『下流老人』読了したので感想を書きます。
著者・読む利点・特徴
著者の藤田孝典さん
- 埼玉県を中心に生活困窮者支援を行うNPO法人で活動
- 毎日のように駆け込む貧困者と接してきた経験あり
この本で得られること
- 老後に貧困に喘ぐ人の実体験を追体験できる
- 貧困に陥るプロセスについての典型例や制度上の問題を理解できる
- もし貧困に陥ったらどうすればいいのかが理解できる
- 貧困に陥らぬために自分たちができることを理解できる
- 老後に必要な資金のモデルを知ることができる(具体的金額の例示)
特徴
- 端的でわかりやすい、読みやすい
- 各セクションが長すぎず間延びしない
- 公的な統計情報に基づく情報や現行制度から論じているので説得力がある
- 著者自身が貧困の実態に日常的に接しており、論調にリアリティがある
不摂生なんてしてる場合じゃない
詳しい内容は書籍を読んで知っていただくとして。
この本を読み終わってまず考えたことは「こりゃ不摂生している場合じゃないぞ」ということ。書籍内で老後に貧困に陥る要因として、健康を害した結果莫大な医療費で資金が底をつくという典型例を示していました。
高額医療費等の負担減免制度を知っているかどうかというのも大いに影響しますが、単純に病気になるとお金がかかります。再就職で老後に勤め続けることも難しくなる。つまり、老後の患いというのはフローとストックの両方を食いつぶす恐ろしい事態なのですね。
高齢者となって病気に罹患するリスクは若いうちと比べると必然的に高まります。これは避けようのない自然なこと。ですが、自分でできる範囲で健康寿命を延ばすために、今できることがあると思うのですよね。
例えばですけど
- 日常に運動を取り入れる
- 野菜中心にバランスの良い食生活
- 禁煙や禁酒または休肝日の設定
- メンタルを崩さないような社会生活(異常な負荷や軋轢の回避)
などなど。
やや抽象的ですが、今からでもできることはたくさんあるのです。
若いうちというのはとかく目の前に広がる世界がさも半永久的に続くと考えがちです。「今が楽しければいい」だから食べたいものを食べて飲みたいものをひたすら飲むという不摂生も、してしまうものでしょう。
しかしながら、下流老人の悲惨な現状を知り、これから貧困の只中に放り出される可能性が誰にでもあるという現状を知ることができれば、きっと意識は変わるはずです。僕もこの本を読むまでは漠然と「老後は何とかなるもんだ」なんて人生設計を甘く見てましたけど、思った以上に一寸先は闇なんだなって考えられるようになりましたもん。
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かつては家族が助けてくれた
核家族化が顕著になって親と子供夫婦の2世帯や孫との3世帯家族が右肩下がりとなり、現在では見るのも聞くのも珍しい、というのが体感です。
かつて若いうちに不摂生をしたおじいちゃんが健康を損ねても、経済的な面倒を含め家族介護が当たり前だった時代があるそうです。そりゃ、元気なうちに無理を謳歌できますよね、このような素地があるのですから。
でも、現代ではこれは通用しない。家族は老後の面倒を見てくれるとは限らないのですね。だから、自分の老後は自分で設計する必要が出てくるのです。貯金や健康維持がいかに重要かは、理解していただけるかと思います。
露骨に警鐘を鳴らして世間を不安に駆り立てるためにこのようなことを述べているわけじゃなく、現実問題として「老後」という航海を自分の(自分たちの)力で漕ぎ出さねばいけない時代になっている。ここを知っているか知らないかで、現役時代の過ごし方も変わってくるのです。
おわりに
自分の中では
この本があまりにも読みやすくてスっと頭の中に落とし込めたものですから、「老後はまじでやばいよ、みんなも健康に生きようよ!」という暑苦しいテンションが渦巻いているのですが、やはりここは理解していないとその気になれないかもしれません。
なので、是非ともこの本を読んでほしい。そして、少しでも多くの人に、これからの老後に関するお金や破滅のプロセスを知ってほしい。ここに問題意識を持って、自分を含め社会の制度を変えていかねばならないという思いを抱いてほしいのです。
※健康問題、家族扶助の消失以外でも下流老人へ至るリスクが示されています。例えば子供がワーキングプアに陥って親の資産に依存したり、メンタルを病んで就労困難となり、結果的に一家が貧困へ向かう具体的事例など。ここも大いに参考になるでしょう。
※老後のことを考えるあまり、貯蓄傾向がさらに強まって消費が抑制されたり、少子化に拍車をかけている問題も提起していますが、ここは制度を変えていかねば立ち行かないであろうと述べております。
なお、著者は自己責任論を否定しています。「お前の努力が足りないから地を這いずり回るんだ」などという無慈悲なことは言いません。生活保護は国民が持つ当然の権利であり恥ずべきことではない、と述べています。
「貧困は社会問題であり、個人を攻撃しても現状は良くならない。抜本的な制度改革は待ったなしの状況である。」
話はここに帰結している。
僕はこの考えに賛同します。「自分は運がいいから生活が安定しているし、周りの貧困者なんて知ったことではない」とは思いたくない。だから、まずは個人として貧困者への自己責任論などという曲解した考えを捨て、多数の苦しむ貧困者へ思いをはせ、これを社会問題と捉えて世間に投げかけるためにこの記事を書きました。
さて、今回は老後の貧困問題をわかりやすく説明してくれる『下流老人』の書評でしたが、次はこの問題と切っても切れない若者の貧困を描いた『貧困世代』を読んでいる最中です。こちらも、追って書評記事を更新しますのでお楽しみに。