配信開始から約2カ月。スマートフォン(スマホ)ゲーム「ポケモンGO」の人気が衰えない。先日も東京・お台場でレアなポケモンを求めるプレーヤーが立ち入り禁止の区域に大量に侵入。警察が規制に乗り出す騒ぎがあったばかり。
お台場以外にも著名な公園など「ポケモンの巣」と呼ばれる場所にプレーヤーが集結する姿は風物詩になっている。ただ、ユーザー層には徐々に変化が出てきた。当初飛びついた若者が減る一方で、30代以上のプレーヤーが増えている。
「実はスマホゲームは生まれて初めて。夫婦ですっかりハマって週末は2人で『ポケモン探し』に出掛けてます」と打ち明けるのは日本マクドナルドのコミュニケーション本部PR部部長の蟹谷賢次さん(58)。同社は7月のポケモンGOの国内配信と同時にスポンサーとなった。「仕事だから」と始めたポケモンGOに魅了された。
30代以上のプレーヤーの増加は数字にも表れている。調査会社のヴァリューズが9月15日に公表した調査結果によると、当初は計50%を占めた10代・20代が37%に減る一方、30~50代は計47%から58%に増えている。
この理由の一つはポケモンGOのゲームシステムにある。公園で楽しんでいた主婦は「子育て中にポケモンを覚えてなじみがあったし、ボールを当てるだけなので簡単」と話す。ゲームに慣れた若者には「単調過ぎる」と言われるシステムが、むしろ幅広いユーザー層を生んでいる。
収益の柱である課金の構造も、一般のゲームに比べて「継続的に課金する大人向けになっている」とゲームのデザインやマーケティングに詳しいGMOインターネットの世永玲生氏は解説する。
ポケモンGOはスマホゲームでよくある「ガチャ」のようなレアポケモンを直接入手できる課金手法はない。課金で入手できるのは、ポケモンを捕まえるためのボールやポケモンの保有枠を広げるアイテムなど、ゲームの進行への影響が比較的小さいアイテムばかり。
しかし一見緩いこの課金システムに深謀遠慮が隠されている。世永氏はその一端が先日発売された周辺機器「ポケモンGOプラス」(3500円)に見えると説明する。
やまだ・たけよし 東工大工卒、同大院修士課程修了。92年日経BP社に入社、「日経エレクトロニクス」など技術系専門誌の記者、日本経済新聞記者を経て16年から現職。京都府出身、50歳
任天堂が製造・販売するポケモンGOの周辺機器で、スマホに接続して使う。近くにポケモンが現れると光と振動で知らせ、ボタンを押すと捕獲できる。他愛のない機能に見えるがこれを使うと「ながら」で遊べる。スマホ本体はLINEやウェブ検索に使いつつ、GOプラスが振動したらボタンを押すだけでいい。
ボタンを押すたびにボールが減って足りなくなる。ポケモンがどんどん捕まるから保有枠を広げたくなる。歩いた距離に応じてポケモンが出てくる「タマゴ」も多くふ化させたい。これら全てを課金で解決できる。ここが巧妙なところだ。
ガチャのように射幸心をあおるのではなく「プレーヤーが納得して自ら課金する」(世永氏)大人向けの設計だ。あおられやすい若者と違い、大人は納得しないとサイフを開かない。一方で一度開いたら継続的に支払うのをいとわない。
ポケモンGOを街おこしや集客に使いたいと考える自治体などは多い。ポケモンGO配信元の米ナイアンティックも「積極的に地方創生に役立てたい」(日本法人の村井説人社長)と協力的だ。8月には宮城や熊本など震災被災地4県が共同でポケモンGOを使った観光振興を打ち上げた。
スマホゲームを集客に利用するとなると若者主体で考えがち。だが、ポケモンGOでは狙える顧客層を「常識」よりも幅広く考えた方がいい。
[日経MJ2016年10月3日付]