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Cursed Memory
痛みにうめき声を上げている一人の少年。心臓の脈打ちとともに、止まらぬ血が少年の目の近くにある刀傷から流れ出てくる。
「…………かぁ…………あ……あ……」
地べたに膝をつき、左目に手を当てた少年は必死に折られた杖に手を伸ばそうとしている。しかし赤く染まった視界は揺れ、合わさらない焦点は彼の労力を無駄にした。
「動かないで! 傷がひどいの……全然ふさがらない……」
震える少女の声。肩までない短い髪が揺れ、少女の青白い顔が露わになる。少年の左目に自身の手を添え、今にも泣き出しそうな表情で彼女は静かに口を動かした。
「……Curse Purge Heilmittel」
少女の手が山吹色の温かな光に包まれた。光の粒子が少年の傷に集まり、吸い込まれるように消えていく。
本来ならば、それで傷口は塞がるはずだった。
「……⁉︎ なんでっ⁉︎ 」
しかし、少年の傷はふさがらない。血は止まることなく少年の頬を伝う。少女の手が、少年の血で赤く染まった。
黒々とした雲から落ちる雨が、勢い良く少女と少年の体を穿つ。土砂降りの雨の中、遠くで雷鳴が轟き、空にはどこか不気味な暗雲が延々と立ち込めていた。
「……洋介……春斗……オレなんかどうでもいいから……早く逃げろよ……頼むから! 」
少女に身体を支えられたまま、少年は掠れた声で懸命に誰かに呼びかけた。彼の視線は前方に向いている。見ると、少年と少女の前に2人の少年が佇んでいた。
「…………」
そのうちの一人が振り返り、少年を見ると口元に笑みを浮かべた。それは、あたかもやんちゃな弟を見守る兄のような、優しい笑みで——
「————」
何かを囁くその少年。目を押さえていた少年がその言葉を聞いて、痛みで閉じかけていた瞼を見開く。少女の頰には、涙がつたった。
前に立つ少年は、再び前方へと視線を向けた。隣にいる少年と頷き合い、彼はその場から離れていく。残された少年と少女の耳に届く彼らの靴音は、ひどく虚しく、遠く感じられるのだった。
突然、辺りが明るくなる。少年と少女、2人を包むように白い光が発生しているのだ。泣き叫ぶ少年。手を伸ばす少女。前を行く2人の少年が、再びこちらに視線を向けることはない。
——帝国歴2376年11月某日夕方。ユートピア帝国の一都市、ダウンタウンの表通りにて、ユートピア魔法学院ダウンタウン校の中等部生4人が、何者かに襲われた。1人は意識不明の重体。1人は軽傷。……そして、もう2人はその後安否もわからぬまま行方不明となる。
その事件から1年半経った現在。行方不明になった2人は、未だに見つかっていない。
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