどちらかといえばアートよりで、もうひたすら自分の世界観を構築してます。
分かる人だけ分かればいい、ブルースリー風に言えば
ドンシンク!フィーーーゥ。
という感じでしょう。
感じ取れる部分だけ感じれればいっか、と開き直って鑑賞出来ます。
一方クリストファーノーランの難解さは理数系の難解さです。
ちゃんとした答えがあるっぽいのです。
〇〇を考察してみた的な人には堪らないでしょう。
僕は文系の3流大学出身ですから、理数系とかじんましんが出るくらい苦手です。
テスト開始10分後には諦めてテスト用紙の裏にドラえもんを書き出すタイプです。
しかし科学雑誌Newtonの宇宙の真理とは!相対性理論とは!みたいな特集を、半分も理解出来てないくせにフムフムと解かった顔で読むのが好きだったりもします。
ノーランの上手いところはまさにそこなんです。
なんか解かった顔をさせてくれる作品創りの天才なのです。
この作品はそれの象徴的作品。
複雑難解なのは細部で、大枠は夢の中に入って深層心理に意識を植え付けて来る(インセプション)それだけです。
複雑な数式に見えて、実は足し算、引き算、掛け算、割り算、と小学生で習う算数の組み合わせだったりします。
難解な映画を撮る監督はマニア好みになりがちなのに、ノーランが大衆受けするのはその辺なんでしょうね。
難しく考え出すと結局全てが嫌になって
そっと そっと 逃げ出したくなるけど
先ほどの話でなんだ足し算引き算か…となった未見のあなた!
いったい何桁の計算だと思ってるんですか?
フラッシュ暗算得意ですか?
そろばんチャンピオンですか?
舐めて観てるとすぐ???てなりますよ!
僕なんかは紙に書き出して鑑賞してましたから。
この映画を難しく感じさせるところ、それは夢の中で夢を見て、その夢の中でまた夢を見て…
深層心理に向かい何層も夢を潜って行くところ。
しかもそれが同時進行で描かれます。
この場面は地下2層で、あっちが3層でしょ?あれ?あれ?
油断してるとすぐ迷子になります。
しかも1つ上の層で起こった現象は1つ下の層に影響を及ぼします。
例えば、地下1層で乗ってる車が橋から川に落ちます。
車の中にいる人間が上にふわっと浮きます。
すると、地下2層の人間は無重力になります...
(急降下と急浮上の繰り返しで無重力になるのであって、急降下だけだったら天井にビターンってなって終わりじゃないっけ?別にいいけど)
でも地下3層の人間の重力は変わりません。
連鎖は無し?う~~ん。
でもそんなの一瞬で終わりじゃない?
ここがさらにややこしいところです。
夢の中の時間は現実より長く感じます。
現実の5分は夢の中では1時間(12倍)
しかもその現象は深層心理にむかって下に潜れば潜るほど長くなります。
地下1層の10秒は2層では3分(18倍)で3層では60分(20倍)...
ということは現実時間と比較すると...そろそろ頭がプスプスいって来ました。
とりあえず下にいけばいくほど長くなるのね?
この辺で僕はノートとペンを捨てドンシンクフィーーゥを発動させました。
頭から煙が噴き出しても面白いから観るのをやめられないし、何回も観ちゃう。
それはノーランがエンターテイメントを第一に考えてくれている監督さんだから。
この映画でいえば、まずは出演者の豪華さが凄い!
主演のレオ様(今の子はおじさんになったディカプリオしか知らないかもだけど、ひと昔前はレオ様って王子様扱いされてたんだよ)を筆頭にジョゼフゴードンレヴィッドやらトムハーディーやら単体でお客を呼べる俳優ばかり。
ちょい役のおじさんまでマイケルケインなんだから、その出演料だけで邦画なら大赤字です。
そんな彼らがずっと画面に映ってるんだから楽しくないわけがないです。
そして演出方、夢の中の世界だから何でもありなんだけど、なんでもアリって逆にどう見せれば驚いてもらえるかセンスと予算が問われます。
地面がめくれ上がるなんて自然物理を無視した世界の発想自体が凄いし、それをリアルに見せるのは至難の技です。
下手な監督が撮ったらCGまる出しで逆に夢から覚めますよ。
あとは虚無の世界の描き方、あれも素晴らしいです。
ベタに考えたら真っ白な世界を表現しそうですが、そんな当たり前な表現したくねえよ!という監督の気概を感じます。
多少矛盾を感じそうな理論もこのど派手な演出で煙に巻かれ、一気に世界観に浸らせてくれます。
この辺のエンターテイメント性は他の難解作品(メメント、プレステージ、インターステラー等)でも発揮されてます。
そりぁ、客も集まるわ。
まわれ ま~われ メリーゴラウンド
もうけして止まらないように
この映画を観た人が抱える最大の謎、それはラストのあれ
コマは回り続けるのか止まるのか?
ですよね?
他人の夢に侵入する犯罪を犯すコブの目的は現実世界で子供たちのいる場所へ帰ること。
その夢が最後叶うわけですが、本当に叶ったの?これも夢なの?
現実の世界かどうか見極める為に、色んなシーンで回していたコマ。
あれが回り続けるなら夢、止まったなら現実。
丁度良いところで映画が終わります。
観客に委ねるパターンです。
これまでの複雑な世界は学研の先生のように親切丁寧に教えてくれ、
解かるって楽しい!
でやってきたのに、最後の最後はそれは自分で考えなさいと突き放す!
この裏切の為にここまで親切を装って来たんですね。
この裏切り感...たまらなく好きです。
パンズラビリンス、シャッターアイランド、そしてこのインセプション、最後に最大級の謎を残して終わる映画が大好きです。
これらが結論まで描ききっていたなら、ここまで好きにならなかっただろうし、繰り返し観ることもなかったでしょう。
さて、あのコマ少し止まりかけていた様に見えましたが、皆さんはどう思いますか?
僕が結論を言いましょう。
あのコマは回り続ける!
なぜなら...その方が楽しいから。
というかぶっちゃけどっちでも良くないですか?
限りなく現実に近い夢は現実と変わりない。
どっちにしろコブの精神は救われたのだから。
僕はそう思うのです。
追伸、このレヴューに考察を求めて読みに来た方々すみません。
そういうのは理数系一流大学出身の映画好きさんに求めて下さい。
僕は文系3流大学、おまけに男子校の出身ですから。
あしからず。
最後にこの映画が好きな方にお勧めしたい作品紹介して終わります。
・インターステラー
・シャッターアイランド
・うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー