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マスター:朱月コウ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:0人
リプレイ完成日時:2016/09/30


みんなの思い出

1
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オープニング

●立ち入る事なかれ
 久遠ヶ原学園の、紅城雛という女性をご存じだろうか。
 以前、同じ学園のオペレータに依頼を受け、捜索を頼まれた小柄で黒髪ショートボブの少女だ。
 馴染みの薄い者の方が圧倒的に多いだろう。
 どちらかと言えば消極的な性格だし、依頼に入るのも知り合いに勧められてから。
「んー……」
 そんな彼女だが、今回は自らの足で依頼に臨もうとしていた。
「やっぱり厳しいなぁ……」
 正確に言えば、依頼を受けに赴こうとしていた。
 頭を悩ませる先にはパソコンの画面。映し出されているのは何処かの周辺地図。
 拡大して、地図をぐりっと回転させて、それでもやっぱり悩みは解けない。
 目的地までにずっと広がる深い緑。
 そこ以外には山や谷しかない。
「道はここだけなのよね……」
 森を直進しない道も選べる事は選べるが、行けば到着時間は倍。下手をするとそれ以上の時間が掛かる事が予想された。
 マウスを持った指が机を叩く。ぷくっと片側の頬だけ膨らませて考え込むのは彼女の癖だ。
 気付けば夜もだいぶ更けこんでいた。
 無理も無い。出掛けたのは昼頃だったが、周辺住民からとある情報を聞き、危険と判断して学園まで戻って来たのだ。
 その情報というのが目的地までの地形、つまり森か山のコース選択であり、加えてその付近の危険性だった。
「天魔の待ち伏せかぁ……流石に無理よね」
 しばらく悩んだ末、雛はハッと思いつくと画面を切り替えた。
 灯台下暮らし、というやつだ。
 ここには私よりずっと強い人達がいるじゃないか。
 道を切り開いてくれる人を募ろう。
 そう考えてキーボードに指を走らせながら、雛は口を尖らせてふと呟いた。
「……道くらい作っとけばいいのに、もぉ」


「……という事で、目的地の村までご一緒して下さる方を探しています」
 一人の時とは打って変わって表情一つ崩さぬまま、冷静な顔で雛は説明を始めた。
 徹夜でもしたのだろうか、うっすらと目の下にクマが見える。
「ルートは二種類有ります。森を突き抜けるか山越えするか。私としては、森の方が早くて助かりますが」
 だが、森の方は周辺では『狩人の森』と呼ばれているそうで、そこへ入ろうとした雛は慌てて止められたのだ。
 そして学園の人間だと知られると、討伐までお願いされてしまった。
 雛としては村へ行ければよかったので、討伐依頼は別途、学園に提示しようと思っていたのだが。
 天魔が出る場所以外に村へ行ける道が見当たらなかった為、どうしても突破する必要が出てしまった。
 依頼の為の依頼。手間は掛かるが、仕方ない。
 天魔が出現する場所は森しか言われておらず、山の道を行けばある程度は回避出来そうだ。
 だからと言って安全に越せるとは限らない。
 森の近場に在る以上そちらも出現領域になっている可能性が有る。
 足場も悪いと予想される分、むしろ山側が危険かもしれない。
「それに『狩人』と言われるだけあって、天魔は狙撃を得意をしているそうです。居場所が判らないまま攻撃を受け続けるとなったらどうしようも有りません」
 雛は無表情で説明を続ける。瞬きだけ、彼女の表情を動かした。
「どちらのルートで行かれるかは、皆さんにお任せします。あ、私最低限戦えますから、護衛とかは結構ですよ」
 ぴしゃりと言い切った後、付け加えた。
「ええっと、短い間になりますが、末永く……」
 じゃなくて、ええと、と雛は言葉を探す。
「今後とも……」
 これでもない。
「……宜しくお願いします」
 結局、雛は何か不服そうにそう頼んだ。


プレイング

赫華Noir・黒百合(ja0422)
高等部1年3組 女 

※アドリブ可

○心情

狙撃手が相手ねェ、どんな相手か楽しみだわァ…近接戦闘もそれなに出来ると楽しめそうだわねェ♪

○行動

可能なら事前に仲間達と行動、作戦内容を確認、相談
差異がある場合は行動の微調整を実施する

森ルートを移動
内側の味方を守る様に外周を行動する


「眷属殲滅掌」は常時使用
周囲警戒は厳に行い、奇襲や不意打ちを警戒
「空蝉(スクジャ使用」「防壁陣(敵の攻撃に合わせて2種類のバックラーを使い分ける、また近接している味方がいた場合は庇う様に使用」を即座に使用出来る状態を維持する

敵の攻撃を受けた場合は即座に反撃
攻撃方向、射程距離を考慮して敵の居そうな場所に即座に近付き「アンタレス」の範囲攻撃でその周辺を焼き尽くす
深追いはせず攻撃後は後退、内側の仲間を守る位置に移動
追撃が必要ならロンゴ〜→G3装備に切り替えて遠距離攻撃を行う

ピンポイントで敵を狙い撃つ場合は「影縛りの術」を使用
バステ適用後に近接攻撃に移行して攻撃を加える

味方が敵の攻撃を受けた場合は「隼突き」使用
最速行動を行い、距離を詰めて目標地点と思われる位置に攻撃を加える

敵の攻撃は上記と同様の対処法で「空蝉」「防壁陣」で対処する
なお、1体の敵攻撃中も他の2体の攻撃を警戒、周囲警戒は厳として行動、即座に対応可能な様に行動する

歴戦の戦姫・雫(ja1894)
中等部1年1組 女 
【心情】
「待ち伏せにうってつけの森ですね」

【行動】
移動中は感知を使用して周囲の気配を探り奇襲に備える
聖なる刻印を自分や抵抗値の低い仲間に使用

襲撃を受けた際は、矢の来る方向や風切り音の位置、木々の揺れで大まかな位置を掴む
牽制に遠距離攻撃を行い、位置を把握したら後衛の仲間に援護射撃を貰い敵との距離を即座に詰める

距離を詰める際は壁走りを使用して、木々を利用し敵の攻撃を三次元的に回避する
自分の近接攻撃範囲近くに敵を近付けたら闘気解放を使用
兜割りを使用して動きを止めたら、仲間と連携して早期に討伐を行う

一体のみで現れたら周囲に残りが隠れている可能性を考慮、横撃や伏兵の可能性を頭の隅に置いて現れたら即座に対応
麻痺、毒、近接の順番で狙いを定める

依頼中、紅城雛を警護対象としては扱わずに対等の依頼参加者として扱う
敵の位置等等を探る際は、気が付いた事や敵位置の見当が無いかを相談する
「紅城さんの位置から敵は見えましたか?大凡の位置でも良いので教えて下さい」

※アドリブOK

護法の銀・Rehni Nam(ja5283)
高等部3年1組 女 
ベニシロさんは村に送る
ディアボロは倒す
“両方”やらなくっちゃあならないっていうのが“撃退士”の辛いところですね
覚悟はいいですか?
私は出来ています

……最近、5部を読み返したので、つい



私たちは、森ルートを取ります
ベニシロさんは不満もあると思いますが、護衛されて下さい
私も最初は、後から回復スキルを撃っているだけでしたし
しっかり防御力が確保できるまでは、アスヴァンは回復が主ですからねぇ

ああ、遠距離武器で攻撃もしていましたか
……普段は槍を使われるとの事ですが、銃や弓みたいな遠距離武器は使えますか?
楽器やルーンでも良いですが
使えるなら、お貸しします



敵に待ち伏せからの先制不意打ちされる覚悟で、森を行きます
私は……先頭か、その右斜め後方

矢を打たれても自然と右手のパ盾で防ぎやすくなる位置取りです
いっそ、背負って殿も選択肢かもしれませんが

矢が着たら、即刻生命探知
2発目の矢を持つゴブリン、そして鎖鎌ゴブリンの位置を探します
5cmサイズの虫は早々いないので考えません
小動物は、戦闘が始まれば逃げるはず
となれば

離れていく反応は小動物
動かないのが弓矢持ち
近づいて来るor直近の死角で動かないのが鎖鎌持ち

位置を警告しつつ、パ盾の光槍を具現化です


攻撃は接近しての通常魔攻と、JCでの麻痺
但し逃げようとする敵を優先(VJ
識別貫通攻撃ですから、木で防ごうとしても無駄なのです



回復
HP50%

ペンギン帽子の・ラファル A ユーティライネン(jb4620)
大学部1年8組 女 
「人間狩りは最も危険なゲームってな。」
まあ相手は天魔なわけだがハンタータイプとの敵とのテリトリー戦が危険な事には変わりない。
正直、自分の尻は自分で拭けるなどと公言する奴ほど信用できない奴はいないので護衛対象の事は
生暖かい目で見ている。とは言ってもこんな面白い奴ほっておくわけねーだろう。
という訳で全力でちょっかい出して弄る。

チームのちょいと先を先行して偵察若しくは囮となる。

仲間と連携。戦法はこうだ。

まずチームの先頭少し離れたところを(視線が通るギリギリ位)目立つように侵攻して偵察。
敵が撃ってきたら「空蝉」にて回避し、やられたように見せて草むらに倒れこむ。いったん視界が切れたところで、「光学迷彩」を発動して姿を消す。
その後、撃たれたときの射線を逆探知して高速で敵に接敵し「隼突き」で攻撃、
機先を制したところで「デビルズバイス」で束縛、足止めして逃げられないようにした後にフルボッコ。「魔刃〜」を叩き込んで爆散させる。

接敵後は至近距離を保ちつつ相手の得意距離である、遠距離戦に持込ます前に倒しきるのが理想。
一体と戦闘中は他2体からの攻撃は「空蝉」で回避して毒は抵抗ではなく回避して避ける方向。


ぽちをたずねて三千里・エイネ アクライア (jb6014)
大学部6年11組 女 
森の向こうの村にでござるか
了解でござるが、その村での依頼は何でござる?
手伝えるなら、そちらも手伝うのでござるよ



常に透過を維持でござる
お味方の阻霊符で、木々を通り抜けたりは出来ぬでござるが
が、戦闘の際、相手が逃げたら、拙者が追跡、足止めする予定でござるからな
戦闘中の無駄な一手を減らせるのは重要でござる



森を歩く時は円陣ででござる
中央に紅城殿として、拙者はどうするでござるか
まあ、攻撃まで一手余分に必要な予定でござるし、後方でござるかなぁ
待ち伏せからの第一撃が背撃だと痛いでござるが



虫の声や小動物の気配が消えるなどしたら、待ち伏せがいるかも知れぬでござる
そんな予兆を掴めたら、飛行でござる(スキル使用のみで高さは地上のまま

戦闘開始したらば磁滑でござる
移動力を上げ、その移動力で一気に弓矢使いの後へ出るのでござる
2体のうち、樒殿が反撃しなかった方、でござるな

1Tは接近で終るでござるが、2Tからは攻撃開始でござる
まずは弐式を打ち込むのでござる
麻痺や怯みを誘発させられれば幸いでござるが



逃げようとする敵あらば、阻霊符使用中のお味方に阻霊符を切って貰うのでござる
そして、磁滑を交えた移動(必要なら全力移動可)で木々を無視して回り込むのでござる
そしてお味方到着まで足止めでござる
弐式(残0壱式)で麻痺させ、移動を封じたいところでござる



一匹ぐらい、紅城殿が止めをさせればと思うでござるが
まあ、お膳立てする程ではござらんが

扶桑の枝・樒 和紗(jb6970)
大学部1年7組 女 
村へ向かうには天魔がいる場所以外道が無いとなると、それはお困りでしょう
外からの者もですが、中の者も村の外へ出るのに危険だという事ですから
安心して通れるように力を尽くします


▼ルート
森を突抜ける


▼行動
俺、紅城が内側で先制攻撃を受けない位置
他が外側を囲み移動

紅城を護衛している訳ではなく
積極戦闘を行わない、負傷者の回復を頼みたい
そういった理由で内側を頼む
「陣形という程ではありませんが、各自の位置にも意味はあるものです」


敵襲を受けたら、矢の射線の1つと全く同じ射線で[Sショット]のカウンター
「矢が通った道筋に遮蔽物は無く、射線の元には射手がいるはずです」
敵の姿が見えなければ何処と部位を狙う事は出来ないが、それでも当てる事は可能かと

射ると同時に射た先へ向かい駆け出し射程を縮める
魔具はシェキナーの弓に換装
射線が通るなら敵の体の極一部は見えそう
[索敵]で敵位置把握
逃走した際の保険に[マーキング]

「弓の扱いで負けるつもりはありません」
自分は狩人ではないが、相手が弓使いであればその動作は予想出来る
どう射てくるか
どう躱そうとするか
それを予測しながら冷静に弓を引き追詰め、[髪芝居]で拘束
連携し仲間の攻撃を支援する

毒、麻痺ともに抵抗出来ると思うので、そちらは気にせず積極攻勢


村へ到着後
「お疲れ様でした。…緊張して疲れたでしょう? どこか休憩出来ると良いのですが」
己もすぐ人と打ち解ける質ではないので、紅城の事は少し分かる

悪戯のピエロ・砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)
大学部3年5組 男 
一緒に行って道を切り開いて欲しい?
おっけーおっけー、可愛い女の子の為なら(微笑


●行動
森を突破するルートで移動
紅城+αを内側に、他が外を囲む形で進軍
内側の子達に敵の先制攻撃がいかないようにした形
「や、痛いのヤだし何とかしようとは思うけどね」

敵襲は反応出来れば防壁陣で受防
矢や鎖鎌の風切り音とか、気づけないかな
音には敏いつもりだけど
女の子が怪我しないよう割り込んで庇ったり
男は自力でガンバ(

狙うは鎖鎌のカサドル
武器的に多少は曲げた軌道で来るかもだが、結局軌道通す空間は必要だし射程も視認可能な距離
且つ
「受けて掴んでしまえば、直線にしかならないの気づいてた?」
攻撃軌道で敵位置を読み捕捉
八卦石縛風で石化を試み足止め
「繋がってる武器はねぇ…色々制限出ちゃうよね」
だから僕は楽できるのしか使わないとばかりにファイアワークス

弓カサドル対応の子達が敵を引き寄せてくれるなら、まとめてファイアワークスで援護
あと八卦石縛風で他敵の足止めも手伝い
「武器から砕けば反撃出来なくなるだろうか?」
石化に抵抗した時の為に

後は適当に札攻撃
きっと皆が頑張ってくれるに違いない
女の子が危ない時は多少頑張るが、それ以外はそれなりにのスタンス

負傷はヒールで回復
「あ、怪我しちゃった。紅城ちゃんアスヴァンだよね、治して☆」
ちょっぴりのかすり傷でも(
人と関わるの苦手ぽい子だけに、逆に頼ったりすると気分違うかなーとか
人見知りは和紗で慣れてる(笑

月に群雲、花に風、されど・ファーフナー(jb7826)
大学部3年7組 男 
紅城や後衛職等を中央に囲いつつ、森を進む

攻撃後に再移動できる特殊スキルでもなければ、攻撃後は移動できないはずなので
攻撃を受けたら、弓矢の来た方向に反撃へ向かう
木陰等に身を潜めていそうなため、足跡や、葉が散った形跡等が無いかも確認し
物音や気配もないか窺う

三体同時の奇襲があるようだが
まずは弓矢で注意を引きつけ、後方や死角から鎖鎌使いが接近してくるかたちだろうか?
弓矢使いが猟銃を持ったハンターなら、鎖鎌使いは猟犬のようなものだろうか?

防御の対抗スキルで攻撃を凌ぎながらコレダーで攻撃を行う
他の味方と分担・もしくは連携して敵を減らす
一体ずつ対応するのか、三体同時に対応するのかは、他の者の動きを見て決定する
弓矢の対応者が足りているようであれば、後衛職に接近してきそうな鎖鎌使いを待ち構えておくのでもいいかもしれない

回復はアスヴァンである紅城に頼む
(回復手として、仕事を共に遂行する撃退士の一員として接する)

紅城は、元々は村に行くのが目的だったようだが
村には何があるのだろうか……?



リプレイ本文

●狩人は静かに機会を待つ
「ベニシロさんは村に送る」
 森へ入る道の途中、Rehni Nam(ja5283)は徐に口を開く。
「ディアボロは倒す」
 そして主装備の盾を持って両腕を交差させると、やや斜めがかった態勢で首を後ろに倒し、且つ朧げに前を向きながら姿勢を保つ。
「『両方』やらなくっちゃあならないっていうのが『撃退士』の辛いところですね」
 まるで覚悟がどうとか言い出しそうな台詞を述べたところに、ラファル A ユーティライネン(jb4620)はあっさりと訊いた。
「何やってんだ?」
「……最近読み返したので、つい」
 そう言えば依頼形態も冒険だったなぁ。
 そんな事をふと思い出していると、砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)、ファーフナー(jb7826)という二人の高身長の間から、紅城雛が恐る恐るといった様子で顔を覗かせた。
「あの……」
「ん、どうしたの? 何か不安?」
 竜胆が余裕を感じさせる微笑で返すと、雛は恥ずかしそうに伏し目で答えた。
「『ベニシロ』じゃなくて……『クジョウ』……なんです」
 人名の読みはたまに意外な時が有る。
「あ、あの、私がちゃんと自己紹介してなかったのが悪いんで! 済みません! 済みません!」
 因みに、下の名前は雛と書いて『ヒナ』ではなく『ヒイナ』と発音するそうだ。
 口にしてしまえば案外判らないので、名前は本人も気にしていないが。
 その後も何度か視線を送られた事にRehniは気付いただろうが、雛は目が合いそうになったところでさっと視線を逸らす。
 紅城雛と言えば、以前おしるこ大会か何かでお互いに少し関わった気がする。
 まぁ、その際も直接会話という会話はしていないので、彼女も「何処かで見た事あるな」くらいの自信しか無かったのだろう。
 視線の先に困った雛は、目の前を見上げた。
「ルートは森の方面からですよね」
 自分の前に並ぶ高身長の二人が、胸下辺りからの声に振り返る。
「あぁ、そうだ」
「紅城ちゃんと和紗を中心に、周りを僕達が囲って進むよ」
 それってやっぱり……護衛?
「不満もあるかと思いますが」
 Rehniの言葉に、樒 和紗(jb6970)が続けた。
「陣形という程ではありませんが、各自の位置にも意味はあるものです」
 雛の職業はアストラルヴァンガード。
 その能力を最も活かせる位置に配備された、という事なのだろう。
 飽くまで護衛では無く、戦闘の補助。
 ど真ん中に位置するのも引け目を感じてしまうが、彼女もこれで撃退士。
 能力の差から引け目を感じる事は有れど、不満に思う事は無い。
 むしろ、役に立てるのならちょっぴり嬉しくもあった。
 そんな雛に、Rehniは横目で振り返って声を掛ける。
「……普段は槍を使われるとの事ですが、銃や弓みたいな遠距離武器は使えますか?」
 今回の敵の主力は遠距離武器。
 雛の持つ槍では、流石に届きそうには無い。
 だが、雛は首を横に振ってそれに答えた。
「いえ、私はこっちの方が使い慣れてますのでお気持ちだけで……それに」
 ヒヒイロカネを取り出して苦笑する。
「……実力以上の魔具を持っても、身を滅ぼしそうなので」
「へぇ、真っ先に突っ込んで自滅するタイプかと思ったぜ」
 薄く笑うラファルに、雛はむっとして見返した。
「私、自分の実力くらい解ってるつもりです」
「だと良いけどな」
 こうして一行は、立ち位置を整えながら薄暗い森の中へと入って行く。
 狩人の待ち受ける、静かな静かな森の中へと。


 森の中はやや進みにくい、といったところだろうか。
 これだけ大木が密集していれば死角の射線も多く出来る。
(「待ち伏せにうってつけの森ですね」)
 雫(ja1894)はそう考えながら大剣を既に抜き、奇襲に備え気配を探る。
「狙撃手が相手ねェ、どんな相手か楽しみだわァ……」
 と雫と左右反対の位置で黒百合(ja0422)も目を光らせ、警戒を怠らない。
 彼女の場合だと、戦闘狂の血が自ずとそうさせているのかもしれないが。
「(近接戦闘もそれなに出来ると楽しめそうだわねェ♪)」
 と思っているのがその証拠ではないだろうか。
「ところで、この先の村が目的地という話でござるが」
 エイネ アクライア (jb6014)が浮き出た木の根から跳び下りる。
 現在透過の能力を使用しているものの、Rehniが阻霊符を発動させているのでそれも限定的なものだ。
「その村での依頼は何でござる?」
「それは……」
 何やら答えにくそうにしているのを隣で悟ったか、返答の代わりに和紗が会話を保った。
「外からの者もですが、中の者も村の外へ出るのに危険だという事ですから」
 別に、それが村の依頼と関係あるのでは、などといった返しではない。
「安心して通れるように力を尽くします」
 間を持たせてくれた和紗に小さく礼を言い、また黙々と先を進む雛は足元の小枝に足を取られそうになり、ラファルに声を掛けられた。
「おい、大丈夫か? 足元ばっか見てると頭ぶつけるぜ。あぁ、いや」
 と、含みを持たせた言い方で。
 ぶつける程身長が無いとでも言いたいのか。
 ふいっとラファルから顔を逸らす雛は、答える事もなく。
 そのまま足元の根っこに引っ掛かって盛大に転んだ。
「いや、それは無いわ……」
 頭上から振り掛かるラファルの言葉に震えながら。

「いやに静か……ですね」
 静かな森に思わず、雛がそう口にした時。
 ピクッと同時に何かに反応した和紗の視線が、ある一定の方角へ鋭く向けられた。
 それと同じくらいに、ファーフナーも気付くだろう。
 その場の地面だけ妙に草花が無い事、つまり踏み荒らされた形跡が窺える。
 もし、これが奴らの領域に入った、という事なら。
 和紗が無造作に和弓を構えて注意を促す。それは一瞬。
 警戒を払った砂原や黒百合らが木の葉の擦れあう音を耳にした時だろうか。
 それとも、和紗が目の端に矢尻を持つ手を捉えた時だろうか。
 エイネが飾りの翼を顕現させ、ファーフナーも構えを取る。
 それだけの動作をさせるくらいには、それまでがあまりに静かでそれはあまりに違和感を感じる物音であった。
 雫が自身へ刻印を刻んだ、直後。
 この中で最も先頭を行くRehniに突如、二本の矢が飛来した。
 聴力に自身の有る竜胆ならその風切り音も聞こえたかもしれないが、流石に放たれてからでは反応が一手遅れてしまった。
 だが、位置が幸いしたのか咄嗟に動かした盾が矢の一本の軌道を微かに逸らし、もう一本もRehniの頬を掠めて地面に突き刺さる。
 毒、に痺れ……。
 当たった瞬間には多少感じたかもしれないが、Rehniに取ってそんな異常など取るに足らないものなのかもしれない。
 いつもと見劣りせぬ動作で一度盾を振り払うと、ラファルがその場を飛び退いたと同時、続け様に和紗が弓を引き絞る。
「前方、二体……ですか」
「紅城さんの位置から敵は見えましたか? 大凡の位置でも良いので教えて下さい」
「……角度から木の上、ですかね」
 矢の来た方向から大まかな位置を予測した雫が銃を構えてそう呟くと、矢の着弾直後に和紗の和弓からアウルを纏う矢が放たれた。
「矢が通った道筋に遮蔽物は無く、射線の元には射手がいるはずです」
 彼女の視線が捉えた相手の矢の軌跡と、ほぼ同じ射線を辿ってその矢は木の上部を豪快に削ぐ。
「命中です。一体見えました、正面左右……距離十五メートル」
「良いね」
 飄々と返す竜胆は同じ方向に目を向け、雫の銃弾と共に鮮やかな炎で追撃を繰り出すと眼鏡を指で押し上げる。
「隠れんぼはお終いって事で」
 その火花にも似た炎を突っ切り、即座に反撃を仕掛けた黒百合は、槍を突き立てた地面の下から空へ舞上る劫火を竜胆と同じ目標付近へ放った。
 それと同じくして、弓のディアボロへ充分な戦力が回った事を確認したファーフナーは次の手に備え、エイネは磁場の利用で機動力の底上げを行う。
(「前方には二体……ですが」)
 Rehniは矢が到達したと同時に探知を開始していた。
 敵の姿は見えた。だが、二体だ。
 それは生命探知にも掛かっている。
 それ以外の物体……。
 獣並みの知能を持った小動物なら、戦闘が始まれば本能的に逃げるはず。
 ならば、足早に歩み寄るこの塊は。
「……右」
 Rehniがそう呟いた途端、草陰から鎖鎌の刃が飛び出す。
 前方に気を取られていた雛の反応が一瞬遅れ、槍を持つ態勢が崩れた。
「っと」
 その胸元へ迫った鎌を竜胆が割り込んで打ち払う。
 鎌の先には木の葉に隠れた黒い影。
 その影は一瞬姿を現したかと思うと、鎌を引き戻してそのまま木の影に隠れようとする。
 だが、そいつは一定間隔の距離で急に引っ張られるような感覚に襲われた。
 鎌が、戻って来ない。
「受けて掴んでしまえば、直線にしかならないの気づいてた?」
 鎌の鎖部分を絡めとった竜胆が、悪戯に微笑を浮かべている。
 力比べは何度か試せば勝てそうだ。
 その暇が有れば。
 草を掻き分ける音がカサドルの耳に入る。
 薄汚れた布切れの間から覗かせた眼光が、横に動いた。
 迫ったのは暗がりに紛れた黒のスーツ。
 白髪の下で、鈍く光る青い瞳が目前に迫っている。
 鎌持ちのカサドルが振り向く前に、ファーフナーの右手が頭部を鷲掴みに、左手は胸部を捉え、帯電させた電撃を一気に放出させた。

 続く炎の魔法にその場を離れざるを得なかった二体の弓持ちは、一旦木の上から跳び下りて木に隠れつつ場所を移し始める。
 その時、毒弓持ちのカサドルが地面に着地した、その瞬間だ。
 ヒュッと風を切る音と、旋風にも似た衝撃が毒持ちの身体を襲った。
 気付いた後には自身の腹を貫いた風穴。
 その背後に見えた金色の人物に、毒持ちは慄いた。
 まるで、全く気付かなかった、とでも言うかのように。
 風景と同化するラファルの光学迷彩。それは間違いなく伊達では無い。
「人間狩りは最も危険なゲームってな」
 そこへ、木の壁を伝って雫が麻痺持ちの上から跳び下り、落ち葉を吹き飛ばしながら闘気を解放させる。
 滑空するエイネもその場へ一気に到達、麻痺持ちへ雷の刀を振り下ろした。
 先に敵の攻撃が来るかと思いきや、相手は慌てふためいている。
 成程、どうやら至近距離には即座に対応出来ないらしい。
 せめてとその場を離れた毒持ちの方に、和紗から飛んで来たのはアウルの塊。
 だが、それがこびりついたように剥がれない。
 マーキングされたカサドルへ接近したRehniは、具現化した短槍を突き立てそのまま後方へ押しやる。
 よろめいた毒持ちが最後に足を付いた場所、そこが墓標となった。
 大木を一気に駆け上がった雫が体重を乗せて飛び降りる。
 その大剣の切っ先は、毒持ちの頭部から足元へと、深々と突き刺さって命を絶った。
「もう後は無いでござるよ」
 麻痺持ちの身体を滑らかに掻き斬ったエイネは一旦上空へ移動。
 攻撃が緩まった麻痺持ちは、次の手段を考えた。
 近接はマズい。
 ならば、ここは一度近くの木に身を隠し……。
 幸いにして、大木は目の前。
 そこへ逃れる……直前、その行動を同じ弓持ちとして予測した和紗の矢が頬を貫く。
「弓の扱いで負けるつもりはありません」
 驚いたカサドルだが、そんな暇は無い。
 最早拘束するまでもない、と悟ったラファルは、瞬時に刃を形成。
 Rehniの光槍が斬り払った瞬間を突き、一気に詰め寄り、その刃を深々と突き刺した。
 一瞬の静寂、後。
 カサドルの身体が膨れ上がり、内部から爆発四散。
 肉片を背に、ラファルはRehniへ向き直る。
「手向けの言葉でも言ってやれよ」
「アリーデヴェルチ……ってとこですかね」

 戦闘はまだ終わってはいない。
 竜胆との力比べに勝てないカサドルに、突然暴風のような衝撃が走る。
 眼前に現れたのは黒百合の金眼。
「思ったより歯応えないのねェ……」
 と、深々と貫く漆黒の槍。
 半ば攻撃手段を封じられたカサドルは今やただの案山子でしかない。
 ファーフナーの電撃の掌底が撃ち込まれ、竜胆が舞い上がらせた砂塵がカサドルを石に仕立て上げる。
 その時か、いや、それ以前だったのだろう。
 落ちていたのだ。ファーフナーの初撃から、既に。
 竜胆の雷刃が石を裂きファーフナーの拳は石を砕く。
 そして、頭上で大きく旋回させた黒百合の槍が、カサドルへと叩きつけられた。
 石が崩壊していく……。
 跡形も残さぬほどに。


「あ、怪我しちゃった。紅城ちゃんアスヴァンだよね、治して☆」
 戦闘後、何処かわざとらしく竜胆は雛へ声を掛けた。
 鎌を打ち払った、あの時か。
「あ、はい! えと、これならライトで良い……かな?」
 癒しの光が竜胆の傷を癒す。
 それを見ながら、雛はほう……と息を吐いた。
「どうかした?」
「いえ……私、あんまりお役に立てなかったな、と」
 それでも、こうやって傷を癒す役目を担える事が出来た。
 普段は雛はこういった事も頼まれないのだろう。
 傷を癒しながら、彼女は何故か微笑する。
「何笑ってんだ。フェチか?」
「違います……!」
 そうむくれつつも、雛は手を差し出した。
「……何?」
「怪我したなら見せて下さい」
 それを聞いて、ラファルは大いに笑った。
「あの程度の奴らに俺様が? 冗談!」
 ぽかん、と雛はしていたが、それでも彼女に対する気持ちは少し改まった。
 矢張り、彼らは相応に実力の有る人達なのだ、と。
「紅城、こちらも頼む……俺ではないが」
 雛を呼んだファーフナーがRehniの方に手を落とした。
 その治癒にも駆けつけ、そこに和紗が歩み寄る。
「お疲れ様でした。……緊張して疲れたでしょう? どこか休憩出来ると良いのですが」
「有難う御座います。でも、これから依頼に向かいますので」
 出来る限り笑って答えたつもりだが、引き攣っている。図星だったのだろう。
 そう言えば、出立の際も随分と無表情だった。
 笑顔が不得意なのだろうか。
 そう言えば、とファーフナーは思い返す。
 エイネも言っていたが、これだけ危険な森の先に在る村。
 何かあるのだろうか?
 黒百合が見る限り、森自体にはもう何も無さそうだが。
 その事を改めて訊いてみると、あの時と同じ不服そうな顔に変わっていく。
 言い難そうにしている雛に、雫はそっと告げた。
「ああ言った時は、お願いしますは要らずによろしくとか、一緒にがんばろうとかで良いと思いますよ」
 雛は顔を真っ赤にしている。
 自分では気づいていなかったのかもしれない。
 そうして随分言葉を選んだ後に、雛はこう言った。
「あ、あの、もしかしたら……またお願いする事が……」
 言い掛けて、雛は頭を大きく振る。
 ここから先は自分の仕事だ。
 だけど、もしこの先また力が足りなくなった、その時は……。
「……また、宜しく……!」

 耐え切れずに「お願いします……」と小さく付け加えたのを皆は聞き逃さなかった。


依頼結果/参加キャラクター

依頼成功度:成功面白かった!:5人
MVP一覧
 護法の銀・Rehni Nam(ja5283)
 扶桑の枝・樒 和紗(jb6970)
 悪戯のピエロ・砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)
重体一覧
 −

赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部1年3組 女 鬼道忍軍
歴戦の戦姫・
雫(ja1894)

中等部1年1組 女 鬼道忍軍
護法の銀・
Rehni Nam(ja5283)

高等部3年1組 女 バハムートテイマー
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

大学部1年8組 女 鬼道忍軍
ぽちをたずねて三千里・
エイネ アクライア (jb6014)

大学部6年11組 女 アカシックレコーダー:タイプB
扶桑の枝・
樒 和紗(jb6970)

大学部1年7組 女 インフィルトレイター
悪戯のピエロ・
砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)

大学部3年5組 男 アーティスト
月に群雲、花に風、されど・
ファーフナー(jb7826)

大学部3年7組 男 アカシックレコーダー:タイプA


依頼相談掲示板

相談卓
エイネ アクライア (jb6014)|大学部6年11組|女|アカ
最終発言日時:2016年09月21日 07:05
挨拶表明テーブル
宝井正博(jz0036)|教師0組|男|一般
最終発言日時:2016年09月20日 22:43


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