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 アメリカでADHD(注意欠陥・多動性障害)と診断されるケースは多い。2013年の時点でアメリカ国内の子供の15パーセント、すなわち7人に1人がADHDと診断されるようになったという。

 今やそれは流行病でADHD国家とまで言われるようになったアメリカだが、それにはこんな背景があるようだ。
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安易な診断結果を生み出した背景

 「ADHDはエディプス期の不安症に取って代わる普遍的な説明となる恐れがある。自制をされたし」。国立精神衛生研究所のジュディス・ラパポート博士は、精神障害の診断と統計マニュアル(DSM)1980年度版の編集にあたる同僚が提案した注意力欠如障害(ADD)の定義について、こう注意を促した。

 そこには”集中することが難しい”の横に”すぐに注意散漫となる”とあった。こうした同じような用語を並べることは、元から曖昧だった定義をさらに曖昧にし、安易な診断を生み出すリスクがあった。 ADHDに“過活動”の兆候を要しなかったことも、そうした診断を促した。

 結局、ジャーナリストのアラン・シュワルツが『ADHD Nation: Children, Doctors, Big Pharma, and the Making of an American Epidemic(ADHD国家:子供、医師、大手製薬会社ならびにアメリカの流行病の成り立ち)』の中で物語るように、ラパポート博士の警告は無視された。

曖昧な定義づけの結果、薬の大量処方

 ADDの症状として ”物事を最後までやり通せない” や ”根気がない” が列挙されるが、そこに ”ある活動から別の活動へ過度に移行する” という三つ目の曖昧な定義が加えられた。不明瞭で、重複した症状のリストが印刷され、アメリカの流行病としてリタリン、のちにはアデラール(AdderallはADD for all(みんなのADD)に因む)といった薬が大量に処方されるようになる。

 シュワルツによれば、2013年の時点でアメリカ国内の子供の15パーセント、すなわち7人に1人がADHDと診断されるようになったという。

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こちらは2007年までの資料 Courtesy of Centers of Disease Control and Prevention
 ピューリッツァー賞の候補にも挙がったシュワルツは、いくつもの資料を渉猟し、千人を超える人々とのインタビューを繰り返してこの物語を明らかにした。

薬漬けとなった国家

 デューク大学のキース・コナーズ博士は、蔓延した診断を「危険なほど増えた国家規模の災害」と評している。一体いかにして非常に依存性の高いアンフェタミンを微調整したリタリン、つまりメチルフェニデートが誕生するにいたったのか。

 シュワルツは”コナーズ評価スケール”を紹介している。これはコナーズ教授が1989年に売り出し、全国の病院に採用され、標準的な診断手法となったものだ。しかし、そこで取り上げられている基準とは、”不機嫌”、”夢想”、”賢ぶる”、”落ち着きのなさ”といったもので、子供なら当たり前のことだ。

繰り返し改名され、その症状が大幅に継ぎ足されていく

 シュワルツは、診断基準である行為を適切に特定する方法に関する精神科医のジレンマを繰り返し指摘している。1950年代に初めて定義された”多動性衝動障害(Hyperkinetic Impulse Disorder)”は、のちに”微小脳機能不全”と改名された。

 ”多動性”では範囲が狭すぎ、候補として挙げられていた”注意散漫症候群(Attentional Deviation Syndrome)”では多動性が反映されていなかったためだろう。しかし、”微小”では軽視されがちだったし、政府からの援助も得ずらかった。その名自体が潜在的な患者数を限られたものとし、広く適用できる名称にしたいという精神科医の希望に沿っていなかったのだ。

 1980年、精神障害の診断と統計マニュアル(DSM)は”注意力欠如障害(ADD)”の名称を採用する。これがごく普通に見られる行動の問題に似ていたことから、急激に診断数が増加していった。

 リタリンの処方も急激に増加し、「1970年代初頭以降、6年で倍増」する。1990年代後半になると「5年間で4倍」というとんでもない伸びを見せた。これはいくつか有名になった訴訟とメディアが処方の緩和を求めていたことが要因である。シュワルツによれば、「1990〜1993年にかけて、年間の診断数は90万件から200万件と倍増し、以降も増え続けている」という。

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image credit:newsweek

製薬会社と支援団体が患者数を加速させる

 製薬会社が資金援助する患者の支援団体は、1989年以降巨額の資金援助を非公開で受け取り、「患者を引きつけ、成長を加速」させていた。

 この病気を研究してきた学会のオピニオンリーダーも待ってましたとばかりに診断範囲の拡大に賛成した。かつては閑古鳥だった待合室には大勢が押し寄せ、精神科医は嬉々として処方箋を書いた。メディアは副作用がほとんどない驚異の薬だと報道し、子供の成績を落としたくない両親らを急かした。

 さらに大学生や高校生たちまでが勉強の際のカンフル剤欲しさに、ADHDの振りをして病院に足を向けるようになった。だが結局処方される薬剤は相変わらずアンフェタミンだったのだ。やがてその事実が誰にとっても明らかとなる。

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不明確な診断がアメリカの流行病を作り出すことに

 ADHDはこれまで繰り返し改名され、その症状が大幅に継ぎ足されてきた。ADHDが医学的現象であることについては、シュワルツも疑問を挟まない。しかし、曖昧な定義と複雑な歴史のおかげで、微小脳機能不全とADDを調和させることはほとんど不可能だった。

 それらの症状はそもそもまるで違った方法で問題を定義したものだったからだ。例えば、前者の定義の一つには”一生涯の症状”とあるが、後者ではそのようなことには文献の中ですら触れられていない。

 融通というか、診断の不正確さがアメリカの流行病を作り出した要因であることは間違いない。そして、これを防ぐための基本となるのは、製薬会社の広告、製薬会社から援助された患者団体、恣意的に選択され報告される臨床試験、デスクの上に小切手を置いて、副作用などないと主張するようなご意見筋から切り離された診断である。
 
 しかし、そうした分離は不可能かもしれない。精神障害の診断と統計マニュアル(DSM)や精神科の権威が半世紀前は微小脳機能不全と呼ばれた現象について今でも言及しているのだとすれば、ADHDの大流行は起きなかったはずだ。

 しかも問題は意味論上のものを超えている。たった1人の子供であれ、今日のような600万人の子供であれ、幼い子に一生治ることのない、脳が壊れている病気があると告げるのは酷なことだ。ならば曖昧なままの方がいいとすら思う医師だっているかもしれない。ただし薬の問題に関しては別だが。

 さらに詳しく知りたい人はシュワルツ氏の著書を参考にするとよいだろう。
ADHD Nation: Children, Doctors, Big Pharma, and the Making of an American Epidemic (English Edition)


via:How We Became ADHD Nation/ translated hiroching / edited by parumo
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コメント

1

1. 匿名処理班

  • 2016年10月06日 09:10
  • ID:Dp.guJMF0 #

つか、精神的な病に関する診断ってこういうのが多いというか、苦しんでる患者のためではなく医者が楽をしたいためにやってるんじゃないかと、時々思う

2

2. 匿名処理班

  • 2016年10月06日 09:13
  • ID:vzSGGJ840 #

自由すぎる弊害

3

3. 匿名処理班

  • 2016年10月06日 09:18
  • ID:hz0lTIga0 #

新型うつとかね

4

4. 匿名処理班

  • 2016年10月06日 09:26
  • ID:rrX5nZ5z0 #

こういう記事は良いと思う。
日本では発達障害や精神疾患は、アメリカの精神医学を元に、遅れているとか理解が足りないという評価をされがちだけど、俺は必ずしもそうではないと常々思っていた。
確かに日本で理解が足りていないというの間違いではないけど、だからと言ってアメリカが良いのかと言えば違うよね。

5

5. 匿名処理班

  • 2016年10月06日 09:40
  • ID:MfENLVGs0 #

そういう症状のある人間としては薬で改善されるんならそれに越したことは無いんでほっといてくれ、って感じだけどね

6

6. 匿名処理班

  • 2016年10月06日 09:45
  • ID:JWwISDwu0 #

魔術で治療する未開の部族と変わらねーな
医療が商売であっちゃならないのがよく分かる

7

7. 匿名処理班

  • 2016年10月06日 09:51
  • ID:lwhbxQnk0 #

ADHDは作られた病であることを「ADHDの父」が死ぬ前に認める
gigazine.net/news/20130529-adhd-is-made-by-industry/

8

8. 匿名処理班

  • 2016年10月06日 09:56
  • ID:YV6IqSVF0 #

ADHDやその他の発達障害って、その国の産業が第3次産業に移行した国で多い印象なんだよな。

障害者が増えたんじゃなくて、仕事や社会の多様化、複雑化についていけない人が比率として多くなっただけじゃない?

極端な話、第1、第2次産業は手順さえ覚えれば、後は自分の内面や自分の力じゃどうにもならん環境のことなので、あれもこれも気を配らなきゃいけないサービス業と比べると時間さえかければ習熟できるからね。

9

9. 匿名処理班

  • 2016年10月06日 09:57
  • ID:reIJ5or70 #

以前ドキュメンタリーで観たアメリカの家庭で、わんぱくな子供に投薬したところ素直というかロボットになっていた。
母「以前は言うことも聞かず遊んだ後のオモチャも片付けなかったのに、今では散らかすこともないの」
子「………………………」
観ていてとても不安になったのを覚えている。

10

10. 匿名処理班

  • 2016年10月06日 09:58
  • ID:.ev8gvuG0 #

要は違いが曖昧なんでしょ。
当事者じゃないとわからないよ。
わしもADHDだって気づかれたことないもん。

11

11. 匿名処理班

  • 2016年10月06日 10:11
  • ID:FX043UVa0 #

イーライリリーの事か

12

12. 匿名処理班

  • 2016年10月06日 10:13
  • ID:G1CqyIbS0 #

こんなものほとんどあてにはならない。(特に日本では)
診断基準も曖昧なら、医者の診断もいい加減(というよりテキトー)。他の病気のように科学的検査で判定する訳ではないので、医者がそうだと言えば、それで決まってしまう。
試しになんの問題もない人を精神科医に連れて行ってみるといい。「病気ではありませんから、大丈夫ですよ」と言う医者はほとんどおらず、なんらかの病気に当てはめて薬を処方するでしょう。
薬も問題で、ほとんどの精神科医は抗うつ薬やベンゾジアゼピン系の薬を長期にわたり漫然と処方し続け、結果却って具合が悪くなってもそれを自らの処方のせいとは考えず「病気が悪化した」などと宣って薬を増やし、以下その繰り返し。
(多剤大量処方も当たり前)

精神科医が街中にありふれたものになるにつれ、患者が爆発的に増えているのが全てを物語っている。

13

13. 匿名処理班

  • 2016年10月06日 10:17
  • ID:eEKIMroc0 #

7人に1人のガキが注意力散漫だから薬漬けにされるなんて末期だろ。
育児に悩んだ親がガンガン薬を投与してくるとか考えられん。

14

14. 匿名処理班 (追加)

  • 2016年10月06日 10:21
  • ID:G1CqyIbS0 #

精神科医が繁盛するにつれ、不可解で奇っ怪な事件や動機が釈然としない事件も増えている。
少し古いところではコロンバインでの銃乱射事件、比較的最近ではジャーマンウイングスの墜落など、精神科医にかかっていた人間による妙な(もいうより他にない)事件は少なくない。

なぜ誰もこれらを検証しようとしないのか?このままでは益々妙な事件や事故が増えるのは間違いない。

15

15. 匿名処理班

  • 2016年10月06日 10:24
  • ID:2RNauu9R0 #

わたしはADHDです17になるまで気づかなかったし気づかれませんでしたちなみにADHDは精神病じゃないし薬を飲んでも風邪のようにすぐに治ることはないです

日本では認知度は低く差別もあったりします

もう少しADHDの理解をしてくれたら嬉しいです

16

16. 匿名処理班

  • 2016年10月06日 10:27
  • ID:3Ku4G1yM0 #

血液検査や画像診断が有効ではないため
医者の才能?で診断が左右されてしまうのが
精神疾患の世界なんだけど
それでは良くないってことで
DSMみたいな選択的診断法にしたら
その短所がもろに出てしまって
この事例みたいに酷いことに…

17

17.

  • 2016年10月06日 10:30
  • ID:WPeYgD9F0 #
18

18.

  • 2016年10月06日 10:36
  • ID:IZgx77W30 #
19

19. 匿名処理班

  • 2016年10月06日 10:44
  • ID:8M77dpFW0 #

日本は10年ほど前は鬱の広告?が多かった
数年前からADHDガー発達障害ガーが急増してる
症状の認知が広まって、疾患で苦しむ人の救いになるのは結構なことだが
医療界が商売のために健康な人にまで烙印を押す傾向にあるのも事実だろうから
うちら一般人としてはそういうことがあるという事も周知して警戒していけたらいいね

20

20. 匿名処理班

  • 2016年10月06日 10:50
  • ID:XBKAyvu.O #

医者が増えればそれだけ見落とされてきた患者の発見に繋がって増えるのは当然の理屈でしょ
人間はいまだに自分の心ですら自由にできないというだけ

21

21. 匿名処理班

  • 2016年10月06日 10:57
  • ID:T8ECyHPo0 #

ADHDの明確な診断方法としては放射性元素を用いたSPECT検査という物がある
MRIのように脳血流量をリアルタイムで画像表示できる診断方法だが、これは設備を備えている病院がほとんど無いので
大抵は幼少期の生育歴とWAIS知能検査の数値と照らし合わせて診断を下すことになる
まあわが子を小児精神医療の元につれていく親だってどうせ何かしら障害を抱えてるだろうし
診断下すのが早けりゃ早いほど良いんじゃないすかね?
逆に日本は潜在的な患者数に対して診察数が圧倒的に足りてないよ
ネットがなけりゃ成人でも治療にありつくことができるなんて一生知り得なかっただろう
ネットは偉大だよ
話は変わるけど米国や英国のテレビ業界ではスタッフの8割がアッパードラッグ使用経験があるらしいじゃないですか
活力的でなければ豊かさにありつく事ができない競争的な社会構造にも問題があると思いますよ

22

22. 匿名処理班

  • 2016年10月06日 11:06
  • ID:ZVN2WQeY0 #

アメリカの医療制度の問題なんだね。日本と違って医療をある程度国で管理しないで一般企業のように扱ってるから金儲けに走ってこういう詐欺まがいのビジネスモデルが生まれる。

23

23. 匿名処理班

  • 2016年10月06日 11:10
  • ID:n8TyeryaO #

これはわかる気がする。
私の兄弟は鬱治療薬の重複で亡くなったし、
義姉は長年苦しんだ鬱が、病院に通えなくなって薬が切れてから2ヶ月でウソのように元気になった。

本当に薬の必要な患者さんもいることはわかるけど、診療内科は薬で稼ぎ過ぎだと思う。

24

24. 匿名処理班

  • 2016年10月06日 11:11
  • ID:.wxAbrHM0 #

精神病と診断されたから精神病のように振る舞うって一定数ありそう
それまで普通に動いてたのに体温38度と知った途端に動けなくなるもの

25

25. 匿名処理班

  • 2016年10月06日 11:16
  • ID:tlM0z5Bd0 #

医者や製薬会社にとって
これほど素晴らしい病気は無いだろうね
薬漬けにしないと治りません
本当の所はどうなんですかと聞けば
「精神的、神経に関わるな病気なので正直わかりません。
 薬を飲んでおけば症状を緩和できます」
なら半分のヤブ医者はクスリをアホみたいに処方するだろうね

対応を変えるのは病院の方か、それとも社会の方か

26

26. 匿名処理班

  • 2016年10月06日 11:25
  • ID:l.k2K0QS0 #

アメリカは過去にも色々と矛盾したことをやってるからな。
昔は全世界で使われていた大麻を「大麻は悪です危険です」といい。
逆に「タバコは素晴らしい。至高の香りを楽しまます」と言っていた。
だが今では「大麻は医療に役立ちますから有益です」に変わりつつあり「タバコは悪。肺癌で死ぬ。周りの人間にも悪影響を及ぼす」と言っている。
アメリカの医学はこんなにも曖昧なのに最初から良し悪しを決めつけ、後になってから主張を変える。
最新の研究結果で驚愕の事実が判明!ってね。
日本もそんなアメリカを参考にしているんだから、誤認されてる人も多いだろう。
先天的であると言われている発達障害も数年、数十年後には「子育ての問題でした」に変わるかもね。

27

27.

  • 2016年10月06日 11:39
  • ID:WFLv6mB80 #
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