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【相談】温泉巡り旅のしおり
最終発言2016/09/17 17:45:01 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/09/18 11:02:57
オープニング
「温泉巡りの招待ですか?」
目の前のH.O.P.E.の女性職員を見ながら瑠璃(az0059)は不思議そうな顔をして言った。
それに対して職員はにっこりとした笑顔で瑠璃へと答える。
「はい。温泉巡の招待です。日頃任務に励んで頂いていますエージェントの皆さんの為にH.O.P.E.が温泉街の中にある一部の旅館を貸し切らせて頂きました。なので皆さんには温泉を楽しんで頂こうかと思いまして。今回本部からの温泉巡りの招待になりますので、もちろん費用は全てこちら側が負担致しますのでご安心を」
「温泉ですか~ 良いですね」
職員の言葉を聞き、嬉しそうに目を細目ながら瑠璃の隣にいたシルフ・ハムレット(az0009)はのんびりとした口調で言った。
●温泉巡り企画
数分前。
シルフと瑠璃、そしてその英雄達のラプンツェル・ゴーデル(az009hero001)、マーガレット(az0059hero001)の4人は本部の職員から呼ばれ本部を訪れていた。新たな任務で呼ばれたのかと思いきやそれは彼女達の予想とは大きく外れたものだった。
つまり簡単な話。
本部がエージェント達の為に旅館の方を貸し切ったので温泉巡りをしたり、温泉に入ったりして日頃の任務での疲れを癒し、楽しんでほしいと言ったものだった。それは日頃任務に励んでいるエージェント達にとっては嬉しい知らせに他ならなかった。
「あと温泉街なので旅館以外の温泉に入る事も出来ますよ! 温泉街の温泉の種類は、肌つや温泉(肌がつやつやになる)、フルティー温泉(蜜柑、柚、レモンなどを浮かべたもの)、足湯などなどがあります……そして、」
職員は勿体つけるかのように言葉を続ける。
「それになんと言っても、この温泉巡りの目玉は今月9月は月見と言う事もありまして、旅館の露天風呂で月を眺めながらお酒を呑む事が可能となります。もちろん未成年者にはお酒以外の飲み物(ジュース的なもの)を提供して頂けるようになっています。これを見てください」
そう言いながら職員はシルフ達へとどこからともなく取り出した一冊の温泉のパンフレットを見せる。
その開かれたページには夜空に月が美しく輝き、その露天風呂のお湯にゆらりと月が反射したものが映し出した風景が写真に美しく写し出されていた。
そしてその露天風呂の近くには大きく平べったい岩の上には酒が置いてあり、ページの見出しには『綺麗な月を眺めながらお酒を一杯引っ掻けていい気分』とキャッチコピーが書かれてあった。そしてその隣のページには豪華な郷土料理のメニューの写真と料理に関しての紹介文が書かれており、そして『豪華な料理を堪能した後はデザートの温泉超絶奇跡プリンをご賞味下さい』と記載してあった。
それを見、4人は目を輝かせながら「「凄い!」」「おぉ!」「温泉超絶奇跡プリン食べたい!」などと感嘆の声を上げつつ言った。
女性にとっては肌がつやつやになる温泉は圧倒的に魅力的であり、それに付け加え豪華な料理も付いているとすれば尚更だ。
だが、そんな彼女達に対して職員はスッと目を細め、そして真面目な表情をしながら人差し指を立てた。
「旅館は貸し切りですが、くれぐれも騒いではいけませんよ。もし騒いだりしたら……」
念を押し、そして職員は威圧感を漂わせる。それを瑠璃は感じ取りながら喉をごくりと鳴らし、オウム返しに言った。
「もし……騒いだりしたら……」
「若女将見習いの金髪ツインテール幼女……コホン。少女から怒られます」
「それだけですか? 確かに騒いでは旅館の方々にも迷惑かかりますが、でも怒られるだけならば、そんなに気にする事はないのではないですか?」
咳払いを一つし、説明する職員にシルフは可愛らしく小首を傾げながら不思議そうに言った。
だが、それに対して職員はシルフにずいっと顔を近づけ低い声音で告げる。
「いいえ。甘い、甘いですよ! シルフさん。その少女は怒ると、鬼のような形相で大人一人軽々投げ飛ばします。巷では強すぎる美少女と話題になっておりまして、旅館の用心棒を買って出ているようです。ですが、怒らせなければ穏和で大人しく、そして優しい、とても良い子らしいです」
近すぎる顔を離すと職員は一度言葉を切り、穏やかな表情へと変え言葉を続けた。
「ともあれシルフさん達、他のエージェントの皆さんに声をかけて頂いても宜しいでしょうか? 本来ならば私の仕事なのですが、私の方が今旅館との打ち合わせ、他の仕事などがありまして……申し訳ありませんが宜しくお願い致します。私の方でも打ち合わせ、仕事が終わりましたら声をかけてみますので」
シルフと瑠璃の達二人は顔を見合せ、そして職員へと微笑を浮かべながら声を揃えて短く「分かりました」と告げた。
その後4人は本部を後にし、本部の近くのカフェへと移動をした。
そして、そこで職員から渡された温泉巡りのパンフレットをテーブルの上に広げ、それを4人で見ながら温泉巡りの詳細を簡単に纏め、そして詳しく記したメールをエージェント達に一斉送信した。
エージェント達が素敵な休日を過ごせるようにと――――。
解説
シルフ、瑠璃達から、または本部から連絡を受けて温泉巡りをしたり、各自ゆっくりと休日を過ごす依頼になります。
貸しきり旅館……温泉街の中にある一つの旅館を本部が貸し切っている。
旅館内は温泉(大浴場、露天風呂)、食堂、売店などがある
露天風呂……露天風呂などは月を眺めながらお酒を呑む事が可能。
また未成年者には他の飲み物(ジュース的な物)を提供する事が可能になる
旅館の料理……豪華な郷土料理が夕食として運ばれ、デザートには名物の温泉超絶奇跡プリンが付いている
売店……饅頭、お茶っ茶クッキー、ブサカワうさぎキーホルダー(旅館のオリジナルキャラクター)などがある
温泉の種類……温泉街にある貸しきり旅館から歩いて5分の所にそれぞれの温泉がある。
三種類の温泉があり種類は、肌つや温泉(肌がつやつやになる)、フルティー温泉(蜜柑、柚、レモンなどを浮かべたもの)、足湯などがある(全て無料で入る事が可能)
温泉巡り……お好きな温泉にお入り下さい。
(必ず全部の温泉に入る必要はなく、どれか一つでも大丈夫です)
若女将見習いの少女……アイラ(8)
着物に白エプロンを身に纏った金髪碧眼ツインテールの少女。
性格は穏和で大人しく、優しい。
だが、怒ると鬼のような形相になり性格が一変する。口調が荒くなり騒ぎを起こした者を投げ飛ばしたりする。旅館の用心棒を買って出ている。
Pl情報……覗きなどの行為をすると失敗する
状況……シルフ達、または本部から連絡を受けて温泉巡りに参加している
リプレイは旅館に到着したところから開始となる
就寝……各自それぞれの部屋での就寝になる
プレイング
リプレイ
温泉街にある貸し切り旅館にたどり着いたエージェント達を若女将見習いの金髪碧眼ツインテール少女アイラと数人の中居達が出迎えた。
「お客様ようこそ、いらっしゃいました」
「こんにちは。今日は宜しくお願いしますね」
アイラにシルフはのんびりとした口調でそう言った。そんな中、蝶 アルト(aa4349)は広い旅館を見渡し、その広さに驚きながら呟くように言った。
「わぁ……凄い。こんなとこに来たのっていったい何時ぶりだろう……」
「ま、こういうとこに来る機会もあんまねーですしたまにはいいですかねぇ」
アルトの台詞にフィー(aa4205)はそう答え、それに続けるかのようにフィーの隣にいた英雄のフィリア(aa4205hero002)はアルトに頭をペコリと下げた。
『アルトさん、今日はよろしくお願いします』
そんなフィリアへとアルトは「宜しく」と短く答えたのだった。
「貸し切りなんて贅沢ですね!!」
『カニはあるのでしょうか』
「あるといいね」
唐沢 九操(aa1379)とエミナ・トライアルフォー(aa1379hero001)達は旅館の料理にわくわくしながらそんな会話を繰り広げていた。九操は学業にエージェント活動と割りと忙しい毎日を送っている。
そんな中今回の温泉巡りの依頼は楽しみだった。九操達の隣にいた酒又 織歌(aa4300)がアイラへと質問するように訊ねた。
「温泉施設は主に人間用だと思うのですが、陛下を入れても怒られませんかね?」
「グァッ!?」
織歌の言葉に思わず驚愕するペンギン皇帝(aa4300hero001)。
それに対してアイラは暫く考え、そして可愛らしい天使のような微笑みを浮かべながら口を開いた。
「一緒に大丈夫ですよ。せっかくの温泉ですから」
「良かったです」
織歌はアイラの言葉にほっと安堵し、どこか嬉しそうにペンギン皇帝へと視線を向けたのだった。
「貸し切りで温泉か、久しぶりにのんびりとできそうだ」
麻生 遊夜(aa0452)は首をコキコキとならしながら呟くようにそう言った。
彼の手には自分の荷物と英雄のユフォアリーヤ(aa0452hero001)の荷物……二人分の荷物が握られていた。その彼の隣にいたリーヤは嬉しそうにしながら尻尾をブンブンと振っている。
「……ん、温泉超絶奇跡プリン……!」
どうやらリーヤはプリンが楽しみらしい。
そんなリーヤを見、彼もまた不思議と嬉しさを感じていた。
●温泉巡りの旅
紫 征四郎(aa0076)と英雄のユエリャン・李(aa0076hero002)の二人は温泉街を歩いていた。
征四郎達は潔癖性のユエリャンの要望で早めに温泉巡りをしていたのだった。
『一番乗りが良い、我輩は誰にも汚されていない無垢な湯に浸かりたいのだ』
「もー、すぐ我儘言うのですよ」
キッパリと言うユエリャンに征四郎は内心呆れながら短い溜め息をついた。
「伊奈ちゃん、ココが温泉よ。魂を癒す地よ」
大宮朝霞(aa0476)は春日部伊奈(aa0476hero002)へと目の前の温泉を指差しながら言った。
彼女達は温泉街の赤い橋の上にいた。目の前に見えるのは普通の温泉であり、また露天風呂とはどこか似た作りになっていた。
残念ながら目の前の温泉は入れないらしい。
そんな朝霞の言葉に伊奈はまじまじと温泉を見る。いつも入る風呂とは比べ物にならないくらい大きく、そして暖かそうな湯気が出ている。浸かったら気持ち良さそうだ。そんな雰囲気を醸し出していたのだった。
朝霞は視線を別の場所に移す。その瞬間、数メートル先にいた征四郎達に気づき、そして駆け寄った。
「あ、征四郎さーん」
征四郎達は駆け寄って来た朝霞達に気づき後ろを振り向いた。
「紹介しますね! じゃーん! 私の英雄、伊奈ちゃんです!」
『……よろしく』
「宜しくなのですよ」
伊奈達へと微笑を浮かべながら征四郎達は挨拶をする。
『宜しく、ユエと呼ぶが宜しい』
「征四郎さんはね、凄腕のエージェントなんだよ」
腰に手を当て胸を張りながら、えっへんと自慢する朝霞。
ドヤ顔だ。しかも自分の事のように言う朝霞。それに対して伊奈の突っ込みが入る。
「なんで朝霞がドヤ顔になるんだよ』
「わ、わ、凄腕なんてそんな……アサカの方が余程お強いです」
征四郎は手を軽く振りながら謙遜する。そんな征四郎に朝霞は、
「そんな事ないですよ、凄腕ですよ!」
力説するかのように力強く言った。4人はそんな会話をし、その場には楽しそうな空気が流れていた。
『温泉街かぁ……ゆったり楽しめそうだね、クレア!』
「そ、その呼び方は第一誓約的に問題が……由利菜って呼んで、リディス?」
ウィリディス(aa0873hero002)に月鏡由利菜(aa0873)は少しだけ申し訳なさそうに言った。
ウィリディスの容姿は髪の色さえ除けば亡くなった由利菜の親友に似ており、そして由利菜は親友から『クレア』と呼ばれていた。だからウィリディスに彼女は名前で呼んで欲しいと告げたのだった。
『ご、ごめん、ユリナ。とにかくもう待ちきれないよ!』
由利菜の言葉にウィリディスは呼び方を変え温泉が待ちきれず先に温泉の方へと駆け出した。その背中を由利菜は慌てて追いかけたのだった。
「この間も島に行ったばかりだってのに」
『休養を取るのに良い場所を知っておくのは戦士の嗜みですわ』
「そういうのは、物は言いようってんじゃねぇか?」
赤城 龍哉(aa0090)は自分の傍らにいるヴァルトラウテ(aa0090hero001)にそう言った。
だが、参加した以上は無駄にしない。
しかも今回温泉巡りの依頼で共鳴する必要が無いのだ。だから赤城達はそれぞれ自由行動にする事にしたのだった。
そして麻生達はというと……。
麻生は露天風呂に、リーヤは肌つや温泉に向かう事にした。
「それじゃぁあとでな」
「……ん。……肌つや、肌つや♪」
麻生達は互いに手をひらひらと振り、それに付け加えリーヤは尻尾までふりふりと振っていた。そして彼らはその場で別れ、温泉へと向かった。
その一方でアトリア(aa0032hero002)は旅館の中で一人考えるように首を傾げていた。
「ふむ、初任務はオンセンなる施設での訓練ですか。一体どのような演習を……」
そう呟くように言うアトリアへと真壁久朗(aa0032)は言った。
「……風呂に入るだけだ」
久朗の言葉に怪訝な顔をするアトリア。これは色々説明をする必要がありそうだ。久朗はそう思った。
その時、突然横から久朗達へと声がかけられた。
「お! 久朗ちゃんじゃん!珍しい~」
そこには虎噛 千颯(aa0123)達の姿があり久朗達は千颯達へと挨拶を交わした。
G―YA(aa2289)達は旅館のロビーにいた。
温泉はどれに入ろうか……とそんな事を考えながら、まほらま(aa2289hero001)と二人で話をしていた。
そしてジーヤはふっと視線を向けると、楽しそうにマーガレットと話す瑠璃の姿が目に映った。あの時瑠璃を助ける事が出来て良かったと心の底からそう思い、同時に嬉しさが込み上げ、唇の端を上げた。
「ああやって楽しそうにしてくれてるの見ると嬉しくなるよな」
『そう思うのなら、ジーヤも助けてくれた人達が嬉しくなるように楽しみなさいな』
まほらまの言葉にジーヤは穏やかな表情で「そうだな」と短く答えた。そんなジーヤ達に瑠璃達が気づくと二人に近寄り、そして話しかけた。話によると、どうやら瑠璃達は肌つや温泉に行くらしい。そこでまほらまに一緒にどうかと言う誘いだった。まほらまはその誘いを受け、瑠璃達と共に肌つや温泉に行く事にしたのだった。
●肌つやつや
ニウェウス・アーラ(aa1428)とストゥルトゥス(aa1428hero001)の二人は肌つや温泉へと来ていた。
目の前には広い温泉があり、湯には白い色が色づいていた。
温泉の前で腰に手を当て、眼鏡をキラリと光らせながら自信に満ちた声でニウェウスへと言った。
「ふふふ……。ここの肌つや温泉に入る事で、ボクの美人度はウナギライジングになるでござるよマスター」
「そんなこと言って……浸かり過ぎてのぼせないように、ね」
一応念の為にストゥルトゥスに言うニウェウス。それに対してストゥルトゥスはおちゃらけた口調で彼女に答えた。
「あらん、もしかして未来が見えちゃってる?」
そして体を洗い終えたストゥルトゥスは足をお湯に浸け、そして湯船の中へと入る。
暖かな温度が彼女の体を包んだ。
「トゥルントゥルンなたまご肌は乙女の夢、幸福の象徴! さぁ、もっと浸かってつるつるパワーをゲットだぜ!」
彼女の目指すのはつやつやぷにぷにな肌である。それはまさしく乙女の憧れの象徴。
「とか言いながら……のぼせかけてないかな、ストゥル?」
「うははは、大丈夫ダヨゥ」
すでにのぼせかけ、湯船の中に沈みかけているストゥルトゥスを慌ててニウェウスは引き上げた。
その近くで朝霞達は温泉に浸かっていた。
「はー、生き返る~。これでお肌つるつるになるね!」
『へ~このでっかい風呂が女性に人気なのか。たしかに気持ちいいな』
そう言いながら伊奈は両手でお湯をすくう。たしかに普通のお湯とは違い少しぬめりがある。これが肌をつやつやにするお湯の成分に違えない。これならば女性に人気なのは頷けた。
その向かい側で由利奈達は温泉を楽しんでいた。
「ふふっ……温泉は久しぶりです。肌も艶やかになった気がしますね」
『あたしは初めて入る……のかな?記憶は兎に角、お湯が心地いいね~♪」
そう二人は嬉しそうに言葉を交わしていた。
そんな中リーヤは『……ん、すべすべ♪」とご機嫌に肌磨きをしており、稲穂(aa0213hero001)と九操の二人はきゃいきゃいとはしゃぎながら温泉の効果を堪能していた。
『わ、九操ちゃんの肌つやぴかになっている!』
「稲穂さんもぷるっぷるですね!」
温泉の効果に驚きの声を発する稲穂に九操は笑いながら答えた。
体にタオルを巻いた音無 桜狐(aa3177)は目の前の温泉を目にしながら言った。
「温泉ならば全部巡るのじゃ。一つでも入り損なうわけにはいかぬのじゃっ……」
彼女は以前入った足湯が気持ち良かった為、今回温泉を全部巡るつもりでいた。そんな桜狐に猫柳 千佳(aa3177hero001)は驚きながら桜狐の言葉に小さく頷いた。
「桜狐がそこまで積極的なのは珍しいにゃ。む、肌つや温泉……これは入らないわけにはいかないにゃねっ」
そう言いながら二人は温泉へと足を突っ込みお湯にじっくりと、気持ち良さそうに浸かった。
「肌がつやつやになるらしいですが、特に変わらないような……まだ若いからでしょうか」
そう言いながら織歌は、ちゃぽんと水音を立ててお湯から腕を上げて触った。あまり効果が感じられないような気がする。そんな織歌へとピクリと眉をひそめた一般客の視線に気づいたペンギン皇帝は慌てて織歌へとヒソヒソとした小さな声で言った。
『お、おい、織歌よ、周りのご婦人方が凄い顔を……』
その言葉に織歌はハッとし、周囲を見た。そこにはギラッとした視線を浮かべた女性達がいた。それに対して織歌は苦笑を浮かべ、笑いながら慌てて誤魔化した。
レミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)は温泉に向かいながら隣を歩くラプンツェルの髪に視線を注ぎながら不思議そうな顔をして訊ねた。
「ラプンツェルって髪長いわよね」
「はい。髪上げるの大変で、さっきもシルフに手伝ってもらいました」
その言葉のとおり、今のラプンツェルは普段の三つ編み姿ではなく髪をアップにした姿をしていた。
「髪が長いと大変ね」
そう言うレミアにシルフは柔らかく微笑みながら言った。
「私はレミアさんの髪綺麗だと思いますよ」
その言葉にレミアは自分の金髪の美しい髪に少しだけ手で触れ、そして離すとほんの少しだけ照れながら「有り難う」と言った。
そして初めて温泉を経験するまほらまは瑠璃達に色々温泉について教えてもらい楽しんでいた。それぞれのエージェント達は温泉を満喫していたのだった。
●フルティー温泉
餅 望月(aa0843)と百薬(aa0843hero001)は広い大浴場に似た室内の温泉にいた。
そこは木材を中心とした作りとなっており、湯の中には蜜柑、柚、レモンなどが浮いていた。そして温泉の近くにあるガラス戸の向こう側にはまだ色づいていない紅葉の木があり、側には大きな岩があった。紅葉の季節になるとまた雰囲気がガラリと変わり色鮮やかに変わる紅葉を愛でる楽しみが出来るのだろう。そんな事を望月は思った。
百薬は初めて目にする温泉に瞳をキラキラとさせながら、
『やっほー、おんせんー』
フルティー温泉へと近づく。嬉しさのあまりに声が大きくなるが、幸い周囲にはあまり人がいなかった。
二人は湯船の中へと浸かる。周囲に浮いていた蜜柑などの香りが鼻につき、またこれが不思議とリラックス出来る。望月は百薬へと目を向け、ぷかぷかと浮いていた蜜柑に触っていた百薬へと話しかけた。
「英雄って、温泉はどうなの?」
そう疑問を口にする。その問いかけに百薬は満足したような顔をしながら望月へと答えた。
『気分はさいこーよ』
(物理的にはどうでもいい感じなのかね、まぁ喜んでいるならよし)
内心そう思いながら彼女も満足したような顔をした。そこに自分を呼ぶ声がし、顔を上げて見るとそこには由利菜とウィリディスの二人の姿がそこにはあった。
「あ、由利菜さん」
「望月さん達もこちらにいたのですね。それにしてもいい香りがしますね」
「うん。気持ちいいよ。由利菜さん達もおいでよ」
「有り難うございます」と望月に笑顔でそう答え、由利菜は自分の隣にいるウィリディスへと望月達を紹介した。
「リディス、エージェント活動でお世話になっている望月さんです」
『ユリナの友達なんだ? よろしくね!』
「うん。宜しく。こっちは、あたしの英雄の百薬だよ」
『百薬だよ。よろしくー』
互いにそう挨拶をしたのち、ウィリディスはふっと鶏鳴机の鈴が目につき、それを内心羨んだ。
肌つや温泉を満喫した後に織歌達は立て続けにフルティー温泉に入っていた。
「美味しそうな良い匂いです」
甘い香りを堪能しながら織歌は呟くかのように言った。ペンギン皇帝は浮いている果実を見、織歌のタオルに巻いていた胸を見比べるようにして言った。
『色々浮いておるな……織歌のそれ(胸)も、大きいのに良く浮くよな』
「種が違いますし、純粋な好奇心なのも理解していますけれど……それでもあまり良くない発言ですよ、陛下」
『む、気をつけよう。そなたの諫言に感謝を』
嗜めるように言う織歌の言葉にペンギン皇帝は素直に謝った。そんな時、後から来た九操達に「お隣良いですか?」と問われ、織歌は「どうぞ」と答えた。
●幸せ効果
温泉街の中にある足湯に木・C・リュカ(aa0068)と凛道(aa0068hero002)はいた。
その足湯は長い通路に似た作りになっており、大勢の客が楽しめるように長椅子が幾つものその場に置かれていた。リュカ達は木材で出来た長椅子に並んで座り、浅い湯の中に足を突っ込みながらお湯の暖かさと気持ちよさを堪能していた。
もちろん二人の隣には征四郎達が一緒だ。
先程温泉を堪能した征四郎達はリュカ達と合流をし、共に足湯の気持ちよさを楽しんでいたのだった。凛道はリュカへと視線を向け怪訝そうな顔をして言った。
『家の風呂では十分なのでは?』
そう訪ねる凛道にリュカは薄い笑みを浮かべながら答える。
「リンドウ温泉初めてだもんねー!」
リュカはまだ来たばかりの凛道に色々見て聴いて知ってもらいたいと思い、凛道を連れ温泉巡りとやって来ていたのだった。これを機に色々経験出来ればいいとリュカはそう思っていた。
そしてリュカは言葉を続けるように言った。
「でも、気持ちいいでしょう?」
そう問われ、凛道は一瞬キョトンとし、そして短く頷いた。
「たしかに気持ちいいですね」
凛道は最初足湯に足を浸ける前、『はぁ、足だけですか。また変わった風呂ですね』と言っていたが、今では気持ち良さそうにしている。それを見、リュカは嬉しそうに唇の端を吊り上げた。
凛道はリュカの視線に気づかず隣にいた征四郎と楽しそうに話し、そしてまたリュカも自分の隣にいたユエリャンへと話しかけた。
「ユエちゃん、せーちゃん上手くやれてるかな? 他の所はせーちゃん一人になっちゃうもんね」
それは征四郎を気づかってのものだった。その言葉と意味をユエリャンは即座に理解し、悟ると静かに口を開いた。
『おチビちゃんは上手くやれている。さっきも我輩を帽子ちゃんに紹介してくれた』
その言葉を聞きリュカはどこか安心したようなそれでいて柔らかい表情をしながらユエリャンへと言った。
「そっか。なら良かった」
リュカは視線を征四郎へと向けた。その会話は彼女達の耳には届いてはおらず、彼らだけが知る会話となった―――。
そして。
長椅子に座っていたペンギン皇帝は難しい顔をしながらお湯をじっと見ていた。
『……足が届かぬ』
どうやらお湯に足が届かないみたいだ。一生懸命に両足をお湯へと伸ばそうとするが結果は同じ。
そんなペンギン皇帝へと織歌は苦笑した。
「ここは陛下には難しかったですね」
小鉄(aa0213)とエミナの二人は足湯に浸かりに来ていた。
目の前の足湯に近づき、小鉄は長椅子に座ると、機械の脚を湯の中にどぼんと音を立てながら突っ込む。
「良い湯でござるな!」
ほっと一息つきながらそう小鉄は言った。が、暫くして彼はある事に気づく。それは……。
「……むむ、これは拙者の脚だと意味が無いのでは?」
彼は自分の脚を見ながらそう言った。それに対してエミナは足湯を堪能しながら無表情で小鉄に返答をする。
『そうですね。血液は通ってはいませんものね』
そう言いながら小鉄の脚をじーっと眺め、太股辺りへと右手をスッと伸ばした。エミナの突然の行動に小鉄は驚く。
「トライアルフォー殿! 急にどうしたのでござるか!!」
『ちゃんと温まっているか気になりましたので』
表情を動かさずに言うエミナに小鉄は体温を測る為に触れたのだとすぐに理解したのだった。
また少し離れた場所で麻生とリーヤの二人も足湯を堪能していた。
あの後、二人はそれぞれ温泉に入った後足湯で合流をしていたのだった。元々麻生は露天風呂で月を眺める予定だったのだが、まだ日は明るい。
その為普通に露天風呂を楽しみ、夜に再度浸かりに行こうと考えていた。リーヤは麻生に抱きつき、彼の体をすりすりとした。
『……ん、肌つや……!』
「お、これはまた磨きがかかったな」
そう言いながら麻生はリーヤの頭を優しくぽんぽんとする。それにリーヤは満足気に目を細めた。
『……ん』
足湯を楽しんだ後、麻生達は旅館に戻り旅館の売店のお土産コーナーで孤児院の子供達(28人分)のお土産をリーヤと共に吟味しながら選んでいた。
売店には饅頭、お茶っ茶クッキー、色々な種類のお土産が所狭しと並べてあった。麻生は棚に掛かっているキーホルダーにふっと目を止め、それを手に取った。
それは目つきが悪くふてくされた姿のうさぎのキーホルダーだった。
タグを見ると“ブサカワうさぎ”と書かれていた。どうやらこの旅館のオリジナルキャラクターらしい。
「こういうご当地物で良いよな?」
キーホルダーをぷらぷらとさせながら隣にいるリーヤへと言う。
『……ん、お饅頭とかは作れる』
麻生の言葉にコクリと頷くリーヤ。
「じゃぁ、これにするか」
そう言い、子供達のお土産をキーホルダーへと決め、購入をする。
その近くで稲穂達もキーホルダーを眺めていた。どうやら彼女達も麻生達と同じくお土産を選んでいたらしい。
九操はブサカワうさぎのキーホルダーを手にすると、「やっぱり可愛い! これにしょう!」と言いながらそれをレジへと持っていき購入したのだった。
●新たな契約者達
旅館のロビーのソファに浴衣姿でくつろぎながら座っていた千颯達は温泉から戻ってきた朝霞達に気づくと片手を上げ、声を大にしながら朝霞へと声をかけた。
「お! 朝霞ちゃん!」
「お疲れ様です!」
朝霞達は千颯達の側に寄った。千颯は朝霞の隣にいる伊奈へと興味を示しながら視線を注いだ。
「朝霞ちゃん! 何なに? 新しい子?」
「ほら、伊奈ちゃんも挨拶して!」
そう伊奈へと促す朝霞。だが、伊奈の視線は白虎丸(aa0123hero001)にくぎ付けだった。
(虎! 虎じゃねーか)
目をギョギョッとさせ、内心驚愕する伊奈に対して朝霞は白虎丸の喉の下の毛をもふもふさせながら言った。
「白虎丸さんはね~H.O.P.E.の非公認ゆるキャラなんだよ。ねっ! 虎噛さん」
「そうだぜ~白虎ちゃんはH.O.P.E.非公認期待のゆるキャラなんだぜ!」
『お……大宮殿! それは違うでござるよ! 俺はゆるキャラではないでござる』
朝霞達の言葉に白虎丸は否定の言葉を発した。
(被り物かな? よくできているな)
そんな事を思いながら伊奈は白虎丸達へと挨拶をする。
「春日部伊奈です。宜しく」
「伊奈ちゃんは、私の新しい英雄なんですよ!」
『よろしくでござる。俺は白虎丸でござる』
白虎丸は伊奈へと手を差し出しながら、そう言った。それに対して伊奈は白虎丸の手を取り握手をしたのだった。
そして千颯は廊下を歩いている征四郎達に気づき、再び声をかける。
「征四郎ちゃんチャオー! その子新しい子?」
『始めましてでござるな。白虎丸でござる』
挨拶をする千颯達へと征四郎とリュカの二人は自分の新しい英雄を彼らへと紹介をしたのだった。
●天使と悪魔の仮面を持つ少女
夕方。
温泉街を巡り終えた後、赤城はヴァルトラウテと合流し、二人並んで廊下を歩いていた。
「どうせなら、トレーニングセンターもあると有り難いな」
『一般の方にはどうなんですの、それ』
そうぼやくように言う赤城の台詞にヴァルトラウテは少し呆れたように言う。
そんな会話をし、思わず足を止めた。その先にはアイラと九龍 蓮(aa3949)と聖陽(aa3949hero002)の三人がいた。
三人は廊下に置いてある長椅子に座っていた。聖陽は自分の膝にアイラと蓮を乗せ、スマートフォンを自分達の方へと向けていた。
どうやら自撮りで写真を撮ろうとしているらしい……。
『ドン、シャッター押してくれ』
「是」
蓮はシャッターを押すと、カシャッとした音が耳へと届いた。聖陽は写真を確認した後膝に乗せていた蓮達を下ろした。
『よし、ありがとなァ、嬢ちゃん』
「いえ、こちらこそ一緒に写真を撮ってくれて有り難うございました。嬉しかったです」
アイラの頭をぽんぽんとする聖陽にアイラは心から嬉しそうに微笑んだ。
その時、突如旅館の玄関先から悲鳴が聞こえた。
赤城達は旅館の玄関先へと駆けつけると、そこにはガラの悪そうな二人組の男達が一人の美人の中居に詰め寄り、言い寄っていた。
「なぁ、一部屋ぐれぇ空いてるだろう? 金は出すから泊めてくれよ。なぁ?」
「申し訳ありません……お客様。本日この旅館は貸切りになっておりまして……」
「なんならお前の部屋にでも良いんだぜ!」
眉尻を下げながら謝る中居に男達は下卑た笑いをしながら言う。見るからに男達は困っている中居を見て楽しんでいた。
「あの野郎……」
赤城達と蓮達は即座に動こうとした。
が、その前に彼らより先に瞬時に飛び出す一つの影があった。それは若女将見習いのアイラだった。
アイラは男達と中居の間に無理矢理入り、彼女を庇うように男達の前へと出た。
「お客様。申し訳ありません、その中居さんが言ってますとおりに本日は貸切りで、従業員の部屋にも規則があるので泊める事は出来ません。お引き取りください」
丁寧な言葉で言うアイラに男達は眉をひそめ、罵声を飛ばした。
「なんだとぉ!! ガキの分際で偉そうに!」
「ガキは大人しくすっこんでいろ!!」
その言葉にアイラは一瞬で表情を変えた。そして一人の男の懐に飛び込み、同時に男の腹部目掛けて拳を叩き込んだ。
「ぐふっ」
アイラの拳を受けた男はその場に呆気なく倒れ、それを見た二人目の男はアイラへと殴りかかる。
「このガキっ!」
「ハッ! そのガキに殺られるって気分はどんな気分だよ、オッサン!!」
吐き捨てるかのようにアイラは言い放つと、同時に男の攻撃を左側へと避け、そして男の腕を掴み、投げ飛ばした。
地面に強く叩きつけられた男は「うっ……」と小さく呻き、そして自分を見下ろすアイラを見る。
それは先程までの可愛らしい少女の姿とは異なり、目を吊り上げ、鬼の形相で睨む一人の悪魔がそこにはいた。
「まだやるってんなら私が相手になるよ。お前は私をどこまで楽しませてくれるんだ? なぁ?」
そう言うアイラに男達は絶叫に似た悲鳴を上げ、その場から慌てて逃げ帰って行った。その光景を見ていた赤城は呟くように隣にいるヴァルトラウテへと言った。
「あの年であれだけやれるとは、末恐ろしいな」
『狂戦士の類を降臨させているかのようですわね』
ヴァルトラウテも感心したように言う。
さすがこの旅館の用心棒を買って出ているだけの事はある。
もし将来この少女がH.O.P.E.に入る事があれば戦力になり得るかもしれない……そう二人は思ったのだった。
●制裁の真相
狒村 緋十郎(aa3678)達は卓球を終え、レミアと合流する為に再びロビーへと向かっていた。
緋十郎は夕飯に備えて運動をし、腹を空かせて更に美味しくご飯を食べようと思っていた。そこに温泉の定番である卓球へと瑠璃達を誘ったのだった。
四階にある卓球台からエレベーターで一階に降り、廊下を歩く。
両腕を組み考えながら緋十郎は小さな声でぼやくように言った。
「家族風呂でもあれば、レミアと二人で一緒に温泉に入れたんだがなぁ……」
その言葉を隣で聞いていたマーガレットは小さくふふっと笑い、羨ましそうな顔をして言った。
「本当に狒村さんはレミアさんが好きなのですね。私は本とかドラマとかでしか見たこと無いのですけど恋愛とかって憧れます」
「そうだね。あ、でも狒村さんアイラさんに聞いてみたらどうですか? ひょっとしたらあるかもですよ」
「ああ。そうだな。では後で聞いてみよう」
瑠璃達の言葉に緋十郎は頷いたのだった。
ロビーにたどり着くと、すでにレミアの姿があり緋十郎はレミアの肌つやとフルティー温泉での良い香りに思わず悩殺され、言葉を失っていた。
緋十郎の様子にレミアは気づくと彼女は満足した表情を浮かべた。
そしてその近くにいた千颯が、「ヒューヒュー! 熱いね! ご両人」と緋十郎達を冷やかし白虎丸がそれに対して『冷やかすのはやめるでござる!』などと嗜めた。
その後、夕飯の時間に近づきロビーで会った御童 紗希(aa0339)、カイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)達と皆で食堂へと向かう。
そんな中、向かい側から歩いてくるアイラへと緋十郎達は挨拶をした。
「こんばんは、若女将」
「こんばんは」
可愛らしい笑顔でアイラから挨拶を返され、少しばかり嬉しそうにする緋十郎。
それを見、レミアは緋十郎に小さな声で言った。
「……緋十郎の好きそうな可愛らしい娘ねぇ」
「た、確かに可愛らしいとは思うが……俺はもう、余所見はせん……!」
緋十郎の言葉に対してレミアは内心嬉しく感じる。が、前半の言葉に多少の不安要素を抱き、それに対して不満そうな顔をした。
「ねぇ、アイラさんエプロン変えたのですか? それ凄く可愛いですね」
紗希はアイラのエプロンを見ながら薄く笑みを浮かべながら言った。
紗希の言うとおり、先程とは違いアイラのエプロンは白いフリルが沢山付いたフリルのエプロンに変わっていた。
「有り難うございます……。実はさっき迷惑なお客さんが来てしまいましたので、やっつけている最中に汚れてしまったのです」
そう言いアイラは苦笑をする。
その言葉に緋十郎とカイの二人は激しく、そして瞬時に反応をした。
「若女将の制裁を受けた奴がいたのだと!!」
「なんたるご褒美……!! うらやま……いや全くけしからん!!」
カイと緋十郎の二人は口々にそう言うが本心では……。
((クソッ!! 羨ましすぎる!!))
などと思っていた。二人して変態である。
そんな二人を見透かすように紗希はカイを冷たい目で見、レミアは緋十郎へと低い声音で告げた。
「部屋に帰ったらたっぷりお仕置きしてあげるわ」
●食事の後の楽しみ
食堂にて。
エージェントたちの目の前には御膳の上に豪華な郷土料理が並べられていた。征四郎は料理を見、思わず感嘆の声を上げた。
「ほわあああ!! 綺麗なのです、美味しそうなのです!」
そして征四郎は目の前の天ぷらを箸で摘まみ天汁を付け、口へと運んだ。野菜の素材が生かされ、そして衣もサクっとしていた。
一言で述べると絶品だった。
「リュカ、これ凄く美味しかったですよ」
征四郎はそう言い、隣に座るリュカのコップへと酒を注ぐ。
「ふふーふ、贅沢贅沢!」
征四郎から酒を注いでもらっているリュカはご機嫌であり、凛道もまたプリンに舌づつみを打ちながら、
『……ええ、とても美味しいです』
と満足気に言った。
ユエリャンは目ぼしい物をちょこちょこと食べつつ、残りを征四郎達へと、
『我輩は飯は食えないでな、君達で食べてしまうが良い』と言った。
そしてユエリャンは料理を箸で摘まみ、あーんと凛道やリュカにする。リュカはそれ受け取り、凛道はユエリャンに対して嫌そうな顔をした。
『色男は流石にわかっているね。眼鏡の方はまったく失礼な奴だ。湯上りの我輩が美しいのはわかるが、火傷しても知らんぞ』
征四郎はそんな様子を見つつ、魔が差したような顔で苦手な人参を箸で摘まみ凛道の口許へと向けた。
「あーん、なのです」
征四郎のあーんを受け取り、凛道は静かに鼻血を流した。鼻にテッシュを詰め、そしてリュカへと言う。
『……これが……幸せというものなのですね、マスター……』
「あぁ、うん、そうだね」
リュカは生暖かい返事を返し、そんなリュカ達を見ながら征四郎は、
(ガルーも連れて来たかったですね。また、これたら嬉しいです!)と心の中でそう呟いた。
征四郎達の隣の席で名物のプリンを手に取りながら朝霞は興奮しながら伊奈へと言った。
「みてよ伊奈ちゃん! ぷるんぷりんだよ! まさに奇跡!」
『問題は味だよ、味。食べてみようぜ』
(ぱくっ)
口に入れた瞬間二人は目を大きく見開く。
『!! んんまいっ』
「おいしい!」
とてつもない美味しさに二人は感動を覚えた。またニウェウス達も同じようにプリンを手に取っていた。
「何というか。大仰な名前、だね?」
『ふふー。この名に満ちる自信。相当の上物と見た。イタダキマス!』
そう言いながらプリンを一口食べるストゥルトゥス。だが、スプーンを咥えたまま硬直するストゥルトゥスに対してニウェウスは彼女をつつく。
「ストゥル?」
そして彼女の眼鏡がキラリと再び光った。
『……おいちぃ!』
「そ、そんなに美味しいの……?」
そう言うストゥルトゥスの台詞にニウェウスも一口食べる。
それをガン見するストゥルトゥス。そしてニウェウスの顔が綻んだ。
「……美味しい♪」
桜狐は自分の前にある豪華な料理に目をキラキラと輝かせていた。
目の前の料理は色々な食材を使われていた為色鮮やかに、それでいて綺麗な飾り付けをされており美味しそうだった。
「くぅ、こんな豪華なご飯はいつぶりじゃろうのぉ……」
そしてまた織歌も桜狐と同様に料理へとキラキラとした視線を向けていた。
「ふわぁ……豪華ですね」
『ふむ、悪くない』
短く頷くペンギン皇帝に織歌は左側の皿に乗っている焼き魚を指差しペンギン皇帝へと言った。
「お魚もありますよ。温泉街の郷土料理ですし、川魚でしょうか」
『川魚っ!? ……海のものと違うのであろうか』
織歌の言葉に、嬉しそうにそわぁとするペンギン皇帝。
そして織歌はペンギン皇帝へと料理を食べさせながら自分も食べていく。そんな時、自分と同じように桜狐へと食べさせていた千佳と目が合い二人は笑い、そして言葉を交わしたのだった。
料理を食べ終わった桜狐はデザートのプリンをスプーンですくい口の中へと一口放り込む。なめらかな味が口の中へといっぱいに広がった。
「むむっ、このプリンは絶品じゃの……。……プリン……」
桜狐は隣に座る千佳へとじーっと視線を送る。桜狐の視線に気づいた千佳はプリンをサッと桜狐の視線から遠ざけるように動かした。
織歌もまたプリンを食べ、顔が笑顔へと変わっていった。
「プリン美味しい――― お口の中が幸せです」
『織歌、余にもはようそれを」
ペンギン皇帝はそんな織歌を見ながら織歌へとプリンを催促したのだった。
「料理に温泉に酒! 至れり尽くせりでござるなぁ」
小鉄は酒を一口飲みながら言った。
それに対して稲穂は柔らかく、そして薄い笑みを浮かべながら穏やかに言う。
『まぁ、遇にはこうやってのんびりするのも良いんじゃないかしら』
そう言い、稲穂は御膳の上に乗っている山菜料理を口にする。あまりの美味しさに内心驚く稲穂。
……この料理のレシピとか教えて貰えないかな、でも無理かなー……
旅館の料理なので無理かもしれない。稲穂は心の中でそう考えを巡らせる。そんな中小鉄の覆面を見、千颯は小鉄に対して疑問を口にした。
「前から気になってたけど小鉄ちゃんってどうやって食べているの?」
それもその筈小鉄は食事をしているにも関わらず覆面姿のままだった。
『そこはNINJYAの秘密でござろう』
白虎丸の台詞に小鉄は頷き同意した。
その隣の席に座る九操は天ぷらを食べていた。料理のメインは肉料理だが九操はなかなか肉料理に手が伸びない。
そんな中。
『いらないのなら、貰いますね』
無表情でエミナは九操の皿の上に乗る肉をひょいっと攫ってゆく。それに対して九操は「ああーっ!」と悲鳴に似た声を上げた。
仕方ない……と内心諦め、隣にふと視線を向けると、そこには肉を美味しそうに食べている小鉄の姿が目に映った。
しかもおかわりまでしている。
おそらく小鉄が美味しそうに食べる姿をエミナは見て九操の肉を攫ったのだろう……。
おい元凶! 的な怒りと共にじとーっと冷たい視線で小鉄を睨む九操。
九操の視線を察知した小鉄は目を逸らし、そして冷や汗をかきながらスッと九操にプリンを差し出した。
「……拙者のプリンでご勘弁願えないでござろうか」
「食べ物で釣ろうったってそうはいきませんからね!」
そう言い、差し出されたプリンを九操は受け取った。そしてプリンを一口口に含む。名物とあって実に美味しい。思わず顔がにやけそうになるのを堪えつつ、九操はぷりぷりと怒った様子でプリンを間食したのだった。
彩咲姫乃(aa0941)は料理を食べていた。
彼女はエージェントをする為に実家を出て英雄のメルト(aa0941hero001)と二人暮らしをしていた。
メルトが食べまくるのであまり贅沢の余裕なんて普段はどこにも無い。
その為今日は料理を堪能しょうと決めていた。が、しかしメルトに自分の分を分けてしまいあまり普段とわからない状態に陥ってしまっていた。
(あ、うん。メルトに自分の分を分けてあまり食べれないって……知っていた)
心の中で涙を流す姫乃。
他の者の料理に手を伸ばそうとしたメルトを見、姫乃は即座に叱る。
「メルト! 他人の料理に手を伸ばそうとするな!」
溜め息をつき、そしてせめてプリンだけでも堪能しょうと思い、手に取ろうとした瞬間。
「オナカスイター」
「……一口だけだぞ? 絶対だからな?」
「オナカスイター」
姫乃はしつこく念を押し、プリンを一口メルトにあげた。
そしてヴァルトラウテもまた料理を存分に堪能し、食べ尽くした後デザートのプリンを味わっていた。旅館の料理も楽しみだったが、何といっても彼女はデザートを非常に楽しみにしていたのだ。
『確かに舌触り良く、味わい深いですわね』
ヴァルトラウテは赤城へと目を向けた。
『龍哉……』
「ここの料理人さんの沽券に関わるような要求は言わせねぇよ」
夕食の料理を食べ終えたリーヤは体をうずうずとさせていた。
「プリンは逃げんからゆっくり食べなさい」
そんなリーヤへと麻生は頭を軽くぺしりと叩いた。リーヤはスプーンを手に持ちプリンを、もっぐもっぐと食べる。
『……んぅ』
リーヤは一瞬動きが止まり、そして。
『……ん!』
プリンの美味しさに思わずペカーとした輝くような笑顔をした。
それを見、麻生は苦笑し、自分のプリンをリーヤの御膳の上へとそっと置いた。リーヤはそれを見てパァァと顔を輝かせ、そして麻生を抱き締めながらすりすりとする。
『……! ユーヤぁ!』
「落ち着きなさい」
麻生は嬉しそうにするリーヤへとまた一つ苦笑を溢しながらも、再び頭をぺしりと軽く叩いた。
緋十郎とレミアの二人も豪華な料理に舌づつみを打っていた。緋十郎は料理と一緒に地酒を飲み、レミアはプリンを大切に味わいながら食べていた。
レミアはプリンをとても楽しみにしており、プリンが運ばれて来た時点で感激した表情を浮かべた。
嬉しそうにしているレミアの姿を緋十郎は見ながら一人幸せを感じていた。
そして自分のプリンを見て、ふと以前瑠璃達と一緒に臨んだお菓子作りの依頼を思い出し懐かしんだ。また隣の席に座る瑠璃も同じだったようで緋十郎と瑠璃は楽しそうに話したのだった。
また佐藤 咲雪(aa0040)とアリス(aa0040hero001)達も料理を堪能していた。咲雪はやる気のない表情で、肉を口へと次々と運んでいっていた。
それを見ながらアリスは、
「野菜も食べて」と言いながら野菜を進めるのだった。
望月達はというと……。
『プリンのために生きていると言っても過言じゃないね』
「H.O.P.E.やってて良かった」
などと言葉を交わしながらプリンを味わっていた。
五階の大浴場の前に一色 綾香(aa4051)と紅蓮(aa4051hero002)の二人はいた。
「じゃぁ紅蓮! 1時間半後にここで集合ねっ」
『分かりました。姫もあまり長湯せずに……』
そう言う紅蓮に綾香は軽い口調で答える。
「わかってるって! あーコロちゃんもいればよかったのにー」
『サイコロ殿は硫黄が苦手なようですからね。残念です……』
サイコロは綾香の英雄であり、今回温泉巡りでの依頼な為不参加になっていた。二人は残念そうに言った後、気を取り直して、それぞれ大浴場ののれんを潜っていったのだった。
アトリアは一人旅館内を歩いていた。
数十分前。
アトリアは部屋で久朗から温泉の説明を聞いていた。
『……服を脱いで湯に浸かる? どこを鍛える為にです?』
「まぁ、周囲を見ていれば何をする場所なのかわかるだろう。もしどうすればいいか悩んだ時は俺に……」
『アナタを頼らなければならぬ程、順応性が低い訳ではありません』
そう久朗へとピシャリと言い放ち部屋から出て来ていたのだった。暫く進んだ先に大浴場ののれんを見つけ、そしてアトリアは足を止めた。そこには二つの色違いののれんがあり、それをじっと眺め、そして眉をひそめた。
『ふむ。これはどちらに入れば良いのでしょう。中に居る者に聴けばわかりますか』
アトリアは呟き、平然とした顔でツカツカと“男”と書かれたのれんの方へと入っていく。
『失礼します。温泉なる場所はコチラで良かったでしょうか?』
そう言った瞬間、彼女の目の前に一般の男性客の姿が飛び込んできた。
まだ全員服を着ていた為、その中の一人が「女湯は隣の方ですよ」と教えたのだった。
●覗きは出来るのか?
幾つものの積んだタオルをアイラは両手に持ち大浴場へと運んでいた。
小さな少女の前にはタオルが邪魔をしている為あまり前が見えずにいた。よろよろとした足取りで歩く少女の横から麻生はひょいっとタオルを持った。
「頑張ってんなー。手伝うよ。これを大浴場の方に持って行けば良いのか?」
「はい。あ、でも、お客様にお手間をかけさせては……」
「良いよ。俺も大浴場の中にある露天風呂に用があるしな」
アイラの言葉を遮り麻生は小さく微笑をする。それに対してアイラは麻生へと礼を言いながらペコリと頭を下げた。
「有り難うございます。麻生さん」
突然アイラの頭を撫でる感触がした。アイラは頭を上げるとリーヤがアイラの頭を撫でていたのだった。
『……ん、良い子良い子』
リーヤに続き麻生もアイラの頭を撫でる。撫でられたアイラは嬉しそうに目を細めた。
麻生と別れた後、廊下を歩いていたアイラは突然後ろから声をかけられ、そして振り向く。そこには今宮 真琴(aa0573)の姿があった。
真琴はアイラを見ながら真面目な表情で言った。
「あのね、男湯の露天を覗ける場所知っています?」
「え……? あの、普通は逆ではないでしょうか?」
困惑しながら言うアイラに真琴は「いいですか……」と言いながら丁寧に腐のあり方から生い立ちまで説明をし、そして何処からともなく取り出したレアの薄い本をアイラへと渡した。
渡されたアイラは漫画だと思い、パラと本のページをめくった。そして次第に顔を真っ赤に染めていった。
「一緒にどう?」
輝くような満面の笑顔で言う真琴にアイラは激しく動揺しながらも真っ赤な顔で、
「ダメです!」
と強く言った。そこにたまたま通りかかった千颯が真琴へと話しかけた。
「真琴ちゃん……一応言ってはおくけど覗きは犯罪だからね? 男性の裸体なら俺ちゃんが温泉で撮っておくから」
『千颯……お前は何を言っているでござるか……』
千颯の台詞に溜め息混じりで言う白虎丸。
真琴は千颯の言葉に目を輝かせる。だが、再度アイラに「写真もだ、ダメですよ!」と注意をされ、真琴はふてくされた。
脱衣室で服を脱ぎながら真琴は隣にいた英雄の奈良 ハル(aa0573hero001)へと不満を溢した。
「だってハルちゃんが直接って言うから……」
『いや、迷惑になるから隠れて見るのはやめとけといったんじゃが……そもそも交流の場にするんじゃからおとなしくしとけと言ったろうに』
「だって目の前に男湯あったら見たくなるでしょ?」
『ならんからな……?』
真琴の言葉に突っ込むハル。
だが真琴は両手を組み、うっとりとしながら妄想に浸る。
「あぁ……この壁の向こうにはパラダイスなのに……」
『お主の今の格好でいくと逆に食われるからな?』
ハルはそんな真琴を見、ポツリと呟いたのだった。
●露天風呂
姫乃とメルトは露天風呂の洗面台の前で体を洗っていた。
メルトは正体不定形生物(スライム)な為そのまま温泉に入れば大変な事になってしまう。なので包帯を巻いていた。
体を洗い終えた姫乃は露天風呂に浸かり、頼んだジュースを一口飲む。
そしてほっと一息した。
温泉に入りながら何かを飲む行為を一度やってみたかった姫乃は満足だった。
だが、周囲に視線を向けると、ヴァルトラウテは湯に浸かりながらワインを飲み、紗希はソフトドリンクを飲みながら「お月さまキレイ……」と眺めており、桜狐達も紗希と同様に月を見ながらまったりと入っていた。そんな彼女達から視線を逸らしながら、姫乃は目のやり場に困っていたのだった。
綾香は湯船にゆっくりと浸かりながら、ほっと息を吐きながら言った。
「はぁーごくらくじゃ~」
そして近くにいた望月へと話しかけた。
「ほほう……肌綺麗ですなー。ねね、化粧品何使っているの??」
と綾香はそう訪ね、そこにまた真琴も加わり楽しく三人で談笑をしていた。
そんな中、フィーはアルトの体を洗っていた。彼女達は皆と少し遅れて入浴をしていたのだった。理由はアルトの両手の機械の指を外さなければならなかったのでその為であった。
フィーはからかうようにニヤニヤしながらアルトの体を洗っていく。それに対してアルトは顔を真っ赤にする。その反応がまた可愛らしく、フィーは体を洗い終えた後アルトの手を引き、露天風呂へと行く。そして湯船の中に入り、アルトを自分の膝の上に乗せると、彼女の後ろから抱き締めるように浸かった。
ハルは湯船に浸かりながら手に持っていた、お猪口へと口をつけた。
目の前にはお盆が浮いており、酒が2本ばかり置いてあった。だがこれはお代わりの分であり、もうすでに彼女は有り得ない本数を飲み干していたのだった。
『贅沢じゃのぅ……』
「ハルちゃん呑みすぎないようにね?」
『ん、もう出るんか?』
湯船から上がる真琴を見てハルはそう訪ねる。それに対して真琴は笑顔で答えた。
「ちょっと覗ける場所あるか聞いてくるー」
『ん、わかっ…………は?』
真琴の言葉にハルは思わず唖然とする。先程アイラにダメだと言われたが真琴は諦めきれずにいたのだ。
真琴は露天風呂の周りを歩き回り覗ける場所を探していた。
だが覗ける場所がどこにも無い。
それを見、望月は「マコちゃん何やっているの?」そう声をかけた。そんな中、紗希は男湯から聞こえてくる会話に眉をひそめ、湯船から静かに上がると近くにあった桶に手を取った。
『これは……ワタシが入っても、良い世界なのでしょうか?』
アトリアは露天風呂を見ながら小さくポツリと呟いた。
アトリアは周囲へと視線をやる。そこには楽しそうに談笑をする者、月見酒を楽しむ者様々な者達がいた。
それは見るからに楽しそうな風景だ。
アトリアは自分の腕を見る。体が全身機械の彼女からすると、周囲と明らか浮いているように感じ、同時に場違いな存在にも思えた。彼女は躊躇し、そしてその場から離れたのだった。
●月見酒
ジーヤは露天風呂に浸かりながら夜空に浮かぶ月を眺めていた。
美しく輝く月は眺めるだけでも自然と癒される。そうジーヤは感じた。
「月が綺麗だ……まほらまが幻想蝶に入れて持って帰るなんて言い出しそうだぁ……あふやっぱ疲れてんのかな、眠いや……」
ジーヤはあくびを一つする。湯船の暖かさが体を包み、気持ち良さを感じていた。
その周囲では。
「リュカちゃん! 露天風呂で飲もうぜー!」と言いながら千颯とリュカは楽しそうに談笑をしながら露天風呂の中で酒を交わしていた。
「やっぱ温泉には酒だよなー!」
酒をきゅっと飲んだ後、千颯は満足気にそう言った。
「そうだね」とリュカも同意をする。
そして千颯はぐるりと周囲を見渡すと他のエージェント達が新しい英雄を連れている事に気づいた。
「なんか皆新しい子連れているね」
『新鮮でござるな』
一方。
麻生は湯船に浸かり、頭にタオルを乗せ、そしてジュースを飲みながら月を眺めていた。
「あぁ……良い月だ、癒されるな」
彼は穏やかな口調でそう呟いたのだった。
また榛名 緑(aa1575)とウインクルム(aa1575hero001)達もまた酒を飲みながら楽しそうに会話をしていた。
こんなにゆっくりしたのは久々だ。
そう思い、視線をふっと周りに向けるとそこには紅蓮の姿があった。そして彼は紅蓮へと話しかけた。
そんな最中。
大浴場の中を歩きながら蓮と聖陽の二人は露天風呂へと向かっていた。
「温泉、月見酒!」
『いいねェ、ゆっくりと浸かるとするか』
聖陽は月見酒を楽しみにしていた。
酒を飲みながら温泉に浸かる行為は初めてであり、それが仲間達と共に語りながら出来るのはなかなか出来ない事だ。
それなりに楽しみでもあった。
それに温泉巡りも蓮達はすでに満喫をして来ていた。温泉に入る時蓮は女子用の水着を着用していた。「水着、無粋」とつまらなさそうに言う蓮に対し、聖陽は『しょうがねェだろォ、アイツが鬼の顔で言ったんだから』と答えた。
大浴場の奥のガラス戸を聖陽は開けると、そこには露天風呂があった。露天風呂にはすでにカイの姿があり、カイは一足先に湯船に浸かっていた。聖陽達も露天風呂の湯船に浸かるとカイに近づき、そして酒を飲みながら楽しそうに談笑をする。
「お! カイちゃん何なに~飲み会? 飲み会?」
と言いながら千颯達も加わりより会話が弾んでいった。
その時、女湯から桶が飛んできて、それが見事にカイへと命中した。
桶の攻撃を受けカイは思わずバランスを崩し、ばしゃん! と激しい水音を立てながら湯船の中に倒れてしまった。
再び気を取り直して会話も弾み良い感じの雰囲気になった頃に蓮が口を開き、そして歌を紡ぎだした。それは『中秋の月』。しかも中国語で蓮は詠っていた。
『八月の詩だろォ、それ』
「是、でも、今日、楽しい日、違いない」
『それもそうだ』
笑みを浮かべる蓮に聖陽もまた頷く。
そしてその近くにいた紅蓮は、
『うむ、5分前ですね……姫はのぼせてないでしょうかね』
そう言いながら湯船から上がったのだった。
●お月見
由利菜とウィリディスの二人は旅館の園庭の方へと向かっていた。
この旅館は園庭が存在しており、露天風呂で月見酒の他に園庭で月見を楽しめる仕様となっていた。
由利菜は先程売店で購入した饅頭とクッキーを両手に抱えながら歩く。
その時、前方の方から歩いてくるシルフとラプンツェル達の姿にウィリディスは気づき、由利菜へと小声で言った。
『わぁ……すごく綺麗な女の人だよ!』
そう言うウィリディスに由利菜は「そうね」と答え、そしてシルフ達の方へと近づくと少し緊張した声音で話しかけた。
「し、シルフさん!? あの、一緒に月見いかがですか?」
由利菜から問われシルフは穏やかな笑みを浮かべた。
「有り難うございます。是非ご一緒させて下さい。実はですね、私達も由利菜さん達をお誘いしょうと思っていました」
そう言うシルフの両手にもお茶、紅茶などの飲み物が抱えられており、由利菜とシルフは一瞬目が合うと、二人揃って微笑んだ。
●その後の光景
大浴場の前にあるベンチに座っている紅蓮の姿を見て綾香は慌てて近寄った。
「ごめーんちょっと遅れちゃた?」
少し申し訳なさそうに言う綾香に紅蓮は頭を振った。
『あ、いえ私も出たところです』
「そっか、待たせちゃったと思ったけど良かった!」
そう言いながら綾香は、ほっと安堵しそして笑顔で言った。そして、千佳は眠っている桜狐を抱えながら部屋へと戻っていっていた。
「にゅ、他はさておきプリンだけはあげないにゃよっ」
『あやや。お昼頑張り過ぎたにゃねーもう桜狐はお眠みたいにゃよっ』
千佳は桜狐の寝顔を見て小さく微笑んだのだった。
一方。ベンチから離れた場所でカイは紗希に謝り倒していた。
だが、紗希は両腕を組みながら一言も言葉を発しない。
無言の圧力をビシビシと放っていた。
そして突如紗希はギンと鋭い瞳をカイに向けると同時に、カイの体へとありったけの力を込め、ボディーブローを叩き込んだ。
紗希の攻撃を受け、体を崩し、その場に膝をつくカイ。
「クズに市民権などない……」
氷のように低く冷たい声音で言い放ち、そして親指を首の前で横へと切る動作をしながら、
「死にさらせクソ英雄……」
カイを見下ろしドスの効いた声で吐き捨てるように言った。その直後紗希はカイをボコボコに殴り倒し、それに対しカイはボコボコになりながらも
『あ、ありがとうございま……し……』そんな言葉をその場に残したのだった。
部屋に戻ったジーヤは畳の上で横になっていた。
窓から入ってくる風が妙に心地よく感じる。まほらまは横になっているジーヤに近づき、彼の顔を覗き込みながら言った。
「眠いのならば、布団で寝たらどうかしら?」
「もう少しこのままでいいや」
まほらまへとジーヤはそう返す。そしてジーヤはまほらまへと視線を向けながら真面目な表情をして言った。
「まほらまの事をもっと知りたいなって思うんだ」
彼の瞳に見詰められ、まほらまは今自分が感じている思いを彼に向けて言った。
『あたしも知りたい、契約前の事とかこの世界につなぎ止めてしまってどう思っ……』
「まほらまって胸ない……あははは」
『……寝ぼけてるッ!? 寝なさいよバカァ!』
突然笑いだしたジーヤにまほらまは少しばかり怒りながらそう言った。ジーヤは完璧に寝ていたのだった。
暫くして寝息を立てるジーヤの髪にまほらまは手を触れた。
『ジーヤを動物に例えると? ウサギかしらぁ動くときは突然、静かだと思うと眠ってるし何を考えてるかわかりそうでわからない』
彼の事を知りたいと言ったのは紛れもなく彼女の本心だった。
あの時……発作で動けず苦しみ、心臓が止まった彼に彼女は勝手に契約を結んだ。
彼はこの世界に繋ぎ止められどう思っているのだろうか……。
まほらまはそんな思考を振り払うかのように、そして今日の事を思い出していた。
ジーヤも自分も温泉を楽しみ、料理のデザートも堪能した。もちろんオリジナルキーホルダーも購入済みだ。
今日はここに来れて良かったとそう思いながら窓の外に目をやった。そこには夜空に美しく輝く月があった。
アトリアは温泉から離れた後暫く旅館内を歩き、そして自分の部屋へと戻った。
部屋の窓際にある椅子に久朗は座っており、近くにあるテーブルの上には飲み物が置かれていた。アトリアは近づき、久朗の向かい側にある椅子へと腰をかけた。
『……この世界は平和過ぎます。ワタシは何をすればいいのです?』
言葉を漏らすように、そして小さな問いかけをするアトリアに久朗は彼女へと視線を向けた。
「……それを一緒に考えるのが俺達の誓いだろう?」
この世界に対してまだ知らない事が多い。
それを目の前の彼と共に考えていく事は悪くはない……。そう彼女は感じ、短く頷いたのだった。
アルトは部屋の隣にあった物置に籠っていた。彼女は貧乏性が故に広い部屋が落ち着かなくなり籠っていたのだった。
「 落 ち 着 く 」
安心しきった顔をするアルト。それに対して見かねたフィーが彼女を連れ戻す。部屋に戻る際からかうようにフィーはアルトへと言った。
「部屋が一緒な事でやがりますし、一緒に寝ますかい?」
『では私も一緒に寝ましょうか』
フィー達の言葉にアルトは疑問符を浮かべながら不思議そうな表情をして答えた。
「? 一緒の部屋だからそりゃあ当たり前じゃない」
(わざわざ別の部屋で寝る必要もないし……)
そして部屋へと戻ると布団が一組敷かれていた。
「…………あれ、何で布団が一式だけ?」
怪訝そうな顔を一瞬アルトはし、そして瞬時にその意味を理解した。そしてアルトは赤面をする。
それを見、ニヤニヤしながら眺めるフィーに対してアルトはフィーへと激怒し、赤面しながらポカポカと叩いた。その後。フィーが前から、フィリアが後ろからアルトを抱き締めるように寝た。
暫くしてアルトが完全に寝静まったのをフィーは確認すると布団から出て、近くのテーブルの方へと行くとそこで紅茶を入れ、そして椅子へと腰をかけた。
『お姉さまはいつまでこんな事を続けるつもりで?』
そうフィリアから問われフィーは素知らぬ顔でその問いかけに答える。
「さぁ、その時が来るまででしょーよ」
『そうやって自分に言い訳をして辛くなるのはお姉さまですよ?』
「……知らねーですな、私はこのまま朝まで過ごすんであんたは寝なせーな」
部屋の中にいた聖陽は自分の胡座の上に座る蓮へと言った。
『ドン、火ィくれ』
「ん」
聖陽へと蓮は煙管を差し出し、それに対して聖陽は煙管を受け取り蓮へと礼を言った。
「ありがとよォ」
そしてそれに口をつけ、息を吐いた。窓の外を見、夜の静寂さを感じながら聖陽は呟くように言った。
『怖すぎるくらい平和だねェ』
「ん、それが、いい」
またそれに対して蓮は静かに答えたのだった。
紅蓮は部屋で今日の出来事を日記に(通称姫日記)料理の味付けを推測、綾香の好みなどを印し、綾香は布団の中で爆睡していた。そしてまた真琴の方は部屋で今日のネタ派生を妄想し、ネタ帳へと高速の書き込みをしていた。そんな真琴を見てハルはにやけていたのだった。
●また来てね
「皆さん当旅館をご利用して頂き本当に有り難うございました」
旅館の玄関先でペコリと頭を下げるアイラに対してエージェント達は「こちらこそ有り難う」「料理美味しかったよ! プリンは超絶品だった!」「また来るね」との言葉を残し旅館を後にした。
ジーヤは「なんか頭イタイ」と言いながら頭を手で押さえながら歩いていた。
帰路を歩く由利菜へとウィリディスは話しかけた。
『あたし……契約してくれたユリナと、一番の親友になりたい』
その言葉はウィリディスの心からの言葉だった。
「親友は一日じゃ出来ない。もっと一緒に日々を過ごしましょう」
由利菜は薄く微笑み、そして優しい声音でそうウィリディスへと言った。その言葉を聞き、ウィリディスは嬉しそうに『うん!』と答えたのだった。
その頃一方カイはと言うと―――。
他のエージェント達とは別行動で病院送りとなり、一人だけ長い旅となったのだった――。
結果
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