Amazon.com がカスタマーレビューの規約を変更しました。従来は本文に明記することを条件に認めていた報酬つきレビュー、いわゆる「レビューしてくれるなら商品を無料で提供するよ」で書かれたカスタマーレビューは、今後は一部の例外を除き禁止になります。
アマゾンではカスタマーレビューの信頼性を保つため、著者やメーカーなど利害関係者による宣伝や、同じ指摘を過度に繰り返す行為、「参考になった」を押すよう促す投稿、金品を受け取っての投稿などを「営利目的の投稿」として禁じてきました。
しかし、レビューを書くことを条件に商品そのものを無料または特別価格で受け取っての投稿は、事実関係を本文中で開示することを条件として認められていました。
いわゆる「モニター企画でいただきました♪」や、「厳しく採点しましたが (長文略) ということから、これぞ究極の逸品だと断言できます。(ちなみに無料サンプルです)」といったあれです。
呼び水としての役割
「対価を受け取っての投稿」が禁止ならば、無料やモニター特別価格で商品を受け取る条件としてのレビューも禁止で当然、むしろなぜ従来はまかり通ってきたのか不思議に思えます。
しかし一方で、無料モニターを募って製品についてフィードバックを集める手法自体は、アマゾンが創業する前から現在に至るまで広く使われてきました。
オンラインストアであるアマゾンでは、特に無名な販売者の新製品の場合、仮に良い製品だとしてもカスタマーレビューの星を計算するだけの投稿がなかなか集まらず、星がないので評価する人が増えない困った状況があり得ます。
インセンティブつきレビューはこうした場合の「呼び水」として、利害関係なしの正当な購入者によるレビューを積み上げるための土台として許容されてきました。
とはいうものの
アマゾンにとって膨大なカスタマーレビューは他者に真似できない武器であり、信用の維持は極めて重要です。アマゾンはこれまでも「明らかに買わずにこき下ろし」「明らかにサクラ」なレビューの影響を低減するため「Amazonで購入済み」ラベルを導入したり、表示の際にフィルタできるようにしてきました。
レビュースコアの悪質な操作を試みたユーザーに対しては、数千人規模でアカウント凍結や停止、訴訟までに踏み切っています。
今回とうとうインセンティブつきレビューが禁止されたのも、言外にあるいは露骨にインセンティブを提示して高い評価を求めるメーカーと、報酬の継続を期待して高評価をつけるレビュアーによって、カスタマーレビューが歪み信頼が損なわれることが理由です。
なぜ今さら?
なぜ今なのか、もともと許容していた理由である無名の新商品が埋もれる問題はどうするのか、に対しては、アマゾンは自社で運営するインセンティブつきレビュープログラム「Amazon Vine 先取りプログラム」が顧客にも販売者にも好評で、「呼び水」役は十分に果たせると判斷したため、としています。Vine は新商品を無料で送ってレビューさせる、要するに自分で禁止したインセンティブつきレビューそのもの。ですが、違いは:
・売り手ではなくアマゾンが実施。対象商品もアマゾンが決定。
・これまで役に立つカスタマーレビューを多数投稿してきた、アマゾンから見て信用できるカスタマーからアマゾンが選ぶ。
・評価が高くても低くても、あるいはレビューしなくてもアマゾンは関知しない。レビュー内容に口を出さない。
・ひとつの製品について、Vineプログラムによるレビューの数を一定以下に抑える (タダで貰って褒めるレビューばかりで高評価にしない)
など。
アマゾンがサイトに掲載するレビュアーランキングの上位者でも、自己紹介がいきなり企業に向けた「レビュー承ります」だったりする ところを見ると、アマゾンが選ぶ信用できる上位レビュアーの人選にも不安がないとはいえません。が、営利で露骨に高評価するレビュアー、参考にならないべた褒めレビュアーが排除されるならば、広く一般のアマゾン利用者にも歓迎できる話です。
米Amazon.comのカスタマーエクスペリエンス担当VP Chee Chew 氏名義のBlogによれば、今回の「インセンティブつきレビュー」禁止ルールが適用されない例外カテゴリーは「書籍」。書籍では書評のための献本が古くからの伝統となっているため、としています。
なお日本のAmazon.co.jpでは、10月5日夜の時点で(まだ)カスタマーレビューのガイドラインは変わっておらず、便宜供与を受けて書いたレビューでも開示すればよし、となっています。
(念のため。今回の米アマゾンの規約変更はあくまで、レビュー執筆を条件として、無料または特別価格で得た商品のレビューを禁じる内容です。単に友人からのもらい物を使ってみたら良かったからレビュー書いておこう、という場合にいきなり処分を受けたり、違反とされることはありません。)
こちらはインセンティブの存在が疑われるレビューを識別して、より真実に近いレビュースコアを得られるという ReviewMeta.com によるデータサイエンス的解説。膨大なカスタマーレビューを調査した結果、 報酬つきレビューの特徴を抽出して、99.5%の精度で識別できるようになったとして、
「インセンティブありレビューを書いたことのあるレビュアーは、統計的にそうでないレビュアーより多く星を付ける傾向がある(4.56 vs 4.27)」
「インセンティブありレビューの平均は4.73、 なしレビューでは4.33」(アマゾン商品の全平均スコアは4.4のため、人工的に0.4伸ばせれば、平均的商品でも上位10%に入れることになる)
「インセンティブありレビューは過去二年に激増。現在ではAmazon.com上レビューの約半数に達している」
などなど、もしこうならアマゾンも禁止に踏み切らざるをえないだろう、と思わせる内容です。
日本のAmazon.co.jpの対応については現在問い合わせ中。返答がありしだいお伝えします。