ゲスト
(ka0000)
【MN】そして誰もいなくなれ
マスター:からた狐
このシナリオは5日間納期が延長されています。
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~20人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 4日
- 締切
- 2016/08/17 15:00
- 完成日
- 2016/09/30 23:33
オープニング
その館に足を踏み入れた理由は、様々だろう。
誰かに誘われた。招待状を受けた。道に迷った。雨宿り。夢のお告げ。気が付いたらここにいた……。
人が集まったのは単なる偶然のようだった。見知った顔もあれば知らない顔もある。
折角だからと各人の簡単な紹介を済ませる。
その後、誰ともなく館の中を散策に出かけた。
大きな洋館で、部屋数はどのくらいあるのか。廊下の端に立ち、振り返ると向こうの端が闇に沈んで先が見えない。それだけ広いというのもあるが、灯りに乏しいというのもある。
外に通じる窓はどれも内外から板張りされ、わずかばかりの光が差し込むだけ。綺麗に掃除されているようなのに、使われている雰囲気は無かった。
ざっと歩き回る限り、建物自体はどうやら三階建て。だが、構造が複雑で迷路のようにもなっている。一階を歩いていたはずが二階を散策している人と出くわした。鍵がかかった扉も多かったが、それ以外にも隠し扉などありそうだ。
人は住んでいないようだ。キッチンを見つけたが食料は見当たらない。水も通ってないようだった。館に入る前、庭に井戸らしきものを見た気もしたが、外に出ないことには使えるかどうかわからない。
携帯を触っても、圏外の表示が出る。備え付けの電話も無い。テレビやラジオも見つけたが、動かなかった。持って来た道具も通信は役に立っていない。外との繋がりは完全に立たれていた。
ざっと見て回っても好奇心が満たされたぐらい。それ以上に薄気味悪さを感じる。
この館に留まるかどうかは、個々それぞれの事情……になるはずだった。
唐突に悲鳴が聞こえた。重なるように暴れる物音と騒動と――やがて絶叫が館に響き、また静寂に戻った。
聞こえた声を頼りに駆けつけると、そこは最初に入った玄関ホールだった。
すでに何人かが集まっていた。その視線が集まるのはホールの中心。
そこに人が倒れている。原形を留めないほど体が破壊され、辺りに血が飛び散っていた。顔も分からないほどだったが、血まみれの服から、やって来た一人だと分かる。
そのそばに、古風な手紙が置かれていた。
『当館へようこそ。ここへ来た理由はもう分かっているだろう。私はお前たちを始末する事にした。この館はその為の檻だ。生きて出られると思うな。もっとも死ねば出られるとも限らないがね。
心当たりが無い者もいるかもしれないが、それは申し訳ない。残念ながら、悪意の連鎖に巻き込まれてしまったのだ。可哀想に思うが、他の者と同じく、ここを墓所としてくれ。大丈夫、皆一緒だ』
とんでもない文面に、一同がざわついた。心当たりがあるのか、無いのか。蒼白になった顔からはうかがい知れない。
ただ、それをおとなしく受け入れる者ばかりでもない。
冗談じゃないと、すぐに玄関扉にとびつくが……。
「開かない――!」
重い扉は鍵がかかり、押しても引いても開きそうになかった。
ならば窓からと駆け寄るも、どこも板張りされている。ぶち破ろうと、どこかから椅子を持ってきて投げつけた者もいたが、不思議なことに椅子が砕けても窓はまったく変化なし。
「なんだ、ここは!」
「くそっ、絶対出てやる!」
うろたえながらも、やるべきことを模索し始める。
館をもう一度調べて脱出路を探す。手紙の主を探す。狙われる理由を考える。戦う準備をする。神に祈る……。
出来ることはたくさんある。今はまだ。
しかし、それもいずれは尽きる。あるいは強引に断ち切られる。
転がる死体と同じになれば、もはや何も出来はしない。
潜んでいるのは狂気と殺意。
そして、館の主は誰もいなくなることを望んでいる……。
誰かに誘われた。招待状を受けた。道に迷った。雨宿り。夢のお告げ。気が付いたらここにいた……。
人が集まったのは単なる偶然のようだった。見知った顔もあれば知らない顔もある。
折角だからと各人の簡単な紹介を済ませる。
その後、誰ともなく館の中を散策に出かけた。
大きな洋館で、部屋数はどのくらいあるのか。廊下の端に立ち、振り返ると向こうの端が闇に沈んで先が見えない。それだけ広いというのもあるが、灯りに乏しいというのもある。
外に通じる窓はどれも内外から板張りされ、わずかばかりの光が差し込むだけ。綺麗に掃除されているようなのに、使われている雰囲気は無かった。
ざっと歩き回る限り、建物自体はどうやら三階建て。だが、構造が複雑で迷路のようにもなっている。一階を歩いていたはずが二階を散策している人と出くわした。鍵がかかった扉も多かったが、それ以外にも隠し扉などありそうだ。
人は住んでいないようだ。キッチンを見つけたが食料は見当たらない。水も通ってないようだった。館に入る前、庭に井戸らしきものを見た気もしたが、外に出ないことには使えるかどうかわからない。
携帯を触っても、圏外の表示が出る。備え付けの電話も無い。テレビやラジオも見つけたが、動かなかった。持って来た道具も通信は役に立っていない。外との繋がりは完全に立たれていた。
ざっと見て回っても好奇心が満たされたぐらい。それ以上に薄気味悪さを感じる。
この館に留まるかどうかは、個々それぞれの事情……になるはずだった。
唐突に悲鳴が聞こえた。重なるように暴れる物音と騒動と――やがて絶叫が館に響き、また静寂に戻った。
聞こえた声を頼りに駆けつけると、そこは最初に入った玄関ホールだった。
すでに何人かが集まっていた。その視線が集まるのはホールの中心。
そこに人が倒れている。原形を留めないほど体が破壊され、辺りに血が飛び散っていた。顔も分からないほどだったが、血まみれの服から、やって来た一人だと分かる。
そのそばに、古風な手紙が置かれていた。
『当館へようこそ。ここへ来た理由はもう分かっているだろう。私はお前たちを始末する事にした。この館はその為の檻だ。生きて出られると思うな。もっとも死ねば出られるとも限らないがね。
心当たりが無い者もいるかもしれないが、それは申し訳ない。残念ながら、悪意の連鎖に巻き込まれてしまったのだ。可哀想に思うが、他の者と同じく、ここを墓所としてくれ。大丈夫、皆一緒だ』
とんでもない文面に、一同がざわついた。心当たりがあるのか、無いのか。蒼白になった顔からはうかがい知れない。
ただ、それをおとなしく受け入れる者ばかりでもない。
冗談じゃないと、すぐに玄関扉にとびつくが……。
「開かない――!」
重い扉は鍵がかかり、押しても引いても開きそうになかった。
ならば窓からと駆け寄るも、どこも板張りされている。ぶち破ろうと、どこかから椅子を持ってきて投げつけた者もいたが、不思議なことに椅子が砕けても窓はまったく変化なし。
「なんだ、ここは!」
「くそっ、絶対出てやる!」
うろたえながらも、やるべきことを模索し始める。
館をもう一度調べて脱出路を探す。手紙の主を探す。狙われる理由を考える。戦う準備をする。神に祈る……。
出来ることはたくさんある。今はまだ。
しかし、それもいずれは尽きる。あるいは強引に断ち切られる。
転がる死体と同じになれば、もはや何も出来はしない。
潜んでいるのは狂気と殺意。
そして、館の主は誰もいなくなることを望んでいる……。
プレイング
リプレイ本文
闇より目覚め。客がいると気付いた。
「今回のおもちゃは貴方たちなのね」
たっぷり楽しませて、と八神 紗夜(ka5396)は嗤う。
この奇妙な館に住み着きどのくらい経ったか。あるいは、我知らず、館に捕らわれているのか。いずれにせよ、吸血鬼としての永い生、楽しみは限られてきていた。
紗夜は動く。事情も知らずに館を歩く客人から適当な一人を選ぶと、隠し持っていたナイフで仕留め、まだ温かいその首筋から血を奪う。
「まずは一人目」
滴る血を拭うと、客たちへの手紙を取り出した。
●
閉ざされた館。転がった死体。そして、殺意と悪意を振りまく予告状。
「ふざけるな! そこをどけ」
パワードスーツを着たシン・コウガ(ka0344)が、苛立たし気にアサルトライフルを正面玄関に向ける。
銃弾が無くなるまで撃ちまくったが、玄関扉は開かない。わずかに銃弾跡が凹んでいたが、その程度。
さらにピンポイントで鍵穴を狙って撃つ。が、引き金を引いた途端に、ライフルの方が弾け飛んだ。パワードスーツでなければ、シンが大けがを負う所だった。
銃がダメならと力任せでケリつける。機械脚甲を装備し、普通の扉ならとっくに粉砕出来ている。けれども、扉は全く開く様子を見せなかった。
脱出不可能。見せつけられた事実に空気が張り詰める中、インテグラ・C・ドラクーン(ka4526)の笑いが徐々に大きく響いていった。
「……。ンふふふふ、ふふ。こんな面白いイベントはなかなか巡り合えないぞ! 鬼ごっこの始まりだ。童心に返って楽しもうではないか!」
被っていたインコ頭のマスクを脱ぎ捨て、真っ赤な一本の三つ編みに白い肌の青年が顔を出す。その目は楽しげに輝いていた。
「この状況の一部始終を記録しなければ。何か書く物は……こいつが持っていないかな」
「ちょっと失礼。遺体には触れないように注意して欲しい」
犠牲者に手を伸ばすインテグラだが、遺体を調べていたHolmes(ka3813)が制する。
死体からは血に混じり、赤ワインの匂いもする。傷の具合からして、出血が少ない。赤ワインはそれをごまかす小道具か。
「解きがいのある謎だ……。最も、解いたところで死んでしまうには変わりないけどね」
霧島 百舌鳥(ka6287)も一緒に調べていたが、顔を上げると意味ありげに周囲を見渡す。
「どうして僕はこんな所にいるのでしょう。家族の元に帰らねば……帰らねば……」
蒼白な顔で震えていた閏(ka5673)が、ふらりと歩き出す。震えが止まらないが、それでも帰るという思いが優っていた。
待っている幼馴染、義息子、義娘の姿。それらを思い出にしない為にも、行動しなければならない。
それはヴィルマ・ネーベル(ka2549)も同じ思いでいた。
「大事な者が出来た途端この有様とは……。帰らねば、泣かれてしまうのぅ。どこかに道はあるはずじゃ」
じっとしていてもしょうがない。閏よりかははっきりした口調で、再度の探索を提案する。
入ってきた以上、どこかから出られる可能性はある。
「一枚の手紙で絶望するより、自身で希望を掴む方が有意義さ。探偵として、悪意が隠されているなら見過ごす訳にはいかないね」
手紙を嗅いだHolmesは、超嗅覚でこの場にいない誰かの匂いに気付いた。誰かはこの館に潜んでいる。ならばその誰かが事件に関与していると考えるのは当然だ。
「ボクも探偵だからねぇ。いつかはこうなると思っていたよ」
死体に怯えず、閉じ込められても動じず。百舌鳥は大仰な動作で嘆くふりをしつつ、すでに何かの考えを抱いているようだった。
●
Holmesの鼻を頼りに、まずは犯人らしき匂いを辿る。行きついた先は書斎で、行き止まりだった。
ざっと調べるも誰もいない。何もない。どうするか迷っていると、ヴィルマが書棚に順番ばらばらに収まっていた魔術書をきちんと並べ直す。
きっちり収めると、からくりの動く音と共に書棚が扉となり開いた。
「ほほぉ、よく分かったな。このからくりが」
インテグラは関心しつつ、書とペンを見つけて嬉々として書きつけていく。
一方で、ヴィルマも戸惑いを隠せない。書棚と本の乱れに気づいても、何故それを直せばいいと考えたのか。
「恨みを買った覚えもなく、主も知らず、この館に来たのは初めてのはずじゃが……。我は……知っている?」
ただ見つけた通路もすんなりとは進めなかった。
「……侵入者。侵入者ハ排除スル。 主ノ命令……実行スル」
姿を現した鳳城 錬介(ka6053)はぎこちない言葉で、けれど速やかな行動で目の前の人物たちを排除にかかった。
奥から、いきなり影の塊が飛んできた。威力こそ低かったが、書棚を粉砕したそれが友好の証とは言えない。
「俺は……帰らなくてはならないんです。家で待つ家族の為に。帰って、美味しいご飯を作ってあげなくてはならないんです!」
耐え切れなくなったか。閏が泣きながら絶叫すると、ここから出して、と走り去る。
一人が動けば他の者もつられて逃げ出す。あるいは逃げた彼らを心配して追いかけていく。
留まったのはシンだった。襲い掛かる錬介を拘束……あるいは仕留めようと動く。
けれど、その動きもおかしなものだった。
「かゆい……。何だ、この空腹感は……、だが、あの訓練に比べ……れ痒いかゆいばかばばばゆあ」
明らかに動きが精彩を欠いていた。
錬介はプロテクションで防御を固め、傷を負ってもヒールで治す持久戦に入っている。攻めにくいのは確かだが、それにしてもシンの動きはもたつきすぎだ。
邪魔そうにスーツを外そうとしても、逆に誤動作でロックがかかる。閉じ込められて焦りが出て、もがきにもがき、やがて力任せにスーツを引きちぎっていく。壊れたスーツからは強い腐敗臭が漂っていた。
と、錬介はシンから目を外すと、部屋から出て他の者を追い出した。最早、そこに敵などいないかのように。
シンも最早錬介を追うどころではない。
「だレか、俺を殺せ――!! ソの前に……テメェを喰ワ、せロ――!!」
苦しむシンの瞳は白濁し、肌の色艶も消えている。かきむしった傷は深く、されど血はもう流れない。
「ゾンビというのは本当だったのか。何のきっかけかは知らないが……面白くなって来たな」
インテグラは隠れて全て見ていた。ペンを走らせ、今だ喚くシンには最早目もくれず、他の者の行方を追い始めた。
●
悪意が迫る。気配だけが追いかけて来る。
突然の襲撃から逃げられたものの、ヴィルマの戸惑いは大きくなるばかり。たどり着いた部屋。閉ざされた空間。けれども、そこに隠された謎を、何故か思い出せる……。
ただ、その既視感にも限界があった。――逃げて、逃げて。逃げついた先は、ついに行き止まりになってしまった。出口は――もう無い。
来た道を戻るしかない。けれども、踵を返すと同時に腹に衝撃が来た。よろめいて倒れ、起き上がろうとして、自分が血だまりに倒れていると気付く。痛みは遅れてきた。
襲撃者は姿も気配も消えていた。代りに迫ってくるのは――確実な死。
血の気を徐々に失いながら、ヴィルマの口元には笑みが浮かんでいた。
「そうかえ……そうだったのじゃ……何で我はそれに……気がつかなかったのじゃ」
力を無くしていく手足を動かし、懸命に進もうともがくが、あまり成功しているとは思えない。
「帰ったら……とっておいた酒でもあけて、気持ちよく酔っ払って……クク、そういえばデートなど数えるほどしか……しておらんかったのぅ。……いろんな所に行きたいのじゃ一緒に……菓子以外にも美味しいものを色々つくって……」
視点が定まらない。なのに、何かを見つめるように、ただひたすら誰かに語り掛ける。
「どれもできそうに、ないかのぅ……約束、守れなくて――ごめん……」
誰に向けての謝罪か。何を悟ったか。それはついに語られることなく。ヴィルマは目を閉じると、永遠に口を閉ざした。
出口を求めて閏は走る。どこを走っているかはもう何もかもが分からない。
確かなのは、付きまとう気配。それから逃れるように、無造作に捜索し、出口を探す。ただひたすら前へと進んでいたが。逃げても逃げても気配は変わらず。出口も見つからない。
愛しい者の思慕と、非情な現実。その狭間でもがいていた閏は、飛び込んだ部屋で壁にかけてあった飾りナイフを見つけると、思考を一変させた。
「俺が……一体、何をしたというのですか!!」
やけにぎらつく刃を手にし、今度は気配を求めて走り出していった。混乱と怒りと恐怖と悲哀がまじりあった悲壮な表情のまま、閏は追ってきていた人物にナイフを突き立てていた。
「ここから出るんだ、出るんだ、出てやる出て出るでる――」
その為には邪魔者は排除しなければならない。激情のままに、閏は何度もナイフを繰り出し続ける。
だが、一時的な恐慌は長続きもしない。惰性のように振るっていた刃が骨に当たったか、音を立てて砕けた。欠けた切っ先が顔をかすめると、その痛みに気付く。拭えばさらに濡れた感覚が貼りついてくる。
些細なきっかけから意識が現実に戻って来る。感情が冷めて来ると、周囲の様子にも気付く。血の匂いにむせ、床には最早原型が分からないほどの肉塊に骨片が混じっている。
それは本当に追手だったのか。悪意を持っていたのか。それすらももうはっきりしない。
我に返ると、自分が何をしたかも思い出す。板張りの隙間から見える窓ガラスには血にまみれた自分が映っていた。
その顔で、その姿で。果たして家族と向かい合えるのか。何を語れるのか。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
結局は。もうとっくに限界が来ていたのだ。
自暴自棄のまま謝罪を呟き続け、閏は折れたナイフを深々と自身に刺していた。
別れたメンバーを探すも、死体だけが増えていく。死後に工作された焼死体に、ただ血痕だけが残った現場など。誰かが遊んでいるのは確か。
Holmesは見つけた死体やその周辺を丹念に調べ続けていた。が、強まっていく吐き気と共に、自分の失策を悟った。激しく咳き込み嘔吐すると、その度に胸元が赤く染まっていく。
「ははっ……血が止まらない……。そうか、先程のワインに……毒、か……」
一息ごとに激しくむせながら、Holmesは傍らの人物を睨む。その相手――百舌鳥は悪びれもせずに、懐から毒の小瓶をこれ見よがしに見せて笑う。
休憩しようと勧められたワイン。先に相手が口をつけ、警戒もしていた。それでも探偵同士、どう裏をかくかも読まれていたか。
ただ。死を前にして、Holmesの表情は穏やかだった。
「随分と……遅かった。まぁ、九十年近く生きて……。ふふっ、存外……悪くないものだね」
探偵は死なないなどと楽観的なお約束を信じてはいない。探偵の真似事をしてきたハンターの末路として、これは十分な成果とも言える。
瞼を閉じるとこれまでの功績が思い浮かぶ。長い人生は充実したものだったと満足げに横たわる。
血に染まりながらも安らかに眠るHolmesを見、百舌鳥も満足そうに佇んでいた。
「部屋に入る前に言ったねぇ。館の主の正体が分かったが確証も無い、というのも本当だよ。きみが手伝ってくれたおかげでどうやらたどり着けたようだ。これでいいんだろう? ――紗夜君」
背後から、紗夜が姿を現す。
「ようこそ、百舌鳥お兄ちゃん。この館に閉じ込めてあげましょう、私たちだけの世界に……」
でも、その前に。と、紗夜の視線が動いた。出てこいと手招くと、もはや隠れる意思は無く、堂々とインテグラが姿を現す。
「あとは『犯人』もいなくなれば、この事件は完結する。さぁ、一つを残し全てが終わった。そして、君はここに辿り着いた。……もっと近くへ。謎解きをしよう」
紗夜をかばうように立ち、百舌鳥が答えを催促する。
「鬼は鬼でも吸血鬼とは。だがもういい。結末は見えた」
「そうね。どんな結末がいいのかしら」
「おそらく食い殺されるだろう。私も、貴様も、誰もかも」
嗤う紗夜へ、自信たっぷりにインテグラは宣言した。
そこに投げ込まれたのは錬介だった。術は使用しているようだが、それでも体の損傷が目立つ。なのに冷ややかな闘志を込めて投げた方を見つめる。
投げたのは、人、ではなかった。
「ハラが。喰う、助け……。ゴロゼエエエエ!!」
異様に腐敗したシンがそれでも動き回り、一撃ごとに壁や床を粉砕している。
狂気の塊は、もはや飢えと救済を求めて、動く者へと食いついてきた。
「侵入者……排除……ハイジョ……!!」
止めようと術を仕掛ける錬介だが、攻撃力が伴っていない。防御重視で自身も傷を負いにくいが、結果、戦闘はひたすら長引いていた。
「あははは! そう来なくっちゃ面白くないわ!」
紗夜は天井高く飛び上がると、シンへと襲いかかる。人間相手では無敵とも思える身体能力の高さだが、暴れる死体相手ではどこまで対抗できるのか。
インテグラは見ていた。見て、そして記す。獣のような断末魔が聞こえても恐れ怯えることはない。
逃げる気は無い。身体が消えるなど些細な出来事。残すべきはただ一つ。
書を締めくくると、まだ動ける内に窓の隙間からかろうじて本を外へと放り出す。
その背後から血塗れの手がかかる。それが一体誰の手か。インテグラには確認する暇は無かった。
●
山中に一冊の本が落ちている。
気付いた旅人は、拾って確かめる。インテグラ・C・ドラクーンが書いたという手記には、不思議な館で起きた陰惨な出来事が丁寧に記されていた。
恐ろしい内容だが、その反面、旅人は首を傾げていた。
一体、どこの館で起きた話か。この付近には建物なんぞ小屋すらない。
もしかすると、これは夢の話なのかもしれない。
それも悪夢、としか言えないような。
「今回のおもちゃは貴方たちなのね」
たっぷり楽しませて、と八神 紗夜(ka5396)は嗤う。
この奇妙な館に住み着きどのくらい経ったか。あるいは、我知らず、館に捕らわれているのか。いずれにせよ、吸血鬼としての永い生、楽しみは限られてきていた。
紗夜は動く。事情も知らずに館を歩く客人から適当な一人を選ぶと、隠し持っていたナイフで仕留め、まだ温かいその首筋から血を奪う。
「まずは一人目」
滴る血を拭うと、客たちへの手紙を取り出した。
●
閉ざされた館。転がった死体。そして、殺意と悪意を振りまく予告状。
「ふざけるな! そこをどけ」
パワードスーツを着たシン・コウガ(ka0344)が、苛立たし気にアサルトライフルを正面玄関に向ける。
銃弾が無くなるまで撃ちまくったが、玄関扉は開かない。わずかに銃弾跡が凹んでいたが、その程度。
さらにピンポイントで鍵穴を狙って撃つ。が、引き金を引いた途端に、ライフルの方が弾け飛んだ。パワードスーツでなければ、シンが大けがを負う所だった。
銃がダメならと力任せでケリつける。機械脚甲を装備し、普通の扉ならとっくに粉砕出来ている。けれども、扉は全く開く様子を見せなかった。
脱出不可能。見せつけられた事実に空気が張り詰める中、インテグラ・C・ドラクーン(ka4526)の笑いが徐々に大きく響いていった。
「……。ンふふふふ、ふふ。こんな面白いイベントはなかなか巡り合えないぞ! 鬼ごっこの始まりだ。童心に返って楽しもうではないか!」
被っていたインコ頭のマスクを脱ぎ捨て、真っ赤な一本の三つ編みに白い肌の青年が顔を出す。その目は楽しげに輝いていた。
「この状況の一部始終を記録しなければ。何か書く物は……こいつが持っていないかな」
「ちょっと失礼。遺体には触れないように注意して欲しい」
犠牲者に手を伸ばすインテグラだが、遺体を調べていたHolmes(ka3813)が制する。
死体からは血に混じり、赤ワインの匂いもする。傷の具合からして、出血が少ない。赤ワインはそれをごまかす小道具か。
「解きがいのある謎だ……。最も、解いたところで死んでしまうには変わりないけどね」
霧島 百舌鳥(ka6287)も一緒に調べていたが、顔を上げると意味ありげに周囲を見渡す。
「どうして僕はこんな所にいるのでしょう。家族の元に帰らねば……帰らねば……」
蒼白な顔で震えていた閏(ka5673)が、ふらりと歩き出す。震えが止まらないが、それでも帰るという思いが優っていた。
待っている幼馴染、義息子、義娘の姿。それらを思い出にしない為にも、行動しなければならない。
それはヴィルマ・ネーベル(ka2549)も同じ思いでいた。
「大事な者が出来た途端この有様とは……。帰らねば、泣かれてしまうのぅ。どこかに道はあるはずじゃ」
じっとしていてもしょうがない。閏よりかははっきりした口調で、再度の探索を提案する。
入ってきた以上、どこかから出られる可能性はある。
「一枚の手紙で絶望するより、自身で希望を掴む方が有意義さ。探偵として、悪意が隠されているなら見過ごす訳にはいかないね」
手紙を嗅いだHolmesは、超嗅覚でこの場にいない誰かの匂いに気付いた。誰かはこの館に潜んでいる。ならばその誰かが事件に関与していると考えるのは当然だ。
「ボクも探偵だからねぇ。いつかはこうなると思っていたよ」
死体に怯えず、閉じ込められても動じず。百舌鳥は大仰な動作で嘆くふりをしつつ、すでに何かの考えを抱いているようだった。
●
Holmesの鼻を頼りに、まずは犯人らしき匂いを辿る。行きついた先は書斎で、行き止まりだった。
ざっと調べるも誰もいない。何もない。どうするか迷っていると、ヴィルマが書棚に順番ばらばらに収まっていた魔術書をきちんと並べ直す。
きっちり収めると、からくりの動く音と共に書棚が扉となり開いた。
「ほほぉ、よく分かったな。このからくりが」
インテグラは関心しつつ、書とペンを見つけて嬉々として書きつけていく。
一方で、ヴィルマも戸惑いを隠せない。書棚と本の乱れに気づいても、何故それを直せばいいと考えたのか。
「恨みを買った覚えもなく、主も知らず、この館に来たのは初めてのはずじゃが……。我は……知っている?」
ただ見つけた通路もすんなりとは進めなかった。
「……侵入者。侵入者ハ排除スル。 主ノ命令……実行スル」
姿を現した鳳城 錬介(ka6053)はぎこちない言葉で、けれど速やかな行動で目の前の人物たちを排除にかかった。
奥から、いきなり影の塊が飛んできた。威力こそ低かったが、書棚を粉砕したそれが友好の証とは言えない。
「俺は……帰らなくてはならないんです。家で待つ家族の為に。帰って、美味しいご飯を作ってあげなくてはならないんです!」
耐え切れなくなったか。閏が泣きながら絶叫すると、ここから出して、と走り去る。
一人が動けば他の者もつられて逃げ出す。あるいは逃げた彼らを心配して追いかけていく。
留まったのはシンだった。襲い掛かる錬介を拘束……あるいは仕留めようと動く。
けれど、その動きもおかしなものだった。
「かゆい……。何だ、この空腹感は……、だが、あの訓練に比べ……れ痒いかゆいばかばばばゆあ」
明らかに動きが精彩を欠いていた。
錬介はプロテクションで防御を固め、傷を負ってもヒールで治す持久戦に入っている。攻めにくいのは確かだが、それにしてもシンの動きはもたつきすぎだ。
邪魔そうにスーツを外そうとしても、逆に誤動作でロックがかかる。閉じ込められて焦りが出て、もがきにもがき、やがて力任せにスーツを引きちぎっていく。壊れたスーツからは強い腐敗臭が漂っていた。
と、錬介はシンから目を外すと、部屋から出て他の者を追い出した。最早、そこに敵などいないかのように。
シンも最早錬介を追うどころではない。
「だレか、俺を殺せ――!! ソの前に……テメェを喰ワ、せロ――!!」
苦しむシンの瞳は白濁し、肌の色艶も消えている。かきむしった傷は深く、されど血はもう流れない。
「ゾンビというのは本当だったのか。何のきっかけかは知らないが……面白くなって来たな」
インテグラは隠れて全て見ていた。ペンを走らせ、今だ喚くシンには最早目もくれず、他の者の行方を追い始めた。
●
悪意が迫る。気配だけが追いかけて来る。
突然の襲撃から逃げられたものの、ヴィルマの戸惑いは大きくなるばかり。たどり着いた部屋。閉ざされた空間。けれども、そこに隠された謎を、何故か思い出せる……。
ただ、その既視感にも限界があった。――逃げて、逃げて。逃げついた先は、ついに行き止まりになってしまった。出口は――もう無い。
来た道を戻るしかない。けれども、踵を返すと同時に腹に衝撃が来た。よろめいて倒れ、起き上がろうとして、自分が血だまりに倒れていると気付く。痛みは遅れてきた。
襲撃者は姿も気配も消えていた。代りに迫ってくるのは――確実な死。
血の気を徐々に失いながら、ヴィルマの口元には笑みが浮かんでいた。
「そうかえ……そうだったのじゃ……何で我はそれに……気がつかなかったのじゃ」
力を無くしていく手足を動かし、懸命に進もうともがくが、あまり成功しているとは思えない。
「帰ったら……とっておいた酒でもあけて、気持ちよく酔っ払って……クク、そういえばデートなど数えるほどしか……しておらんかったのぅ。……いろんな所に行きたいのじゃ一緒に……菓子以外にも美味しいものを色々つくって……」
視点が定まらない。なのに、何かを見つめるように、ただひたすら誰かに語り掛ける。
「どれもできそうに、ないかのぅ……約束、守れなくて――ごめん……」
誰に向けての謝罪か。何を悟ったか。それはついに語られることなく。ヴィルマは目を閉じると、永遠に口を閉ざした。
出口を求めて閏は走る。どこを走っているかはもう何もかもが分からない。
確かなのは、付きまとう気配。それから逃れるように、無造作に捜索し、出口を探す。ただひたすら前へと進んでいたが。逃げても逃げても気配は変わらず。出口も見つからない。
愛しい者の思慕と、非情な現実。その狭間でもがいていた閏は、飛び込んだ部屋で壁にかけてあった飾りナイフを見つけると、思考を一変させた。
「俺が……一体、何をしたというのですか!!」
やけにぎらつく刃を手にし、今度は気配を求めて走り出していった。混乱と怒りと恐怖と悲哀がまじりあった悲壮な表情のまま、閏は追ってきていた人物にナイフを突き立てていた。
「ここから出るんだ、出るんだ、出てやる出て出るでる――」
その為には邪魔者は排除しなければならない。激情のままに、閏は何度もナイフを繰り出し続ける。
だが、一時的な恐慌は長続きもしない。惰性のように振るっていた刃が骨に当たったか、音を立てて砕けた。欠けた切っ先が顔をかすめると、その痛みに気付く。拭えばさらに濡れた感覚が貼りついてくる。
些細なきっかけから意識が現実に戻って来る。感情が冷めて来ると、周囲の様子にも気付く。血の匂いにむせ、床には最早原型が分からないほどの肉塊に骨片が混じっている。
それは本当に追手だったのか。悪意を持っていたのか。それすらももうはっきりしない。
我に返ると、自分が何をしたかも思い出す。板張りの隙間から見える窓ガラスには血にまみれた自分が映っていた。
その顔で、その姿で。果たして家族と向かい合えるのか。何を語れるのか。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
結局は。もうとっくに限界が来ていたのだ。
自暴自棄のまま謝罪を呟き続け、閏は折れたナイフを深々と自身に刺していた。
別れたメンバーを探すも、死体だけが増えていく。死後に工作された焼死体に、ただ血痕だけが残った現場など。誰かが遊んでいるのは確か。
Holmesは見つけた死体やその周辺を丹念に調べ続けていた。が、強まっていく吐き気と共に、自分の失策を悟った。激しく咳き込み嘔吐すると、その度に胸元が赤く染まっていく。
「ははっ……血が止まらない……。そうか、先程のワインに……毒、か……」
一息ごとに激しくむせながら、Holmesは傍らの人物を睨む。その相手――百舌鳥は悪びれもせずに、懐から毒の小瓶をこれ見よがしに見せて笑う。
休憩しようと勧められたワイン。先に相手が口をつけ、警戒もしていた。それでも探偵同士、どう裏をかくかも読まれていたか。
ただ。死を前にして、Holmesの表情は穏やかだった。
「随分と……遅かった。まぁ、九十年近く生きて……。ふふっ、存外……悪くないものだね」
探偵は死なないなどと楽観的なお約束を信じてはいない。探偵の真似事をしてきたハンターの末路として、これは十分な成果とも言える。
瞼を閉じるとこれまでの功績が思い浮かぶ。長い人生は充実したものだったと満足げに横たわる。
血に染まりながらも安らかに眠るHolmesを見、百舌鳥も満足そうに佇んでいた。
「部屋に入る前に言ったねぇ。館の主の正体が分かったが確証も無い、というのも本当だよ。きみが手伝ってくれたおかげでどうやらたどり着けたようだ。これでいいんだろう? ――紗夜君」
背後から、紗夜が姿を現す。
「ようこそ、百舌鳥お兄ちゃん。この館に閉じ込めてあげましょう、私たちだけの世界に……」
でも、その前に。と、紗夜の視線が動いた。出てこいと手招くと、もはや隠れる意思は無く、堂々とインテグラが姿を現す。
「あとは『犯人』もいなくなれば、この事件は完結する。さぁ、一つを残し全てが終わった。そして、君はここに辿り着いた。……もっと近くへ。謎解きをしよう」
紗夜をかばうように立ち、百舌鳥が答えを催促する。
「鬼は鬼でも吸血鬼とは。だがもういい。結末は見えた」
「そうね。どんな結末がいいのかしら」
「おそらく食い殺されるだろう。私も、貴様も、誰もかも」
嗤う紗夜へ、自信たっぷりにインテグラは宣言した。
そこに投げ込まれたのは錬介だった。術は使用しているようだが、それでも体の損傷が目立つ。なのに冷ややかな闘志を込めて投げた方を見つめる。
投げたのは、人、ではなかった。
「ハラが。喰う、助け……。ゴロゼエエエエ!!」
異様に腐敗したシンがそれでも動き回り、一撃ごとに壁や床を粉砕している。
狂気の塊は、もはや飢えと救済を求めて、動く者へと食いついてきた。
「侵入者……排除……ハイジョ……!!」
止めようと術を仕掛ける錬介だが、攻撃力が伴っていない。防御重視で自身も傷を負いにくいが、結果、戦闘はひたすら長引いていた。
「あははは! そう来なくっちゃ面白くないわ!」
紗夜は天井高く飛び上がると、シンへと襲いかかる。人間相手では無敵とも思える身体能力の高さだが、暴れる死体相手ではどこまで対抗できるのか。
インテグラは見ていた。見て、そして記す。獣のような断末魔が聞こえても恐れ怯えることはない。
逃げる気は無い。身体が消えるなど些細な出来事。残すべきはただ一つ。
書を締めくくると、まだ動ける内に窓の隙間からかろうじて本を外へと放り出す。
その背後から血塗れの手がかかる。それが一体誰の手か。インテグラには確認する暇は無かった。
●
山中に一冊の本が落ちている。
気付いた旅人は、拾って確かめる。インテグラ・C・ドラクーンが書いたという手記には、不思議な館で起きた陰惨な出来事が丁寧に記されていた。
恐ろしい内容だが、その反面、旅人は首を傾げていた。
一体、どこの館で起きた話か。この付近には建物なんぞ小屋すらない。
もしかすると、これは夢の話なのかもしれない。
それも悪夢、としか言えないような。
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依頼相談掲示板 | |||
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相談所? 八神 紗夜(ka5396) 人間(リアルブルー)|14才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2016/08/15 23:50:05 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/08/14 07:52:36 |