こんにちは、フリーライターの宮里です。

ポケモンGOの人気でモバイルバッテリーが売れているように、スマホのバッテリー容量不足が深刻です。少しでも長く使いたい。そんな願いをかなえてくれるかもしれないのが、貼るだけで電池の寿命を約1.3倍にするという保護フィルムです。本当に効果があるのか、実験してみました。

この記事は、身近にある「疑問」や「不思議」を検証する『ウェブ情報実験室』です。

実験の目的

特殊な保護フィルムを貼ることで、バッテリー駆動時間が変化するかを確認する

動機

スマホの液晶保護を目的とするフィルムやガラスは多数発売されていますが、価格競争だけで勝ち残るのは難しく、反射防止やのぞき見防止、耐指紋性、滑りのよさ、ブルーライトカットなど、付加機能の追加で差別化が図られています。そんな中、他とは違ったアプローチで付加価値を付けてきたのが「テラフィルム TR」。なんと、貼るだけでiPhone 6の電池寿命が約1.3倍になるという、驚きの効果があるらしいのです。



最初「電池の寿命が約1.3倍」というのは、検証が難しい繰り返し充電の回数が増えるという意味だととらえ、「うまい表現だなー」などと思っていたのですが、メーカーのサイトを見たところ、しっかりとiPhone 6を使った通話時間での検証がありました。そしてこの結果を信じるのであれば、バッテリー駆動時間が本当に伸びているのです。



こんなに手軽なのに性能が大幅にアップするなんて、どんな技術が使われているのか気になるところですよね。説明文の一部を引用してみましょう。



......頭が痛くなってくるのはまだ早いです。よく読んでみましょう。

まず「テラヘルツ波」ですが、これについて少し調べてみると、成分分析や非破壊検査などへの応用という点で有望なようです。通信でも使われる周波数帯ですし、テラヘルツ波が有用だということに関しては納得できるのですが、それを照射したフィルムが超伝導と何の関係があるのかは謎です。そして、そもそも超伝導はエネルギーじゃないよなとか、直接バッテリーに照射せずに影響を及ぼせる理由は何なのかとか、どうにか理解しようと頑張ってみても、次々と疑問が湧いてしまいます。

とはいえ、感謝の言葉でおいしくなったり、水素を含むと健康になったり、高分子がそのまま吸収されて肌がキレイになったり、IPアドレスの変更で音がよくなったりと、世の中不思議な話はいくらでもありますよね。Amazonのレビューで、サクサク感がでるといってる人もいますし。



自分が理解できない、納得できないからと否定するのは簡単ですが、真面目に否定をするなら根拠が必要です。とはいえ実験で試すにしても、借りられるiPhone 6ではバッテリーの劣化もありますし、なにより今更すぎます。説明を読む限りどんな機器にでも効果があるようなので、最新のiPhone 7で実験してみました。

実験対象

バッテリー駆動時間の実験にはiPhone 7、保護フィルムには「テラフィルム TR」(実売価格2200円前後)を使用しました。



液晶面と背面用の2枚のフィルムが1セットになっています。液晶面はそのまま貼れますが、背面はiPhone 7のカメラにぶつかってしまうため、その部分はカットしてぶつからないよう加工しました



端が曲面となるため少し浮いていますが、実験に影響はないため無視しています。比較は、保護フィルムを貼る前後。同じ製品での比較になります。

実験方法

バッテリー駆動時間が延びると仮定した場合、2つの理由が考えられます。まずひとつめは、動作中の消費電力が抑えられ、長時間使えるようになるというものです。これを確認するにはバッテリーから供給される電力を計るしかないのですが、これはiPhone 7を分解しない限り無理。そこで<実験1>では消費電力を計るのはあきらめ、素直にバッテリー駆動時間の変化で比較することにしました。

もうひとつ考えられる理由は、バッテリーの充電容量が上昇するというものです。こちらは充電器とiPhone 7の間に電力計を入れて比較すればいいだけなので、iPhone 7を分解せずにすみます。このバッテリー容量の比較を<実験2>として行うことにします。

もし<実験2>で変化がなくても<実験1>のバッテリー駆動時間が延びるのであれば、消費電力が抑えられているという証拠になります。また、<実験2>でバッテリーの充電容量が増えているのであれば、<実験1>のバッテリー駆動時間が延びている理由が判明するわけです。単純にバッテリー駆動時間が延びるかどうかを見るだけでなく、少しでも理由を探りたいという意味で、2つの実験を行います。

<実験1>バッテリー駆動時間の比較

YouTubeアプリを使い、約1分半の動画を40本登録したリストを繰り返し再生し続け、充電100%から電源が落ちるまでの時間で比較します。このときのバッテリー残量を「Gathered」というアプリで記録しようとしたのですが、バックグラウンド動作時の記録がうまくいかないため諦めました。ただし、状態確認のため、アプリそのものは起動しておきます。なお、SIMは入れずにWiFiをオン、液晶の輝度は50%で固定しています。



実験は保護フィルムの有無で各3回ずつ行い、その変化を見ることで保護フィルムによる影響を確認するのが狙いです。


<実験2>バッテリー充電容量の比較
USB用の簡易計測器「RT-USBVAC3QC」を使い、<実験1>で電源が落ちた状態から、バッテリーが100%になるまでの積算電流量で比較します。充電中の電圧変化が多少あるのですが、同じ端末を使った実験ということもあり、今回は気にしないことにしました。充電器は付属の純正品、充電ケーブルも付属の純正品を使用しています。



電源はオンにしたまま充電し、液晶の輝度は50%固定としているのは<実験1>と同じです。こちらは「Gathered」で充電状況の記録も行っています。
<実験2>も<実験1>と同じく、保護フィルムの有無で各3回ずつ行います。

実験結果

<実験1>バッテリー駆動時間の比較
保護フィルムの有無で各3回ずつ行ったバッテリー駆動時間の変化を、折れ線グラフで確認してみましょう。

バッテリー駆動時間
1回目 2回目 3回目
フィルムなし 8時間21分 8時間29分 8時間40分
フィルムあり 8時間19分 8時間27分 8時間17分

結果は見ての通りで、保護フィルムを貼らない場合は若干の伸びはあるものの誤差の範囲。保護フィルムを貼った場合でも回を重ねるごとの変化はなく、こちらも誤差の範囲といえるものになりました。どの場合も大体8時間半前後で、大きく外れることはありませんでした。


<実験2>バッテリー充電容量の比較
保護フィルムの有無で各3回ずつ行った積算電流量の変化を、折れ線グラフで比較してみましょう。

100%までの積算電流量
  1回目 2回目 3回目
フィルムなし 2080mAh 2070mAh 2086mAh
フィルムあり 2106mAh 2082mAh 2081mAh

こちらも<実験1>と同じく、保護フィルムの有無や回数によらずほぼ一定という結果になっています。一応充電時間も確認してみましたが、こちらは2時間半前後でほぼ同じ。また、充電率の変化も比べてみましたが、差はほとんどありませんでした。

100%までの充電時間
  1回目 2回目 3回目
フィルムなし 2時間28分 2時間26分 2時間26分
フィルムあり 2時間34分 2時間27分 2時間28分



結論

以上の実験から、「テラフィルム TR」を貼ってもバッテリー駆動時間やバッテリー充電容量に変化がないことがわかりました。ということで結果をまとめるまでもないのですが、
iPhone 7では効果がない

というひと言に尽きます。

注意事項として、「テラフィルム TRの効果は、ご利用方法、環境に依存し、必ずしも効果をお約束されるものではありません」という記載があるとはいえ、残念な結果です。さらに回数を重ねれば効果がでてくる可能性もありますが、メーカーサイトでの検証結果が最初の3回で大きく変化していることもあり、その可能性は高くなさそうです。試した3回のうちで何か変化があれば続けてもよかったのですが、特に変化がなく、心が折れました。1回の充放電で12時間ほどかかる実験は、ツライのです。

試すのであれば、わずかでも効果があればもうけもの、くらいの気持ちでどうぞ。


おまけ

関係ありませんが、携帯といえば電波の受信状態を向上するシールというものが、ずいぶんと昔に流行りましたよね。「電波の受信状態がよくなる」とか、「電池が長持ちする」など、効果がうたわれていました。

●公正取引委員会
(平成21年3月9日)携帯電話の電波の受信状態が向上すること等を標ぼうする商品の製造販売業者らに対する排除命令について

関係ありませんけどね。

<ウェブ情報実験室:バックナンバー>

iPhone 7のバッテリー駆動時間は延びるのか!? 謎の保護フィルムを試してみました(ウェブ情報実験室)
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