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春秋

2016/10/6付
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 国立大に文系は要らない――。文部科学省が昨年、こう読み取れる通知を出したときに怒ったのは文系の先生たちばかりではなかった。日本学術会議のメンバーをはじめ、むしろ理系の学者、研究者のなかから不用意な通知への異論反論がたくさん上がったものである。

▼「すぐに役立つ学問」を重視する傾向に、理系の人々も疑念を抱いているからこその反応だったろう。とりわけ、地道な基礎研究にたずさわる研究者は「文系つぶし」を他人ごとではないと身構えたという。今年のノーベル生理学・医学賞が贈られることになった大隅良典さんの言葉にも、そうした危機感は色濃くにじむ。

▼「未来のため、基礎的な研究を支える社会になってほしい」「地味な分野は研究しにくい環境にあるのを痛感する」「博士課程に進む学生が減っているのは深刻な問題だ」。喜びを語りつつも、かくも厳しい指摘を忘れないのだから大隅さんの憂いが知れよう。ニッポンの科学すごい、と浮かれてばかりはいられないのだ。

▼ノーベル賞には「時差」があるから、20年も30年も先になって現在の仕事が評価される。そのときになって悔やんでも遅いのだが、文科省などにどこまで自覚はあろう。なにも賞だけの話ではない。幅広い教養を軽んじ、すぐ目に見える成果のみを求める社会はどうしたって薄っぺらだ。おもしろいヤツの、居場所がない。

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