まるでリアル「カリオストロの城」のよう。鹿児島県伊佐市にある近代化産業遺産、曽木発電所跡。ふだんはその身のほとんどを湖底に沈めている、レンガ造りの中世古城のような遺構ですが、ダムの貯水位によっては姿をはっきりあらわすときが訪れるんです。

こんな光景が日本で見られるなんて。ぜひ一度、その目で湖上に浮かぶ幻想的な姿を目撃してもらいたいですね。

以下、文・写真|ワンダーJAPAN編集部

近代産業化遺産『曽木発電所跡』

九州は産業遺産の宝庫である。見学するなら、オールカラーの写真も豊富な『九州遺産』(砂田光紀 著・弦書房・2005)が参考になる。その6番目に登場するのが、この曽木発電所跡だ。

▲発電所跡は、梅雨や台風など大雨による洪水に備えて貯水量を減らす毎年4月頃から姿を見せ始め、それが9月頃まで続く。完全な姿を見せるのは6月頃だとか。

現地にあった案内には、明治40年、3か所の金山などのために曽木の滝近くに曽木第一発電所(800kW・現存せず)が完成。余剰電力は水俣に建設されたカーバイド工場へ送電していたが、化学工業の発展に伴い明治42年に大幅に出力アップしたこの曽木第二発電所(6700kW)が完成したという。カーバイドは当時主流だった漁船や自転車に使われたランプの燃料だ。

▲案内プレートにあった操業時の発電所全景

発電所のタービン棟はレンガ造りの洋風建築で、ドイツ・ジーメンス社製の4機の発電機が導入され、背後の斜面に設置された4本の水圧鋼管を落下する水がタービンを回転させて発電していた。鶴田ダム建設に伴い約60年の歴史に終止符を打ち、昭和41年のダム完成後は発電所遺構も湖底に沈むことに。そして春から夏にかけて貯水量の減る時期だけ、姿を現す幻の、そして美しい姿の産業遺産となる。

▲約1.5kmの導水路を流れた水は、ここから4本の水圧鋼管の中を落下していった。上部には4つの穴が見え、斜面にはパイプの固定跡が残る

訪れたのは4月の頭。まだ早いかと思ったら、ほぼ全体の姿を見せていた曽木第二発電所跡。1年のほとんどは写真で見て赤い三角形の部分ぐらいしか見えないので、幸運だった。しかも、以前は緑に覆われてよく見えなかったタービン棟背面の斜面がきれいに整備され、4本の水圧鋼管の敷設跡がはっきりと見て取れる。タービン棟は、崩壊寸前だったため、よくみると保存のために補強されているのが確認できる。湖底から回収した3万個のレンガを利用し、地元サポーターが保存を支援したという。

▲季節によって姿を変える様子(国土交通省設置の案内板より)

▲地元の支援により遺構保存作業が完了したときの様子(案内板より)

アクセス九州自動車道「栗野IC」より車で47分。川内川の南側に曽木発電所遺構展望所の駐車場があり、そこから展望スポットまでは徒歩2〜3分。住所:鹿児島県伊佐市大口曽木


ワンダーJAPAN Collection 軍艦島と世界遺産 三才ムック vol.814

産業遺産の記録 (三才ムック VOL. 560)