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籠の鳥 作者:ネギ塩冷奴
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前編

 昨年から今年の冬は暖冬だろうと言われ続けた。確かにそうだった。しかし、春に差し掛かった三月、真冬日並みに冷え込んだかと思えば、四月の様に暖かくなったりと、急激な寒暖差が頻繁に訪れるとは誰が予想できただろうか。

 そんな安定しない気候が続いたが、今は教室内に吹き込んでくる穏やかな風が温かく過ごしやすい。
 今は三月、晩春である。
 高等学校における教室内の風景というものは、多少の差異こそあれ大体似たようなもので、それは放課後であっても変わらない。
 この教室でも多くの生徒が授業という労苦から解放されたことを喜び、ある者は部活動の準備を始め、ある者は級友と待ち合わせの時間と場所の再確認をしていた。
 そんな賑やかで若い喧騒に満ちている中、一人席についたまま片肘をついて窓の外の光景を眺めている少年がいる。
 その薄い茶色の瞳には校庭で球技に勤しんでいる生徒達の姿が写っていたのだが、少年にとってそれは視覚情報として入ってくるだけのもので、心にまでは届いていなかった。それらは少年にとっては無意味なものであったから。

「藤堂、元気?」

 耳に入ってきた声は自分を呼ぶものであったので、さすがに少年は反応した。振り向くと、日に焼けた茶色い髪と顔をした、活発という言葉を擬人化したような少女の顔が目に飛び込んでくる。
 
「元気と言えば元気かな」

「気のない返事だねえ。今もご主人様の命令待ちですか?」

「そういう言い方は好きじゃないって前も言ったはずだけど」

 批難のこもった少年の返答を聞いて少女は快活に笑い、

「ごめんごめん」と謝った。

 藤堂は少年の性である。名は(かえで)で、これを共同で名づけた両親は二人とも既に他界していた。
 瞳と同様薄茶色の頭髪をしているが、これは染めているわけではなく、生まれつきである。頭髪だけでなく全身の色素が薄く肌も色白で、やや中性的な顔立ちをしているため初対面の相手にはハーフかクォーターなのではないかとよく誤解されていた。
 楓は少女に何かを言おうとして口を開きかけたが、その時機械音が制服のポケットから鳴り響いた。会話を止めて携帯電話を手にする。

「はい楓です。はい……はい……。かしこまりました」

 そう言って通話を止めると立ち上がり、鞄を机の上に置いた。

「話の途中で申し訳ないけど、もう帰るよ」

「ご主……有栖川さん?」

「そうだよ」

 その言葉を聞いた少女は眉根を寄せ、楓の心の内を探るように顔を見つめて問いかける。

「毎日命令されるのって腹が立たない?」

「長年やってるから」

「やめたいと思わないの?」

「そんないちいち考えないよ。やめてもどうなるものでもないし。ここにも通えなくなる」

 机の横にぶら下げていた鞄を持ち楓は答えた。

「んー。じゃあやりたいからやってるわけではないんだよね?」

「そういうのとはちょっと違うかな。選択の余地がないってのが一番近いと思う。生活のためだし」

「なんで…」

「僕のことなんて、お嬢様の君がそんなに気にすることかな?」

 苦笑して楓は少女に振り向いた。その秀麗な顔を向けられて、少女は目に見えて赤面する。

「そ、そ、そ、そう言う訳じゃ」

「まあいいよ。今度機会があれば詳しく話してあげる、稜子(りょうこ)さん、じゃあね」

 にこやかに少女、稜子に微笑むと教室から出ようとしたが、稜子は素早くその先に回り込んだ。
 顔には太陽のような満面の笑みを浮かべている。

「本当に?」

「え?」

「詳しく教えてくれるんでしょ、藤堂と有栖川さんの事」

 聞いて楓は一瞬呆気にとられ、肩をすくめた。

「いいけど、もう皆知ってることじゃないかな」

「ある程度はね。そりゃ貴方達主従は有名だもの」

「それなのにわざわざ?」

「藤堂から聞いてみたいのよ」

 稜子は快活にそう宣言する。
 あまりにもさっぱりとしたその口調からは色気と言ったものを楓は感じなかったが、言葉の内容は周囲にとってはそれなりに衝撃があったらしい。
 数人の男女が冷やかすように声をかけてきたので、楓は背筋を伸ばして自身の赤いネクタイを直すと努めて冷静を装って答えた。
 
「じゃあいずれ。時間ができたら」

 それだけを伝えると稜子の脇をすり抜け退室した。
 その姿を見送った稜子の周囲に女子が集まり、囃し立てるように次から次へと言葉をかけている。






 私立蘇鷹(すおう)高等学校は、全国でも五本の指に入るといわれる程の超名門私立校である。中高大一貫教育で高校大学の生徒募集は原則行われていない。
 校内では制服の着用が義務付けられており、学年によってネクタイが色分けされている。高校では一年が赤、二年が青、三年が白となっていた。
 名門だけあって学費の高さもずば抜けており、その額は一人当たり年間で一般家庭の平均世帯年収を優に越える。


 そして東京ドームが二つ収められるほどの広大な敷地を持ち、点在する校舎群は長い歴史を感じさせる煉瓦造りの外観をしていた。しかしその内は改装を重ねられて、最先端の教育施設と設備環境が整えられている。

 セキュリティも万全で、広大な敷地は高い塀に囲まれ監視カメラがそこかしこに(ただし一見してはそれと分からないほど目立たぬよう)設置されて、外界からの侵入を固く拒んでいた。
 その敷地内の一角に、来客・父兄用の駐車場があるのだが、楓はそこに向かって道を急いでいた。電話の相手との待ち合わせ場所がそこであったから。
 楓の視界が人影をとらえる。細く、背筋を伸ばして凛として立つその人物は腕時計を見つめていた。
 黒い後ろ髪は腰の下に届くほど伸ばしているが、前髪は眉の所で切り揃えられている。その色白の顔は極めて整っており、万人が認める美人と言ってよい。
 だがしかし、その表情には生気と言ったものが欠けていた。紛うことなき美人なのだが、妙に作り物めいているのである。人形か、彫刻のような無機質な美であった。
 楓が近くまで駆け寄った時、美少女はそれに気が付き、楓が口を開くより早く言葉を発した。

「遅かったわね」

 顔と同様、感情を読み取れない抑揚のない声が通る。

「申し訳ございません、朱鷺子(ときこ)様」

「どういうつもり?私は五分以内に来るように、と命令したはずだけど」

 楓は長年の経験でこういう時の朱鷺子には何を言っても無駄だと悟っていた。クラスメートの女子につかまっていた、などと言えば話がややこしくなる。できるだけ無難な返答をするしかない。

「帰り支度に手間取ってしまいました」

「無駄な物が多すぎるのね。貸しなさい、その鞄」

「はい」

 右手に下げていた自身の鞄を差し出す。朱鷺子はそれを受け取ると、駐車場の片隅にあるゴミ箱まで持ち運び、何の迷いもなく無造作にその中に投げ入れた。

「帰るわよ」

 そう告げながら戻って来ると、今度は自分の鞄を差し出した。楓は一礼すると両手で恭しくそれを受け取る。視界の隅に朱鷺子の赤いネクタイの一部が見えた。
 朱鷺子は踵を返すと、駐車場で待機していた黒の高級車に向かう。傍で待機していたドライバーが慣れた動作で後部座席のドアを開いて朱鷺子を迎えいれた。
 無言で朱鷺子が乗り込むと、ドアを閉めたドライバーが反対側に回りドアを開ける。楓が礼を言って朱鷺子の隣に着席した。
 ドライバーはまたドアを閉めると運転席に戻り、車を発進させる。



 街道をゆく人々は日傘をさし、ある者はハンカチで汗をぬぐう。
 そういった光景が車窓から見えなければ、今が夏であることすら忘れそうな程快適な空間をその車は提供していた。が、乗車する人がどう感じるかはまた別であろう。少なくとも心穏やかな者はこの車中にはいない。

「明日は?」

 正面を見据えたまま朱鷺子が無感情に尋ねてきた。
 主語も何もない問いだが、長年連れ添った楓には何を聞かれているのかが瞬時にわかる。

「今日と同じく、十五時半には授業が終了する予定でございます」

「そう。下校は今日と同じくらいのはずよ。明日は待たせないで」

「朱鷺子様、そのことなのですが」

 朱鷺子は顔は動かさず視線だけを楓に向ける。

「放課後、クラスメートとミーティングを行う予定がございます」

「欠席しなさい」

「いえ、以前お話ししたかもしれませんが、私は学園祭のクラス委員に任命されておりまして、明日はその話し合いなので欠席するわけには」

「私の下校時間に間に合うまでなら参加してもいいけど。それ以上は無理ね」

「かしこまりました」

 そこで会話が終わり、朱鷺子は視線を正面に戻した。以降は無言の時間が続いていく。

 車は幸いにも、というべきか信号待ちで止まることもなく快調に走り続け、三十分もすると目的地である有栖川邸に到着した。
 蘇鷹高校は学校としては桁違いの敷地面積を誇っているが、有栖川邸は住宅として平均的な中学校に比する敷地面積があった。その中央やや北寄りに地上三階地下一階、白亜の洋館がそびえたっている。
 正面玄関前で降車した朱鷺子と楓を初老の執事と二十代と思しき女中の二名が出迎え、朱鷺子はごく簡単に帰宅の挨拶だけをすると、それ以上話すことなく二階の自室に向かって歩み続ける。
 楓は鞄を女中に引き渡すとその後ろから付き従った。そして朱鷺子と女中が部屋に入るのを一礼をして見届ける。
 豪奢に装飾された室内の様子が見て取れたが、それもごく僅かの事で、すぐにドアは閉じられる。楓は顔を上げると、階下に向かって歩き出し、地下階まで至った。
 そのまま地下にしては高い天井を持つ廊下の中央よりやや先「藤堂」と記された表札のついた扉の前まで歩み、ノブに手をかける。
 室内は十畳ほどはあるだろうか。楓一人で暮らすには十分すぎると思われる広さのその空間には、しかし目立った家具や装飾品と言ったものがない。
 あるのは真新しいタンスが一棹とこれもまだ傷一つないベッドだけで、壁面には壁紙すらなく剥き出しの表層を晒していた。








「はい、これ」

 翌日、登校した楓が席に着くや否や、稜子が机の上に昨日朱鷺子によって廃棄されたはずの鞄を置いた。何人かの女子が遠くからそれを見て何やら声援を送るようなポーズをとっている。

「ありがとう」

「でも必要なかったのかな?」

 稜子の視線の先には、机の脇に置かれている全く同種で新品の鞄があった。

「いや、そんな事ないよ。でもどうしてゴミ箱にあるって気付いたのかな?」

「悪いと思ったんだけど、昨日藤堂の後を追っかけた」

 稜子の朱鷺子ほどではないが美人の部類には属するその顔が既に赤い。

「で、これも悪いと思ったんだけど。鞄の中身見ちゃったんだ。驚いたよ、教科書以外何も入ってないなんて。ノートすらないし」

「いつ捨てられるか分からないからね」

「どうして?」

 快活な稜子には似つかわしくない、悲嘆交じりの声音を聞いた楓は苦笑して答える。

「分かったよ、鞄のお礼もあるし昨日約束したからね、少し話してあげるよ。でもここじゃ場所が悪いから」

 そう言って楓は自分達に向けられている視線の数を数えだす。片手で余る程度にはあった。

「昼休みに空き室で良いかな?」

 稜子が頷き、周囲から歓声のようなものが上がりかけたが、直後にかぶさった予鈴のチャイムにかき消されていた。



 その広さに比例するかのように膨大な数の教室を含めた居室がある蘇鷹高校だが、全てが使われているわけではない。時間にもよるがかなりの空室が発生していた。
 そういった空き部屋は届け出制で生徒に貸し出しているのだが、この点に関してはあまりルールを守っている者はいなかった。空いていれば勝手に使ってしまえ、と言った塩梅で自由に活動の場にしてしまっている者がほとんどである。
 この時は楓も例外ではなく、校舎内を散策してほどなく誰も使用していない会議室を見つけると、そこにお邪魔することにした。
 黒板になにやら数式が書かれたまま残っていたので、授業か会議が行われていたのだろう。明るい陽射しが窓から差し込んでくるが、直前まで空調も効いていたせいか、室温はそれほど高くない。
 長テーブルを挟んで稜子と向かい合って座る。楓は両手を机の上で組んでリラックスしていたが、稜子は両手を握って膝の上に乗せ、唇をかんで緊張の表情を見せていた。

「大丈夫?」

「ななななな、なにが?」

「緊張してるみたいだけど」

「そ、そ、そ、そんなことないよ」

 明らかにそんなことがありそうな返答だったが、楓は話を進めることにした。

「僕と朱鷺子様の話を聞きたいって事だったけど。最初から全部話していくと長くなりすぎるから要点だけまとめていくけど、それでいいかな?」

 稜子は真っ赤な顔を何度も上下に動かした。

「最初は……小学校一年生の時だったから九年前かな。僕の両親が亡くなった」

 防音対策のとられた室内には外の喧騒は聞こえない。楓の声だけが通っている。

「交通事故だったんだけどね。当時の詳しい事はもうあまり憶えていないんだ、周りで大人達が大騒ぎしていたけど。そして僕には身寄りがなかった。父の友人だった人が八方手を尽くして探してくれたんだけど、僕を引き取っても良いという人はついに現れなかった……かに見えた」

 楓は目を閉じ、当時の記憶を掘り起こしている。

「ところが義彦様……朱鷺子様のお父様が僕を引き取りたいと申し出てくれた。大人達は仰天したと思う。父はしがないサラリーマン、母も父の幼馴染でしかも孤児だった。そんな両親と有栖川グループの総帥につながりがあるなんて想像することすら不可能だ。誰もがその接点を知りたがったようだけど、義彦様は『理由は一切聞かないように』というのを条件にしていたので、今も不明なままなんだ。僕も尋ねたことはあるけど答えは頂けなかった」

 稜子にとってはこれは噂として既知の話であった。もっともこうして本人から事実として聞くまで半信半疑ではあったが。

「まあ不審なところはあったけど渡りに船の申し出でもあった。という事で大人達は僕を義彦様に預けることにした。そうして最後まで面倒を見てくれていた父の友人に連れられ、僅かに残った家財道具を携えて僕は有栖川邸を訪ねて、そして玄関が内から開かれた時、真っ先に目に入ったのが小さな女の子、朱鷺子様だった」

「……」

「挨拶をしなきゃ、と思った僕が口を開くよりも先に朱鷺子様の怒鳴り声が響き渡った。今と違って感情豊かだったんだよ、幼い朱鷺子様は」

「なんて言われたの?」

「『そんな汚い服や鞄、私の家に入れないで』と」
 稜子が息を飲む音が楓の耳にも聞こえた。

「それで、持って来た家財道具は一切合財玄関の敷居をまたぐことなく処分された。服も執事さんが買いに行って外で着替えさせられた。で、やっと入館することを許された僕に朱鷺子様が再度声をかけてきた」

「今度はなんて?」

「『貴方は私の召使いなのよ。それを弁えないならいつでも追い出すから』とね」

「そんなことが許されてたの!?」

 憤慨するような稜子の問いを聞いて、楓はまたしても苦笑する。
 
「今もそうだけど、有栖川邸では朱鷺子様が絶対なんだよ。義彦様も奥様も忙しくてあまり帰宅されない、必然残る朱鷺子様が唯一の有栖川の人間になる」

 楓の薄茶色の瞳が、灰色に変じたように稜子には見えた。

「それからは朱鷺子様の機嫌を損ねる度に、その原因となっている物を処分させられた。物だけではなく、人も。友人との約束があって朱鷺子様を待たせたりしたら、その友人と絶縁させられた。とにかく朱鷺子様を最優先しなければならない、それ以外は必要無いんだ。僕は朱鷺子様に仕える為だけの人間なんだよ」

「逆らったりしなかったの?」

 稜子は目に涙すら浮かべ、声を震わせてそう問いかける。

「昔はね。でもその度打ちのめされた。朱鷺子様に逆らう事は即ち有栖川に逆らうこと。……でも、それでも一つだけ小さな抵抗を続けていた」

 それを聞いて稜子の顔に輝きが戻る。

「最初の日、全ての家財道具を廃棄させられたんだけど、唯一隠しておいたものがあったんだ。それは銀製のハート型ロケットペンダントで、元々は父さんが母さんにプレゼントしたものだったんだけど。有栖川邸に行く前日、父の友人が僕と両親の写真を入れ直して渡してくれた。それだけは隠し持って、時々首から下げていたんだ」

 楓は静かに一呼吸して言葉を続ける。

「だけど運悪く、それを着けていた時にまた朱鷺子様の逆鱗に触れることがあった。理由は覚えていないけど、朱鷺子様の部屋の中でのことだった。その時服を脱ぐように命じられて、当然ペンダントも見つけられて、捨てるように言われたんだ。それだけは許してほしいって土下座して頼んだけど無駄だった。ただ、その時室内は僕と朱鷺子様だけだったから……」

「二人きり?」

「そう。それで恥ずかしい話だけど、朱鷺子様に飛びかかった。もうヤケクソになっていたんだろう、朱鷺子様を泣かせてもいいからペンダントだけは守るつもりだった。でも、情けない話だけど力でねじ伏せられた。子供時分の事だったから、女の子の方が腕っぷしでも強かったんだ」

 そう言って自嘲気味に肩をすくめる。

「そして、首から引きちぎるようにペンダントを取り上げられて『そんなに大事な物なら私自ら処分してあげるわ。貴方は感謝するべきね』と言われて部屋から叩き出された……それから僕はもう抵抗するのをやめたんだ。今の僕にはもう何もないんだよ」

 直射日光が窓に当たり、室内に濃い影を作る。その中で稜子の影が動いた。立ち上がると必死な口調で語りかける。
 
「何もないなんてそんな事ないよ、藤堂は頭いいし、それにスポーツもできるし」

「それは、朱鷺子様に仕える者として必要だから教え込まされたんだ。乗り手にとって良い馬になったにすぎないよ。それに今の生活を保証してくれる義理もある」

「……じゃあ、召使いになっているのが嬉しいわけじゃないんだよね」

「喜ぶとか悲しむとか、そういうものじゃないかな。それに召使いっていう言い方は…」

「でもそうなんだよね?」

 稜子の力強い、有無を言わせぬような言葉に楓は気圧されるものを感じた。それでもなんとか稜子が納得できそうな言葉を探す。
 
「ありきたりだけど、しょうがないんだよ。もう辛いとも思っていないしね」

「だったら、私が助けてあげる」

「え?」

 その宣言は楓には完全に想定外の物であったので、虚を突かれて稜子の顔を見直す。

「待ってて。必ず私が助けてあげるから」

 稜子がいつものように浮かべた太陽の笑みは、楓にはひどく眩しいものに見えた。

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