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ぐるりみち。

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“女装”がもたらす多角関係ラブコメ『狼少年は今日も嘘を重ねる』がおもしろい

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 おっすおっす。最近、「少し変わった舞台設定や、独特のベクトルが飛び交う恋愛マンガ」が好みだと気づきました、僕です。多角関係、大歓迎。でも、それにプラスαが欲しい。

 例えば、ジャンル的には“恋愛モノ”でありながら、他者へ向かう「恋慕」の矢印に複数の感情が綯い交ぜになっているとか、精算しきれなかった青春時代の片思いがそのままの姿で眼前に現れる多角関係とか。――というのは、『やがて君になる』『青春のアフター』のことなんですが。うふふ。

 

 

 それら作品とはまた方向性が違うようにも思うけれど、ひさしぶりに同様の「ビビッとくる感じ」を受信したマンガを読みました。それが本作『狼少年は今日も嘘を重ねる』です。

 正直、1巻時点では「ほほー、女装モノっすかー」くらいの印象だったんだけど、話が進むほどに複雑化しつつ強度を増していく関係性のベクトルはショート寸前、今すぐ会いたいよーー!! なんて絶叫する隙も与えず加速した物語展開は、3巻ラストで正面衝突して大破撤退。僕は死んだ。

 ……つまり、むっちゃおもろい。

 

 

「女装」という「嘘」を軸にして描かれる青春ラブコメ

 自分の容姿にコンプレックスを持つ男主人公と、男性恐怖症を抱えたヒロインが繰り広げる、ドタバタ青春ラブコメ。――あらすじを読んで感じたのは、そんな第一印象だった。実際に1巻を読んでみたあとの感想としても、だいたいそのイメージは合っていた……と思う。

 

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namo『狼少年は今日も嘘を重ねる』(1) P.4

 

 目付きの悪い主人公・五木啓太郎(いつきけいたろう)が恋した相手は、男を寄せ付けないことで有名な“いばら姫”ことヒロイン・外鯨葵(とくじらあおい)。第1話の5ページ目にして告白するも、間髪を入れず「存在が無理」と全否定されてしまう主人公。まさかの開幕失恋。かなちい。

 ところが、そもそも彼女は「男性恐怖症」。自分を含めた「男」の大多数を個人として認識していなかったという事実を、ひょんなことから彼は知る。男嫌いを治したい、そして自分も人並みの恋をしてみたい――。そう話す彼女、葵の力になりたいと考えた啓太郎は、その事実を知るきっかけとなった「嘘」を重ね、協力することを決意するのだった――と、そんな導入。

 

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namo『狼少年は今日も嘘を重ねる』(1) P.34

 

 で、その「  」こそが、「 女装 」である。――そう、目付きの悪い残念男子・五木くんは、姉のカリスマメイク術によって、男勝りのスーパー美少女・イツキちゃんに変身してしまうのだ! 女装した“イツキ”の姿であれば、葵は彼を“女性”として普通に接してくれるのです。

 「容姿に劣等感を持つ主人公が、何かのきっかけで意中の相手とお近づきになる」のは、それこそラブコメの王道でしょう。それが「目付きの悪い男主人公」ならば、どことなくラノベのイメージが漂うキャラ設定のようにも見える……のだけれど、本作はちょいと変化球。

 どちらかと言えば、少女マンガ的には直球ストレートな「メイク」という魔法を施すことで……あら不思議! それまで周囲から向けられていたネガティブな視線が好意的になり、世界が広がり、さらには男嫌いな意中の相手とも急接近できて、良いことづくめじゃないですか! やったー! かわいいは正義なんやー! 「いくら何でも変わりすぎィ!」なツッコミは野暮ってもんですぜ?

 

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namo『狼少年は今日も嘘を重ねる』(1) P.82

 

 しかし当然ながら、「嘘」にはそれ相応のリスクがある。もしバレてしまえば、それまでに積み上げた信頼関係が崩れるのは一瞬。特に本作の場合、「男性恐怖症の女の子」を相手に「女装した別人」として関わるのだから、なかなかにリスキー……というか、酷いことをしている。

 言い換えると、主人公の五木/イツキは、「好きな相手=葵の力になりたい」という純粋な想いを担保にしつつも、「あわよくば恋人関係になりたい」という邪な想いも抱えながら接している状態なわけで。見方によっては、他人を騙すことを厭わない酷い奴のようにも映るのです。

 普段は葵に恋する“五木(男)”としてアプローチをかけつつ、彼女から信頼されている“イツキ(女装)”のときには、“五木”の失敗の尻拭いをするような印象操作もあり。罪悪感は覚えつつもしっかりと演じてきっているあたり、良くも悪くもソツがない。これを「優しさ」と見るか「卑怯」と見るかは、読者の受け取り方に左右されそう……。

 ともあれ、1巻時点ではまだ“イツキ”が葵との関係を構築していくまでの過程を描いており、物語が大きく動くのは2巻から。1巻終盤では葵の幼馴染で1年後輩の倉敷牡丹(くらしきぼたん)ちゃんも登場し(かわいい)、この3人をメインに話が展開していく格好です。

 

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namo『狼少年は今日も嘘を重ねる』(1) P.139

 へんたいだー!!!!

 

「嘘」の上塗りによって入り乱れる、複数の恋のベクトル

 さて、問題は2巻以降。Amazonレビューを含めた各所の感想を参照するに、どうやら1巻で切った人が多く、評価が低いようにも見受けられる本作。――ちゃうねん! 2巻からがおもしろいねん! さらに付け加えるなら、3巻でブーストがかかって鼻血が出るほどおもしろくなるんです!

 

 

 まず確認しておきたいのが、本作における「女装」の立ち位置について。「女装モノ」あるいは「男の娘モノ」というジャンル――が明確に存在しているのかわかりませんが、本作はおそらく、それらのカテゴリーとは少し向きが違う。そのような前提があると思うのです。

 一口に言えば、「“女装男子”の話として読むとがっかりするかも?」ということ。「女装」は本作の軸となる要素のひとつではあるけれど、それがメインではありませぬ。あまりこの分野の作品は知らないので、良い例が思い浮かばないのだけど……例えば『少女少年』のような作品群とは方向性が異なる、はず。

 

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namo『狼少年は今日も嘘を重ねる』(2) P.24

 

 言い換えれば、「女装」はあくまで「嘘」というテーマを担保する、ある意味で物語を彩る「舞台装置」でしかない。本作における「女装」とは、主人公が重ねる「嘘」そのものであり、物語を動かす道具であり、時にはギャグとしても使える便利な装置である――と、そう感じました。

 物語のエッセンスは、むしろ女装によって上塗りされる「嘘」のほうであり、複数人の男女の間を矢印が飛び交う多角関係。そこに「男性恐怖症」と「女装」という要素が介在することによって、一風変わった恋心のベクトルと関係性が生まれている感じ。で、それがおもしろいんです!

 

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namo『狼少年は今日も嘘を重ねる』(3) P.82

 

 話が進めば進むほど、嘘を重ねれば重ねるほどに、“五木(男)”と“イツキ(女装)”、双方が別々に育んできた他のキャラとの関係性が強まるため、そのなかで新たに恋心が生まれるのは必然。葵も葵で、男性恐怖症を徐々に改善しながら、イツキへの想いを強めていくのです。いいぞ、もっとやれ。

 そうして、見方によっては百合っぽい(でも片方の中身は男)恋慕あり、男と知らずイツキに惚れる男子の片思いありと、複数のキャラクターを巻き込んだいくつかの恋愛模様が繰り広げられていくことになる。五木/イツキという同一人物を含めた、複雑な恋の多角関係……最高か!

 

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namo『狼少年は今日も嘘を重ねる』(2) P.82

 尊い……( ˘ ω ˘ )

 

「狼少年」の結末は……?

 

 はてさて、それだけ関係性がごっちゃになってくると、今後の展開と結末も気になってくるところ。3巻を読み終えた時点で、上記ツイートのごとくキモいほどに悶えていた僕ですが……冷静になって見ると、最後はどうなるんだろう。バッドエンド……なんてことはないと思うけれど。

 本文でも語られていたように、“童話の狼少年”は最後に「嘘」の報いを受ける。羊飼いの少年は村の羊をすべて狼に食われ、場合によっては少年自身も餌食となってしまうケースもある。「めでたし」で終わる嘘つきの物語が数少ないことを考えると、嫌な予感しかない(わくわく)

 

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namo『狼少年は今日も嘘を重ねる』(3) P.141

 

 間違いなく徐々に綻びは現れはじめていて、他方ではそれよりも先に五木/イツキの罪悪感が臨界点を突破しそうな勢いもある。――というか、3巻ラストが“アレ”だし、あとがきで作者さんが「辛い展開が〜」って書いているあたり、ますます胃が痛くなりそうでたまらない。わぁい!

 本作のタイトルからして、“嘘を重ねる”ことが困難になり、何らかの理由によって「嘘」が露見したその瞬間、彼ら彼女らを取り巻く関係のすべてが変わるのではないかしら。来るべき結末にドキドキしつつも、今しばらくはこの、ベクトルごっちゃラブコメディを楽しみたい。

 

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namo『狼少年は今日も嘘を重ねる』(3) P.134

 

 なにより――恋する女の子は、かわいい。筆者のnamo@namo_さんが描くキャラクターは啓太郎を含めて誰もがかわいらしく、日常シーンのやり取りと愛くるしさにキュンキュンするのです。牡丹の犬っころっぽさがね……またね……いいよね……。

 そんなこんなで、当初はKindleストアの半額セールで気になってポチったのですが、個人的には見事にハマった本作『狼少年は今日も嘘を重ねる』。今週末までは1、2巻のみ半額で購入できるっぽいので、興味のある方はぜひ。先が気になったら3巻もポチって、共に悶えましょうぞ。うふふ。

 

(C) 2015 namo/(C) 2016 namo/(C) KADOKAWA

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